いよいよ今週水曜日10時から、シンワアートミュージアムにて、近代美術オークションの下見会がスタートします(同時にジュエリー&ウォッチもご覧いただけます)。
今日はその中から、岸田劉生の自画像をご紹介します。
LOT 15 岸田劉生《塘芽堂主人 自画像》
Est.¥700,000~ 1,000,000. 1923年作
本作品は劉生が32歳のときに描いたものです。
この年、劉生は関東大震災で神奈川県の鵠沼の自宅が半壊したため、京都に居を移しました。
京都時代の劉生は自らを「海鯛先生」(かいたいせんせい)とすら名乗り、茶屋遊びや骨董収集にいそしみました。そして自由な文人画風の日本画作品を残したことから、「デカダンの時代」と位置づけられています。
画面左上に、「塘芽堂主人 自画像 劉生 自寫」と墨書されています。塘芽堂(とうがどう)とは「唐畫(とうが)」、つまり中国の古典絵画をもじって、劉生が名づけた雅号です。後にはこの小さな居城「塘芽堂」を、「冬臥堂」、「冬瓜堂」、「飽画堂」と詠みかえました。
描かれているのは茶室での得意のポーズ。同様の構図はこの頃に多く、香を焚いて濡れ縁ごしに庭を眺めながら書に向かう画家の姿が描かれています。
シンワアートオークションでは、2005年7月の近代美術オークションに類型作品《塘芽庵主人閑居之》が出品され、人気を集めました。
この頃の劉生は、よく親しい友人に「天高く飛ぶ鷹は淋しい」と漏らしていたと言います。隠居生活の中で伝統の美を味わいながら、同時に自らの芸術が高みにあることを自負していた芸術家の姿が描かれた、味わい深い作品です。
劉生は家族や親しい知人、そして自らの肖像画を数多く描きました。自意識が強く、長時間じっとしてしなければならない肖像画のモデルに、最も適していた素材は自分だったことは疑いようもありません。
美術史家で元ロンドン・ナショナル・ギャラリー館長のケネス・クラーク氏は、“偉大な肖像画は、何よりもまず魂の記憶なのである”と述べています。
本作品は軽妙なタッチでありながら、劉生のある時期の魂が、ありのままに描かれた一点なのです。
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(井上素子)
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