月別アーカイブ: 2010年4月

「シンオクジン・コレクション 日本の近・現代美術」展

韓国で一番大きくて奇麗な港町と言われる、釜山(ブサン)市にある「釜山市立美術館」では去る2月23日から4月18日にかけて「シンオクジン・コレクション 日本の近・現代美術」展というちょっと珍しい展覧会が開かれていました。

表題の展示は、シン・オクジンさんという韓国人のコレクターが集めてきた日本の近・現代美術の作品を紹介する展覧会で、シンさんは、本来画商として韓国の美術界でよく知られている方です。今回の展覧会では、そのシンさんが10年かけて集め、釜山市立美術館に寄贈してきた日本人作家の作品、およそ50点が公開されました。

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〈展示風景1〉

梅原龍三郎をはじめとする近代作家や、草間彌生・奈良美智などのコンテンポラリーアーティストにわたる作品のラインナップは、日本の近・現代美術の流れを一度に観ることができます。中でもシンワの近代美術オークションに出品されたことがあるいくつかの作品との再会は、とても懐かしく嬉しいものでした。

今回の展覧会は、個人コレクターの寄贈による初めての日本美術の紹介ということや、韓国内での寄贈文化の定着の良い例として話題になり、メディアからの取材も多かったようです。

展示は、時代の流れによって五つのスペースに分けられ、各展示会場では油絵・水彩・版画・彫刻・立体など、各作家の個性がよく伝わるようにコレクションをうまく見せていました。
中でも、梅原龍三郎、レオナールフジタ、岸田劉生など、日本を代表する巨匠たちの作品は、「日本における近代美術はこちらです。」と言うように堂々と展示され、韓国人の来客を迎えていました。

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〈展示風景2〉

画商として40年近く多様な作品を取り扱ってきたシンさんが、なぜ日本の美術をコレクションし始めたのか、それは両国の間にできた歴史を遡ってみることでわかるようになります。

シンさんの話によると、現在、韓国で高く評価されている近代美術の作家を調べるたびに、必ず日本の近代美術につながり、両国間の特別な美術史が見えてきたそうです。
それは、韓国の油彩画家の第一世代のほとんどが日本への留学の経験を持ち、その頃、西洋美術を直接学ぶことができなかった韓国の画家たちは、日本の留学生によって入ってきた西洋画、つまり「日本の洋画」をそのまま「西洋画」として吸収したということです。そのような美術史的な痕跡から、自国の近代美術を知るためにはまず日本の近代美術を知るべきだと考え始めたのが、シンさんのコレクションの始まりでした。

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〈展覧会カタログ〉

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〈韓国・空間画廊代表、シン・オクジンさん〉

韓国語・日本語・英語の3ヶ国語に訳された作品解説付きのカタログからみても、今回の展覧会のため、今までどんなに努力を注いだのかよく伝わってきます。
現在も進行中であるシンさんのコレクション、そして釜山市立美術館の展示企画は、これからもまた新たな展開を見せてくれることでしょう。

桜が満開に咲いた頃、展示会場のあちこちをゆっくり歩きながら、両国における本当の意味の美術史が始まった瞬間にふっと気付いた自分でした。

今週末からいよいよゴールデンウィーク。皆様、お好きなアートと共に素敵な連休をお過ごしください!


〈執筆:W〉

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西洋美術下見会スタート

 本日より西洋美術下見会が銀座シンワアートミュージアムでスタートしています。
(オークション4月17日(土)15:00~。詳細はこちら

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地下の様子



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1階の様子

 西洋美術オークションはほぼ一年に二回の頻度で開催されており、高い落札率を出しています。
 今回は、いつも熱い人気を集めるアンティーク・ドールや、絨毯を含む総数338点が出品され、華麗なデコラティブ・アートの数々が会場を彩ります。 

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 LOT94 《マイセン「華麗なオーケストラ16体組(ガラスケース付き)」》(Est.\700,000~¥1,000,000)は、ぜひお近くでその精巧な作りをご覧いただきたい作品です。貴族が日々の暮らしの中に芸術を取り入れ、愛でていたことを伺わせるもので、豊かな動きと一体一体に異なる表情が飽きさせない作品です。《猿のオーケストラ》はマイセンを代表する21体(+譜面台)ですが、今回の出品作品もそれに類するマイセンの魅力溢れる一揃いです。

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指揮者の燕尾服の下に隠れた筋肉の動きやバイオリンの弦まで表現されています。


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 女性のお客様のご来場も多い西洋美術。ロイヤルコペンハーゲンのお皿やカップ&ソーサー(写真左の棚上段)、ロブジュのパフューム・ランプ(写真右Lot230 Est. ★¥50,000~¥100,000)など、ご自身の鑑賞用のほか、贈り物にも素敵なお品が並びます。
 オークションは初めてという方もぜひこの機会にお立ち寄りください。

(井上素子)

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鍍金ブロンズマントルクロックセット

こんにちは。
みなさんお花見は行かれましたか?
桜はもちろんですが、最近は新入社員や新入生らしき人たちを見かけると春だなあと思ってしまいます。

さて、シンワの4月といえば、西洋美術オークションです。
今日は出品作品の中から1点ご紹介いたします。

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lot.128 鍍金ブロンズマントルクロックセット
時計:H86.0×W45.0cm
キャンドルスタンド:各H96.3×W40.0cm
鍵、振り子付き
★\1,200,000~1,800,000



 マントルクロックは、マントルピース(暖炉の飾り棚)を美しく飾るために作られた時計です。
 暖炉が現在のスタイルになったのは中世の北ヨーロッパ。煙突によって排煙する方式が発明され、部屋の好きな場所に暖炉を配置できるようになりました。すると、部屋の中で最も居心地の良い場所である暖炉の前が、その部屋の上座とされるようになっていきます。それとともに、暖炉は、暖をとり、肉を焼くための道具という本来の性質に加え、その家のステイタスシンボルとしての意味合いを帯び、王侯貴族たちの間で流行していきました。
 
 マントルピースも、ゴシック、ルネサンス、ロココ様式など、時代と文化の変遷に合わせて装飾的で芸術性の高いものが作られるようになります。そこには、家の最も格式の高い場所に相応しい美術品が飾られました。マントルピースを美しく、誇り高く彩るために生まれたマントルクロックは、家の富と名誉の象徴と言えるでしょう。
 
 本作品は、アンピール様式の装飾美が随所に見て取れるマントルクロックセット。アンピール様式とは、1804年ナポレオン1世が帝政を確立してから19世紀中期頃まで、フランスの建築、家具、装飾美術などに流行したデザインを指します。大きな特徴は、当時の優れた鍍金技術を駆使した壮麗で重厚な作風と、シンメトリックなデザイン。ナポレオンが憧れた古代ギリシア・ローマ、エジプト美術の要素を取り入れ、スフィンクス、勝利の女神、月桂樹など、その文化を代表するモチーフが用いられました。
 
 本作品においても、中央の置き時計の最上部に、ローマ神話における愛の神・キューピッドを表す矢立てと松明、ギリシア・ローマ時代から霊木として崇められた月桂樹を編んだ冠を組み合わせ、愛と栄光を象徴しています。置き時計と2点のキャンドルスタンドのそれぞれにシンメトリーに配されたスフィンクスは、エジプトやギリシアの神話に登場する、鷲の翼と女性の上半身を持った神聖な生物です。こうした均整の取れた優美な装飾と、セット全体が醸し出す重厚感の見事な調和は、アンピール様式の粋と言えるでしょう。英雄の時代の装飾美と、本作品ほどの大きなマントルクロックが設えられた名家の風格を現在に伝える逸品です。

オークション・下見会スケジュールはこちら

みなさまのご来場を心よりお待ちしております。

(執筆:S)

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痛みを描くアーティストKwon, KyungYup

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「My heart」 162.2×112.0cm


「純粋な空間、無菌状態の人工的なこの空間に、たった一人で、自分自身の内面を見つめている少女は、身に刻まれた過去の痛みを持つ現代人の肖像です。」(作家ノートより)

桜の花びらの舞い落ちる季節、皆様いかがお過ごしでしょうか?
今日は、この季節にふさわしい桜色の奇麗な絵をお見せすることから始めてみました。上の作品は、近年韓国を中心にアジアの各地からラブコールが高まっている韓国人女性アーティスト、コン・ギョンヨプ(Kwon, KyungYup)さんの作品です。

体の一部を包帯に捲かれた少女たちを通して人の魂を表現するコン・ギョンヨプさん。パステル風のやさしい空間から染み出す不思議な雰囲気は観る者に何気ない悲しみを感じさせます。また、絵の中の弱々しそうな人物は漫画やアニメに登場するような、傷つきやすい少女を連想させ、憐憫の感情を生じさせます。


●Kwon, KyungYupさんのプロフィール

【個展】
2010 Last Letter (Unseal Contemporary, 東京)
2009 Space of Memory(Gana Art Gallery, ソウル)
2008 Art Seoul 2008(ソウルアートセンター, ソウル)

【グループ展】
2010 The more, the better(Sun gallery, ソウル)
2009 Korea International Art Fair(Coex, ソウル)
HongKong International Art Fair(HongKong Convention Center, 香港)
2008 Opening Show(Times Art Gallery, 台北)
Blue Dot ASIA (Seoul Arts Center, ソウル)
MicroART69-Heart (In-Sa Arts Center, ソウル)
2007 Team preview “Art Show” (Gallery Indeco, ソウル)

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〈作業に夢中になっているコンさん〉


ご覧のように、コンさんが作品の中に象徴的なモチーフとして良く使っているのが、「包帯」と「眼」です。
中でも、必ず登場する包帯は、身体的・精神的な傷の象徴、すなわち、人間としての存在論的意味を含むすべての「傷」を表します。外からの刺激を遮断しながら、既に身に染み込んだ過去の傷を抱き込んでくれる包帯。それは、強い御守りであり、同時に優しい慰めです。

韓国ではアートフェア、オークション、展示会などでもうその人気を集めているコン・ギョンヨプさんは、その活躍の場を広げ、最近香港・台北での展示会を経て、アジア各地のオークションでもめざましい結果を見せています。中でも今度の5月8日からはいよいよ日本での初個展が開かれる予定で、皆様との初対面を楽しみにしているようです。

若い時によく感じたことがある根拠のない悲しみ、その中からまた生じてくる強い自己愛。韓国の若手の女性アーティスト、コン・ギョンヨプの作品、皆様いかがでしたか?


「Kwon KyungYup / LAST LETTER」Tokyo展
会期:5月8日(土)~29日(土)
レセプションパーティ:5月8日 17:00~20:00
会場:unseal contemporary
〒103-0026東京都中央区日本橋兜町16-1第11大協ビル2F
Tel&Fax:03-5641-6631 http://www.unseal.jp


< 執筆:W>

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尹秀珍、ニューヨークMOMAにて個展開催中

 今回は世界を舞台に活躍する中国人女性アーティストをご紹介します。

 中国のコンテンポラリーアート界を牽引する尹秀珍(イン・シウジェンYin Xiuzhen)。現在、ニューヨーク近代美術館(The Museum of Modern Art, New York 、以下ニューヨークMOMA)において1971年から続く「Projects」シリーズの92回目として、個展が開催されています(『Projects92:Yin Xiuzhen―Collective Subconscious』~5月24日)。尹秀珍にとって初のアメリカでの個展であるとともに、ニューヨークMOMAにおける中国人女性として初の個展である今回の展覧会。サイトスペシフィックなインパクトのあるインスタレーションで世界のアートファンを魅了しています。
 
 尹秀珍は1963年北京生まれ。1989年首都師範大学美術学院油画系を卒業後、中央工芸美術学院付属中学校で教鞭を執っていましたが、90年代初期より北京を拠点にインスタレーションやパフォーマンス、彫刻作品の制作等を行っています。2000年には中国当代芸術賞(CCAA)を受賞。中国国内で開催される各国際展(広州トリエンナーレ、上海ビエンナーレ等)をはじめ、主な国際展にアジアパシフィックトリエンナーレ(オーストラリア、1999年)、光州ビエンナーレ(2002年)、福岡アジア美術トリエンナーレ(2002年)、シドニービエンナーレ(2004年)、ヴェネチアビエンナーレ(2007年)等があります。ミュージアムピースも多く、日本では福岡アジア美術館、森美術館に所蔵されています。また夫である宋冬(Song Dong)も中国を代表するアーティストの一人であり、夫婦で活躍するアーティストとして知られています。

 文化大革命が始まる3年前に生まれ、激動の時代を体験してきた尹秀珍。彼女は自分の経験や記憶と時代との関係に関心を持ち、家族や生活環境など個人的問題を反映させる一方、中国現代社会を客観的に見つめ、社会の発展および都市化の過程を表現した作品を展開しています。代表的な表現方法として、古い衣服をつなぎ合わせたインスタレーションがあります。この衣服は世界中の異なる国や地域から集めてきた、かつて人が袖を通していたものであり、そこには人々のたくさんの物語が含まれています。同時に、無数の時代の痕跡と文化的特徴に関連しており、グローバル化した現代においても共通性のあるものだといいます。

 「現在、急速に変化し、発展を遂げる中国社会において、人々は考える時間すらなくなっている。だからこそ、人々にゆっくりと腰を落ち着かせて考えてもらいたい。」と語る尹秀珍は、アート界の成功者でありながら、北京の郊外に家族と共に静かに暮らしつつ、制作をしています。布という視覚的にも感触的にも柔らかい素材の中に、私的かつ社会的な問題を織り交ぜた作品は、中国国内に限らず、世界の多くの人々の共感を呼ぶのでしょう。

 中国人アーティストが世界で活躍している中、そのほとんどは男性が占めているように、中国アート界は未だに男性中心であるように見受けられますが、こうして女性アーティストの活躍も注目されるようになってきました。女性の社会進出が顕著な中国社会において、これからもその活躍の場が広がることを願ってやみません。
(執筆:M)


展覧会情報
『Projects92:Yin Xiuzhen―Collective Subconscious』
会期:2010年2月24日~5月24日
会場:ニューヨーク近代美術館 プロジェクトギャラリー
http://www.moma.org/visit/calendar/exhibitions/1034


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『飛行機』インスタレーション 2008(画像提供CCAA)
1520(l)x12 00(w)x353cm(h)

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