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純粋絵画を求めて―夭折の画家、佐伯祐三

1928年、佐伯祐三が30歳という若さで亡くなってから80年。大阪市立美術館では9月9日より、『没後80年記念 佐伯祐三―パリで夭折した天才画家の道―』※が開催されます(10月19日まで)。佐伯の代表作が100点以上展示される、大規模な展覧会です。また、佐伯に影響を与えたヴラマンクやユトリロ、友人であった里見勝蔵、荻須高徳などの作品も同時に展示されるとのことです。お近くにお住まいの方や、大阪へ行かれる方は、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?

さて、9月の近代美術オークションにおいても、佐伯の作品が出品されるのでご紹介します。

佐伯祐三
Lot49《塔の見える風景》
45.6×53.2cm
キャンバス・油彩 額装
落札予想価格:1800万円~2500万円
「佐伯祐三全画集」(講談社)、
「佐伯祐三のパリ」(新潮社)掲載


佐伯祐三は1898年、大阪・中津の光徳寺の次男として生まれました。1923年、東京美術学校を卒業後、妻子とともに渡仏。パリで2か月程ホテルに滞在した後、パリの南西、クラマールの一軒家に引っ越します。明るい陽光のさす緑豊かな土地で、日本人芸術家たちと集いながら、セザンヌの影響を窺わせる作品を展開していました。

転機が訪れたのは、1924年夏。佐伯は里見勝蔵の案内で、自信作であった裸婦の作品を携えてヴラマンクを訪れます。しかし、待っていたのは、「このアカデミック!」という罵声でした。ショックを受けた佐伯は、ヴラマンク、後にユトリロの影響を受けながらも独自の絵画を追求し、自身の芸術を開花させていくことになるのです。


本作品に描かれているのは、クラマールにある教会です。「佐伯祐三のパリ」(1998年、新潮社)によると、佐伯の自宅はこの教会から歩いて5分程の場所にあったといいます。この本には教会と本作の画像が掲載されているのですが、実際の教会は青い屋根と白い壁の清々しい建物であるにもかかわらず、本作は一種悲壮味を帯び、陰鬱な空気がたちこめています。

暗い色調、動感のある筆致にヴラマンクの影響が見られますが、一時のヴラマンクに傾倒した画風から脱しており、「ようやく自分の絵を描こうと、無我夢中になって」制作する、佐伯の焦燥にも似た感情が浮かび上がってきます。一見、寂寞とした風景には、ひたすら「純粋」に徹し、自身の画風を確立しようと格闘する佐伯の情熱が内包されているのです。(執筆:M)

シンワアートオークションHP


※〈展覧会情報〉
『没後80年記念 佐伯祐三―パリで夭折した天才画家の道―』
会期:2008年9月9日(火)~10月19日(日)
開館時間:午前9時30分~午後5時
休館日:9月16日(火)、22日(月)、29日(月)、10月6日(月)、14日(火)
観覧料:一般1200円、高大生900円
会場:大阪市立美術館(天王寺公園内) 大阪市天王寺茶臼山町1-82
http://osaka-art.info-museum.net/special020/special_saeki.html

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