月別アーカイブ: 2010年10月

市民の憩いの場にアートが集結!

上海万博も残すところあと数日。先日はついに入場者数が7000万人を達成し、閉幕前に足を運んでおこうという観光客でさらに賑わいをみせています。

さて、今回は上海の中心地にある静安彫塑公園にて開催されている、「2010世博静安国際彫塑展」(世博:世界万国博覧会の意味)をレポートいたします。この展覧会は公園の管轄区である静安区人民政府が主催、世博局等の協力で開催されています。テーマは「都市幻想」。上海万博のテーマである「より良い都市、より良い生活」に関連しており、「幻想」、「記憶」、「生活」を通して上海の過去、現在、未来を解釈するとともに、芸術と生活が重なり合って文化的な生活を築き上げることを目的としています。彫刻作品は公園内に35作品設置されている他、その近辺の公共の場や文化施設などにも設置されており、アーティストの国籍も中国、フランス、アメリカ、ベルギー、スペイン等国際色に溢れています。平日の昼間に訪れたからか、子供を連れた家族や年配の方が多く、芸術に囲まれた中でくつろぐ人々の姿に微笑ましく感じました。

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ではその中から、中国人アーティストの作品をご紹介いたします。

≪Naughty Boy≫ 羅氏兄弟(Luo Brothers)

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羅氏兄弟(ルオ・ブラザーズ)は、羅衛東(Luo Weidong 1962年-)、羅衛国(Luo Weiguo 1964年-)、羅衛兵(Luo Weibing 1972年-)の3兄弟からなるグループで、1996年より共同制作を開始しています。代表作に『歓迎世界名牌(Welcome, Welcome)』シリーズがあります。これは「年画」と呼ばれる中国の新年を祝う際に家に飾られる、伝統的な吉祥の図柄をモティーフにした民衆絵画をベースに、中国人の生活に急速なスピードで根付いていったコカ・コーラ、ペプシコーラ、マクドナルド、ケンタッキーなどの商品やロゴを組み合わせ、中国の現代の消費社会を風刺した作品です。この年画は文化大革命の時代には、政治経済や平和に対するスローガン付きで大衆への宣伝媒体として利用されており、羅氏兄弟はその歴史的背景も引用し、独自の作品を展開しています。

≪Our Generation―No≫ 高孝午(Gao Xiaowu)
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高孝午は1976年福建省生まれのアーティストです。代表作『標準時代』では、機械的な笑み、決められた角度でお辞儀をするサラリーマンをモティーフとした作品を展開しています。同シリーズの作品は、上海の超高層ビル、上海環球金融中心内にあるパークハイアットホテルのエレベーターホールにも展示されています。

≪中国風景No,1≫ 陳文令(Chen Wenleng)
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陳文令は1969年福建省出身、北京を拠点にするアーティストで、人物や動物などの巨大な立体作品やインスタレーションを手掛けています。特に豚をモティーフに、富や欲望などを風刺したユーモア溢れる作品で知られています。『中国風景』のシリーズでは、ステンレス素材を用い、自然や伝統と現在の風景を混在させた不思議な立体作品を展開しています。氷が解ける氷山のようであり、鹿の頭のようであり、中国の伝統的な庭園にある亭のようにも見える奇抜な風景を作り上げることで、変化に富んでとらえがたい世の中や現代社会の冷淡さを表現しています。

(執筆:M)

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光州ビエンナーレ『萬人譜 10,000 Lives』

光州ビエンナーレ『萬人譜 10,000 Lives』

【ビエンナーレ展示概要】
会期:2010年9月3日(金)~2010年11月7日(日)
場所:光州ビエンナーレ展示館・光州市立美術館・光州市立民族博物館
http://www.gb.or.kr/


光の都市と言われる韓国の光州。第8回を迎えた「光州ビエンナーレ」の取材で活気に溢れる秋の光州に行って参りました。

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今回の光州ビエンナーレのテーマは『萬人譜 10,000 Lives』。
『萬人譜10,000 Lives』とは、韓国では民衆詩人と呼ばれる、ゴ・ウン(Go Eun)の同名の連作詩から採用されたテーマです。ゴ・ウンは、今年のノーベル文学賞にノミネートされたことで世界によく知られています。「萬人譜」は、ゴ・ウンが、1980年光州事件(正式名:光州民主化運動‐民主化を求める活動家とそれを支持する学生や市民が韓国軍と衝突し、多数の死傷者を出した事件)に関わった疑いで監禁された時から創作し始めた作品で、今年の4月にそのラストになる30巻を発表することで完結しました。それは、詩人が一生の間直接会った人、または歴史や文学を通して影響を受けた人物など、およそ3,800名の人生を要約して紹介した一種の肖像画集とも言えます。

ビエンナーレのディレクターは、「イエスより若い:Younger than Jesus」という展示企画でニューヨークのダーリン(寵児)に浮上したイタリア出身のマッシミリアーノ・ジョーニ(Massimiliano Gioni)。写真評論家であるスーザン・ソンタグ(Susan Sontag)の「生きることとは、撮られること:To live is to be photographed」という言葉を副タイトルに考えていたというジョーニの話通り、展示の構成は圧倒的に写真が多いようでした。

出品作品は、1901年から2010年まで活動した作家、31ヶ国134名の作品で、ドキュメンタリー写真、映像、民芸品などが展示されています。中には今回の光州ビエンナーレのために制作された新作も含まれています。

2.jpg < ビエンナーレ館> 3b.jpg < 光州市立美術館>

          
展示空間は、ビエンナーレ館(1~5展示館)、光州市立美術館、そして光州市立民族博物館と大きく三つに分けられ、各展示館ごとに個性的な空間演出がなされています。各展示スペースが持つ小主題、そしてそれに関わる一連の作品群は、形や使われたメディア、あるいは歴史的な意味などによって分類され、『萬人譜10,000 Lives』というテーマにふさわしいヒトの「生」を語ってくれます。

「写真での表現、ポーズをとること、イメージを通した人のアイデンティティーへの探求作業」という小主題をもつ「ビエンナーレ1展示館」には、光州市民のボランティア参加によるパフォーマンスや観客の参加を積極的に誘導する作品で目立ちました。中でもイタリア出身の作家フランコ・バカリーの作品、「この壁にあなたの痕跡を写真に残しなさい」は、展示場に置かれた写真ブース(証明写真)に入った来訪者が、自らポーズをとりながら演出した写真を壁の全面に貼ることで完成させようとする作品です。参加者はその行為や残した痕跡(写真)によって彼の作品の一部となります。

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フランコ・バカリー(Franco Vaccari) 
「この壁にあなたの痕跡を写真に残しなさい」

また、宗教的な人物、偶像、人形などで構成された「ビエンナーレ4展示館」では、今回のビエンナーレで一番の話題となった「テディベア・プロジェクト」を見ることができます。キュレーターでありながら収集家であるイデッサ・ヘンデルス(Ydessa Hendeles)が作り出したこの空間は、テディベアを抱いてポーズをとった人々の写真が3千枚以上展示されています。古い白黒の写真の中には仲よさそうに写された人とテディベア。今は一人ぼっちでその写真とともに展示されているあの時のままの人形の姿は、なんとなく寂しさを感じさせるものでした。

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イデッサ・ヘンデルス(Ydessa Hendeles)
「テディベア・プロジェクト(The Teddy Bear Project)」

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ジェフ・クーンズ(Jeff Koons)
「陳腐さの到来」 1988
Polychromed wood
Deste Foundation, Athens
案内のスタッフさんが今回のビエンナーレで一番高い作品と自慢げに話してくれたジェフ・クーンズの「陳腐さの到来」。

ほかにも、第8回光州ビエンナーレは、メディア・アートの形を借りて残された光州事件や9.11テロ、そして過去世界で繰り返されてきた民衆への虐待と搾取という悲惨な歴史を見せることで、「歴史」が起こしたヒトの「死」が、個人の「歴史」の中ではどんな意味を持つ「死」として残されるのかを提示してくれます。


< 執筆:W>

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上海は今、アートイベントが目白押し!

今年も上海がアートで賑わう季節がやってきました。
ただでさえ上海万博で活気に溢れる上海において、第14回目の歴史を誇る「上海アートフェア」、現代アートに特化した「Shコンテンポラリー」が同時期に開催され、また来月下旬からは「上海ヴィエンナーレ」が始まるなど、アートイベントが目白押しです。今回はその中からShコンテンポラリーについてレポートいたします。

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Shコンテンポラリー(上海芸術博覧会国際当代芸術展)は今年4回目を迎える若いアートフェアですが、アジアで最大規模の国際的なアートフェアとしての地位を確立しています。今年も昨年同様、1955年に当時のソ連から中国へ贈られたスターリン式の豪華な建築物、上海展覧中心で開催されていました。メインとなる「ベストオブギャラリーズ」、企画展「ディスカバリー」、また特別展としてイタリアのアーティスト、ジョルジオ・モランディ(Giorgio Morandi)の作品展という構成で成り立っており、「ベストオブギャラリーズ」ではアジアを中心とした83のギャラリーが参加。その他、美術館、オークションハウス、出版社等のブースも設けられていました。
                           歴史を感じさせる建物内は豪華に装
                           飾され、エキゾチックな雰囲気が漂う。


Sh+5_convert_20101001225309.jpg Sh+3_convert_20101001224331.jpgベストオブギャラリーズ」の様子         メディア等のブース

昨年のフェアでは大成功を収めたとレポートしましたが、今年は上海万博が開催中の開催ということもあり、これまで以上に数多くのアートとアート関係者が集結し、今年も3万人を超える観客とコレクターが来場したと報告されています。

今年の「ディスカバリー」では「Re-value」というテーマの下、アートの価値とは一体何なのかを見出すべく、22のブースが設けられ、計26名のアーティストの作品が展示されていました。そのうち日本人アーティストでは、青山悟、Chim↑Pom、金川晋吾、満田晴穂が招待されていました。天井の高いホールでは、韓国人アーティスト崔正化(Choi Jeong Hwa)の風船を用いた巨大な作品が圧倒的な存在感を見せつける一方、満田晴穂の自在置物という江戸時代の伝統工芸に倣った原寸大の昆虫は、本物かと見まがうほど細部に至るまで精巧に作られており、インスタレーション、絵画、彫刻、映像、写真等、バラエティに富んだ展示となっていました。

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「ディスカバリー」の様子。手前の巨大なバルーンは崔正化の作品

個人的に興味深かったのは、札幌市立大学の専任教員を務めるドイツのアートユニット、ニナ・フィッシャー&マロアン・エル・サニ(Nina FISCHER & Maroan el SANI)の映像作品、≪Spelling Dystopia≫(2008/09年、カラー、ステレオ、17分)。かつて炭鉱によって栄え、今や無人の廃墟と化した端島(はしま、通称軍艦島)を舞台とし、その現実を映し出しながら、学生が無人島で殺し合いをする映画『バトルロワイヤル』を絡めており、現実とフィクションの間で観る者を惑わす衝撃的な作品でした。

年度を重ねる度に人々の注目と充実度を増していくShコンテンポラリー。
上海万博でさらなる発展をみせる上海において、来年以降は一体どのように展開していくのか、期待は高まります。

Sh Contemporary THE Asia Pacific Contemporary Art Fair
上海芸術博覧会国際当代芸術展 亜太地区当代芸術展
会期:2010年9月9日~12日
会場:上海展覧中心
http://www.shcontemporary.info/(中国語、英語のみ)


【 展覧会のお知らせ*榮榮&映里(RongRong & inri)展 】

北京を拠点に活動する中国人と日本人のアーティストユニット、榮榮&映里(RongRong & inri)の日本での初個展がMEM(東京都渋谷区恵比寿1-18-4 NADiff A/P/A/R/T 2F)にて開催されています(~10月22日まで)。
榮榮&映里はアーティストとしての活動の他、北京の草場地芸術区にThree Shadows Photography Art Centre(三影堂映像芸術中心)という、ギャラリー、図書館、レジデンス施設、暗室、カフェレストランなどを有した複合写真センターを設立し、写真展の企画や教育、普及にも力を入れています。詳細は下記ウェブサイトを参照ください。
http://mem-inc.jp/

(執筆M)

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