月別アーカイブ: 2011年1月

川合玉堂が描いた日本の自然

今週1/29(土)は近代美術・近代美術PartⅡオークションを開催いたします。
今日から近代美術の下見会もオープンしましたので、
ぜひ銀座までお越しください。

近代美術オークションでは、川合玉堂の作品がたくさん出品されます。
今日はその一部をご紹介いたします。

 川合玉堂(1873-1957)は、愛知県葉栗郡外割田(現在の一宮市木曽川町)生まれ。長良川など、岐阜の豊かな自然に囲まれて少年時代を過ごし、後に風景画家となる素地を育みました。14歳で画家を志し、京都の幸野楳嶺(こうのばいれい)に円山四条派を学びます。23歳で上京した後には橋本雅邦に入門し、狩野派の伝統的な山水描法を身につけました。やがて、墨による線描を主軸としながら彩色を効果的に用いて、平明でのどかな風景画を追求していきます。大正4年から13年間に渡って東京美術学校で教鞭を取り、昭和15年には文化勲章を受章。理想郷を描くものとされていた山水画の伝統を一変させ、人の暮らしと自然が調和した日本の山村風景画を確立した画家です。

玉堂といえば、優れた水の描写でよく知られています。
長良川の夏の風物詩を描いた《鵜飼》(昭和31年作・玉堂美術館蔵)や雨に包まれる水車小屋の情景を描いた《彩雨》(昭和15年作・永青文庫)など、数々の名品を残しました。

今回の水のある風景はこちら。

【 No Image 】
 Lot.92 《渡頭春信》
41.8×58.3cm
紙本・彩色 軸装
左横に落款・印
共箱
玉堂美術館登録あり
★ \2,000,000~3,000,000


舟が川を渡る情景は玉堂が好んで繰り返し描いた題材です。
ようやく春がやってきた里山の爽やかな空気が伝わってきます。


img_111のコピー
Lot.111 《緑蔭水車》
45.2×57.0cm
絹本・彩色 軸装
右上に落款・印
共箱
玉堂美術館登録あり
★ \6,000,000~10,000,000


玉堂の水車がお好きな方は多いのではないでしょうか。
力強い墨の線と鮮やかな緑色が調和して、奥多摩の自然が生き生きと表現されています。
耳を澄ますと水車の水音が聞こえてきそうな作品です。


玉堂作品の主軸はなんといっても山村の風景です。
今回は様々な趣の山村風景が出品されます。

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Lot.109 《長閑》
54.8×72.7cm
絹本・彩色 額装
右上に落款・印
共箱
玉堂美術館登録あり
川合玉堂展 1982年(日本橋島屋/読売新聞社)※昭和13年作と記載
『川合玉堂 下巻』P.87 №13(美術年鑑社)※昭和5年作と記載
★ \5,000,000~9,000,000


タイトル通り、とても玉堂らしいのどかな風景です。
玉堂作品が支持され続けているのは、こうした郷愁を誘うようなあたたかな雰囲気が多くの人の胸を打つからかもしれませんね。この作品は東京時代、玉堂が牛込若宮町(現在の新宿区)に住んでいたときに制作されました。
写生をもとに、玉堂の理想の情景として仕上げられたものと言えるでしょう。


img_108のコピー
Lot.108 《水聲松籟》
48.7×60.3cm
紙本・彩色 額装
左下に落款・印
共箱
玉堂美術館登録あり
★ \5,000,000~9,000,000


Lot.109とは逆に、こちらのモティーフは険しい断崖からの眺望です。
際立つ墨の線は、橋本雅邦に学んだ狩野派の描法を思わせます。
落款・印が昭和30年代に使用されたものであることから、晩年の枯淡の境地が窺える作品です。


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 img_093のコピー

左:Lot.93 《富岳》
  56.5×72.7cm
  紙本・彩色 額装
  右下に落款・印
  共箱
  玉堂美術館登録あり
  ★ \2,000,000~3,000,000
  

右:Lot.94 《溪山春酣》
  132.6×41.8cm
  絹本・彩色 軸装
  右下に落款・印
  共箱
  玉堂美術館登録あり
  ★ \2,000,000~3,000,000
 

Lot.93は富士を描いた作品です。
軽やかな筆致が味わい深いですね。

Lot.94は、縦構図を大きく使った画面構成と緻密な筆致で風光明媚な渓谷を表現しています。
春らしい色使いに雅趣が漂う作品です。


晩年にいたるまで、玉堂の制作の基本は水墨であったといいます。
そういった点で、雪景は玉堂芸術の根幹を垣間見せてくれる題材です。

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Lot.95 《湖畔雪霽》
43.3×53.9cm
紙本・彩色 軸装
右下に落款・印
共箱
玉堂美術館登録あり
★ 2,500,000~3,500,000


タイトル中の「雪霽」(せつせい)は、雪が止んだ後に晴れることを表わします。
雪が降った後のしんとした静けさの中、集落に住む人々は釣りに出ようとしているのでしょうか。
雪深い土地の日常の暮らしぶりがしみじみと伝わってきます。


img_110のコピー
Lot.110 《吹雪》
44.6×57.4cm
絹本・水墨 軸装
昭和23年作
右上に落款・印
共箱
玉堂美術館登録あり
『川合玉堂 下巻』P.161 №2(美術年鑑社)
★ \6,000,000~10,000,000


日本の四季を描いた玉堂にとって、風すなわち空気こそが絵画を構成する重要な要素でした。
特に、激しい風とともに雪が乱れ降る情景を描いた《吹雪》には傑作が多く、昭和5年にローマで開催された日本美術展に出品された同画題の作品の見事な墨の表現は、日本美術に造詣の深いヨーロッパの人々をも驚かせたといいます。この作品でも、淡墨の刷毛目で縦横無尽に吹き荒れる吹雪の激しさを動的かつドラマティックに表現しています。

今回のオークションではこのほかに《鵜飼》など、近代美術・PartⅡあわせて12点の玉堂作品が出品されます。
玉堂がお好きな方はぜひ下見会をご覧ください。

オークション・下見会スケジュールはこちら

みなさまのお越しを心よりお待ちしております。

(執筆:S)







  

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1月PartⅡ下見会@銀座

 皆様、お元気に新年をお迎えでいらっしゃいますか。
シンワアートオークションとシンワブログを本年もよろしくお願い申し上げます。

本日より、シンワアートミュージアムでは近代美術PartⅡオークションの下見会を開催しております。1月29日にオークションを迎える東京では新年初めての下見会となります。
版画・日本画・洋画・外国絵画・工芸に至るシンワの近代美術PartⅡオークション、今年もより豊かな出品コレクションに力を注ぎます。
今日は、その下見会の風景を一部ご紹介いたします。


1階は日本画を展示しております。堂本印象の彩色画、片岡球子の版画など、人気作家の作品が出品されます。

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左下の画像は、棟方志功の彩色画と板画の作品3点揃いです。棟方志功鑑定委員会鑑定登録証が付いた全ての作品が、魅力的なエスティメイトで皆様をお待ちしております。


地下は日本洋画・西洋絵画・工芸です。
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こちらは、山口薫やオノサト・トシノブの作品などが展示された日本洋画コーナーです。


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また、その向こう側には、ロバート・ロンゴやシャガールの優れた版画作品を見ることができる版画・工芸セクションが用意されております。中でも、村上隆の2010年新作コレクションは、今だからこそお得なお値段で手に入れる良いチャンスに違いありませんね。


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最後にミレーのエッチング3点組やレルミットの素描もお見逃しなく。

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Lot 427
Léon – Augustin L’hermitte
Les Dégustateurs d’eau-de-vie de Marc ou L’almbic
31.2×46.7cm(58.5×73.5cm) 額装
紙・木炭
M.Le Pelley Fonteny, Léon Augustin Lhermitte, catalogue raisonné, Paris, 1991, No.659 P.439
第三回松方氏蒐集繪書展覧會 東京府美術館(昭和五年) No.40
エスティメイト:\1,000,000~\1,500,000

レオン・オーギュスタン・レルミット(1844-1925)は、クールベ風のリアリズムにセンチメンタルな風味を加えた農民画や宗教画で良く知られるフランスの画家です。バルビゾン派の第2世代にあたります。ルコック・ド・ボワボードラン(Horace Lecoq de Boisbaudran)に師事し、1864年初めてサロンに出品した後、1872年にロイヤル・アカデミーに出品しました。その後、第2のミレーと呼ばれて人気を集めながら1900年にはパリ万国博覧会に出品し、注目を浴びます。
木炭やパステルのような柔らかなメディアと優れた素描力による作品を得意とする、センチメンタルな感覚が溢れるレルミットの絵画世界。ゴッホは、彼のデッサン作品を見て「理想的」という言葉を使って称賛したそうです。デッサンがお好きな方はぜひご覧ください。

また、この作品は「第三回松方氏蒐集繪書展覧會」に出品されており、かつては「松方コレクション」の一点でした。
額の裏にそれを証明するシールが貼付されています。
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「松方コレクション」は、総理大臣を務めた松方正義の三男で実業家の松方幸次郎氏が、大正から昭和の初めにかけて蒐集した、近代を代表する美術品の大コレクションです。
国立西洋美術館が建設されるきっかけとなったことでもよく知られています。
膨大なコレクションの多くは松方氏の生前から売却されていましたので、この作品はそのうちの一点と思われます。また、現在コレクションの一部は、西洋絵画や彫刻が国立西洋美術館とブリヂストン美術館に、浮世絵が東京国立博物館に収蔵されています。
デッサンとして秀逸なだけでなく、大コレクターを魅了した一点としても美術史的に貴重な作品と言えるでしょう。

銀座の下見会と丸ビルのオークションで、みなさまのお越しを心よりお待ちしております。


【下見会】
2011年1月19日(水)~21日(金) 10:00~18:00
2011年1月22日(土) 10:00~17:00
会場:シンワアートミュージアム
【オークション】
2011年1月29日(土) 15:00~
会場:丸ビルホール

オークションスケジュールはこちら

〈執筆:W〉

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