月別アーカイブ: 2012年7月

展覧会のご紹介「市制80周年記念展 上村松園と鏑木清方」

 こんにちは。夏休みは各美術館でさまざまな企画が催されていますが、今日はその中から日本画の展覧会を一つ、ご紹介いたします。

 現在、平塚市美術館では「市制80周年記念展 上村松園と鏑木清方」が開催されています。上村松園と鏑木清方は当社のオークションでもおなじみの作家ですが、ともに「西の松園、東の清方」と並び称された近代を代表する美人画の巨匠です。

 松園(1875-1949)は京都で生まれ、江戸時代の風俗や伝統芸能をテーマに理想の女性像を表現し、昭和23年には女性として初めての文化勲章を受章しました。
一方、清方(1878-1972)は東京神田に生まれ、挿絵画家として出発した後に歌川派の浮世絵の系譜を継ぎ、江戸の下町風俗を情緒豊かに描き出した画家です。
 この展覧会では松園30点、清方45点を一堂に展示し、二人の初期から晩年にいたる画業を紹介しています。

<上村松園>
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  図版1                  図版2

図版1 《花下美人図》 明治30年頃作
松園が22歳頃に制作した作品です。この作品のような季節の花を愛でる美人は、浮世絵にも多く見られる伝統的な主題です。ここでは、身近な若い女性を写生することを通して、その表情だけでなく華やかで初々しい雰囲気をつぶさに描き出しています。

図版2 《桜可里図》 昭和11年頃作
同じく桜を愛でる女性像ですが、こちらは画業の後期、61歳頃に制作されたものです。眉を剃り、子どもがいることを示した「青眉」(せいび)の女性(左)と若い女性(右)は親子でしょうか。花とともに人生の花の季節を謳歌する二人の幸福そうな姿には、普遍的な女性美が表現されています。

ご紹介した2点は、以前当社のオークションに出品されたことのある作品で、約1年半ぶりに展覧会場で再会することができました。このほかにも、今回の展覧会には《花がたみ》(大正4年作・松伯美術館蔵)や《楊貴妃》(大正11年作・松伯美術館蔵)といった代表作が出品されています。(※一部展示替えあり)


<鏑木清方>


【オークション終了につき、図版は削除いたしました】


図版3 《鰯》 昭和2年作、東京国立近代美術館蔵
清方が49歳のときの作品です。関東大震災の後、復興していく東京からは江戸下町の名残が次第に失われていきました。その中で清方は、古き良き江戸の市井の人々の姿や暮らしぶりを懐かしむように数々の風俗画を描きました。この作品のように鰯売りの少年が佃島から京橋界隈を売り歩く姿は、夏から秋にかけての風物詩だったといいます。

図版4 《春雪》 昭和21年作、サントリー美術館蔵
この作品は戦時中、清方が疎開先に運んで制作し、終戦の翌年(当時68歳)に完成させたものです。その後、同年の第一回日展に出品されました。雪の降る中、武家の女性が外出から戻った夫の羽織をたたんでいる様子が描かれています。梅や水仙の花が配された女性の着物から春の気配が伝わってくるようです。

清方もこのほかに、《深沙大王》(明治37年作)、《朝涼》(大正14年)(ともに鎌倉市鏑木清方記念美術館蔵)といった名作の数々が出品されています。

ほぼ同じ時代に活躍した二人の美人画をこうして同時に鑑賞する機会は意外と少なく、思いがけない共通点や相違点が発見できます。夏休みは美人画の名作を鑑賞しながら夕涼みなどされてみてはいかがでしょうか。


「市制80周年記念展 上村松園と鏑木清方」
会期        2012年7月21日(土)~2012年9月2日(日)
会場        平塚市美術館
開館時間     9:30~18:00(入館は~17:30)
休館日      月曜日
ホームページ   http://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/art-muse/

(佐藤)

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世界五大ジュエラー

先週の近代美術・近代美術PartⅡオークションにご参加の皆さま、誠にありがとうございました。
いよいよ夏本番といった暑い日が続いておりますが、皆様いかがお過ごしですか?熱中症の予防を心掛ける他、室外・室内の気温差も大きくなって参りますので、体調を崩されないようお気をつけ下さいね。
夏といえば海外旅行にお出かけになる方も多いのではないでしょうか?その際は、現地のジュエラーを是非巡ってみて下さい。特に欧米ではジュエリー文化がしっかりと根付いているため、日本ではあまり見られないような大振りで華やかなものがショーケースに飾られていたりします。高価なものは店頭には置いていない場合がほとんどですが、陳列してあるジュエリーのラインナップやデザインの傾向を見るだけでも楽しめるかと思います。
ということで、今回は世界5大ジュエラーについてご紹介します。

世界5大ジュエラーとは、その名の通り、世界中で非常に有名なハイジュエラー5つの総称です。その5つとはHARRY WINSTON(米)、Cartier(仏)、TIFFANY & Co.(米)、BVLGARI(伊)、Van Cleef & Arpels(仏)です。

・HARRY WINSTON
以前、弊社ブログでもご紹介しましたハリー・ウィンストンは、「キング・オブ・ダイアモンド」と呼称され、特にダイアモンドジュエリーで圧倒的な人気を誇っています。石の選別には、質を見極める際に通常使われる4C以外にも、社独自の非常に厳しい基準を設けているそうです。芸能人が結婚指輪にハリー・ウィンストンを選んだという話は良く聞きますね。アカデミー賞でハリウッド女優がよく身につけることでも有名です。弊社オークションでも時々出品されますが、毎回注目を集めています。
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ハリー・ウィンストン本店 ニューヨーク

・Cartier
フランス・パリ発祥のカルティエは、その洗練されたデザインで、創業当初から王侯貴族をとりこにしてきました。社会の要求に見合った、実用的なものをカルティエ風に装飾して制作する、という信条の元に作られた作品は、ジュエリーにとどまらず、色石の色彩と質感を存分に活かした時計やオブジェ・ダール(美術品)にまで及びます。カルティエはしばらくの間、特権階級の一部の人のみを顧客としていましたが、一般市民の手に渡るようになった後も、その気品あるデザインや作りの精巧さは群を抜き、今でも世界中の王室から御用達店の指名を受けています。
カルティエ
カルティエ本店 パリ

・TIFFANY & Co.
高級感のあるブランドながら、比較的お手頃なシルバーの定番ジュエリーから高価なハイジュエリー、文具、食器まで、取り扱い商品に幅をもたせているティファニー。それだけに、幅広い層に夢を与え、人気があります。『ティファニーで朝食を』では、いつかあの商品を、あの生活を、といった夢が見事に描かれていますね。ティファニーが考案したダイアモンドのセッティング方法である、6本の立て爪によるティファニーセッティングは、現在のエンゲージメントリングで主流となっています。
ティファニー
ティファニー本店 ニューヨーク

・BVLGARI
ギリシャ建築にヒントを得ているブルガリのジュエリーはボリュームのあるデザインが多く、様々な色石を駆使した個性的で華やかなものが多く見られます。その豪華さが女性の強さを感じさせるためか、世界中のセレブに非常に人気があります。ブルガリ・ブルガリが1977年に発売されて以来、時計も大変高い評価を得ました。以来、時計メーカーとしても確固たる地位を築いています。
ブルガリ
ブルガリ本店 ローマ

・Van Cleef & Arpels
フェミニンで繊細、エレガントなデザインが特徴的です。ブランドコンセプトが「愛・夢・美」であるという通り、動植物からインスピレーションを得た商品や、リボンモチーフの商品を多様に展開し、とても可愛らしい世界が表現されています。また、ミステリー・セッティングという留め金が見えないセッティング方法を考案するなど、既存の技術だけに頼らない職人の精神と技術力がその豊かな世界観を支えてきました。2009年~2010年にかけて、森アーツセンターギャラリーで、創造の100年を辿る大規模回顧展が開催されました。その軌跡は正に芸術と呼ぶにふさわしいものでした。世界5大ジュエラーの中で唯一、パリのヴァンドーム広場を拠点とするグランサンク(パリ五大宝飾店)にも名を連ねており、モナコ王室御用達のジュエラーでもあります。
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ヴァンクリーフ&アーペル本店 パリ

以上が定番の世界五大ジュエラーですが、ふと通りすがったその土地土地のジュエラーを覗くのも面白いと思いますので、是非足を運んでみてくださいね。
パリのヴァンドーム広場及びグランサンクについては、またの機会にご紹介します。

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関西洋画壇の雄・黒田重太郎の代表作《ケルグロエの夏》

こんにちは。
先日は彫刻家・澄川喜一氏の立体作品をご紹介しましたが、今日も近代美術PartⅡオークションの出品作品の中から一点ピックアップしてお話しいたします。
今、当社のホームページのトップやミュージアムのウィンドウを飾っている作品です。


【オークション終了につき、図版は削除いたしました】



Lot.675 黒田重太郎《ケルグロエの夏》
64.8×80.8cm
キャンバス・油彩 額装
右下にサイン・年代
裏に署名・タイトル・年代
1917年作
第6回二科展 1919年
第20回二科展 1933年
第24回二紀展 1970年
黒田重太郎遺作展 1971年(京都市美術館)
エスティメイト ★\100,000~200,000

まずは作家について。
滋賀県大津市に生まれた黒田重太郎(くろだ じゅうたろう・1887-1970)は、17歳のとき鹿子木孟郎に入門し、のちに関西美術院で浅井忠に学びました。1916年初めてヨーロッパに留学。1923年二科会会員となり、1947年には二紀会創設に参加するなど、中央画壇でも活躍しましたが、1924年小出楢重らと信濃橋洋画研究所を設立、戦後は京都市美術大学教授となるなど、京都を拠点に活動し、関西の洋画壇で指導的地位を務めました。印象派やキュビスムを取り入れながら、写実的で親しみやすい作風を確立した作家です。また、美術関係の著述を多く残し、美術史家としても知られています。

本作品は1917年(当時29歳)、ヨーロッパ留学中に制作されたものです。この年の7月から2ヶ月間ほど、黒田はブルターニュ地方のクレゲレックに滞在していますので、画題の「ケルグロエ」とはクレゲレックを指すものでしょうか。留学中はフランス各地を転々とし、美術館や画廊で様々な作家の作品を見て学びましたが、特に心ひかれたのは印象派のカミーユ・ピサロだったといいます。

ピサロが得意とした主題、田園風景を描いた本作品にはその影響がよく表れています。細やかなタッチを重ねて畑と農作業をする人々を捉え、遠近法を用いて風景全体に奥行きをもたらしています。明るい陽光が降り注ぐ様子は、戸外での制作を重視した印象派のスタイルを取り入れたものでしょう。
 
黒田は帰国後、本作品を第6回二科展に出品し、二科賞を受賞。それがきっかけとなり、中央画壇でも高く評価されるようになっていきました。その後、本作品は黒田の代表作として第20回二科展に再出品、没後は第24回二紀展の遺作室や作家の遺作展にも出品されました。

この作品は今週11日(水)からの下見会でご覧いただけます。
オークション・下見会スケジュールはこちら

皆様のお越しを心よりお待ちしております。

(佐藤)

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オークションの舞台裏 ‐オークショニア2‐

5月のブログではどうやってシンワアートオークションのオークショニアが誕生するか、について書きましたが、今回はそのオークショニアが実際にオークションに登場する時までにはどんな準備をしてオークションに臨むのか、をご案内したいと思います。

 まず、オークショニアが壇上に立つ際に必ず持っているものが三つあります。1つはもちろんハンマー、あとの二つは時計、そしてボールペンです。ハンマーは当然落札の際にたたくもの。時計は進行具合を確かめるために使います。弊社のオークションの場合は通常1時間に100ロット程進みますが、オークションが1日で二つあるときなどは、後半のオークション開始予定時刻との間が詰まりすぎないよう進行状況を確認しながら競っていきます。ボールペンは万が一途中でインクが切れた時のために2本持って臨みます。重なった紙の上で書くので私の場合はペン先の太いものを使っています。

水と時計

演台の上には、他に水の入ったコップとハンカチが置いてあります。時にはメインロットの前などにさりげなく水を飲んで会場の空気をあえて鎮めてから競りに入ることなどもありますが、我々も競っている間はひたすら発声しっぱなしなので水は必需品です。

 壇上ではスムーズな進行をしているオークショニア。しかしそのスムーズな進行のためにはそれ相応の準備が必要です。
オークション当日、オークショニアとはいえ営業担当を兼ねている者はまずは下見会場での接客の仕事があります。たとえば近代美術オークションですと、通常は午前10時から12時まで銀座のシンワアートミュージアムで下見会を行っています。そして、下見会が終わってオークションは午後5時からですが、その間にお客様への連絡や打ち合わせなどがありオークショニアとして準備に費やす時間は実はあまり多くはありません。

 下見会が終わり、オークション会場である丸ビルに移動するとまず会場内の確認をします。オークショニアの演台の位置や会場の椅子の並び、そしてライティングも目に入ってくると会場が見えにくくなるので必ずチェック。会場内のチェックが終わると、会議の合間をぬって今度はオークショニアの準備をします。
 ここで登場するのが「オークショニア台帳」と呼ばれる紙の束です。この台帳には1枚に3ロット分のロット番号、作家名および作品名、そしてエスティメイトが印刷されています。オークション本番でハンマーを叩くごとに、我々はここに落札金額とパドル番号を書き入れていきます。

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 準備の段階までにこの台帳に当日までの注文状況が記入され、オークショニアはその状況に合わせてスタート金額を決めていきます。同時に各ロットのリザーブ金額や時には作家名の確認などをしていきます。人気の作品で競り上がりそうであれば少し高めからスタートする場合もありますし、全く注文がない場合は出品担当者と話し合いながら、あえて安目のスタート金額を設定したりもします。そして台帳を見ながら、各ロットの問い合わせの具合やエスティメイトなどを見ながら本番をイメージして最終的な確認をします。
こうやって準備している間にも、ギリギリで追加の注文や変更が発生しその都度変更を余儀なくされ、その日のオークションで一人目のオークショニアを担当する場合は本番直前に準備が終了することもしばしばです。

 さて、なんとか準備も終わり、いざ本番。時間の限られた中、万端整えてようやく晴れ舞台。ですが、その模様は次回のブログでご紹介いたしたいと思います。

(平野)

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