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上海万博、各国の芸術作品が集合!

 上海万博がはじまって約2カ月が経ちました。
市内の至る所に上海万博のキャラクター、海宝の姿や、ボランティアスタッフが常駐する案内スタンドが設置され、また地下鉄等の交通機関や公共の場のテレビでも、時間毎の入場者数や各パビリオンでのイベントなどが常に報道されており、万博会場外であっても市内は万博色で染まっています。

 さて、過去の万博を遡ると、1867年のパリ万博では日本の工芸品や浮世絵が紹介されて印象派の画家たちに影響を与えたことや、1889年のパリ万博ではエミール・ガレのガラス工芸がグランプリを受賞し、国際的に評価されるきっかけとなったこと、また1937年のパリ万博、スペイン館にパブロ・ピカソの『ゲルニカ』が展示されて観衆に衝撃を与えたことなど、万博で紹介される芸術は、その後の芸術に多大な影響を与え得る重要な役割を担っていたことが窺えます。
今回のこの上海万博においても、世界の秘宝や芸術作品が一堂に会し、話題を集めています。

 フランス館では、フランス・オルセー美術館が所蔵する印象派の作品を中心に7点の作品が出展されています。(ミレーの『晩鐘』、マネーの『バルコニー』、ヴァン・ゴッホの『アルルのダンス・ホール』、セザンヌの『Woman with Coffee Pot』、ポール・ゴーギャンの『ミール(バナナとも呼ばれる)』、ピエール・ボナールの『化粧室』、オーギュスト・ロダンの彫刻『青銅時代』)
これらの作品は国外で同時に展示されるのは初めてで、総額10億ユーロ(約1230億円)もの保険が掛けられているそうです。

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フランス館


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デンマーク館では、アンデルセンの童話で有名な人魚姫の彫刻が展示されています。この彫刻は1913年にデンマークの彫刻家エドワード・エリクセンが制作したもので、コペンハーゲンのシンボル的存在として愛されてきました。その彫刻がはじめて国外を出て上海万博に登場したということで、大きな話題を呼びました。

 メキシコ館では、アステカ文明やマヤ文明の時代から、現代に至るまでの歴史を芸術作品を通してひもとく試みがなされており、文明時代の石像彫刻の他、現代芸術作品としては、メキシコの著名な現代画家でその人生が映画化されたことでも知られるフリーダ・カーロの自画像が展示されています。

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マヤ文明石像彫刻                       フリーダ・カーロ
900~1200年代のもので、178×494×30cm     《自画像》 キャンバス・油彩
という迫力ある逸品。                            64×84cm


 また各国家館が並ぶ会場(浦東エリア)とは川を挟んだ別会場(浦西エリア)にある都市足跡館と万博博物館においては、世界各国の博物館や美術館から借りた330点もの文化財が展示されています。
前者の都市足跡館では、日本の江戸時代を紹介したコーナーがあり、江戸の町を再現した模型と共に、葛飾北斎や歌川広重の浮世絵を発見!過去の万博を紹介した後者の万博博物館には、宮川香山の重要文化財『黄釉錆絵梅樹文大瓶』、鈴木長吉の彫刻『鷹』、涛川惣助(なみかわそうすけ)の七宝焼きで描かれた日本画『七宝焼富士山図』等が紹介されています(共に東京国立博物館所蔵)。
また1900年のパリ万博に出展されたというロダンの『考える人』をはじめとする7点の作品も展示されています。

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都市足跡館                   万博博物館
歴史ある都市を再現したパビリオン      万博の歴史を紹介したパビリオン
江戸の町の模型や浮世絵を展示       手前のオブジェは中国の伝統工芸
                            「中国結び」をモチーフとしたもの


 万博会場内には他にも、前述したピカソ『ゲルニカ』のスケッチ手稿、レンブラントの『手を腰に置く男性の肖像』、レオナルド・ダ・ビンチの手稿など、普段なかなか見ることのできないお宝の数々を鑑賞することができます。またもちろん、中国の秘宝も数多く展示されており、それらの展示の前では人だかりが絶えないようです。この機会にぜひ実物を鑑賞したいものです。

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岡本太郎《太陽の塔》 (万博博物館内)
1970年大阪万博のシンボルの模型
上部の液晶には、塔が360°回転する映像が流れる。

(執筆:M)

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アーティストLee・ Kang Wook

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梅雨入りの季節、ワールドカップの熱気で世界中が盛り上がっているようですね。皆様もわくわくと楽しんでいらっしゃいますでしょうか?
今日は、韓国内や海外での個展を中心にその活躍の場を着々と広げつつある韓国の若手作家の一人をご紹介させていただきます。

イ・ガンウク(Lee・Kang Wook)の作品を始めて目にしたのは海外のオークションハウスの下見会。近年、圧倒的に具象画が多い韓国の現代アート界では、抽象画とはちょっと珍しいと思いました。
34才という若い作家が作り出した抽象の世界は、淡く薄く色付けた平面のキャンバスの上に、宇宙の一部なのかある生き物の細胞なのか、まるで生きているような様々な線や点たちが生み出す妙な空間。

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キャンバスにグワッシュで描いたドローイングの上に、ジェル・メディウム(Gel Medium)とバインダー(絵具の固着材)を何度も塗り重ねることで立体的な「透明感」を作り出すイ・ガンウクの作業は、まるで、暖かくて柔らかい無定形の対象を剝製にするように、作家の内面からのイメージをキャンバスの上に固着させます。作家はこのような瞬間的な固着の過程を通して、観る人に動と静、生と死の意味を考えさせると同時に、その固着された対象の永続を望むようにも見えます。

彼の作品には、奥から染み出す鮮やかな色彩をより生々しく感じさせる「透明感」のほか、優れた「繊細さ」を感じることができます。洗練されたタッチとビーズやプラスチックとのストイックな組み合わせは、まるで細胞たちが生きているかのようにうねり、限定されたキャンバスの画面を超えて宇宙の何処までも広がっていくように見えます。それは温和で繊細な作家の性格からくるものでしょう。

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「全体は自分であり、部分は自分を構成する最も微細な自分を示す。見る主体(観客)と描かれる客体(作品あるいは作家自身)との間を縮めることとは、結局、自分が自分自身にどのくらい近づけるかの問題であろう。」と作家は言います。それはまるで、人類の、性の、個人の区別は、顕微鏡で見てみればただの「細胞」に過ぎないと、人と人との間に生じる「差異」の儚さを教えてくれるようですね。

日本でも3回の個展経歴を持つイ・ガンウクに実際お会いしたところ、自己愛に溢れる愉快な方で、「自分を愛することって、他人を愛する一番いい方法です」というやさしい真理を教えてくれました。
アジアだけではなくアメリカやヨーロッパの有名なギャラリーでの個展や企画展を通してその評価を高めてきたイ・ガンウクは、現在イギリスのロンドンで制作活動を進めています。

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< 作業中のイ・ガンウクさん>

■プロフィール: Lee, KangWook (B.1976)
2001 (韓国)Hong-Ik大学校 美術大学 絵画科 卒業
2003 (韓国)Hong-Ik大学校 美術大学大学院 絵画科 卒業
2004 レジデンス:第3期ChangDongスタジオ(2004~2005(韓国)国立現代美術館)

【個展】
2007 Gallery Rho, ソウル
Hino Gallery, 東京
2006 Spring Gallery, 上海
2005 Galerie de Temps, 東京
Cheltenham Art Center, フィラデルフィア
Gallery Will, ソウル
2004 Gallery Rho, ソウル
Gallery Ju-ichi gatsu, 東京
2002 Total Art Museum, Jangheung(韓国)
Hanjeon Plaza Gallery, ソウル

【主な企画展】
2008 KAM’s Choice: The Soul of Korean Contemporary Art (Insa Art Center, ソウル)
Emergentism (Edge Gallery, 香港)
2007 Imaginary Moments (Im Art Gallery, ソウル)
月刊朝鮮〈2007評論家選定現代作家50人展〉
2006 現代日・韓展(ONO Gallery, 東京)
We Meet Prague-Korea Contemporary Art 16 Artists Joint Exhibition(Galerie Passage, プラハ)
2005 ソウル青年美術際-ポートフォリオ2005(ソウル市立美術館, ソウル)
韓・米現代美術の理解と交感展(Cheltenham Art Center, フィラデルフィア)

作家Homepage: http://www.leekangwook.com


〈執筆:W〉

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