カテゴリー別アーカイブ: オークションの舞台裏

オークションの舞台裏 -愛すべき小道具たちⅡ-

年が明け早くも1ヶ月が過ぎ、この調子だと2015年もあっと言う間に終わってしまうのでは?と感じてしまう今日この頃、皆さまお変わりございませんでしょうか。 先月末には本年最初のオークションが開催されましたが、たくさんのお客様にご来場賜り、社員一同良いスタートが切れたと気を良くしております。しかし、ほっとするのも束の間、次回オークションへ向けて気を引き締めなければなりません。  さて、過去に何度か... Read more

オークションの舞台裏 -愛すべき小道具たち-

猛暑もひと段落して朝晩も涼しくなり、ようやく秋の気配が訪れ始めましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?

さて、社内では夏季休暇が終わり9月のオークションに向けて、各部署ともリフレッシュしたメンバーが精力的に働いております。今回の舞台裏は、普段私たちが社内外で使用している色々な道具についてご紹介したいと思います。

風呂敷
もしかすると皆さんの中に、銀座の街中で風呂敷包みを抱えて歩いている人を見かけたことがある方がいらっしゃるかもしれません。風呂敷は美術業界では今でも日常的に使われている道具の一つです。風呂敷、真田紐
風呂敷と真田紐。その柄でどこの画廊かわかることも

 弊社では、入社するとすぐに風呂敷の扱い方を教わります。キチンと包めているかどうかでこちらの美術に対する姿勢や技量が計られることもあるので、たかが風呂敷と侮ることはできません。
この風呂敷、大きさはさまざまありますが、絵画や陶芸作品はもちろん画集や備品などとにかく何でも包んで持ち運ぶことができ、使い終わったら小さく丸めてしまっておけるという大変便利な代物です。営業や鑑定、倉庫から下見会場への移動時など、さまざまなシーンで活用されています。

風呂敷

入社してはじめの頃は、銀座の大通りを風呂敷包み抱えて歩くのが恥ずかしかった覚えがありますが、しばらく使っていると、何でも包めてとても使い勝手がよく、かつ、エコでもあるこの風呂敷の魅力が段々とわかってきて、そのうちに包みを持って歩くことがカッコよく思えてきたから不思議です。

今では私用でも使っており、引っ越しの時に使ったり、旅行のときなどトランクに一つ忍ばせて、旅先などで荷物が増えた時などにとても役立っています。

真田紐
これも、陶芸作品や茶道具などの桐箱に使用されているので、美術品の愛好者ならば一度は目にしたことがあると思います。しかし、ここで私がご紹介するのは、幅約2~3cmのもう少し太い真田紐。どの様な使い方をするのかと言うと、先ほどご紹介した風呂敷で包んだ作品などを更にしっかりと固定するために使います。例えば、風呂敷で大きさの違う陶芸作品を数点包んで運ぶ場合、風呂敷のみだと歩いている間に作品自体の重みで結び目が伸びてきたり、段々と包みが緩んできてしまいます。そうすると、持ちにくくなったり荷崩れしたりするので、作品に危険が及んできてしまいます。そこでこの真田紐を使って全体をくくると、作品がしっかり固定できて包みも緩まなくなり、また、画像でもわかる通り鞄のような具合となり大変持ちやすくなります。
つつむ風呂敷紐完成
なるべく四角くまとめて、クルクルっと完成!

風呂敷同様、使い慣れてくると昔からある日本の日用品がこんなにも便利で使いやすいものであることに改めて驚きを感じます。

メジャー(ART SCALE)
 世の中では、さまざまな業種でそれぞれの用途に合わせて色々なメジャーが使われていると思います。美術業界でも、多くの方に支持され長く使用されているメジャーが存在します。
多聞堂メジャー

 一見ただのグレーの小さな巻尺に見えるこのメジャー、中を引っ張りだすと目盛りの他に絵画の号数が印刷されています。もちろんオークション会社の社員として号数が頭に入っていることは大前提ですが、一度に多くの作品を採寸する場合などには、サッと測ってすぐわかるこのメジャーがとても威力を発揮するのです。
 このスグレもののメジャーは、額装の老舗、岡村多聞堂さんの実用新案登録で、業界では多聞堂メジャーなどとも呼ばれています。裏側にはフランス寸法があり、洋画、日本画、外国絵画いずれも対応可能なのです。メジャーは2mまでですが、号数はなんと500号まで記載されています。私も入社してすぐに渡されたメジャーを常に鞄に忍ばせ、今でも使い続けています。
多聞堂目盛
私のメジャーには尺寸を手書きで入れています


 今回ご紹介した3つは私たちが使っている諸道具のほんの一部ですが、美術業界にはなくてはならないモノと言っても過言ではないものです。私も入社以来、非常に愛着を持って使い続けています。風呂敷などは普段から使用できるものですので、皆さまも是非お使いになってみてはいかがでしょうか?

(平野)

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オークションの舞台裏 -アンダービッダー-

先週の近代美術/近代美術PartⅡオークションにご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。
過去3回にわたりこのブログでオークショニアの仕事を紹介してまいりましたが、今回はその後ろに影のように控えてオークショニアを支えている「アンダービッダー」の仕事についてご紹介をしたいと思います。

弊社のオークションに参加されたことのあるお客様ならば必ず目にしたことのあるはずのこの人物、オークショニアの後ろでカタログ片手に何やら書き込み、ときどきオークショニアにささやきかけたりして、一体何をしているのだろうと不思議に思った方もいらっしゃるかもしれません。
しかしてその正体は、オークション最中ではもしかするとオークショニア以上に集中力を必要とするかもしれない、重要な任務を帯びた“アンダービッダー”と呼ばれる役割なのです。

この役割の基本的な仕事はというと、まずはオークショニアのサポート。オークショニアが連呼する金額が正しく競り上がっているか、読み上げたパドル番号が間違っていないかなどオークショニアの後ろで同じように金額を追いながら、いざというときに備えてくれています。時には競っている最中にお客様から質問などが入り、今いくらで競っているかすぐに出てこなくなってしまったときなど、後ろからボソッと「15万円」などとさりげなく教えてくれたりします。また、オークショニアから見えにくいビッドや、見ていないところから新たなビッドなどが出たときには、アンダービッダーがキチンとそれを見ておりオークショニアに教えてくれ、さらにさらに、ハンマーの後オークショニアが落札金額や落札者のパドル番号を書き込んだ台帳のチェックもしてくれるという、我々オークショニアにとっては大変ありがたい存在なのです。
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オークショニアの後ろでビッダーを控えています。

 そしてもうひとつの重要な仕事として必ず行っているのが、その名の通り“アンダービッダー”を取る作業です。パドル番号何番のお客様がいくらまで競っていたか、後から確認が取れるように記録を取っているのです。
私もオークショニアを務める前にはこの“アンダービッダー”をやっておりましたが、このビッダーを記録する作業が非常に大変であったのをよく覚えています。1つのロットを競っている数十秒の間に、できる限りビッドしている方のパドル番号とその時の金額を手元のカタログに書き込み、また同時にオークションニアのサポートもこなさなければならず、慣れるまでは集中力を維持するのが精一杯。人気のある作品でたくさんビッドがあった時など、書き込んだカタログは何が書いてあるのか自分でもわからないような殴り書きで、オークションが終わったころにはヘトヘトになっていました。

そうしてオークションが終わった後にもアンダービッダーにはまだ仕事があります。オークション最中に入力されたデータと、オークショニアが台帳に記録した落札金額と落札者のパドル番号、それにアンダービッダーの手元の記録がすべて一致しているかを1点ずつ照らし合わせていくのです。オークションの落札結果を発表するにあたり間違いがあってはならず、かつ出来るだけ早く皆様にお知らせできるよう、オークション終了直後にこの作業は行われます。
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アンダービッダーが記入したカタログ。

その他にも、オークションの最中にオークショニアと会場内の他のスタッフとの連絡をしてくれたり、モニターが間違っていないかチェックしてくれたり、訂正事項を教えてくれたり、水を注いでくれたり、オークショニアが競りに集中できるよう様々な気配りをしてくれています。さりげないようでいて、とても頼りになる存在なのです。

オークションでは全てのスタッフが様々な役割をこなしています。今後もご来場の際に皆様がオークションをより一層お楽しみいただけるよう、それらの仕事をご紹介していきたいと思っております。

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オークションの舞台裏 -オークショニア3-

オークションの舞台裏 ‐オークショニア3‐


 こんにちは。先週のワインオークションにご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。
前回の「オークショニア2」よりしばらく間があいてしまいましたが、今回はいよいよオークション本番でのオークショニアの仕事振りをご紹介したいと思います。

 オークショニアが壇上に登場するのは通常オークションが始まる1~2分前。マイクの位置を確認し、ハンマーやペンなど手元周りを整えます。そして会場内を眺め、常連のお客様がどちらに座っていらっしゃるか?新規のお客様は?など会場の様子を大まかに頭に入れておきます。
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近代美術も務める馬場オークショニア
 
いざ開始時刻になると、会場にいるスタッフが開始OKの合図を送ってくれます。合図を受けてオークショニアがまず始めにやるのがマイクの確認。ハンマーを軽く2、3回コンコンと叩き、開始前のざわついている会場の注意をひきます。そして後方のスタッフに向け、「オークショニアの声は聞こえますか?」と確認をします。このときにしばしば後ろに座っている親切なお客様が応答してくださる時もあります。
 マイクの確認に続いて、オークションに関する説明を行います。これは、オークション中の注意事項、競り上げの幅、お支払金額や方法、お引き取り方法、そして出品取り消しロットなど、オークションによって多少異なりますが、合わせて十数項目にもなります。常連のお客様にとっては毎度おなじみの話かと思いますが、どれも重要なインフォメーションですので、参加される方には是非聞いていただきたいものです。私の場合、この説明が滑らかに喋れるかどうかでその日の調子を自分で占ったりするときもあります。
 説明が終わるとすぐさまオークション開始。競りに入るとオークショニアは、会場はもちろんのこと、書面ビッド、電話ビッド、手元の台帳などを見ながら1ロット約30秒~1分程度で競っていきます。しかもその間はひたすら金額を言い続け、かつ、どのビッドがいくらで競っているかを会場全体に示さねばなりません。以前のブログでも紹介した研修の成果がここで発揮されるのです。
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シンワ唯一の女性オークショニア、長オークショニアです。

 1ロットに30秒と言うと、はじめての方にとっては競りのスピードはかなり早く感じられるかもしれません。そんなに早くて競り間違えたりしないのか?と思われる方もいらっしゃるかと思います。しかし、来場されて参加された方ならおわかりかもしれませんが、実は競りの最中にはオークショニアとビッダーの間に見えないコミュニケーションが行われています。オークショニアはビッドを取る際に必ず「この方は競っているかな?」とビッダーの表情を絶えず確認しており、またビッダーもほとんどの方が壇上のオークショニアを見つめていて「私競っていますよ~」という表情をこちらに返してくれます。そして、それに対してオークショニアは「あなたですよ」という意思を目で訴えながらビッドを取っているのです。中にはパドルではなく手や指でビッドする方や、時にはうなずくだけというような微妙な動作でビッドの意思表示をする方もいらっしゃいます。そのような場合は、ますますこの無言のやりとりが重要な意味を持ってくるのです。
 また、大勢の方が同時に競っている場合には、オークショニアが取っていないビッダーに対してもできるだけ目線を送り「あなたが競っているのをわかっていますよ」というメッセージを伝えるようにしています。テンポよく競り上げていく間にも、オークショニアと会場、そして書面・電話ビッド席との間には無言の意思疎通が行われているのです。

 数あるロットの中には、事前の人気が高い注目のロットや、その日のメインとなる高額のロットがあります。さりげないようでいても、そんな時はやはりオークショニアも力が入ります。注目度の高いロットが来ると、どれくらい競り上がるか?誰が競るのか?興味津々、ドキドキわくわくといった雰囲気になり、会場内もざわついて落ち着かないムードが漂います。そんな時オークショニアは、声を発する前に一口水を飲んだりして自身の興奮を鎮めるとともに、会場を少しだけ落ち着かせたりしてから始めます。そして、通常よりもややゆっくり競り始め、競りが激しくなるとともに競りの調子も上げていきます。その結果、最終的に1対1の激しい応酬ののち予想以上に競り上がった時などは、壇上でハンマーを叩いた瞬間得難い充実感を感じます。もちろんそれは、営業努力やカタログ製作チームの頑張りなど社員全員の力で成し得た結果ですが、その最終目的のための最後の要素としての役割を果たしたことに、私はオークショニアとしてのやりがいや喜びを感じております。
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これが私。

 以上、3回にわたりオークショニアについてご紹介してまいりましたが、実際のオークションでは実にさまざまな状況が生まれます。そんな時オークショニアはどの様に対応しているのか、このオークショニアのテンポは?声は?表情は?などにも注目して各オークショニアを見比べてみても面白いかもしれません。そして、弊社オークショニアにも気軽に話しかけていただき、良いことでも悪いことでもその感想を伝えていただけると幸いです。今後も、お客様により気持ちよく楽しんで競りに参加していただけるよう、よいオークショニアとはいかなるものか、どこまでも突き詰めていきたいと考えております。

(平野)

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オークションの舞台裏 ‐オークショニア2‐

5月のブログではどうやってシンワアートオークションのオークショニアが誕生するか、について書きましたが、今回はそのオークショニアが実際にオークションに登場する時までにはどんな準備をしてオークションに臨むのか、をご案内したいと思います。

 まず、オークショニアが壇上に立つ際に必ず持っているものが三つあります。1つはもちろんハンマー、あとの二つは時計、そしてボールペンです。ハンマーは当然落札の際にたたくもの。時計は進行具合を確かめるために使います。弊社のオークションの場合は通常1時間に100ロット程進みますが、オークションが1日で二つあるときなどは、後半のオークション開始予定時刻との間が詰まりすぎないよう進行状況を確認しながら競っていきます。ボールペンは万が一途中でインクが切れた時のために2本持って臨みます。重なった紙の上で書くので私の場合はペン先の太いものを使っています。

水と時計

演台の上には、他に水の入ったコップとハンカチが置いてあります。時にはメインロットの前などにさりげなく水を飲んで会場の空気をあえて鎮めてから競りに入ることなどもありますが、我々も競っている間はひたすら発声しっぱなしなので水は必需品です。

 壇上ではスムーズな進行をしているオークショニア。しかしそのスムーズな進行のためにはそれ相応の準備が必要です。
オークション当日、オークショニアとはいえ営業担当を兼ねている者はまずは下見会場での接客の仕事があります。たとえば近代美術オークションですと、通常は午前10時から12時まで銀座のシンワアートミュージアムで下見会を行っています。そして、下見会が終わってオークションは午後5時からですが、その間にお客様への連絡や打ち合わせなどがありオークショニアとして準備に費やす時間は実はあまり多くはありません。

 下見会が終わり、オークション会場である丸ビルに移動するとまず会場内の確認をします。オークショニアの演台の位置や会場の椅子の並び、そしてライティングも目に入ってくると会場が見えにくくなるので必ずチェック。会場内のチェックが終わると、会議の合間をぬって今度はオークショニアの準備をします。
 ここで登場するのが「オークショニア台帳」と呼ばれる紙の束です。この台帳には1枚に3ロット分のロット番号、作家名および作品名、そしてエスティメイトが印刷されています。オークション本番でハンマーを叩くごとに、我々はここに落札金額とパドル番号を書き入れていきます。

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 準備の段階までにこの台帳に当日までの注文状況が記入され、オークショニアはその状況に合わせてスタート金額を決めていきます。同時に各ロットのリザーブ金額や時には作家名の確認などをしていきます。人気の作品で競り上がりそうであれば少し高めからスタートする場合もありますし、全く注文がない場合は出品担当者と話し合いながら、あえて安目のスタート金額を設定したりもします。そして台帳を見ながら、各ロットの問い合わせの具合やエスティメイトなどを見ながら本番をイメージして最終的な確認をします。
こうやって準備している間にも、ギリギリで追加の注文や変更が発生しその都度変更を余儀なくされ、その日のオークションで一人目のオークショニアを担当する場合は本番直前に準備が終了することもしばしばです。

 さて、なんとか準備も終わり、いざ本番。時間の限られた中、万端整えてようやく晴れ舞台。ですが、その模様は次回のブログでご紹介いたしたいと思います。

(平野)

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オークションの舞台裏 -オークショニア-

先週土曜日オークションにご来場いただいた皆様、誠にありがとうございました。

オークションにおいて、皆様の正面に立ち、テンポよくビッドをとり競り上げていくオークショニア。肩書きとしてはおそらく珍しい部類に入るであろうこの仕事、その裏側をこのブログで少しずつご紹介していきたいと思います。今回はどうやってシンワオークショニアが生まれるか、です。

競り-1

弊社には現在3人のオークショニアがおりますが、それぞれがシンワオークショニアとしてのスタンダードをわきまえながら個性を発揮しています。
よく、どうしてオークショニアとなったのか?と聞かれますが、私の場合は留学時代にイギリスでオークションを見学した時に見たオークショニアが強く印象に残っていて、入社前からこの仕事に興味を抱いていました。過去在籍したオークショニアは私のように入社後自ら立候補した者が多いですが、中には会社が「彼ならできそうだ」と判断し声をかけられた者もおります。

欧米ではオークショニアとなるにはライセンスが必要な国が多いですが、オークション自体が始まってまだ歴史の浅い日本ではオークショニアのためのライセンスは必要ではありません。
ただし、高額な作品を大勢の前で会社を代表して競りを取り仕切るわけですから、ライセンスがないとはいえ、ただテンポよく競って行けばよいわけではなくオークションを通して常に一貫した基本姿勢で競りを行っていかなくてはいけません。このため、弊社ではオークショニアとなるために当然「研修」があります。この研修では、実際のオークションよりもずいぶんと難しい状況が作られます。来場者役の社員が、オークショニア候補が間違えるようわざと複数で同時にビッドするなどはまだやさしい方で、競っているふりをしてビッドを取ると競っていなかった、とんでもない金額で声を出して惑わせたりなど、数々の嫌がらせ…、いや、愛の鞭を振るってくれます。オークショニア候補はそれらの難題を乗り越え、研修によって公平性、一貫性の重要さを学びます。
また、そうした基本以外にもオークショニアには必要なものがあります。お客様が競り易くオークションを進行するために必要な要素、「リズム」です。オークションによく参加される方ならば、オークショニアの違いによって競り易い競りにくいというのを感じたことがあるかもしれません。弊社オークショニアは、できるだけお客様にビッドしやすく競っていただくためにこのリズムを重要と考えています。この「リズム」、簡単そうに見えるかもしれませんがやってみると案外難しく、刻一刻と変わる金額や誰が競っているかなどを示すために場所やパドル番号などを金額の合間に挟むとつい乱れがちになります。私も研修の頃は、通勤途中やお風呂でブツブツ「10万円、11万円、12万円…」などとつぶやいて練習していました。

こうして研修を終え、その時その時の状況に合わせて対処するための理論的な根拠や、スムーズな進行と競り易さのためのリズム、そして突発的なことが起こっても動じずに対応する力など、シンワオークショニアとしての基本をしっかりと身につけます。
ここまで来れば後は、いざ、デビューの日を待つばかり。

ハンマー


私が初めて壇上に立ったのはもう10年以上前ですが、緊張してオークション直前に水を飲む手が震えたのを今でも覚えています。いざ始まってみると無我夢中で何をどうしたのかよく覚えていませんが、大きなミスなく終えられたのは厳しい研修の成果と社員のみなさんのサポート、そしてお客様の寛大な心のおかげであったかもしれません。
これからもシンワアートオークションのオークショニアとして、公平でかつ楽しいオークションをお送りできるよう精進してまいりたいと思います。

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書評「オークション」-『現代アートの舞台裏』より

 オークションの世界について知りたい、と思って本を探してみたとき、情報がほとんど無いことに気づく・・といった経験はありませんか?

 そこで今日は、今年発売されたアート関連書籍の中から、オークションについて書かれた本をご紹介します。

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『現代アートの舞台裏―5カ国6都市をめぐる7日間』
サラ・ソーントン 著/鈴木泰雄 訳
ランダムハウス講談社/2009年 刊



 書籍のタイトルに“オークション”の文字が入っていなくても、中にはオークションについての情報が書かれている本は、実はけっこうあるのですよね。

 この本の第1章は「オークション」と題され、ニューヨークのロックフェラー・プラザで2004年11月の夜に開催されたイブニングセールを舞台に、“アートを投資や贅沢品と位置付ける”人々を描き出しています。
 
 そこでは、
イギリス人の名オークショニアが、競売の最中にビッドする顧客の動きを把握する方法や、
オークションほど素晴らしいものはないと語る買い手達の意見、
コンテンポラリーアートを3年で買い替える人間の心理、
そしてオークションが始まる前の会場で交わされるアイコンタクトの意味・・・
といった基本的な謎が、楽しく明かされていきます。


 これまでに刊行されたオークションに関する書籍との違いは、この本が一番、臨場感があること、外部からの視点で描かれているので、「アート界が面白いほどに逆説的な世界、つまり、実利主義にして理想主義的、エリート主義的にして不思議に開放的な世界」であるという魅力を感じさせるように構成されている点です。
これは本当にその通りですよね。


 では、この本で描かれているオークションの世界は、本当なのでしょうか?
それは、日本では少し違う、と私は感じました。

 というのも、この本を書くために取材が行われた時期は(前回のブログにも触れました)、私が以前ニューヨークにイブニングセールを見に行った時と偶然同じ頃だったのですが、この本に描き出されている世界は、当時知り得たニューヨークのアート界そのものです。

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ロックフェラーセンター 

しかし、日本のオークション会場に足を運ばれた方は、少し違う印象を持たれるでしょう。
 特に、この章の最後にある「金銭的価値が、作品のほかの意味をほとんど根こそぎにしてしまうショー」という表現には、違和感を覚えます。
日本で開催されているオークションの舞台裏は、もっとアートへの敬意がありますし、文化的価値が大切にされています。

その実際のところをお知りになりたい方はぜひシンワアートオークションへお越しくださいませ!

(井上素子)

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本のご紹介:『印象派はこうして世界を征服した』

 今日は、最近出版された話題の美術書をご紹介いたします。

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『印象派はこうして世界を征服した』
(フィリップ・フック著/中山ゆかり訳、白水社、2009年7月刊)


 この本は、ヨーロッパの老舗オークションハウスでオークショニアを勤めた後、画商、美術業界の風刺小説やミステリーの著作も手がける著者が、印象派の評価にまつわるヒストリー&マーケットの話を語るものです。


 7月20日に刊行されて早速入手し、ワクワクしながら一気に読みましたが、オークションに関心のある方ならきっとお楽しみいただける内容になっています。

 前半の印象派に関するヨーロッパ各国での受け止め方の違いは、様々な記事や手紙を盛り込んで臨場感にあふれ、「フランス文化崇拝のアメリカ人」や「伝統的なフランス嫌いのイギリス人」、が登場。ロンドン在住の著者のウィットに富んだ文体が効いています。

 印象派を擁護した画商・デュラン=リュエルのエピソードには、一つの美術の動向に、プロデュ―サー的役割を果たすギャラリーがいかに重要なのかを教えてくれます。


 後半は、ジャクリーン・オナシス(ケネディ大統領未亡人)が、海運王オナシスからウェディング・プレゼントとしてルノワールを落札してもらうシーンや、ヨーロッパのオークションハウスの重役たちが日夜交わす駆け引きを描き出しています。

 英国のエリザベス女王が始めていらしたオークションでは、会場にロックフェラー、フォード、リーマンといった時の富豪の一族が勢ぞろいし、ルーズヴェルト元大統領夫人と女性実業家のヘレナ・ルビンスタインが隣同士で着席していたとか。


 オークションは、社会的成功を収めた富豪の社交場であり、印象派の絵画は、誕生から1世紀をかけて、そこでトロフィーのように取引されていくようになるのです。

 本の主題は印象派の評価の変遷ですが、間接的にオークションの魅力を華麗に伝えてくれる、スリリングなドキュメンタリーでもある一冊です。

(井上素子)

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シンワブログへの反響

 先日お伝えしたとおり、本ブログは開設してから1周年を迎えました。

 これまでに、シンワアートジャーナルと連動して、展覧会チケットプレゼントを何回か行わせて頂きました。
 そのたびに、読者の皆様からご丁寧にアンケートにご回答いただきました。ありがとうございました。
 そこでは、「どのような作家を取り上げて欲しいですか」という質問に対し、貴重なご意見を頂いたり、「地方に住んでいるが、東京に行った際に展覧会に行きたいので」とコメント付きでチケットをご希望されたりするお客様がいらっしゃいました。
 そういったお客様方にお読み頂いているかと思うと、ブログ担当一同、嬉しい思いでいっぱいです。

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<これまでにお届けした展覧会レポート>

・全光榮(チョン・クァンヨン)展
・加山又造展
・三瀬夏之介展~冬の夏~
・ART@AGNES 2009
・Art Now in China 2008
・山口薫展
・石田徹也―僕たちの自画像―展
・高山辰雄遺作展
・浮世絵ベルギーロイヤルコレクション展
・純粋絵画を求めて―夭折の画家、佐伯祐三
・舟越桂 夏の邸宅 展

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 その他にも、各種メディアのプレスの方々から、ブログを通じて取材の依頼を受けたこともございました。ここで紹介して下さいと、美術コンペの概要が送られてきたこともあり、その度にありがたく取材させて頂きました。


 開催中の展覧会のレポートをお送りすることが多かったのですが、シンワブログでは全ての展覧会レポートで、主催者や美術館の方から図版の使用許諾を得るためにご連絡をお取りしています。
 そこで、担当学芸員の方から展覧会の裏話を伺うこともございました。

 出品作品の紹介については、お客様から「これが欲しい!」というお電話を頂くこともあります。既に終了したオークションであっても、インターネット上には情報が残っていますので、過去の出品作品情報であることもあります。それでも、次回に同様の作品が出品される時にご連絡を差し上げることもできますので、ぜひお問い合わせくださいね。

 本コーナーを通じて、シンワブログ担当は様々なアートシーンで活躍される方々と触れ合う機会を持つことが出来ました。ありがとうございます。そしてこれからもよろしくお願い致します。

(執筆者:I)

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オークションができるまで(2)~カタログ制作~

オークションにかかせないもの。その一つにカタログがあります。
カタログの完成まで10日をきり、画像や文字の校正に余念がない日々です。
今日は、前回の写真撮影に引き続き、カタログ制作の現場をレポートします。

オークションに出品する作品を預かる際、まずはそのコンディションを確認するとともに、サイズ、制作年、画集等の掲載や展覧会への出品歴があるか、等をチェックします。
これらが、カタログに掲載する作品の文字情報となります。

ロット決定1       ロット決定2
こちらは、オークションの出品作品に付けられた通し番号、“ロット”を決めているところ。オークションはこのロット番号順に進んでいきます。
出品作品の画像を並べ、作品のジャンル、オークションの進行状況などを考慮しながら決めていきます。

 

さらに、カタログには作品や作家の解説等の文章も日本語と英語で掲載しています。
SUMMER+AUCTIONに出品される作品には若手の作家も多く、カタログに記載する情報が、作家、作品の理解の手助けとなるだけでなく、今後の参考資料となるよう制作しています。

 

また、本オークションでは、新たな試みである「デザイン」やこれまで以上に充実をみせる「写真」などの扉に特別ページを設けていますが・・・

さて、どのようなカタログになるのでしょうか?!
完成をお楽しみに!!


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