「いいね」―インターネット上で近頃見かけるこの言葉、 これはソーシャル・ネットワーキング・サービスのFacebookにおいて、まさに「いいね!」と思ったらクリックするというものです。英語圏では「Like」と表記しているそうですが、それに比べると日本語はやはりやんわりした表現に感じますよね。ですが、日本でも400年も前から、はっきり堂々と「これは“好き”なものだ!」と公言して憚(はばか)らない世界があるのです。
それは、お茶道具の世界です。
お茶道具は千家の宗匠(当主、家元のことです)が書付(かきつけ)(鑑定書の一種)をしていると道具自体の権威が上がり、それがさらに“好み物(このみもの)”だとまた一段と位が上がります。
「好み物」。
そうです。これは茶人が「このデザインは好きだな」と表記したもののことで、書付に
「好」と書かれているのです。
好み物は千利休より以前の茶人・村田珠光が和物の道具を茶席で使うために、自分好みの道具を作らせた室町時代の中期頃より始まりました。茶銘や和菓子などあらゆるものを好みにしており、それは利休へと受け継がれていきました。利休は茶道を系統立て、わび・さびの茶道具の基本を作ったと言っても過言ではありません。
また珠光の好み物は「昔形(むかしがた)」、利休の好み物は「利休形」とも呼ばれます。
裏千家九世不見斎(1746-1801)が「蛤香合利休好」と書付(鑑定の一種)をしています。
このように「好」と大々的に書かれているのです。作品は右下画像です。
三代中村 宗哲作 「蛤香合」
大振な本物の蛤が使用されています。
『裏千家歴代好み物』(1991年/茶道資料館)参照
戦後、表千家の宗匠・即中斎が多く好み物を残したのは、どのような道具が茶席に適しているかを人々に広め、そのような道具が多く製作され使われる事によって、茶道をより広く普及させていこうという狙いがあったと言われています。
普段遠いと感じる茶の湯の世界ですが、実は今の文化とも通じているところがあるのです。
そして、それはとても情のある社会であるということも感じます。
まずは皆様も弊社の陶芸オークション下見会に一度足を運ばれてみてはいかがでしょうか?
茶人が「いいね」とした道具に気軽に触れていただく事で、茶の湯の世界の美しさを垣間見る事ができるのではないかと思います。
(執筆:E)
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