月別アーカイブ: 2013年5月

杉山寧の『文藝春秋』表紙絵

こんにちは。
GWが終わり、最近は過ごしやすい日が続いていますね。
先週の近代美術PartⅡ下見会にお越しいただいた皆様、ありがとうございました。

さて、今週は近代美術の下見会とオークションを開催いたします。
今日も出品作の中からおすすめの作品をご紹介いたしますが、その前に…
突然ですが問題です。

梅原龍三郎、安井曽太郎、鏑木清方、杉山寧、高山辰雄、平松礼二

シンワアートオークションでもおなじみのこの作家たちには、ある共通点があります。
それは一体何でしょうか?


答えは、「雑誌『文藝春秋』の表紙絵を担当した作家たち」です。
なんとも豪華なメンバーですね。
現在の担当・松村公嗣氏まで、代々そうそうたる顔ぶれが表紙絵を手掛けてきました。その中でも、最も多くの表紙絵を描いたと言われるのは杉山寧です。
今回のオークションには、杉山が制作した『文藝春秋』表紙絵の原画12点が出品されます。


【オークション終了につき、作品の画像は削除させていただきました】

Lot.28 杉山寧《遊》
16.0×16.0cm
麻布・彩色 額装
東京美術倶楽部鑑定委員会鑑定証書付
『杉山寧』掲載(文藝春秋)
『文藝春秋』昭和45年6月表紙掲載
文藝春秋60周年記念 文藝春秋表紙装画全展
(1982年・日本橋高島屋)
エスティメイト ¥800,000~1,200,000


 昭和30年、『文藝春秋』の表紙絵を担当していた安井曽太郎が亡くなり、その後任として当時まだ気鋭の日本画家だった杉山寧に白羽の矢が立てられました。
安井の後を引き受けた杉山の表紙絵は、昭和31(1956)年4月号から昭和61(1986)年12月号まで、実に30年9ヶ月という長期にわたって同誌を飾ることとなり、制作された原画の点数は369点にのぼりました。
今回出品される12点は、昭和45(1970)年1月号から12月号までの原画です。

 表紙絵を担当することになった杉山は、「描く以上、たとえ捨て去られるような小さな画面でも、自分は精一杯描き込んでゆきたいのです」と、真摯な姿勢で毎月の原画制作に取り組みました。原画では、通常の本制作同様に岩絵具と麻布を用い、実際の表紙とほぼ同じ大きさの画面に絵を描きました。その一点ずつに漢字一文字のタイトルがつけられていることからも、杉山にとって本制作と同等の存在だったことがうかがえます。また、ときには、石を支持体としたり、石膏で作った凸凹の画面に作画するなど、ほかの画材を使用したり、大胆な実験を試みることもあったようです。

 この原画制作において、杉山が最もこだわり、苦心したのが主題だったといいます。毎月雑誌を手に取る読者のために、写実や抽象、スケッチ風などの様々な表現によって、人物、風景、花鳥、動物といったありとあらゆる題材を描きました。そこには、時代の移り変わりや杉山自身の作風の変化、取材旅行の成果や身辺の出来事までが生き生きと映し出されています。
注目すべきは、これらがきっかけとなって日展出品作などの名作が生まれたり、逆に代表作を描いた後にその派生作品として数々の原画が描かれたりしたことでしょう。


【オークション終了につき、作品の画像は削除させていただきました】

Lot.25 《園》
16.0×15.3cm
麻布・彩色 額装
東京美術倶楽部鑑定委員会鑑定証書付
『杉山寧』掲載(文藝春秋)
『文藝春秋』昭和45年1月表紙掲載
文藝春秋60周年記念 文藝春秋表紙装画全展
(1982年・日本橋高島屋)
エスティメイト ¥1,500,000~2,000,000


 孔雀をモティーフとした作品は原画以外の本制作にもありますが、たとえばこのLot.25《園》は同じ画面構成で一羽の孔雀を描いた作品《爽(絢)》(昭和44年作)を発展させたものであり、その後、二羽の孔雀を象徴的な空間に構成した名作《禔》(昭和58年作)に影響を与えたとも想像できます。

 また、美術評論家の小川正隆氏は、一連の表紙絵を「絵による俳句」と評しましたが、本制作以上に四季折々の自然の移り変わりとその感慨が風情豊かに描かれていることが表紙絵の大きな特徴です。8月号のLot.30《風》や9月号のLot.31《叢》などは、特に季節感が重視されています。


【オークション終了につき、作品の画像は削除させていただきました】

Lot.30《風》                 Lot.31《叢》
15.6×15.0cm               15.8×15.4cm
麻布・彩色 額装              麻布・彩色 額装
東京美術倶楽部鑑定委員会       東京美術倶楽部鑑定委員会
鑑定証書付                  鑑定証書付
『杉山寧』掲載(文藝春秋)         『杉山寧』掲載(文藝春秋)
『文藝春秋』昭和45年8月表紙掲載   『文藝春秋』昭和45年9月表紙掲載
エスティメイト ¥500,000~800,000   エスティメイト ¥1,000,000~
                                   1,500,000


 長期にわたる連載という性質上、杉山は読者を飽きさせない視覚的な新鮮さを心掛け、こうして様々な工夫をこらしました。結果としてそれらは、本制作にも大きな刺激をもたらす豊饒な作品群となったのです。また一方で、本制作では見ることのできない画家の素顔をうかがわせるものとしても、大変味わい深い仕事と言えるでしょう。

杉山の表紙絵12点は、22日(水)からの下見会でご覧いただけます。
昔の『文藝春秋』をお持ちの方は、もしかして「この表紙、うちにある!」なんてことがあるかもしれませんね。
下見会・オークションスケジュールはこちら

皆様のご来場を心よりお待ちしています。

(佐藤)

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