月別アーカイブ: 2012年5月

6月の誕生石 真珠

先週の浮世絵/近代美術PartⅡオークションに参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。
間もなく梅雨の季節がやってまいります。梅雨と聞くとなんとなく憂鬱な気分になってしまいますが、菖蒲や紫陽花等、雨雫の似合う花々を愛でるのは、この季節ならではの楽しみです。
さて、そんな6月の誕生石といえば、こちらも水を連想させる「真珠」です。今回は真珠についてご紹介いたします。

私たち日本人にとって、最も身近で馴染みのある宝石と言えば真珠ではないでしょうか。冠婚葬祭どの場面でも使い勝手が良いため、ファーストジュエリーとして親から娘へ贈られることも多いようです。
真珠は、日本書紀や古事記、万葉集において既に記述されており、『魏志倭人伝』にも邪馬台国の台与が曹魏に白珠(真珠)5000個を送ったと記されています。しかし、真珠が今日のように身近になったのは、19世紀も後半に入ってからのことです。現在世界屈指のパールメーカーとして君臨している御木本真珠店(現・ミキモト)の創始者、御木本幸吉(みきもとこうきち)が、世界に先駆けて養殖真珠の産業化に成功したことがその要因です。
真珠は基本的に真珠層を持つ貝ならばすべて生成可能ですが、天然で生まれることが非常に稀であることから、養殖技術が発達する以前は、現在とは比較にならないほど珍重されていました。現在は養殖技術による量産が可能になりましたが、品質の良いものは未だ高値で取り引きされています。

真珠の品質基準としては、主に「大きさ」「色」「形」「キズの有無」「照り」「巻き」の要素があります。その中でもお客様からよくご質問をいただく、「照り」と「巻き」について少しご説明致します。
< 照り>
「照り」とは、真珠の輝きや光沢のことです。真珠の光沢は真珠層の結晶構造によって決まり、結晶が規則正しく並んでいるものほど美しい光沢を見せます。真珠の一粒一粒に映り込むライトの光やご自身のお顔をご覧ください。照りが良いものは真珠に映り込むものがシャープに見え、照りの悪いものはぼやけて見えます。選ばれる際は複数の商品を手に取り比べてみることをお勧めします。
< 巻き>
真珠はドブ貝を加工して作った核を貝の中に埋め込み、その周りを貝自身が分泌物で覆うように巻いていくことによって作られます。その覆っている分泌物の厚さが厚いことを「巻きが厚い」と言います。巻きの厚い真珠は内側から力強い輝きを発します。巻きの良し悪しは、照りに比べて分かりにくいかもしれません。しかし数多くの真珠を見ていると、照りや質感に重量感のあるものと、そうでないものがあることがお分かりいただけるかと思います。

真珠は、生成する母貝の種類によって、さまざまな特徴があります。
最もポピュラーな真珠は、アコヤ貝に生成する「アコヤ貝養殖真珠(和珠)」です。
貝自体の大きさが10センチ程度なので、9mm以上の和珠は滅多になく、非常に貴重です。ピンク系、シルバー系、イエロー系、ブルー系等、様々な色調がありますが、日本ではピンク系を好む人が多いようです。さりげなく身につけられる和珠に纏うピンクの光は、上品さに加えて可愛らしさをも感じさせるからでしょうか。
6月23日開催BAGS/JEWELLERY & WATCHESオークション 
LOT293 アコヤ貝養殖真珠ネックレス(エスティメイト¥350,000~450,000)

293縺ョ繧ウ繝斐・_convert_20120529101246
こちら、一粒の大きさは9.0~8.5mm。大きさ、照り、巻き共に非常に優れたロングネックレスです。


白蝶貝から産出するものは、一般に「南洋真珠」と呼ばれ、主にオーストラリア、インドネシア、フィリピン、ミャンマーで養殖されています。この貝は真珠貝の中では最も大きく、成貝は30センチにも達します。よって真珠自体も大粒のものが多く、身につければそれだけで目を引く、ゴージャスな装いを可能にします。産地によって色合いに違いがあり、オーストラリア産のものは青みの強い白色、フィリピン産は金色のものが多いのが特徴です。
6月23日開催BAGS/JEWELLERY & WATCHESオークション 
LOT227 白蝶貝養殖真珠ネックレス(エスティメイト¥200,000~300,000)

227+(2)縺ョ繧ウ繝斐・_convert_20120528203228
美しいゴールドの輝きを持った真珠の連です。色味がしっかりしており傷も非常に少ないため、近くで見た時はもちろん、遠目でも華やかさが際立ちます。

6月23日開催BAGS/JEWELLERY & WATCHESオークション 
LOT297 白蝶貝養殖真珠(エスティメイト¥200,000~300,000)

     297縺ョ繧ウ繝斐・_convert_20120529100927
こちらは真円ではありませんが、これだけの大きさのものは白蝶真珠の中でも大変貴重です。


黒蝶貝から産出される真珠は、「黒蝶真珠」と呼ばれます。黒蝶真珠のタンパク質には、赤、黄、緑の三つの色素が含まれており、これらが重なり合うことによって、それぞれ実に多彩で個性的な色合いを生み出します。黒蝶真珠は主にタヒチや沖縄県などで養殖されています。黒蝶真珠の中でもピーコックカラーと呼ばれる一級品は、その名の通り、黒色の地色の上にクジャクの羽根のような光を纏い、その神秘的な光は観るものの心をとらえ、シンプルな装いにも、妖艶な美しさを加えます。
6月23日開催BAGS/JEWELLERY & WATCHESオークション 
LOT298 黒蝶貝養殖真珠(エスティメイト¥500,000~700,000)

     298縺ョ繧ウ繝斐・_convert_20120529100942
黒蝶貝養殖真珠でこれだけの大きさ、色、形、照り、巻きが揃ったものは滅多にありません。非の打ちどころのない逸品です。


カリブ海に生息する巻貝、コンク貝から採れる「コンクパール」は、珊瑚のようなピンク色で、炎のような火焔模様が見られるのが特徴です。コンク貝は巻貝なので、人工的に核を入れることは不可能です。そのため出回っているもののほとんどが天然のものと言われ、非常に希少性が高いとされています。
4月21日開催BAGS/JEWELLERY & WATCHESオークション
LOT59 コンクパール ダイアモンドリング by MIKIMOTO
(エスティメイト¥200,000~300,000)

        59縺ョ繧ウ繝斐・_convert_20120529100550
次回オークションにはコンクパールは出品されませんので、前回のオークションからのご紹介です。可愛らしいピンクがとても印象的でした。27万円で落札されております。

その他、淡水性の池蝶貝から採れ、ビーズの材料として人気のある「淡水パール」、マベ貝を母貝とする半球の「マベ真珠」も稀に出品されますので、形や輝きの違いをお楽しみください。


鉱物から成る宝石に比べて、有機質である真珠はとてもデリケートな宝石です。クレオパトラが酢で真珠を溶かしたという話がある通り、汗や酢、果汁などには非常に弱いので、身につけた後はやわらかい布で拭いていただくようお願い致します。香水を使う方は、直接ふきかけないように注意が必要です。保管する場所は、光の当たらないところが最適です。
正しいお手入れとメンテナンスにより、真珠の劣化のスピードは格段に遅くすることが可能です。目に留まる一品を手に入れた際は、コンディションに気をつけ、真珠の持つ包み込むような美しい輝きを存分にお楽しみ下さいね。

下見会・オークションスケジュールはこちら

皆さまのお越しを心よりお待ちしています。

続きを読む

オークションの舞台裏 -オークショニア-

先週土曜日オークションにご来場いただいた皆様、誠にありがとうございました。

オークションにおいて、皆様の正面に立ち、テンポよくビッドをとり競り上げていくオークショニア。肩書きとしてはおそらく珍しい部類に入るであろうこの仕事、その裏側をこのブログで少しずつご紹介していきたいと思います。今回はどうやってシンワオークショニアが生まれるか、です。

競り-1

弊社には現在3人のオークショニアがおりますが、それぞれがシンワオークショニアとしてのスタンダードをわきまえながら個性を発揮しています。
よく、どうしてオークショニアとなったのか?と聞かれますが、私の場合は留学時代にイギリスでオークションを見学した時に見たオークショニアが強く印象に残っていて、入社前からこの仕事に興味を抱いていました。過去在籍したオークショニアは私のように入社後自ら立候補した者が多いですが、中には会社が「彼ならできそうだ」と判断し声をかけられた者もおります。

欧米ではオークショニアとなるにはライセンスが必要な国が多いですが、オークション自体が始まってまだ歴史の浅い日本ではオークショニアのためのライセンスは必要ではありません。
ただし、高額な作品を大勢の前で会社を代表して競りを取り仕切るわけですから、ライセンスがないとはいえ、ただテンポよく競って行けばよいわけではなくオークションを通して常に一貫した基本姿勢で競りを行っていかなくてはいけません。このため、弊社ではオークショニアとなるために当然「研修」があります。この研修では、実際のオークションよりもずいぶんと難しい状況が作られます。来場者役の社員が、オークショニア候補が間違えるようわざと複数で同時にビッドするなどはまだやさしい方で、競っているふりをしてビッドを取ると競っていなかった、とんでもない金額で声を出して惑わせたりなど、数々の嫌がらせ…、いや、愛の鞭を振るってくれます。オークショニア候補はそれらの難題を乗り越え、研修によって公平性、一貫性の重要さを学びます。
また、そうした基本以外にもオークショニアには必要なものがあります。お客様が競り易くオークションを進行するために必要な要素、「リズム」です。オークションによく参加される方ならば、オークショニアの違いによって競り易い競りにくいというのを感じたことがあるかもしれません。弊社オークショニアは、できるだけお客様にビッドしやすく競っていただくためにこのリズムを重要と考えています。この「リズム」、簡単そうに見えるかもしれませんがやってみると案外難しく、刻一刻と変わる金額や誰が競っているかなどを示すために場所やパドル番号などを金額の合間に挟むとつい乱れがちになります。私も研修の頃は、通勤途中やお風呂でブツブツ「10万円、11万円、12万円…」などとつぶやいて練習していました。

こうして研修を終え、その時その時の状況に合わせて対処するための理論的な根拠や、スムーズな進行と競り易さのためのリズム、そして突発的なことが起こっても動じずに対応する力など、シンワオークショニアとしての基本をしっかりと身につけます。
ここまで来れば後は、いざ、デビューの日を待つばかり。

ハンマー


私が初めて壇上に立ったのはもう10年以上前ですが、緊張してオークション直前に水を飲む手が震えたのを今でも覚えています。いざ始まってみると無我夢中で何をどうしたのかよく覚えていませんが、大きなミスなく終えられたのは厳しい研修の成果と社員のみなさんのサポート、そしてお客様の寛大な心のおかげであったかもしれません。
これからもシンワアートオークションのオークショニアとして、公平でかつ楽しいオークションをお送りできるよう精進してまいりたいと思います。

続きを読む

フォーヴィスムの旗手 林武の《舞妓》

こんにちは。
ゴールデンウィークはいかがお過ごしでしたでしょうか。
まだ体がお休みモード…という方も多いかもしれませんね。体調を崩しやすい時期でもありますので、どうかお気をつけください。

さて、本日は19日(土)に開催されます近代美術オークションの出品作品の中から1点ご紹介いたします。
たくさんの画集や展覧会でも紹介された力作です。


【オークション終了につき、図版は削除いたしました】



林武(1896-1975)
《舞妓》
62.5×42.0cm
キャンバス・油彩 額装
1958年作
右下にサイン
共箱

文献:
『林武全画集』P.125 №630(日動出版)
『林武』№59(美術出版社)
『世界名画全集 第24巻』カバー/P.105(平凡社)
『現代美術家シリーズ 林武』P.129/P.136(時の美術社)

展覧会:
林武回顧新作展 1958年(日本橋・高島屋)
明治・大正・昭和 美人画名作展 1962年(松屋/毎日新聞社)
日本芸術院 恩賜賞・院賞美術展 1968年(新宿・伊勢丹/日本経済新聞社)
画業50年記念 林武展 1970年(梅田・阪神百貨店/毎日新聞社)
女の美名作展 1971年作(千葉・そごう百貨店/日本経済新聞社)
林武展―この不屈の人― 1975年(日本橋・高島屋/毎日新聞社)
名画に見る舞子展 1979年(日本橋・三越/朝日新聞社)

エスティメイト \4,000,000~6,000,000



 1896(明治29)年、林武は東京の麹町に三代続く国学者の家系に生まれました。ほぼ独学で油彩画を習得し、25歳のとき第8回二科展にて新人賞にあたる樗牛賞、翌年には優秀賞にあたる二科賞を受賞し、画壇に頭角を現しました。その後、一九三〇年協会や独立美術協会に参加し、日本のフォーヴィスムの旗手として活躍していきます。やがて東洋の哲学や印象派の巨匠・セザンヌの構図理論などを取り入れた独自の絵画論や構図法の追求を始め、戦後には理知的な構成と情熱的なフォーヴ風のタッチというアンビバレントな要素を調和させた個性豊かな林芸術を展開していきました。

 本作品のモティーフ、舞妓は林が薔薇や富士とともに好んでよく描いたものの一つ。多くの画家たちが魅せられた舞妓の華やかさや日本的な美しさではなく、林は豪華な衣装や髪飾りに身を包んだ姿に安定感やボリューム感を見出し、均整のとれた造形美に着目しました。また、色彩において他の人間像よりも圧倒的に彩り豊かで複雑である点にも魅力を感じたといいます。
 
 1958年作(当時62歳)の本作品では、鮮やかな赤色の背景を斜めに切るように舞妓の上半身を大きく描き出しています。骨太な黒い輪郭線で対象を縁取ったステンドグラスのような色面構成と重厚なマチエール、奔放なタッチは林芸術の特徴をよく示すものと言えるでしょう。また、全体に立体感や量感を強調し、舞妓の顔や首には白粉と頬紅を塗った肌の質感を表現しました。そして、絵具が乾く前に背景に施した文様は林が装飾的な表現にも力を注いだことを窺わせます。
 このように画面上に交錯する立体感と平面性、舞妓の人形のような造形の安定感と生身の人間の繊細さ、それぞれの相克に林は微妙なつりあいを求めたのでしょう。自身の絵画論をもって伝統的な日本美に挑む画家の情熱が満ち溢れる作品です。

この作品は16~19日に開催予定の下見会にて展示いたしますので、ぜひご覧ください。
オークション・下見会スケジュールはこちら
みなさまのお越しを心よりお待ちしています。

(佐藤)

続きを読む