カテゴリー別アーカイブ: アート情報

アーティストLee・ Kang Wook

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梅雨入りの季節、ワールドカップの熱気で世界中が盛り上がっているようですね。皆様もわくわくと楽しんでいらっしゃいますでしょうか?
今日は、韓国内や海外での個展を中心にその活躍の場を着々と広げつつある韓国の若手作家の一人をご紹介させていただきます。

イ・ガンウク(Lee・Kang Wook)の作品を始めて目にしたのは海外のオークションハウスの下見会。近年、圧倒的に具象画が多い韓国の現代アート界では、抽象画とはちょっと珍しいと思いました。
34才という若い作家が作り出した抽象の世界は、淡く薄く色付けた平面のキャンバスの上に、宇宙の一部なのかある生き物の細胞なのか、まるで生きているような様々な線や点たちが生み出す妙な空間。

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キャンバスにグワッシュで描いたドローイングの上に、ジェル・メディウム(Gel Medium)とバインダー(絵具の固着材)を何度も塗り重ねることで立体的な「透明感」を作り出すイ・ガンウクの作業は、まるで、暖かくて柔らかい無定形の対象を剝製にするように、作家の内面からのイメージをキャンバスの上に固着させます。作家はこのような瞬間的な固着の過程を通して、観る人に動と静、生と死の意味を考えさせると同時に、その固着された対象の永続を望むようにも見えます。

彼の作品には、奥から染み出す鮮やかな色彩をより生々しく感じさせる「透明感」のほか、優れた「繊細さ」を感じることができます。洗練されたタッチとビーズやプラスチックとのストイックな組み合わせは、まるで細胞たちが生きているかのようにうねり、限定されたキャンバスの画面を超えて宇宙の何処までも広がっていくように見えます。それは温和で繊細な作家の性格からくるものでしょう。

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「全体は自分であり、部分は自分を構成する最も微細な自分を示す。見る主体(観客)と描かれる客体(作品あるいは作家自身)との間を縮めることとは、結局、自分が自分自身にどのくらい近づけるかの問題であろう。」と作家は言います。それはまるで、人類の、性の、個人の区別は、顕微鏡で見てみればただの「細胞」に過ぎないと、人と人との間に生じる「差異」の儚さを教えてくれるようですね。

日本でも3回の個展経歴を持つイ・ガンウクに実際お会いしたところ、自己愛に溢れる愉快な方で、「自分を愛することって、他人を愛する一番いい方法です」というやさしい真理を教えてくれました。
アジアだけではなくアメリカやヨーロッパの有名なギャラリーでの個展や企画展を通してその評価を高めてきたイ・ガンウクは、現在イギリスのロンドンで制作活動を進めています。

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< 作業中のイ・ガンウクさん>

■プロフィール: Lee, KangWook (B.1976)
2001 (韓国)Hong-Ik大学校 美術大学 絵画科 卒業
2003 (韓国)Hong-Ik大学校 美術大学大学院 絵画科 卒業
2004 レジデンス:第3期ChangDongスタジオ(2004~2005(韓国)国立現代美術館)

【個展】
2007 Gallery Rho, ソウル
Hino Gallery, 東京
2006 Spring Gallery, 上海
2005 Galerie de Temps, 東京
Cheltenham Art Center, フィラデルフィア
Gallery Will, ソウル
2004 Gallery Rho, ソウル
Gallery Ju-ichi gatsu, 東京
2002 Total Art Museum, Jangheung(韓国)
Hanjeon Plaza Gallery, ソウル

【主な企画展】
2008 KAM’s Choice: The Soul of Korean Contemporary Art (Insa Art Center, ソウル)
Emergentism (Edge Gallery, 香港)
2007 Imaginary Moments (Im Art Gallery, ソウル)
月刊朝鮮〈2007評論家選定現代作家50人展〉
2006 現代日・韓展(ONO Gallery, 東京)
We Meet Prague-Korea Contemporary Art 16 Artists Joint Exhibition(Galerie Passage, プラハ)
2005 ソウル青年美術際-ポートフォリオ2005(ソウル市立美術館, ソウル)
韓・米現代美術の理解と交感展(Cheltenham Art Center, フィラデルフィア)

作家Homepage: http://www.leekangwook.com


〈執筆:W〉

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ナムジュン・パイク アート・センター

【ナムジュン・パイク略歴】
1932年、韓国ソウル生まれ。
1956年、東京大学文学部美学・美術史学科卒業。
1956年 ドイツに渡り、ミュンヘン大学で音楽史を学ぶ。フライブルグ高等音楽院で作曲を学ぶ。
1962年 フルクサスの活動に参加。東京、ローマでの展覧会に出品。
1964年 ニューヨークへ移住。
1965年 ニューヨーク、ニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチにてアメリカでの初個展。
1977年 ビデオ・アーティスト久保田成子と結婚。ハンブルグ美術大学で教鞭をとる。
1982年 ホイットニー美術館で大回顧展
1984年1月1日、衛星中継番組「グッド・モーニング・ミスター・オーウェル」が米、仏、西独、韓国などで放送される。
1993年 第45回ヴェネツィア・ビエンナーレに招待出品。
1998年 京都賞受賞。
2000年 米韓で大規模な回顧展。ウィル・グローマン賞受賞。
2006年1月29日、アメリカ合衆国フロリダ州マイアミの別荘で死去。


ビデオ・アートの開拓者としてよく知られるナムジュン・パイク。ナムジュン・パイク アート・センターは、韓国のソウルから車でおよそ2時間かかる京畿道に位置し、京畿道の道立美術館の一つとして運営されています。

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〈アート・センターの外観〉

パイクの生前である2001年から設立の企画が開始され、2008年に着工されたこのアート・センターは、パイク本人から〈ナムジュン・パイクが長生きする家〉という名を付けられました。

その施設をちょっと見てみると、全面積5,605㎡の地下2階・地上3階の建物には、1~3階の展示スペースや、資料室、アトリエ・スタジオ、収蔵庫、研究室などが揃っています。2,285点の収蔵品の中、常設展示されている作品は、例の〈三元素〉、〈TV魚〉、〈TV時計〉、〈ロボット456〉など、彼を代表する作品揃いで、「いつでも会えるよ!」と言うように来客を迎えています。

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〈1階の展示風景〉 

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〈2階の風景〉

まるで普通の家のようにいくつかの部屋に区切られた1階の展示場から2階への階段を上ってみると、1階の展示場全体を見渡すことができます。中でも、1階からではなかなか分かりにくかった大きな作品群の全てを見ることができ、とても新鮮な風景でした。流石〈ナムジュン・パイクが長生きする「家」〉です。


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〈3階の展示風景〉        

自分で名づけたアート・センターが着工する直前に伝えられたパイク死去の報に接し、とても残念に思った人も多いことでしょう。
しかし、寛容的でありながら批判的であったナムジュン・パイクの芸術精神、そして「アートは、チャレンジである」と言った彼の話のように、ナムジュン・パイク アート・センターがこれから見せてくれる新たな展開はとても楽しみなものに違いありません。

以下は、2004年のニューヨークにて、韓国の朝鮮日報、Jung,JaeYen記者が取材した記事を訳したものです。ナムジュン・パイクのアートの世界をより身近に感じることができますように添付いたしました。

【2004年のある日、ニューヨーク】

-今一番やりたいことは何ですか?
「ウム。。恋愛!」

-恋愛はかなりの経験のお持ちではないでしたっけ?
「それが、まだ足りないの。」

-みんな先生を天才と呼びますね?
「いや、天才じゃありません。それはお世辞。」

-でも、美術史に残る偉大な芸術家ではあるでしょう?
「残るのは残るはず。」

-どんな芸術家としてですか?
「メディア・アーティスト。」

-それだけじゃ、ちょっと足りない気持ちになりません?
「じゃ、どうするの?」

-ビデオ・アートの創始者はいかがでしょう?
「どうでもいい。自分の仕事さえできるならばね。」

-恋愛の他にアート的にはなんかやりたいことはありませんか?
「本を書きたいね。自叙伝。英語で書くつもり。」

-タイトルは?
「スクルタブル・オリエンタル(scrutable oriental)。〈わかりやすい東洋人〉の意味なの。みんな東洋人に〈スクルタブル(scrutable)〉と言うからね。しかし韓国人はちょっと違うね。正直というか。。。」

-韓国人に言いたいこととかありますか?
「いっぱい働いて、いっぱい遊んでね!って。」

-遊びって大事ですか?
「大事。」

-良い遊び方は何でしょう?
「いっぱいお酒飲めば良いの。マッコリ(お酒の一種)をいっぱい飲んだら良い。」

-一番素敵な芸術家って誰でしょう?
「ウム。。ヨーゼフ・ボイス、ジョン・ケージだろう。」

-お体がちょっと不自由で、作業に不便ではありませんか? 治療も真面目に受けていないと聞きましたが。(この頃のパイクは、病気で車椅子に乗っていました。)
「元々怠け者なのよ。」

-手が不自由なら作業する際にいらいらしませんか?
「もちろん。しかし、私はコンセプチュアル・アーティストだから大丈夫。頭も大丈夫だし、話もできる。いらいらしたりはしないね。」

-ニューヨークに来てから40年、〈グッドモーニング・ミスター・オーウェル〉の発表からは20年ですね。あっという間ですね?
「そうね。仕方ないだろう。」

-どうしてニューヨークが好きなのですか?
「暑いから好き。犯罪も多いし。」

-だからお好きですって?
「アートはそこからだよ。人生がくさったらアートになり、社会がくさったらアートになるの。」

-以前、〈アートは詐欺〉と言いましたね?今度は〈社会がくさるとアートになる〉ですって?
「その通り。」

-何の意味ですか?
「そんな意味なの。」

-では、ソウル(韓国)ももっとくさったら芸術家がいっぱい生まれますかね?
「そうね。ソウルも腐敗してる。だからこそもっと良いアートが生まれるはずだ。」

-ナムジュン・パイクってどんな人ですか?
「わたし? バカ者。」

-どうしてですか?
「バカだからバカだろう? バカなの。バカ。狂ったやつ。」

-若い頃、狂ったやつってよく言われましたよね?
「もちろん、アメリカでは未だに言われる。」

-そう言われて大丈夫ですか?
「しょうがないじゃん。私はスノッブ(snob)だから。名声を楽しんでる。お金は持ってないけど名声は持ってた。」

-いったいどうしてピアノを破ったり、ネクタイを切ったりしたのですか?
「それが、ダダイズムだから。」

-人生って何ですかね?
「人生は、くさったマッコリだ。」

-それはどんな味ですか?
「知らん。私もまだ味見してないからね。すっぱいだろう?」

-最近も熱心に新聞を読んでいらっしゃいます?
「韓国の新聞、ニューヨーク・タイムズなどなど読んでる」

-アメリカ大統領選挙にご興味ありますか?
「うん。ケリーが勝って欲しい。平和主義者だから。」

-いつかは韓国に帰りたいですか?
「うちの家内が亡くなったらね。(愛情たっぷりの声で)家内はなかなか死なないの(笑)。元はビデオ・アートをやってたけど、私のせいであんまりやれなくて、すまない。」


【観覧概要】
日~木曜日:午前10時~午後7時
金~土曜日:午前10時~午後9時
*年中無休
*入場料:無料

< 執筆:W>

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中国コンテンポラリーアート、30年の歴程

 5月1日、ついに上海万博が開幕しました。早速会場に足を運んできましたが、スケールの大きさ、奇抜なデザインのパビリオンの数々に驚かされました。昼間はもちろん、夜はライトや映像を駆使した演出が美しく、違った風景を楽しむことができます。また彫刻プロジェクトとして園内に36体の彫刻作品が設置されているなど、アート関連イベントも行われています。これに関しては後日お伝えいたしますのでお楽しみに。

民生現代美術館 
 美術館の外観

民生現代美術館入口
 さて、以前ご紹介した上海のアートスポット、紅坊国際文化芸術社区(レッドタウン)内に位置する民生現代美術館では現在、「中国当代芸術30年歴程 絵画篇1979-2009」が開催されています。民生現代美術館は昨年夏にオープンしたものの、不定期でしか展覧会が行われていなかったのですが、今回の展覧会は美術館の正式な開館展として開催されています。その記念すべき展覧会に相応しく、中国コンテンポラリーアート30年の歴史を客観的かつ公正に示すだけでなく、今後の中国コンテンポラリーアートを新たに構築する重要な起点とすることが本展の大きな狙いのようです。

会場入口ポスター
 会場入り口にずらりと並んだポスター

 本展覧会では、文化大革命が終結し、改革開放以降に活躍しはじめた中国を代表する80名のアーティスト、約100の絵画作品が展示されています。
 80年代初期に農村の人々の姿をありのままに描く表現でセンセーションを巻き起こした陳青丹(チェン・チンタン)や羅中立(ルオ・ジョンリー)の「郷土絵画」と呼ばれる写実主義からはじまり、90年代以降の王広義(ワン・グワンイー)、方力釣(ファン・リジュン)、岳敏君(ユエ・ミンジュン)等の「ポリティカル・ポップ(政治波普)」、「シニカル・リアリズム(玩世現実主義)」の代表作、劉小東(リュウ・シャオドン)の三峡ダムで働く労働者を描いた大作、また曾梵志(ズン・ファンジー)等海外のオークションでも人気が高いアーティストや、ここ数年活躍が著しい若手アーティストの作品もずらりと並び、見応えのある展覧会となっています。
 特に、家族の肖像を描いた血縁シリーズで世界的に知られる張暁剛(ジャオ・シャオガン)に関しては、全く作風が異なる80年代の作品と、血縁シリーズの作品、両方を比較することができ、大変興味深かったです。

本
展覧会カタログとは別に制作された本。充実した内容に展覧会への熱意を感じる。

王広義ポスター
レッドタウンの至る所にポスターが。写真は王広義の作品のポスター。 

 この展覧会は映像、インスタレーション、彫刻等シリーズ化されており、2012年までの3年に渡って開催されていくようです。中国のコンテンポラリーアートの歴史を俯瞰できる貴重な体験になるのではと期待に胸が膨らみます。

(執筆:M)


「中国当代芸術三十年歴程 絵画篇1979-2009」
会期:2010年4月18日~7月18日
会場:民生現代美術館

 

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「シンオクジン・コレクション 日本の近・現代美術」展

韓国で一番大きくて奇麗な港町と言われる、釜山(ブサン)市にある「釜山市立美術館」では去る2月23日から4月18日にかけて「シンオクジン・コレクション 日本の近・現代美術」展というちょっと珍しい展覧会が開かれていました。

表題の展示は、シン・オクジンさんという韓国人のコレクターが集めてきた日本の近・現代美術の作品を紹介する展覧会で、シンさんは、本来画商として韓国の美術界でよく知られている方です。今回の展覧会では、そのシンさんが10年かけて集め、釜山市立美術館に寄贈してきた日本人作家の作品、およそ50点が公開されました。

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〈展示風景1〉

梅原龍三郎をはじめとする近代作家や、草間彌生・奈良美智などのコンテンポラリーアーティストにわたる作品のラインナップは、日本の近・現代美術の流れを一度に観ることができます。中でもシンワの近代美術オークションに出品されたことがあるいくつかの作品との再会は、とても懐かしく嬉しいものでした。

今回の展覧会は、個人コレクターの寄贈による初めての日本美術の紹介ということや、韓国内での寄贈文化の定着の良い例として話題になり、メディアからの取材も多かったようです。

展示は、時代の流れによって五つのスペースに分けられ、各展示会場では油絵・水彩・版画・彫刻・立体など、各作家の個性がよく伝わるようにコレクションをうまく見せていました。
中でも、梅原龍三郎、レオナールフジタ、岸田劉生など、日本を代表する巨匠たちの作品は、「日本における近代美術はこちらです。」と言うように堂々と展示され、韓国人の来客を迎えていました。

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〈展示風景2〉

画商として40年近く多様な作品を取り扱ってきたシンさんが、なぜ日本の美術をコレクションし始めたのか、それは両国の間にできた歴史を遡ってみることでわかるようになります。

シンさんの話によると、現在、韓国で高く評価されている近代美術の作家を調べるたびに、必ず日本の近代美術につながり、両国間の特別な美術史が見えてきたそうです。
それは、韓国の油彩画家の第一世代のほとんどが日本への留学の経験を持ち、その頃、西洋美術を直接学ぶことができなかった韓国の画家たちは、日本の留学生によって入ってきた西洋画、つまり「日本の洋画」をそのまま「西洋画」として吸収したということです。そのような美術史的な痕跡から、自国の近代美術を知るためにはまず日本の近代美術を知るべきだと考え始めたのが、シンさんのコレクションの始まりでした。

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〈展覧会カタログ〉

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〈韓国・空間画廊代表、シン・オクジンさん〉

韓国語・日本語・英語の3ヶ国語に訳された作品解説付きのカタログからみても、今回の展覧会のため、今までどんなに努力を注いだのかよく伝わってきます。
現在も進行中であるシンさんのコレクション、そして釜山市立美術館の展示企画は、これからもまた新たな展開を見せてくれることでしょう。

桜が満開に咲いた頃、展示会場のあちこちをゆっくり歩きながら、両国における本当の意味の美術史が始まった瞬間にふっと気付いた自分でした。

今週末からいよいよゴールデンウィーク。皆様、お好きなアートと共に素敵な連休をお過ごしください!


〈執筆:W〉

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痛みを描くアーティストKwon, KyungYup

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「My heart」 162.2×112.0cm


「純粋な空間、無菌状態の人工的なこの空間に、たった一人で、自分自身の内面を見つめている少女は、身に刻まれた過去の痛みを持つ現代人の肖像です。」(作家ノートより)

桜の花びらの舞い落ちる季節、皆様いかがお過ごしでしょうか?
今日は、この季節にふさわしい桜色の奇麗な絵をお見せすることから始めてみました。上の作品は、近年韓国を中心にアジアの各地からラブコールが高まっている韓国人女性アーティスト、コン・ギョンヨプ(Kwon, KyungYup)さんの作品です。

体の一部を包帯に捲かれた少女たちを通して人の魂を表現するコン・ギョンヨプさん。パステル風のやさしい空間から染み出す不思議な雰囲気は観る者に何気ない悲しみを感じさせます。また、絵の中の弱々しそうな人物は漫画やアニメに登場するような、傷つきやすい少女を連想させ、憐憫の感情を生じさせます。


●Kwon, KyungYupさんのプロフィール

【個展】
2010 Last Letter (Unseal Contemporary, 東京)
2009 Space of Memory(Gana Art Gallery, ソウル)
2008 Art Seoul 2008(ソウルアートセンター, ソウル)

【グループ展】
2010 The more, the better(Sun gallery, ソウル)
2009 Korea International Art Fair(Coex, ソウル)
HongKong International Art Fair(HongKong Convention Center, 香港)
2008 Opening Show(Times Art Gallery, 台北)
Blue Dot ASIA (Seoul Arts Center, ソウル)
MicroART69-Heart (In-Sa Arts Center, ソウル)
2007 Team preview “Art Show” (Gallery Indeco, ソウル)

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〈作業に夢中になっているコンさん〉


ご覧のように、コンさんが作品の中に象徴的なモチーフとして良く使っているのが、「包帯」と「眼」です。
中でも、必ず登場する包帯は、身体的・精神的な傷の象徴、すなわち、人間としての存在論的意味を含むすべての「傷」を表します。外からの刺激を遮断しながら、既に身に染み込んだ過去の傷を抱き込んでくれる包帯。それは、強い御守りであり、同時に優しい慰めです。

韓国ではアートフェア、オークション、展示会などでもうその人気を集めているコン・ギョンヨプさんは、その活躍の場を広げ、最近香港・台北での展示会を経て、アジア各地のオークションでもめざましい結果を見せています。中でも今度の5月8日からはいよいよ日本での初個展が開かれる予定で、皆様との初対面を楽しみにしているようです。

若い時によく感じたことがある根拠のない悲しみ、その中からまた生じてくる強い自己愛。韓国の若手の女性アーティスト、コン・ギョンヨプの作品、皆様いかがでしたか?


「Kwon KyungYup / LAST LETTER」Tokyo展
会期:5月8日(土)~29日(土)
レセプションパーティ:5月8日 17:00~20:00
会場:unseal contemporary
〒103-0026東京都中央区日本橋兜町16-1第11大協ビル2F
Tel&Fax:03-5641-6631 http://www.unseal.jp


< 執筆:W>

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尹秀珍、ニューヨークMOMAにて個展開催中

 今回は世界を舞台に活躍する中国人女性アーティストをご紹介します。

 中国のコンテンポラリーアート界を牽引する尹秀珍(イン・シウジェンYin Xiuzhen)。現在、ニューヨーク近代美術館(The Museum of Modern Art, New York 、以下ニューヨークMOMA)において1971年から続く「Projects」シリーズの92回目として、個展が開催されています(『Projects92:Yin Xiuzhen―Collective Subconscious』~5月24日)。尹秀珍にとって初のアメリカでの個展であるとともに、ニューヨークMOMAにおける中国人女性として初の個展である今回の展覧会。サイトスペシフィックなインパクトのあるインスタレーションで世界のアートファンを魅了しています。
 
 尹秀珍は1963年北京生まれ。1989年首都師範大学美術学院油画系を卒業後、中央工芸美術学院付属中学校で教鞭を執っていましたが、90年代初期より北京を拠点にインスタレーションやパフォーマンス、彫刻作品の制作等を行っています。2000年には中国当代芸術賞(CCAA)を受賞。中国国内で開催される各国際展(広州トリエンナーレ、上海ビエンナーレ等)をはじめ、主な国際展にアジアパシフィックトリエンナーレ(オーストラリア、1999年)、光州ビエンナーレ(2002年)、福岡アジア美術トリエンナーレ(2002年)、シドニービエンナーレ(2004年)、ヴェネチアビエンナーレ(2007年)等があります。ミュージアムピースも多く、日本では福岡アジア美術館、森美術館に所蔵されています。また夫である宋冬(Song Dong)も中国を代表するアーティストの一人であり、夫婦で活躍するアーティストとして知られています。

 文化大革命が始まる3年前に生まれ、激動の時代を体験してきた尹秀珍。彼女は自分の経験や記憶と時代との関係に関心を持ち、家族や生活環境など個人的問題を反映させる一方、中国現代社会を客観的に見つめ、社会の発展および都市化の過程を表現した作品を展開しています。代表的な表現方法として、古い衣服をつなぎ合わせたインスタレーションがあります。この衣服は世界中の異なる国や地域から集めてきた、かつて人が袖を通していたものであり、そこには人々のたくさんの物語が含まれています。同時に、無数の時代の痕跡と文化的特徴に関連しており、グローバル化した現代においても共通性のあるものだといいます。

 「現在、急速に変化し、発展を遂げる中国社会において、人々は考える時間すらなくなっている。だからこそ、人々にゆっくりと腰を落ち着かせて考えてもらいたい。」と語る尹秀珍は、アート界の成功者でありながら、北京の郊外に家族と共に静かに暮らしつつ、制作をしています。布という視覚的にも感触的にも柔らかい素材の中に、私的かつ社会的な問題を織り交ぜた作品は、中国国内に限らず、世界の多くの人々の共感を呼ぶのでしょう。

 中国人アーティストが世界で活躍している中、そのほとんどは男性が占めているように、中国アート界は未だに男性中心であるように見受けられますが、こうして女性アーティストの活躍も注目されるようになってきました。女性の社会進出が顕著な中国社会において、これからもその活躍の場が広がることを願ってやみません。
(執筆:M)


展覧会情報
『Projects92:Yin Xiuzhen―Collective Subconscious』
会期:2010年2月24日~5月24日
会場:ニューヨーク近代美術館 プロジェクトギャラリー
http://www.moma.org/visit/calendar/exhibitions/1034


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『飛行機』インスタレーション 2008(画像提供CCAA)
1520(l)x12 00(w)x353cm(h)

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上海アートスポット:紅坊国際文化芸術社区

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上海万博まであと約1ヶ月。相変わらず街のあちらこちらで開発や工事が続く中、空港の新しいターミナルのオープンや、新しい地下鉄の開通などインフラが整いつつあり、万博に向けて急ピッチで準備が進められているのを感じます。万博に合わせて上海へ、という方のためにも、今回は上海のアートスポット、紅坊国際文化芸術社区(通称紅坊、レッドタウン)をご紹介いたします。


紅坊は1950年代に造られた製鉄工場を利用したアートスポットです。46,000㎡の広々とした敷地内の中央には15,000㎡もの緑地が広がり、数々の野外彫刻が展示されています。そして緑地を囲むようにして、ギャラリーやアトリエ、美術館、カフェ、企業のオフィス等の建物が並んでいます。

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紅坊の中心を担う施設として、レンガ造りの建築を利用した「上海城市彫塑芸術中心」があります。展覧会用の広々とした空間と中小のオフィスやギャラリー、ブックショップ、絵画教室等が入居する棟で成り立っており、館内には立体作品が所狭しと展示されています。展覧会用の空間は、仕切りのない一つの空間でありながら、左右にある緩やかなスロープを昇ると2階へ、中央の階段を下がると半地下という構成になっており、スケールの大きな展示を体感することができます。
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オフィスが入居する館内のあちらこちらに彫刻作品が。

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アート関連の本屋や絵画教室が並ぶ

また2009年に民生現代美術館がオープンしました。これは民生銀行が創設した現代美術館で、アーティストの周鉄海が副館長を務めています。昨年夏に行われたオープニングの展覧会「熱身 WARM UP!」では、中国を中心としたアジアのアーティストの作品が展示されており、日本人アーティストでは金氏徹平やオノデラユキ、アキルミの作品が紹介されていました。その他、今月21日まで「未来総動員 英国文化協会当代芸術珍蔵展」と題して、イギリスのターナー賞受賞作家12名とノミネート経験者21名の展覧会が開催されており、ダミアン・ハーストやグレイソン・ペリー、ヴォルフガンフ・ティルマンス等イギリスを代表するコンテンポラリーアーティストの作品が紹介されていました。

その他、敷地内には独立した建築物のギャラリーも多数見られます。各スペースで美術や彫刻、デザイン関係の展覧会が開催されている他、文化、芸術関係のイベントなども随時開催されています。

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また以前ご紹介した上海のアートスポット、莫干山路50号とは対照的に、紅坊は中心地にほど近い場所に位置している上、古い工場と新しい建築物をうまく融合させてアートを中心とした一つの街を作り上げているといった印象で、初めて訪れる方にもわかりやすいのが特徴です。地下鉄の駅も比較的近く、さらに近々新しい路線も開通する予定とのことですが、現時点では観光地化されているというわけでもなく、静かでゆったりとした雰囲気が漂っています。万博の開催に合わせて各種展覧会やイベントも開催されるようなので、これからの発展が期待されるアートスポットといえるでしょう。


紅坊国際文化芸術社区
http://www.redtown570.com

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Andy Warhol, the Greatest

 この冬、ひときわ雪が降った韓国のソウルは、ポップ・アートの帝王、アンディ・ウォーホルの展覧会で盛り上がっています。昨年の12月12日から今年の4月4日にわたって開催される今回の「Andy Warhol, the Greatest」展は、今までのウォーホル展示としては韓国最大、およそ240点の代表作を見ることができます。

〈※会期終了につき、画像を配信停止致しました〉

 正式な展覧会名を、「時代を超えたポップ・アーティストの帝王、アンディ・ウォーホルの偉大な世界」という今回の特別展は、アメリカのピッツバーグ・アンディ・ウォーホル美術館とニューヨークのアンディ・ウォーホル財団、そしてフランスのグラン・パレ美術館など、世界有数の美術館や個人コレクターの協力によって叶えられたそうです。
 展示内容も、その名声にふさわしく彼の傑作揃いで、会場であるソウル市立美術館の三層スペースをうまく使った大きな展示スケールも見事です。

〈※会期終了につき、画像を配信停止致しました〉

 ご存知のようにアンディ・ウォーホルは、最初産業デザイナーとしてその名を知られ、その後ファイン・アートに転向することで、映画・広告・デザインなど、視覚芸術に全般にかけて革命的な変化を導いた伝説のアーティストです。
 今回の展覧会は、そのような彼の画業の始点から終点に向かう流れを、作家の意識を辿る形をとってうまく見せています。

〈※会期終了につき、画像を配信停止致しました〉

 展示スペースは、テーマによって10のセクションに分けられています。
 中でも、自画像を始め、マイケル・ジャクソン、ザ・ビートルズ、マリリン・モンロー、モハメッド・アリ、ジャッキー、アインシュタイン、ベートーヴェンなどの世界の有名のスターの肖像画が並んだ「Super Star Icon, I love Hollywood」セクションは、その人気が一番高いようで、大勢の観客の息でアツアツでした。
 また、「Light and Shadow, and other Experiments」セクションに展示されている< 回想>、< 影>などの抽象シリーズも、無意識のハイレベルから生じた作家の感覚を見事に見せてくれます。

〈※会期終了につき、画像を配信停止致しました〉

 なお、会期中には、ウォーホルを代表するメディアであるシルクスクリーンの体験イベントが行われます。ウォーホルの作業方法で自分のエコバッグを作ってみることができるこのイベントは、1回1時間の実習で、1万ウォン(約800円)の参加費で自分だけのオリジナル作品をお持ち帰りできます。

 自分自身と時代の欲望をポップ・アートという新しい形で捉え、現代美術史を変えたともいわれる天才アーティスト、アンディ・ウォーホル。
 アートを愛する皆様、もうすぐ春を迎えるソウルでウォーホルの作品をご覧になってみてはいかがでしょう。


[ 展覧会情報 ]
会期 : 2009年12月12日(土)~2010年4月4日(日)【休館:毎週月曜日】
会場 : ソウル市立美術館 Seoul Museum of Art
開催時間 火曜日~土曜日:午前10時~午後9時 / 日曜日・休日:午前10時~午後7時
URL:www.warhol.co.kr

< 執筆 W>

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今注目の中国若手映像作家

中国は旧正月である春節を14日に迎え、街頭や百貨店には巨大な縁起物が設置されたり、夜になると華やかなイルミネーションが点灯するなど、お正月の賑やかな雰囲気が街中に溢れています。上海当代芸術館(上海MOCA)では周鉄海が個展を、また上海美術館では巨大なインスタレーションで国際的に活躍する張洹(ジャン・ホァン)、日本からは日野之彦が個展を開催するなど、アート界も多いに盛り上がっています。


梁月《まだ宵ながら 明天》2006/35分

さて、今月19日より28日までの10日間、東京都写真美術館にて「第2回恵比寿映像祭 歌をさがして」が開催されています。これは映像とアートの祭典で、東京都写真美術館全館をはじめ、恵比寿ガーデンプレイスのセンター広場、渋谷街頭のモニターを用いて世界各国のアーティストや専門家による展示、上映、ライヴ・イベント、講演、トーク・セッションなどが行われます。その中で「上海派対(パーティ):中国若手作家特集」と題して上海を拠点に活動する30代の若手作家、楊福東(ヤン・フードン)、梁月(リィアン・ユエ)、宋涛(ソン・タオ)の作品が紹介されます。

先日のブログでもご紹介した楊福東は、原美術館での個展が現在も開催されている他、最近はプラダの広告映像に起用され話題になりました。この広告は《First Spring》という9分間のモノクローム映像で、公式サイトにて配信されています。ファッションブランドの新作のプロモーションでありながら、1930年代の上海の華やかな時代を想起させる設定が新鮮であり、楊福東の世界観を味わうことができます。また今年8月からはじまる「あいちトリエンナーレ」にも参加が決まっており、ますます今後の活躍が期待されるアーティストの一人といえます。
PRADA – First Spring
http://www.prada.com/firstspringmovie
今回上映される《シティ・ライト City Light》(2000年7分)は国際的な映像作家としてスターダムにのしあがる前の楊福東の初期作品のひとつで、上海をモティーフに様々な伏線が絡み合い、後の楊の作品世界を予想させるようなこだわりの強い作品となっています。

一方、梁月(リィアン・ユエ)は1979年上海生まれの女性作家です。2001年上海大学美術学院卒業後、第3回上海ビエンナーレにおけるグループ展への参加を機に、写真や映像作品を中心に活動しています。主な国際展に「China Now」(2004年、ニューヨーク近代美術館)、第2回広州トリエンナーレ(2005年、広東美術館)、「The Thirteen: Chinese Video Now」(2006年、P.S.1)、「南京インディペンデント映像祭」(2009年、南京)などがあります。
今回の映像祭では《愛しの夾竹桃 I love Oleander》(2007年22分)、《まだ宵ながら 明天》(2006年35分)が上映される他、22日(月)にトークイベントが開催されます。
前者は身近な人間関係をテーマにした日常のひとコマを描いた作品です。タイトルの夾竹桃とは、上海では街路樹としてよく知られていますが、作家によると、上海の排気ガスにまみれ、汚れた空気の中でも存在している姿がなぜか愛おしく、自分の仲間たちの姿と重なってしまうところからつけたとのことです。
後者は数々の映画祭や映像祭に取り上げられた初期作品でもあり、恋愛やパートナーとの生活、結婚や性について、考えさせられる作品となっています。
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梁月《愛しの夾竹桃 I love Oleander》(2007年22分)

宋涛(ソン・タオ)は1979年上海生まれ。1998年上海美術工芸学校卒業後、2004年からジー・ウェイユーとのユニット「Bird Head」として映像作品や写真作品を制作する一方、個人での活動も活発に行っています。国内外の展覧会に多く出品する他、2004年にはCCAA(中国当代芸術賞)にて評議員特別賞を受賞しました。
今回の上映作《フロム・ラスト・センチュリー From Last Century》(2004年34分)は宋涛がかつて住んでいた浦東という地域をテーマにしています。ここは新興開発地として大きな道路や高層ビルが立ち並ぶエリアではありますが、その「陳腐な」都市開発に違和感を覚え、生命力のない浦東をテーマにしたといいます。

東京都写真美術館の石田留美子さんによると、今回は上海の都市としての魅力と、上海が抱える問題を提示するプログラムとして、70年代生まれで、中国現代アートの隆盛期に国際的に活躍した50~60年代生まれの世代と、超現代的な80年代以後世代の“はざま”にいる世代に注目して、この3名を選ばれたとのことです。楊福東作品については、当初から上の世代とは異なる独自のスタイルをとっている楊福東が、後に世界的スターになる要素を含んでいる初期作品を紹介する機会を作るため、この作品を選んだそうです。また、いずれも2000年から2007年まで、オリンピック開催前の中国の姿を映した作品という点も意識しているとのことでした。

急速に経済が発展している上海の状況は新聞やニュースでも度々取り上げられていますが、彼らの作品を日本で見られるこの機会に、上海のリアルな一面をアート作品から感じ取ってみてはいかがでしょうか。(執筆:M)


展覧会情報
『第2回恵比寿映像祭 歌をさがして』
会期:2009年2月19日(金)~28日(日)
開催時間:10:00~20:00
会場:東京都写真美術館 全フロア、恵比寿ガーデンプレイス センター広場 他

「上海派対 シャンハイ・パーティ:中国若手作家特集-梁月(リィアン・ユエ)、宋涛(ソン・タオ)、楊福東(ヤン・フードン)」
2月22日(月) 19:00~21:00 ※トークイベント付き/梁月(リィアン・ユエ)
2月26日(金) 11:00~13:00

出品作品■梁月(リィアン・ユエ)《愛しの夾竹桃 I love Oleander》2007/22分■宋涛(ソン・タオ)《フロム・ラスト・センチュリー From Last Century》2004/34分■梁月(リィアン・ユエ)《まだ宵ながら 明天》2006/35分■楊福東(ヤン・フードン)《シティ・ライト City Light》2000/7分

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コンテンポラリーアートの新しい傾向「アニマミックス」に注目

上海当代芸術館(MOCA,The Museum of Contemporary Art Shanghai)では現在、「アニマミックス・ビエンナーレ(Animamix Biennial、動漫美学双年展)」が開催されています。

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上海当代芸術館は2005年にオープンしたコンテンポラリーアートを専門としたガラス張りの建築が美しい美術館です。上海の中心地にある人民公園内にありますが、幅広いジャンルのアートを取り扱う歴史的建造物、上海美術館が人民公園脇の大通りに面しているのに対し、当代芸術館は公園の入り口からさらに奥へ進んだ先にあり、公園の木々に囲まれてひっそりと佇んでいます。

「アニマミックス(Animamix、動漫美学)」とはアニメーションとコミックを合わせたもので、上海当代芸術館のクリエイティブディレクターであり、この展覧会のキュレーターであるビクトリア・ルー(Victoria Lu)による造語です。ビクトリア・ルーは、アジアのコンテンポラリーアートにおいてアニメや漫画の影響が見られる作品が増加しており、この新しい美術傾向を表現する言葉として2006年に「アニマミックス」を提起しています。

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今回のビエンナーレは2007年に次いで2回目にあたり、上海(上海当代芸術館)、北京(今日美術館)、台北(台北当代芸術館)、広州(広東美術館)で同時開催または巡回される大型展覧会で、キュレーターにより選出されたグローバルに活躍する世界20カ国100以上のアーティストが参加しています。その多くはアニメや漫画と共に育った1970年代~80年代生まれの若手アーティストであり、日本人アーティストの作品も多く展示されています。

ビクトリア・ルーは、アジアの新しい世代のアーティストは日本のアニメや漫画、ゲーム等の影響を受けてきていますが、1960年代、70年代のポップアートの世代が漫画やアニメから視覚的象徴を単に取り入れたのと異なり、アニマミックスのアーティストは、根本的にそれらのメディアが彼ら自身の美的感覚の中に深く浸透しているといいます。彼らの作品は高尚な芸術とサブカルチャーとの境目を曖昧にしており、また様々な創作領域、例えばブランドとのコラボレーションやオリジナルグッツの制作等のクリエイティブな活動にも従事し、度々それらの活動と自身の作品を融合しているアーティストもいます。

上海展においては、日本人アーティストでは金田勝一、北川宏人、松浦浩之、長沢郁美、渡辺おさむ、吉田朗、森本めぐみ等が参加。また昨年、アーティストインレジデンスのプログラムで上海にて制作活動をしていた龍門藍の作品も3作品展示されていました。
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自然光が差し込む、吹き抜けのある空間に展示された作品は、わかりやすくかつ親しみやすいものが多く、「アニマミックス」というコンセプトゆえ当然なのかもしれませんが、キャラクター的要素の強い作品が多いのが特徴的でした。日本人アーティストに関しては当社のオークションでも取り扱い歴のある馴染みのある作品もあったのですが、「アニマミックス」というコンセプトで作品を見直す良い機会となりました。

またこの展覧会の出展作品に限らず、このコンセプトに相応するアーティスト、作品が見受けられるのも事実であり、今後、「アニマミックス」という言葉がコンテンポラリーアートの傾向として一般的になるのか、注目していきたいものです。(執筆:M)


非/現実のメタファー アニマミックス・ビエンナーレ2009-2010
(Metaphors of Un/Real – Animamix Biennial 2009-2010、
寓意 非/現実―2009動漫美学双年展)
会場:上海当代芸術館
会期:2009年12月12日~2010年1月31日
http://www.mocashanghai.org/

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