こんにちは。
8日の近代陶芸/近代陶芸PartⅡオークションにご参加くださった皆様、ありがとうございました。
先月は寒い日が続きましたが、3月に入り、少しずつ暖かい日が増えてきました。
東京はちょうど来週のオークションの頃に桜が咲き始めるそうです。
さて、来週22日(土)は、近代美術/近代美術PartⅡ/コンテンポラリーアート オークションを開催いたします。
今回も出品作品の中からおすすめの一点をご紹介いたします。
東山魁夷、髙山辰雄、加山又造、平山郁夫とともに「日本画の五山」と称される杉山寧(すぎやまやすし)の名品です。このたび、展覧会でしか見ることのできないような大作が出品されることになりました。
116 杉山寧(1909-1993)
《嵤》
155.0×190.2cm(額装178.8×213.9cm)
麻布・彩色
1982(昭和57)年作
東美鑑定評価機構鑑定委員会鑑定証書付
落札予想価格 ¥30,000,000~¥40,000,000
文献:『杉山寧自選画集』(1989年/芸術新聞社)№58
『現代の日本画[8] 杉山寧』(1991年/学習研究社)№91
『杉山寧 素描聚成Ⅱ』(1992年/小学館)出品作品図版目録P.232
出品歴:「杉山寧展」1987年(東京国立近代美術館/日本経済新聞社)出品
「杉山寧の世界―作品と素描」1992年(東京美術倶楽部/日本経済新聞社)出品
「杉山寧展―永遠の造形を求めて―」1996年(松坂屋美術館/日本経済新聞社)出品
「悠久なる刻を求めて 杉山寧展」2013年(日本橋髙島屋/読売新聞社)出品
杉山寧は、類いまれな描写力と堅固な造形性、理知的な画面構成により、戦後日本画の最高峰として画壇をリードした画家です。生涯を通して風景や花鳥などの様々な主題を描きましたが、2 m前後の大型作品からなる、「抽象的傾向」、「エジプト」、「裸婦」、「カッパドキア」の4つの連作は、その芸術の柱として高く評価されています。
文化勲章を受章し、顧問となる形で長年出品を続けた日展から退いた杉山は、1978(昭和53)年から1984年の間に3回にわたり、トルコ中央部アナトリア高原のカッパドキアを旅しました。
現在、世界遺産に登録されているカッパドキアは、数億年前の火山の噴火によって堆積した凝灰岩や溶岩層が長い年月をかけて浸食され形成された、世界でも類を見ない奇岩群が広がる地域。中世にキリスト教修道士が数多く住み着いたことから、岩をくり抜いた教会や住居の跡が密集し、あたかもSF映画のような非現実的な景観を呈しています。杉山は初めて訪れた際、「月の表面か、地の果てにでも来たように思われた」註1)といいますが、その奇観だけでなく、人間の歴史を果てしなく長い時の流れのほんの一瞬の出来事として飲み込んでしまう自然の壮大さにも衝撃を受けたのでしょう。
1982(昭和57)年作の本作は、杉山芸術を代表する4つのテーマのうち、「カッパドキア」連作の一点です。画題の《嵤(けい)》は山の深いさまを表す言葉です。本作では、カッパドキアの名所の一つ、ピンク色の岩が連なるローズバレー付近に取材し、夕日が岩をよりいっそう赤く染める情景を描いています。そして、砂煙をまとった険しい岩々をクローズアップし、堅牢なマチエールと美しく微妙な色彩により、荒く重厚な岩肌の質感を克明に捉え、夕日に照り映える奇岩群の圧倒的な迫力と神秘性を表しています。
また、杉山は自身の画集の中で「絵画は、決して実在するものの再表現ではない。実在する以上の生命感をもって訴えかけるものが創作できなかったら、描く行為の意味は空しい」註2)と語っていますが、本作においても眼前の風景を踏まえて自身のイメージを増幅させ、実際に「地の果て」にいるかのような、より妖しく幻想的な心象風景として表現しているようです。画業を通して追求してきた永遠なるものや悠久の美を、遥かな地球の歴史を感じさせる自然に見出した、杉山芸術の集大成と呼ぶに相応しい大作です。
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ぜひ下見会場で、この大迫力を体感してください。
また、今回は杉山寧のほかに東山魁夷や髙山辰雄、加山又造らの日本画も出品されます。さらに、モネやルノワール、カンディンスキーなど、西洋美術の巨匠たちの作品も揃っています。こちらもぜひ会場で実際の作品をご覧ください。
※21日(金)、22日(土)の下見会はございませんので、ご注意ください。
ご入札は、ご来場のほか、書面入札、オンライン入札、電話入札、ライブビッディングなどの方法でも承っておりますので、お気軽にご参加ください。
皆様のご参加を心よりお待ちしております。
(佐藤)
註1)杉山寧『現代の日本画[8] 杉山寧』学習研究社 1991年
註2)杉山寧『杉山寧』文藝春秋 1982年