月別アーカイブ: 2012年3月

51年ぶりに発見された幻の作品―岸田劉生《黒き土の上に立てる女》

こんにちは。
先日の近代陶芸/古美術/近代美術PartⅡオークションにご参加いただいた皆様、どうもありがとうございました。

今日は今週、3月24日(土)に開催されます近代美術オークションの出品作品の中から1点ご紹介いたします。こちらは、なんと「51年ぶりに発見された幻の作品」ということで新聞でも報道されました。

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Lot.126 岸田劉生(1891-1929)
《黒き土の上に立てる女》
62.0×46.8cm
キャンバス・油彩 額装
1914年作
右下にサイン・年代
裏にサイン・タイトル・年代
劉生の会登録証書つき
エスティメイト ★\7,000,000~10,000,000

掲載文献:
『岸田劉生画集 目録・解説』P.136参考33(岩波書店)
『岸田劉生の作品に関する私ノート(郡山市立美術館研究紀要第2号)』P.67№41(郡山市立美術館)
『岸田劉生とその周辺』№2(東出版)
『劉生と御舟展図録』参考図版掲載 P.14 fig.4 1996年(豊田市美術館)
『芸術選書 岸田劉生』挿図22(中央公論美術出版)
『国際写真情報 1961年10月』
展覧会歴:
岸田劉生作品展覧会 1914年(京橋・田中屋)
第14回巽画会美術展覧会 1914年(上野竹之台陳列館)



 「麗子像」の連作で知られる岸田劉生は、日本の近代美術を代表する画家の一人です。まずはその生涯についてお話します。

 1891年、実業家・岸田吟香の第九子として東京・銀座に生まれた岸田劉生は、17歳のとき白馬会葵橋洋画研究所に学びました。20歳の頃、雑誌『白樺』との出会いから後期印象派の洗礼を受け、フュウザン会を結成します。その後、北方ルネサンス絵画に傾倒して写実を追求し、草土社のリーダーとしても活躍。さらに、中国の宋元画や初期肉筆浮世絵といった東洋美術に心酔し、神秘的で内省的な「内なる美」の芸術を生み出していきました。

 では、本題に入りましょう。
本作品はキャンバス裏面の記述より、1914年7月25日(当時23歳)に制作されました。副題を《農夫の姫》といい、1961年に雑誌『国際写真情報』に掲載されて以来行方知れずだったと伝えられています。代々木に住居を構えたこの時期、劉生はデューラーやウィリアム・ブレイクといった北方ルネサンスや西洋古典の巨匠たちの作品に大きな影響を受けました。その「クラシックの感化」は愛情をもって自然を見つめる写実の姿勢や細密描写として、また、宗教画や構想画の要素を取り入れる試みとして作品に表されていきます。

《南瓜を持てる女》rgb_convert_20120319192735
 本作品は、このわずか19日前に制作された代々木時代の名作《南瓜を持てる女》(右参考図版:石橋財団ブリヂストン美術館蔵)に題材と構図が極めて類似しており、同じ西洋古典絵画を参考にしたものと推測されます。両作品ともに、麗子を産み母になったばかりの妻・蓁(しげる)をモデルにしたと思われる農婦が、胸を露わにし大地を踏みしめて立つ姿を生命や豊穣の象徴として描いています。
 劉生は《南瓜を持てる女》において、農婦を聖女に見立て、アーチ型の縁飾りを取り入れて宗教性や精神性の高さを表わしました。それに対して、本作品では農婦の女性らしさやみずみずしさを強調し、高く盛り上がった赤土と密集して茂る草木をいっそう力強く描き出すことにより、満ち溢れるような生命感を理想化して表現しています。
 また、こうした自然の描写には、翌年に制作され草土社の名称の由来となった《赤土と草(赤土と草の道)》(浜松市美術館蔵)との共通性がすでに見て取れ、それは劉生の代表作の一つである前述の重要文化財《道路と土手と塀(切通之写生)》へと展開していきます。

 ちなみに、今週のオークションでは、劉生の代名詞的なテーマ《麗子》も出品されます。こちらは鵠沼時代、1922年5月18日にコンテで描かれた作品です。8歳の麗子が横目で微笑む姿を妖しくデフォルメして描き出したものですが、これはこの時期劉生が没頭していた「グロテスクな美」、すなわち東洋的な超現実性を追求したものです。こうした神秘的な表現は、同じ年に制作された《二人麗子図》(泉屋博古館蔵)や《野童女》にも見て取れます。

岸田劉生《麗子》_convert_20120319192911
Lot.122 岸田劉生《麗子》
34.2×25.5cm
紙・コンテ 額装
1922年作
左上にタイトル、右上にサイン・年代
劉生の会登録証書つき
『岸田劉生の作品に関する私ノート(郡山市立美術館研究紀要第2号)』P.102№22(郡山市立美術館)
岸田劉生個人展覧会出品 1922年(野島邸)
エスティメイト ★\2,000,000~3,000,000


ミュージアムピースが揃った今回のオークションは、ぜひ下見会で本物をご覧ください。
下見会スケジュールはこちら
皆様のお越しを心よりお待ちしております。

(佐藤)

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ジャパンインターナショナルボートショー 2012 チャリティーオークション

 さる3月1日~4日まで4日間にわたり、横浜みなとみらいにあるパシフィコ横浜にて開催された、ジャパン・インターナショナル・ボートショー2012のイベントとしてチャリティーオークションが行われました。東北の復興支援のためのこのオークション(3日と4日に開催)、海好きの著名人が持ち寄ったとっておきのアイテムは二日間で合計45点。今回は3日が長オークショニア、4日に私平野がオークショニアを務めてまいりました。

 このボートショー、展示はもちろんマリーナでの体験乗船や各種ボートの安全講習会、またトークショーやボート・オブ・ザ・イヤー2012の発表など、イベント盛りだくさん、出展者も優に100を超え4日間の来場者が35,060名と、かなり大きなイベントでした。

 今回のオークションは大きな催しのイベントの一つとして行われたものでしたので、舞台や出演者、効果音なども含め普段のオークションとは違った非常にイベント性が高く演出されたオークションでした。
 大きなボートショー会場内一角に設営された舞台と、その前には100人分ほど用意された椅子。オークション前には場内アナウンスでチャリティーオークションの案内が流され、時間が近づいてくるに従って座席がお客様で埋まっていきます。その周りには立見のお客様もちらほら。壇上に並べられた商品を遠巻きに興味深げに眺めています。

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明るい雰囲気の会場。ミス日本海の日がさらに華やぎを添えてくれます

 開始のファンファーレとともに進行役の方々2名とミス日本海の日の2名が入場、自己紹介や少しのやり取りがあって後、オークショニアが呼ばれます。改めて呼ばれて登場することはあまりないのでちょっと気恥ずかしい思いもして緊張しましたが、舞台に上がってお客様のオークションを心待ちにしているような笑顔を見ると少し落ち着きも取り戻しました。今回は進行役の方がいるので商品の説明などはなく、私の役目は純粋にオークションを進めていくのみ。ミス日本海の日がかざす商品を一つ一つ競って行きます。落札されハンマーを打つ度にファンファーレが鳴り進行役の方がコメントを挟んでいくので、あまり競り上がらなくてもなんだか盛り上がったような気持ちになりました。これはなかなか上手い手法だなと感じましたが、残念ながら普段のオークションでやるわけにはいきません。

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この笑顔でビッドも上がる!?

 出品された商品はやはり海や釣りに関わるものがほとんどで、釣り具やクーラーバッグ、ライフジャケットやウェイクボードなどなかなか洒落た商品もありましたが、なんと船外機付きのボートというものもありました。チャリティーということもあり、いずれも数千円~一万円くらいからスタート。さすがにお客様は興味があってきている方ばかりだからなのか、手が上がらないということもあまりなくみなそこそこに競っていきます。やはり釣り具などは人気がありましたが、意外と手が挙がったのがライフジャケット。舟釣りに行かれる方などには必需品でしょうから、マイライフジャケットを手に入れるいいきっかけだったのでしょうか。

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二日目も盛り上がりました

 最後に出品されたのはさかなクンから提供の船外機付きのボート。定価がいくらするのか存じませんが、素人でも破格とわかる2万円からスタートしました。さすがにボートはビッドする人が限られるだろうと思っていましたが、なんと発句するや否や7、8人ほどの手が上がり、方々から5万円!7万円!と声も上がりました。10万円近くになってくるとついに1対1の戦い。お一人は電話で相談しながらビッドしており、さながら弊社のいつものオークションのような緊迫感がありました。最後はハンマープライス17万5千円でご落札。後で伺った話によるとそれでもかなり安いとのことでした。

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さかなクンのボート。本体とエンジンには直筆のイラストが!

 2日間で45ロット競りましたが、1,474,000円の収益金が集まりました。オークション終了後は、いわき市の「みなとまち創造会議」への贈呈式が行われ、これにその他の寄付を合わせた合計1,576,000円が贈られました
 震災からちょうど1年が経過しましたが、まだまだ復興への道のりは遠く感じられます。私たちにできることはほんのわずかなことかもしれませんが、こうしてお声掛けいただき微力ながらお手伝いできることは私たち自身の励みにもなります。東北の1日でも早い復興を祈念しつつ日々仕事に邁進すべく気持ちを新たにした1日でした。


(平野)

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今週の近代陶芸/古美術オークション

こんにちは。まだまだ寒暖の差はありますが、ひと雨降る毎に春が近づいて来る気がします。

さて、今週は通常の近代陶芸と共に、「古美術」として厳選された18作品を加え、
近代陶芸/古美術/近代美術PARTⅡ(陶芸)オークションを開催致します。

 今回「古美術」に出品されている作品から何点かご紹介したいと思います。
 
 まず古伊万里、古九谷など江戸時代中期から末期にかけて制作された色絵磁器の作品です。特に注目して頂きたいのはこちらの作品。
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LOT.133「古九谷松鶴文輪花中皿」
D20.5㎝
高台内に描き銘「福(角福)」
『色絵の煌古九谷』掲載 №65(大阪美術倶楽部)
エスティメイト¥8,000,000~¥12,000,000


正保から寛文年間(1644-1661)頃に制作されたと伝えられる古九谷は、大胆な意匠と華麗な色彩感で今なお世界中のコレクターより高く評価されています。この作品は、緑・黄・青・紫・赤の五色を絵付けに用いた五彩手の作品です。吉祥を表わす松と鶴を描き、外側面には宝尽しの文様、高台内には角福が配してあります。
 また古九谷様式で評価されているポイントとしては、皿を斜めにすると虹のような虹彩が見えるかどうかという点があるそうです。この作品は、まさにその虹彩をはっきり見ることができます。これは、釉薬に含まれている銅と炭素が焼成時に結び付き、金属銅に還元し起こるそうです。
 古九谷様式が栄えた後の1690年代末から1700年代初頭に掛けて、古伊万里様式が全盛期を迎えます。金襴手はまさにその頃生まれました。
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LOT.128「古伊万里金襴手獅子大根文兜鉢」
H9.4×D22.3㎝
高台内に「大明萬暦年製」記
エスティメイト¥1,000,000~¥1,500,000


金襴手は色絵に金彩を施した絢爛豪華な磁器を指し、江戸時代元禄期の繁栄と富の象徴として当時の大名や豪商たちを魅了する存在でした。
この作品は鉢の見込みに獅子と牡丹文様、内側には赤の窓絵に大根と人参を描いています。その周囲を埋め尽くす緑地と点描が装飾的であり、金襴手の優れた作例の一つと言えます。


そして、その頃に即位していたのが、東山天皇です。
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LOT.138 東山天皇「震翰御懐紙」
 紙本、軸装
 旧重要美術品認定
 伊達家伝来
エスティメイト¥3,500,000~¥5,000,000
 

東山天皇【延宝3年~宝永6年(1675-1709)】は、霊元天皇の第4皇子で貞亨4年(1687)に即位しました。東山天皇在位期間(23年)は元禄時代に相当し、犬公方と呼ばれた第5代将軍徳川綱吉の在職期間と重なっています。綱吉は皇室を敬ったため、朝廷と幕府との関係は良好で、東山天皇は御料(皇室領)を1万石から3万石に増やし、長く廃絶していた大嘗祭の儀式も復活させました。また、和歌や書をよくし、特に書は元禄という江戸時代の最も華やかな時代を反映した豊かで華麗な作風で知られています。
この懐紙は宝永3年(1706)、東山天皇31歳の時の作で、戦前まで伊達家に伝えられたものです。その後、昭和11年(1936)に伯爵伊達興宗の申請により国の重要美術品に指定されました。300年以上前に書かれたものとしては保存状態も良く、由緒正しき逸品と言えるのではないでしょうか。

また、近代陶芸オークションの見所は、加藤唐九郎、岡部嶺男、加藤重高親子の茶碗がそれぞれ出品される事が挙げられます。

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LOT.87加藤唐九郎「志野茶碗」     LOT.88加藤唐九郎「紅志野茶碗」
H7.8×D13.3㎝               H7.7×D13.2㎝/共箱
高台脇に掻き銘「TK」/共箱        高台内、脇に掻き銘「一ム才」                 エスティメイト                エスティメイト
★¥1,200,000~¥1,800,000     ★¥2,000,000~¥3,000,000
861592
LOT.86 岡部嶺男              LOT.189加藤重高
「瀬戸黒茶碗」               「志野茶碗 銘 春野」
H8.0×D11.6cm              H7.2×D12.4㎝
高台脇に掻き銘/共箱          高台脇に掻き銘/共箱
エスティメイト              エスティメイト
★¥800,000~¥1,200,000     ★¥50,000~¥100,000


是非、下見会場へ足をお運びください。
近代陶芸/古美術/近代美術PARTⅡ(陶芸)オークション
3/10(土) 16:00~(15:30開場)

下見会日程
 3/8(木) 10:00~18:00
 3/9(金) 10:00~18:00
 3/10(土) 10:00~12:00

ご来場、心よりお待ちしております。

(執筆者:E)

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