月別アーカイブ: 2009年10月

世界の現代アート、上海に集まる

先月上海アートフェアをレポートした際に、現代アートに特化したアートフェア、Shコンテンポラリー(Sh Contemporary、上海国際芸術博覧会)が同時期に開催されていることに触れましたが、本日は遅ればせながら9月9日より13日まで開催されたShコンテンポラリーについてレポートいたします。

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会場となった上海展覧中心

Shコンテンポラリーは2007年よりはじまり、3回目を迎える若いアートフェアですが、すでにアジアで最大規模の国際的なアートフェアとしての地位を確立しています。
会場となった上海展覧中心は、1955年に当時のソ連から中国へ贈られた荘厳な雰囲気を持つスターリン式の建築物で、現在は貿易関係のフェアが多数開催される会場のひとつとして利用されています。

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会場はメインとなるギャラリーのブース「ベスト・オブ・ギャラリー」の他、企画展「ディスカバリー」、若手作家の過去2年以内の作品を扱ったギャラリーのブース「プラットホーム」の大きく3つに分けられ、中国、台湾、韓国、日本、シンガポール、ネパール、アメリカ、フランス、イタリアなどの国と地域から、60以上のギャラリーが参加。そのほか、美術館、オークションハウス、出版社、芸術関係のインターネットサイト、美術賞などのブースも設けられていました。

Sh-2.jpg 「ディスカバリー」の展示風景


「ディスカバリー」とは、森美術館の片岡真美チーフキュレーターをはじめ、アントン・ヴィドクル、汪建偉(ワン・ジンウェイ)の3人のキュレーターによる企画展で、国際的に活躍する計24名のアーティストのうち、日本人アーティストでは、宮永愛子、金氏徹平、大巻伸嗣、岩崎貴宏、東恩納 裕一が招待されていました。さらに企画展ではベストヤングアーティストアワード(Best Young Artist Award)という賞が設けられており、宮永愛子、大巻伸嗣、北京のアーティスト石青(シー・チン)が受賞。それぞれの作家の作品は独立して展示されていましたが、ロシアンスタイルの装飾と天井が高く広々とした薄暗い空間の中、独特な世界が作り上げられていました。

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マーケット色の濃いアートフェアにおいて、販売とは別に企画展を併催しているフェアも見られるようになってきましたが、その中でもShコンテンポラリーの「ディスカバリー」は規模、質、注目度において、群を抜きん出ているように見受けられます。

また、レクチャーも開催されており、学術的なテーマだけでなく、アートコレクションや今後の現代アートマーケットの動向といったテーマに多くの人が熱心にレクチャーを聞き入る姿が見られました。

同時期に多数アートイベントが開催されていることもあり、アート関係者を含め、国内外から多くの観客が来場し、会場は熱気に包まれていました。主催者側によると、3万人を超える観客と500名にのぼるコレクターが来場し、学術的にも、アートマーケット的にも、大きな成功を収めたとのことです。

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ロシアンスタイルの装飾×現代アートの融合が新鮮

またこのアートフェアに限りませんが、会場は立派な一眼レフを抱えた若者たちであふれ、日本のアートフェアとは異なる不思議な光景が見られます。もちろん撮影を許可していない場所もありますが、個人的な趣味として作品に近づいて真剣に撮影する人もいれば、作品と一緒に記念撮影をする人も多く、このような形であれ、アートが一般に対してオープンであり、アートに関心を抱いて気軽に来場する若者が多いということに微笑ましく感じました。


Sh Contemporary 上海国際芸術博覧会
会期:2009年9月9日~13日
会場:上海展覧中心
http://www.shcontemporary.info/
(中国語、英語のみ)

(執筆M)

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Europian Decorative Artの魅力

 シンワアートミュージアムでは、ここ数年、10月の恒例となって参りました、西洋美術オークションの下見会が開催されています。

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 西洋骨董のオークションの醍醐味は、何といっても手にとって実際に使う場面を想像したり、その作品がこれまでたどってきた運命に思いを馳せたりすることにあるのではないでしょうか。
 僭越ながら、このオークションにお見えになるお客様にはどことなくそんなロマンティストの雰囲気が漂っておいでのように感じます。


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Lot507 ガレ
《ふくろう文陶製置物》

H33.3×W18.4cm
底部に銘
\600,000. ~800,000.
 例えばこの作品。フクロウの置物を観察してみましょう。
 フクロウは日本では「不+苦労」という言葉と掛けて縁起をかつぐモティーフとして喜ばれました。
 古代ギリシアではその大きな眼が魔除けとして考えられていたといいます。
 知の女神アテネの従者として登場し、今のギリシア版1ユーロ硬貨の面面にもフクロウの絵柄が鋳造されています。
 また、肉食で、害鳥などを捕食するフクロウは農業の神として信仰する地域も多く、農家でも喜ばれたと言います。

これまでどんな困難からこのフクロウが持ち主を護ってくれたのでしょうか。
 お家を守るモティーフとして、私もフクロウの置物をお友達の新築祝いに贈ったことがありました。


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 こちらは若い方にお好きな方の多いカントリー家具。
 パイン材でぬくもりある質感が特徴です。
 お求めやすい価格からスタートしますので、また違ったオークションの醍醐味を味わっていただける商品です。


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 セーブル磁器も豊富に出品されます。
 金彩が醸し出す豪奢な雰囲気が、日本には無い豊かなヨーロッパのデザイン性を感じさせます。


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 こんな可愛らしいマイセンのお人形もたくさんお求め頂けます。
(写真の作品はそれぞれ、落札予想価格18万円~25万円です)

 先日、ディズニーの古典アニメ、シンデレラを見ていたら、王宮で王様のデスクの上にマイセンと思しき人形が一対置かれているのを発見しました。

 そこでは、王子様の花嫁を見つけなければ、と王様が語る話題の際に効果的に使われていました。
 マイセン磁器の人形が、王侯貴族の娯楽であったことが欧米社会に浸透している、好例ですね。
 このシンデレラのキャラクターデザインは、先日まで東京都現代美術館で個展が開催されていたメアリー・カサットです。
 ハッとするような印象的な画面構成が多く登場します。


西洋美術オークションの詳細はこちら

(井上素子)

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ヴィンテージワイン

 こんにちは。連休は秋晴れが続きましたね。
まさに行楽日和、運動会日和でしたが、
みなさまはいかがお過ごしでしたでしょうか。

 さて、今週の土曜日はいよいよワイン&西洋美術オークションとなりました。
今日はワインオークションに出品されるワインをご紹介させていただきます。
全260ロットの中で、ご注目いただきたいのはヴィンテージワインの充実ぶりです。しかも今回は、当たり年の希少なものばかりが揃いました。

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まずはこちらの2点。

Lot.91 Chateau Petrus(Pomerol)
1947年 1bottle
液面:アッパー・ショルダー
ラベル:わずかな汚れ、わずかな破れ
エスティメイト \200,000.~400,000.


Lot.92 Chateau Petrus(Pomerol)
1959年 1magnum
液面:ボトム・ネック
ラベル:軽い汚れ、わずかな破れ
エスティメイト \400,000.~700,000


 5大シャトーをも凌ぐ人気を誇り、世界で最も高値で取り引きされるワインの一つとなった「ポムロールの王」シャトー・ペトリュスです。格付けのない右岸のワインがこれほどの評価を得るようになったのは、1889年のパリ万博での金賞受賞がきっかけでした。以後、アメリカのケネディー家やロックフェラー家といった名門ファミリーから愛され、上流階級のステイタスとなっていきました。
 ポムロールの丘の最上部にあるこの畑の土壌は、黒粘土という膨潤性のある特殊な粘土が表土に出ている珍しいもので、それがワインの決め手となるそうです。メルロー種のブドウとの相性も良く、肉厚でまろやかな味わいのワインを作り出していくのです。
 このワインは、年月を経るごとに、トリュフや湿った土を思わせる官能的な香りを増していき、複雑な風味と微妙なニュアンスを持つようになります。しかも素晴らしい果実の濃縮感は、時を経ても失われることなく力強い存在感を保っています。
 まさに熟成に向いたワインと言えますね。今回の2点はそれぞれすでに62年、50年が経過しています。どんな香りと味わいなのか、想像するだけでドキドキしますね。

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続いてこちら。

Lot.109 Chateau Cheval Blanc(St.Emilion)
1938年 1bottle
液面:ミッド・ショルダー
ラベル:軽い汚れ
エスティメイト \100,000.~200,000.


 サン・テミリオンの格付けの頂点に立つシュヴァル・ブランです。シュヴァル・ブランの醸造の特徴は、カベルネ・フランとメルローを同じくらいの割合で使用すること。その組み合わせの効果によって、リッチで完熟感と強い粘性のあるテクスチュアを楽しむことができます。良いワインは飲み頃が長く続くといいますが、このシャトーこそ典型と言っていいでしょう。若い頃から楽しむこともでき、熟成を経て味わいはいっそう深く複雑になっていきます。
 こちらはなんと戦前に生産されたワインです。作られた時代に思いを馳せずにはいられないような、ロマンを感じさせるワインですね。

最後はこちら。

Chateau Lafite Rothschild(Pauillac)
1945年 1bottle
液面:ミッド・ショルダー
ラベル:汚れ
エスティメイト \80,000.~160,000.


 ワイン愛好家の方はもちろん、初心者の方もご存じかもしれません。
言わずと知れたフランスきっての名門シャトー、シャトーラフィットです。
1855年のパリ万博において、皇帝ナポレオン3世の命で格付け制度ができて以来、第1級格付けワインの中でつねにトップに座に君臨し続けているワインです。
シャトーは1868年にロスチャイルド財閥の所有となり、「シャトーラフィット ロートシルト(ロスチャイルド)」となって以降も、ボルドー地方最高のワインの産地と言われるポイヤック村の葡萄畑、収穫量を限定した健全な苗木の育成、伝統的な醸造方法の遵守といった最高の条件のもと、丹精込めて生産され続けています。その味わいは、5大シャトーの中では最も繊細で優美と称されます。カベルネ・ソーヴィニヨンの比率が高いことから、飲み頃になるまで時間のかかる長期熟成型のワインであり、そのシルクのようなきめ細かさ、エレガントな芳香、酸味とコクのバランスの良さは、赤ワインの理想型と言っても過言ではありません。
 今回出品されるワインは、1945年に生産されたもの。第2次世界大戦中、ドイツ軍によってシャトーは解散となりましたが、この年再びロスチャイルド財閥が所有権を取り戻し、シャトー再建に努めました。そんな激動の時代や、このワインにかかわった多くの人々のドラマを想像させる1本です。

 今回出品されるヴィンテージワインをご紹介してまいりましたが、伝統も格式もある一流シャトーのワインは、熟成されてこそ本来の魅力を発揮するのかもしれませんね。出来の良い葡萄のジュースを適切な環境で保存する、という一見シンプルな作業が、実はとても難しいことなのでしょう。
 ワインの味わいや香りを様々な言葉で形容して表現することがありますが、年代を経て味も香りも複雑に深みを増したワインは例え甲斐がありそうですね。熟成を重ねたワインをグラスに注いだときの香り、口に含んだときの味わいの印象を、みなさまも何かに例えてみてはいかがでしょうか?


(執筆:S)

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速水御舟展レポート

※展示期間終了につき、画像掲載を終了いたしました。

《名樹散椿》
(重要文化財)1929(昭和4)年 再興第16回院展
紙本金地・彩色 山種美術館蔵

 雨上がりの秋空が広がる10月1日、広尾に移転オープンした山種美術館に、「速水御舟―日本画への挑戦―」展を観に行って参りました。 


<美術館の“おもてなし”精神>
 今、美術の業界で最も旬なスポット、新・山種美術館。
スタイリッシュかつ風格あるエントランスでは、安田靫彦(やすだゆきひこ)が揮毫した館名の看板がお出迎え。
入ってすぐ左には上質なくつろぎを提供する「カフェ椿」があり、展覧会終了後には多くのお客様で賑わっておりました。
 和菓子が頂けるカフェは、コンセプトからしても、お客様をおもてなしする精神に溢れるしつらえです。


<展示>
 速水御舟の画業を、入門から絶筆に至るまでじっくりと堪能することができるこの展覧会。
 重要文化財の指定を受ける《炎舞》(えんぶ)や、《名樹散椿》(めいじゅちりつばき)など、近代の美術を愛する方には一度は本物をご覧頂きたい作品が並びます。
 音声ガイドによる解説によると、《炎舞》で炎に群がる美しい蛾は、美というものに惹きつけられる御舟自身なのかもしれない、とのこと。御舟が毎晩、焚き火をしながら炎を見つめ、そのような思いを抱いていたのだとしたら・・・。

※展示期間終了につき、画像掲載を終了いたしました。

《炎舞》
(重要文化財)1925(大正15)年 第1回個展
絹本・彩色 山種美術館蔵

 こうして美術館に足を運ぶ大勢の御舟ファンもまた、美に吸い寄せられる虫のようなものかもしれませんね。


<コレクター山種二、愛蔵の軸>
 完成された美の境地を示す上掲の作品群以外に、この展覧会で印象的だった作品は、大コレクターで御舟のパトロンであった初代館長・山種二が愛蔵していたという軸。
 この作品はとりわけ好んで、よく自室に掛けていたそうです。
 梅の香気と初冬の冷気が、画面から優しく伝わってくる名品でした。

※展示期間終了につき、画像掲載を終了いたしました。


《紅梅・白梅》1929(昭和4)年 
絹本・彩色 山種美術館蔵

<日本画の挑戦>
 よく、20世紀最大の画家はピカソであると言われますが、その理由は、キュビスムやフォービスムといった重要な美術の動向をいくつも提案してはそれを自ら超えていったところにあるでしょう。
 御舟は、間違いなく近代の日本美術の頂にいる画家の一人です。その理由もまた、ピカソと同様に、様々な「挑戦」をしては、それに安住しなかった点にありましょう。

※展示期間終了につき、画像掲載を終了いたしました。


《婦女群像(大下図)》1934(昭和9)年 
紙本・木炭 個人蔵

 展覧会の後半に展示されている《婦女群像》にはそれが感じられ、御舟による人物画を見てみたかったという気持ちを抱かせられるのでした。
 

<速水御舟展 概要>
会 期 : 2009年10月1日(木)~11月29日(日)
開館時間: 午前10時から午後7時 (入館は6時30分まで)
*新美術館の通常開館時間は、午前10時~午後5時です。
*本展覧会は開館記念特別展につき、延長して開催いたします。
休館日: 月曜日(10/12、11/23は開館、翌火曜日は休館)
入館料: 一般1200(1000)円・大高生900(800)円・中学生以下無料
*( )内は20名以上の団体料金および前売料金
*障害者手帳持参者は1000円
*本展覧会は特別展のため、通常展とは料金が異なります。

(井上素子)

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「2009 KIAF」And「City_net Asia 2009」

先週の「日本・韓国 戦後現代美術展」にお越しくださった皆様、誠にありがとうございました。お陰様で展覧会は盛況のうちに終わることができました。シンワは今後もこのような企画を通して皆様により良質のアートをお見せできるようこれからも頑張っていきます。
さて本日はその思いを込めて、韓国アート情報の第5弾になるソウルの最新アート情報を用意いたしました。

まずは、今年第8回目を迎えた「2009韓国国際アートフェア(KIAF:Korea International Art Fair)」をご紹介いたします。

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2009 KIAF会場風景
会期:9月18日~9月22日
会場:COEX

16ヶ国168ヶ所のギャラリーから、約1,200名のアーティストを紹介した今回のKIAFでは、「作家PT」・「Shooting Hidden Spot」・「Performance」のタイトルに分けて企画された作家支援プログラムが何より印象に残りました。中でも、選ばれた作家さんが自分の作品をプレゼンすることで国内外のコレクターや美術関係者に作品への興味や支援を誘導する「作家PT(Artists Portfolio Presentation)」は、主に若手の作家にその機会が与えられていました。

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ANITA DUBE /Ah(a sigh)Ⅲ
85(h)×97(w)×6(d)inch / Digital print on Canvas on board, wax candles /2009

尚、今年の主賓国であるインドからは、15名のコンテンポラリー・アーティストが参加し、展示場のメイン・スペースを与えられました。インド・スペースには「失敗した計画」というタイトルが付けられていましたが、それは世界各地で恣行された様々なテロに対して、欧米のメディアが名付けた「失敗した計画」という言葉をそのまま採用したものです。インドのアーティストの目に映った世界が直面する問題への意識がユーモラスかつ生々しく表現されていました。

次は、〈ソウル市立美術館〉の主催で、今年第4回を迎えた「City_net Asia 2009」展をご紹介いたします。
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「City_net Asia 2009」展とは、「近年世界から注目されているアジア美術の現在の位置を見直し、これからの方向性や発展への可能性を模索する」という企画意図の通り、西欧中心の今の美術界にアジアのコンテンポラリー・アートを紹介することで、現代美術におけるアジア美術の位相を高めていくという目的を持ちます。

アジア各地の重要都市から、名声高い美術館の学芸員たちが、その地域が持つ現在の社会・文化的なイシューとそれに相応しい作家を選んで紹介していくこの展覧会は、隔年で開催されることを基本にするアジア現代美術プロジェクトです。

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Lee, Jin-Joon / Your Stairs
Installation view / 2009

今回は、主催であるソウルの「市立美術館」を始め、東京の「森美術館」、北京の「今日美術館」、イスタンブールの「現代美術館」の4ヶ所が参加し、各地域の若手作家の作品を展示します。中でも東京の森美術館では、「Off the Center – Quiet Shift in Contemporary Art in Tokyo」というタイトルで、木材・繊維・プラスティックなどの多様な素材を用いた、繊細な手作業による個性の強い作品をよく組み合わせました。1960年から1980年の間に生まれたこの若い作家たちは、絵画・アニメ・壁画・インスタレーションなど、約20点の作品を見せています。

5_convert_20091009095046.jpg 6_convert_20091009095116.jpg 7_convert_20091009095145.jpg Tokyo館の全景

東京からの参加作家は、佐藤雅治, 荒木珠奈, 横山裕一, 浅井裕介, 手塚愛子, 岩崎貴広, 金氏徹平, 深谷悦子, 和田絢 以上9名で、その中、佐藤雅治の他の作品が11月29日に開催するシンワの「Asian Auciton Week in Hong Kong」にも出品される予定です。
 ソウル市立美術館は、平日(火~金)の昼休みの間(12:00~13:00)には無料で開放していますので、お近くにお越しのお客様はぜひ見逃さないでください。


展示概要
「City_net Asia 2009」展
会場:ソウル市立美術館〈http://seoulmoa.seoul.go.kr/global/information/map.jsp
会期:9月30日~11月22日
開館時間:平日10:00~21:00、週末10:00~19:00
日本語URL 〈http://seoulmoa.seoul.go.kr/global/jindex.jsp〉


< 執筆W>

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日本・韓国 戦後現代美術展②

こんにちは。
先日に続きまして、現在銀座のシンワアートミュージアムで開催中の「日本・韓国 戦後現代美術展」のご紹介をさせていただきます。
今日は、この展覧会の主役、山口長男のお話です。

 山口長男は1902年、貿易商を営む父の勤務地、韓国のソウルで生まれました。1927年東京美術学校西洋画科を卒業し、渡仏。フランスでは、ドルドーニュの洞窟壁画とオシップ・ザッキンの先鋭的な芸術に影響を受けました。先史時代の美から芸術の原点とは何かを考える糸口を掴み、ザッキンの制作からはプリミティビスムとキュビスムとの調和を学んだといいます。
 1931年ソウルに戻ると、半農半画家の生活をスタート。池や庭など、身近な自然との間に生まれた交感を表現していきます。対象の本質をできる限り簡単に、直接的に表現するために、形は単純化されていきました。1938年、吉原治良らとともに二科会の前衛集団「九室会」の結成に参加。終戦後は日本に引き揚げ、制作一筋の生活が始まります。1950年代に入ると、黒地に黄土色や赤茶色の形を組み合わせた作風を展開。1950年代後半には、ヴェネチア・ビエンナーレなど、様々な国際展に出品し、高い評価を得ました。山口作品の「形」と「マチエール」は、まるで1本の樹木のように、年齢を重ねるごとにゆっくりじっくりと変化を遂げ、晩年の豊かな実りに向けて充実していきました。

 今回の展覧会には、戦前から晩年までの様々な作風の作品が出品されています。その中から今日は選りすぐりの2点をご紹介します。


【展覧会終了につき、図版は削除いたしました】


《五つの塊》
1940年作
油彩・キャンバス
73.0×73.0cm
  

 白地に円や楕円が描かれた作品です。
「山口長男なのに白?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
これは、山口作品に初めて円が登場したもので、
この作品をきっかけに、山口の生涯をかけた形の追求が始まります。
いわば、黒地に形を組み合わせるというスタイルの原型となった作品です。
1940年、この作品は20数点のシリーズで制作されましたが、
その後火災に会い、この1点を残してすべて焼失してしまいました。
原型ではありますが、後の作品にまで通じる山口の視点を感じさせるという点で、
山口の画業において欠くことのできない重要な作品と言えるでしょう。
現存することに感謝すら覚えてしまいそうです。


そしてもう1点。


【展覧会終了につき、図版は削除いたしました】


《層》
1972年作
油彩・合板
90.9×91.0cm


円熟期の作品です。
形は次第に拡大していき、ここではすでに図と地の関係が逆転してしまいました。
ずっと形の背景にあった黒地は、画面の隅に残るのみです。
初期から、形の追求とともに山口は作品が「触覚的」であることを重んじてきました。
「絵具を板に塗る」という、絵画の最も基本となる行為を重視したのです。
そして、本作品を制作した時期には、山口の関心は、「形」から「絵具を塗る」という行為、動作そのものへと展開しています。ここにおいても、自らの肉体と魂とを一体化させるように「充実が出るまで」、絵具を板に塗りつけています。絵具と自分自身とが呼応する空間や塗ることに費やす時間も、すべて含めた一連の動作こそが山口の制作の核となっていったのでしょう。そうして描かれた本作品では、色面は一枚の板の大きさを超え、四辺の外側に限りなく続く広がりを想起させます。それはまるで、上空から俯瞰した大地や、宇宙から見た地球のような大いなるイメージを彷彿とさせるようです。
 実際にご覧いただけましたら、「触覚的」という感覚をきっとおわかりいただけると思います。じっと見つめていると、柔らかそうにも動いているようにも、こちらに迫ってくるようにも見え、「生きている」と感じさせる作品です。

本日を含めて会期は残すこと、あと2日となりました。
まだお越しいただいていない方、ぜひ会場で本物をご覧ください。

展覧会の詳細はこちら

皆様のご来場、心よりお待ちしています。


(執筆:S)
                                    

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