月別アーカイブ: 2013年6月

~涼をもとめて~青磁鑑賞(6月近代陶芸オークション)

先週のBAGS/JEWELLERY & WATCHESオークションにご参加頂いた皆さまありがとうございました。今週末は近代陶芸/近代美術PartⅡ(陶芸)オークションが開催されます。ぜひこちらにも足をお運びください。

さて、今回は小品ながらも珍しい作品が出品されます。
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LOT.68 岡部嶺男「窯変米色瓷盃」
     H5.7×D10.4㎝
高台内に掻き銘
岡部美喜箱
1974年5月14日作
エスティメイト¥800,000~¥1,200,000


 岡部嶺男(1919-1990)は戦後間もなく、生まれ育った瀬戸で地元の伝統技法である灰釉をベースとし、織部・志野・黄瀬戸などを作陶しました。当初より「製作記録」として土と釉薬の研究をノートに書き遺しています。その記録は、事細かに分類され、「実験」「テスト」といった言葉が相応しいように思います。その後、天目・青瓷へと自らの技法を広げて行くわけですが、いずれも釉薬の研究をしていく中で偶然に発見されたものでした。
1962年(昭和37年)のノートには、次のように記されています。「土の芸術として最後の姿は青瓷として現れた。これは中国に於ける土器の最後の花として現れた宋官窯青瓷と同一の経路のように思える」。独自の研究を重ねる中で中国の陶磁器文化の変遷を追体験したという、なんともスケールの大きな話です。
 
 織部や志野と対照的とも言える青瓷の技法ですが、嶺男作品は全てにおいて形の美しさが一貫しています。陶磁器では箆目(へらめ)を生かした姿が、青瓷では轆轤(ろくろ)引きの美しさが伺えます。そして薄造り!これは類を見ません。陶芸家としての技量は相当だと誰もが認めざるを得ないでしょう。
今回の窯変米色瓷盃は、その形と、窯変のきめ細やかな美しさが互いに引き立てあっているように感じます。また高台脇にシールが貼られています。こんな綺麗な作品なので外したくなりますが、実はこれが釉薬の研究を示しているものなのです。
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上が制作年月日、そして下がどの棚に置いてあったかという棚の番号です。
直接作品に”印(しるし)”を入れてあることもありますが、これもまた岡部嶺男を物語る貴重な資料と言えるでしょう。

 そしてもう一点ご紹介したいのが、こちらです。

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 LOT.67 板谷波山「青磁菊式湯鐘 一双」
   H8.1×D8.1㎝/H7.4×D7.1㎝
   各高台内に印銘「波山」
   共箱 1919年作
エスティメイト¥700,000~¥1,000,000


板谷波山(1872-1963)は、白磁・青磁・天目・鉄釉といった磁器を作陶し、最終的に葆光彩磁を生み出しました。アール・ヌーヴォーに影響を受けた波山は、植物を流線的に図案化しました。自らほの明るく光を放っているかのような葆光彩磁は、「近代陶芸の最高峰」と称される波山の代名詞と言っても良いほどの技法です。それとは別に青磁や白磁で良く見られる薄肉彫という彫文での技術もまた、格別な技を誇っています。その代表格である「青磁香爐」(LOT.106 ¥1,300,000~¥2,300,000)も今回出品されますが、こちらのような「湯呑」は、弊社でも初めての出品です。
「菊式」とあるように、薄肉彫されているのは菊の花のデザインです。サイズの違いから見ても夫婦湯呑と言えますが、それよりもっと”一対”という確証が持てるのは、それぞれの印銘です。
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 両面が印になっている判子を使用し、それぞれに押しています。珍しく印が違う組み合わせだったというのには、こういう意味があったのですね。
これでこの湯呑二客が一対であることがよくわかります。

両者とも青磁の涼やかな器です。涼を求めにご来場なさってみてはいかがでしょうか?

(執筆者:E)

下見会・オークションスケジュールはこちら


【参考文献】
『-青磁を極める-岡部嶺男展』東京国立近代美術館 他/2007年
『出光美術館蔵品図録 板谷波山』平凡社/1988年

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オークションの舞台裏 -アンダービッダー-

先週の近代美術/近代美術PartⅡオークションにご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。
過去3回にわたりこのブログでオークショニアの仕事を紹介してまいりましたが、今回はその後ろに影のように控えてオークショニアを支えている「アンダービッダー」の仕事についてご紹介をしたいと思います。

弊社のオークションに参加されたことのあるお客様ならば必ず目にしたことのあるはずのこの人物、オークショニアの後ろでカタログ片手に何やら書き込み、ときどきオークショニアにささやきかけたりして、一体何をしているのだろうと不思議に思った方もいらっしゃるかもしれません。
しかしてその正体は、オークション最中ではもしかするとオークショニア以上に集中力を必要とするかもしれない、重要な任務を帯びた“アンダービッダー”と呼ばれる役割なのです。

この役割の基本的な仕事はというと、まずはオークショニアのサポート。オークショニアが連呼する金額が正しく競り上がっているか、読み上げたパドル番号が間違っていないかなどオークショニアの後ろで同じように金額を追いながら、いざというときに備えてくれています。時には競っている最中にお客様から質問などが入り、今いくらで競っているかすぐに出てこなくなってしまったときなど、後ろからボソッと「15万円」などとさりげなく教えてくれたりします。また、オークショニアから見えにくいビッドや、見ていないところから新たなビッドなどが出たときには、アンダービッダーがキチンとそれを見ておりオークショニアに教えてくれ、さらにさらに、ハンマーの後オークショニアが落札金額や落札者のパドル番号を書き込んだ台帳のチェックもしてくれるという、我々オークショニアにとっては大変ありがたい存在なのです。
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オークショニアの後ろでビッダーを控えています。

 そしてもうひとつの重要な仕事として必ず行っているのが、その名の通り“アンダービッダー”を取る作業です。パドル番号何番のお客様がいくらまで競っていたか、後から確認が取れるように記録を取っているのです。
私もオークショニアを務める前にはこの“アンダービッダー”をやっておりましたが、このビッダーを記録する作業が非常に大変であったのをよく覚えています。1つのロットを競っている数十秒の間に、できる限りビッドしている方のパドル番号とその時の金額を手元のカタログに書き込み、また同時にオークションニアのサポートもこなさなければならず、慣れるまでは集中力を維持するのが精一杯。人気のある作品でたくさんビッドがあった時など、書き込んだカタログは何が書いてあるのか自分でもわからないような殴り書きで、オークションが終わったころにはヘトヘトになっていました。

そうしてオークションが終わった後にもアンダービッダーにはまだ仕事があります。オークション最中に入力されたデータと、オークショニアが台帳に記録した落札金額と落札者のパドル番号、それにアンダービッダーの手元の記録がすべて一致しているかを1点ずつ照らし合わせていくのです。オークションの落札結果を発表するにあたり間違いがあってはならず、かつ出来るだけ早く皆様にお知らせできるよう、オークション終了直後にこの作業は行われます。
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アンダービッダーが記入したカタログ。

その他にも、オークションの最中にオークショニアと会場内の他のスタッフとの連絡をしてくれたり、モニターが間違っていないかチェックしてくれたり、訂正事項を教えてくれたり、水を注いでくれたり、オークショニアが競りに集中できるよう様々な気配りをしてくれています。さりげないようでいて、とても頼りになる存在なのです。

オークションでは全てのスタッフが様々な役割をこなしています。今後もご来場の際に皆様がオークションをより一層お楽しみいただけるよう、それらの仕事をご紹介していきたいと思っております。

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