カテゴリー別アーカイブ: 浮世絵

江戸の華―北斎、歌麿、写楽の浮世絵

こんにちは。 今週の近代美術PartⅡ下見会にご来場くださいました皆様、ありがとうございました。 さて、来週の18日(土)は近代美術/近代美術PartⅡ/戦後美術&コンテンポラリーアートオークションを開催いたします。近代美術では、加山又造や平山郁夫、ピサロなど、戦後美術&コンテンポラリーアートでは、草間彌生の《INFINITY-NETS[QPRS]》など、それぞれお勧めはありますが、今回は近代... Read more

東洲斎写楽《三世市川八百蔵の田辺文蔵》

 3月26日に開催いたしました近代陶芸/近代美術オークションにご参加くださった皆様、どうもありがとうございました。会場の丸ビルホールにはたくさんのお客様にご来場いただきました。社員一同、心よりお礼申し上げます。

 また、緊急開催いたしましたチャリティオークションにも、たくさんの方がご参加くださいました。急な募集にもかかわらずご出品いただきましたお客様、会場でお競りいただきましたお客様、ご協力ありがとうございました。チャリティオークションは今後も開催していく予定です。また、併せてスタートしました募金活動は、下見会やオークション会場で引き続き行っていきますので、こちらもよろしくお願いいたします。

 さて、今日は現在銀座で下見会を開催中の4月9日浮世絵オークション出品作品から一点ご紹介します。この春、東京国立博物館で大々的な特別展が開催される、“謎の天才絵師”東洲斎写楽の作品です。

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Lot.442 東洲斎写楽
《三世市川八百蔵の田辺文蔵》
37.9×25.2cm
エスティメイト ¥7,000,000~10,000,000



 東洲斎写楽(生没年不詳)は、寛政6年5月~翌年1月(1794-95)までのおよそ10ヶ月の間に役者絵・相撲絵150点余りを版元・蔦谷重三郎より刊行し、姿を消したとされる伝説の浮世絵師。その正体をはじめ、多くのことが謎に包まれていますが、現在では阿波の能楽師・斎藤十郎兵衛という説が有力とされています。ちなみに、画号の由来は「しゃらくさい」だそうです。

 写楽は、豪華な雲母摺り(きらずり=雲母の粉を摺り付ける技法)の背景に、リアルに表現した役者大首絵で一世を風靡しました。その画風は、江戸時代の戯作者・大田南畝(おおたなんぽ)に「あまりに真を画かんとてあらぬさまに書きなせしかば」、つまり「顔の特徴をあまりにリアルに描きすぎてかえって異様だ」と評されました。それまでの役者絵が美化して描くことが原則であったのに対し、欠点と言えるような顔の特徴すら大胆にデフォルメして描いたためです。しかし、このユニークで迫力ある大首絵が、現在では写楽の人気の高さの所以と言えるでしょう。写楽は、レンブラント、ベラスケスと並ぶ世界三大肖像画家にも位置付けられています。

 本作品は、三代目市川八百蔵が扮する田辺文蔵を描いたものです。田辺文蔵は、寛政6年5月(1794年)に都座で上演された時代狂言、「花菖蒲文禄曽我」に登場する人物です。
「花菖蒲文禄曽我」とは次のようなお話。信州小諸藩の剣術指南役であった石井宇右衛門が、弟子の身勝手な振る舞いを厳しく注意したことを恨まれ、闇打ちにあって殺害されます。石井家の忠義の家臣であった田辺文蔵は、遺された宇右衛門の幼い子供たちを影ながら支え、敵討ちを誓ってともに全国を探し歩きました。文蔵はそのための資金調達に東奔西走し、一行は28年の年月を費やして敵を探し出し、目的を遂げました。

 写楽の描く文蔵は、借金返済のめどがたたずに思い悩む姿として表わされています。伸びた髪や質素な着物からもその様子が伝わってきます。三代目八百蔵は和事(恋愛もの)や実事(人物の精神や行動を写実的に表現する演技)を得意とした人気役者で、作品からその優男風の風貌がうかがえます。

 写楽作品の中で、こうした大首絵と雲母摺りを組み合わせたものは、デビュー直後の1ヶ月ほどの間に制作した28点しかありません。この28点はそれぞれおよそ200枚ずつ刷られましたが、その奇抜さゆえに当時は不人気で完売せず、その後大正時代になってから評価をされ始めたため、現存している枚数は極めて少ないと思われます。現在その一部は、東京国立博物館やベルギー王立美術館に収蔵され、国の重要文化財にも指定されています。

この作品は4月2日まで、銀座の下見会でご覧いただけます。
下見会・オークションのスケジュールはこちら

みなさまのご来場を心よりお待ちしています。

(執筆:S)

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歌川広重《保永堂版東海道五拾三次 五十五点揃》

今週は浮世絵・近代美術PartⅡオークションを開催いたします。
今回は浮世絵オークションの出品作品の中から、歌川広重《保永堂版東海道五拾三次 五十五点揃》をご紹介いたします。


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「日本橋 朝之景」

Lot.363 歌川広重《保永堂版東海道五拾三次 五十五点揃》
題字付
楢崎宗重箱
エスティメイト \20,000,000~35,000,000


言わずと知れた広重の代表作です。
「浮世絵」というとこの作品を思い浮かべる方も多いかもしれませんね。
《保永堂版東海道五拾三次》は制作された当時、版木が磨滅するほどの売れ行きだったそうで、制作後に最初に摺られた「初刷り」と版木を彫り直した後の「後刷り」があります。
後刷りでは絵が加筆・修正されて、人物が増えたり、山の形が変わったりすることがあります。そういった変化もこの作品の楽しみの一つではありますが、色彩が美しい状態で残されている初刷りの作品ほど、希少性が高いと言えます。

今回の出品作品は、題字を含む56枚で構成された全揃いで、「蒲原」、「四日市」といった人気の図柄に初刷りが多いことが特徴です。また、浮世絵研究の権威として知られる美術史学者・楢崎宗重による箱書きがついています。

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まずとても珍しいのがこちら。
画帖装の扉ページとして摺られた題字です。
山種美術館にも収蔵されています。

 
                        

楢崎宗重箱です。
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「蒲原 夜之雪」

「蒲原 夜之雪」も初刷りです。
比較的温暖であまり雪の降らない蒲原(現在の静岡市)を雪景色として描いたこの作品は、シリーズ中でも人気の高い1点です。このように雨、雪、霧など、季節感と気象の変化を抒情的に表現したことが《保永堂版東海道五拾三次》の大きな魅力ですね。

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初刷り                後刷り

初刷りの特徴はなんとこちら。画面一番右の人物の足の筋です。
後刷りではこの筋がなくなります。


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「池鯉鮒 首夏馬市」

今回最も希少なものが「池鯉鮒 首夏馬市」です。
こちらは、池鯉鮒(ちりゅう。現在の愛知県知立市)宿の東の野原で開催される馬市を描いた作品。
野原には競りにかかる馬がたくさんつながれています。画面中央の大きな松の下では、馬飼や馬喰が集まって馬の値段を決めており、このことからこの松を談合松と呼んだそうです。
本作品では、松の向こう側に実在しない鯨形の丘が描かれています。これが初刷りの特徴で、大変希少と言われています。
このほかには「大津 走井茶店」なども初刷りの特徴が見て取れます。

初刷りならではの図柄やぼかしの色彩の美しさをぜひ下見会場でご覧ください。
みなさまのご来場を心よりお待ちしております。

(執筆:S)

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浮世絵オークションの見どころ

 3月20日(土)、浮世絵や近世絵画など226ロットを集めた浮世絵オークションが開催されます(近代陶芸および近代美術パートⅡ(陶芸)オークションと同日開催)。
 東洲斎写楽をはじめ、葛飾北斎、喜多川歌麿、歌川広重、鈴木春信・・・と、優品ぞろいです!
今日はその中からいくつか見どころをご紹介します。


<初摺りと後摺り>
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Lot 326 歌川 広重《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》
初摺 36.7×24.8㎝
落札予想価格:700万~1100万円


 今回のオークションには、初摺りと後摺りの両方が、別のロットで出品されているものがあります。
 上図の歌川広重《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》は、風景画の名手・広重の代表的な作例ですが、Lot326は初摺り、Lot324は後摺りのものです。後摺りは落札予想価格150万円~250万円となっています。

 初摺りでは橋の上や川の中景にぼかしが入っており、タイトル部分に当たる「関防(かんぼう)」には二色のグラデーションが用いられています。また、黒くたちこめる雨雲の表現も、後摺りでは横に真一文字の表現に変えられています。


 広重の《名所江戸百景》のうち、「王子装束ゑの木大晦日の狐火」も初刷りと後摺りが出品されます。
 Lot322の後摺りは落札予想価格50万円~80万円、初刷りのLot325は同500万円~800万円です。

 東京都北区にある王子稲荷神社にまつわる民話をもとに作られた作品。大晦日の夜、榎木(ゑの木)のもとに数百の狐が集まって、装束を整え、参拝に行くというお話です。ユーモアと日本的なオカルト趣味が、味わいある高度な木版の技で表現されています。
 下見会ではぜひ実物を見比べて違いをお楽しみください。


<土佐派「中興の祖」、光起>

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Lot 384 土佐 光起《人麿図 後西天皇宸翰讃》
絹本・彩色 軸装 重要美術品認定 118.0×44.0㎝
落札予想価格:1200万~1800万円


 土佐光起(とさ・みつおき 1617-91)は江戸前期の画家です。
 江戸時代、幕府の御用絵師となった狩野派や住吉派に押され気味であった土佐派を、再び宮廷の絵師として高い地位にまで押し上げた、中興の祖と言われています。

 土佐派は室町時代からの長い伝統を持つ名門一族でしたが、江戸幕府が奥絵師として新興の漢画系である狩野派を召し抱えたため、光起の父の代までは京都を離れて大阪(堺)に活躍の場を見出していました。
 しかし土佐光起の活躍により、一家は再び京の地へ戻り、そこで貴族的で優雅・繊細な画風を確立したのです。

 本作品は「土佐派の絵画展」(1982年、サントリー美術館)に出品されたもので、三十六歌仙のひとり、柿本人麻呂を描いています。宮廷歌人を題材とした、いかにも土佐派らしい作品です。

浮世絵オークション日程など詳細

(井上素子)

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浮世絵 広重が描く風景画の最高峰

 5月のオークション週間終わりを飾るのは、浮世絵特別オークションです。北斎の肉筆のほか、今話題の春画もまとまった数で出品されます。


 なかでも今回のオークションカタログの表紙になっている歌川広重《木曾海道六拾九次 洗馬》は、広重の風景画の最高傑作とも言われます。
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LOT81 歌川広重《木曽海道六拾九次 洗馬》
23.1×36.9㎝
エスティメイト ¥6,000,000~9,000,000.

 《木曾海道六拾九次》は、版元の保永堂(ほうえいどう)が、《東海道五拾三次之内》の成功を受けて、木曽路・中山道を題材に企画した揃いものです。
 天保六年(1835)年頃、渓斎英泉(けいさい・えいせん)によって起筆され、中断されたため歌川広重が後を継ぎ、完成されました。


 本作品の舞台、洗馬(せば)は、現在の長野県塩尻市です。木曽義仲が、後に家臣となる今井兼平と邂逅し、そこで兼平が義仲の馬の足を洗うと、たちまち元気を取り戻したという伝説があることから、この地名がついたと言われています。

 画面手前から奥へと流れるのは、その清水に近い奈良井川(ならいがわ)。
 船人のゆったりと棹を漕ぐしぐさと川の緩やかな流れ、柳を揺らす夜風、満月に照らし出されて一体となる自然と人間の営みが、絶妙に調和した、シリーズ中の白眉です。


 本作品では、黄昏どきの微妙な空が、満月にヴェールを掛けたように棚引く紅色、空に夜の帳を下ろす墨のグラデーションで表現されています。
これは拭きぼかしという高度な職人の手わざを必要とし、後版では省かれてしまうことが多いものです。薄い色版を精妙に重ねることにこだわったと言われる広重の、制作当時に企図した芸術性がありありと感じることができる稀少な作品です。

 浮世絵オークション詳細はこちら

(執筆者:I)

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