月別アーカイブ: 2012年10月

カラフル加守田

先週のワインオークションにご参加頂いた皆様、誠にありがとうございました。

さあ、いよいよ秋まっただ中!ジュエリー、西洋美術に続き今回は陶芸で“芸術の秋”を感じて頂こうかと思います。
 
「鑑賞陶器」は読んで字のごとく、観て楽しむ陶器のことです。これはもちろん最初から決まっているというより、お持ちの方が決めるべきことですが、作家の多くは徳利、ぐい呑、お茶碗など機能性ある「日用陶器」を制作する一方、作家性・芸術性を全面に打ち出した「鑑賞陶器」を制作しています。
 
 そこでご紹介したいのが、加守田章二(1933-1983)です。
 加守田は大阪府岸和田生まれ。1952年に京都市立美術大学工芸科陶磁器専攻に入学し、富本憲吉(教授)、近藤悠三(助教授)らに学びました。卒業後日立製作所の日立大甕(おおみか)陶苑の技術員、益子の塚本製陶所の研修生を経て、1959年に益子で独立し作陶を始めます。当時オーソドックスな益子焼とは異なっていた意匠だった為、なかなか買い手が付きませんでした。そこへ偶然窯出しを見に来た浜田庄司に称賛され、地元の業者に注目されるようになります。
 1960年、結婚をしたころから次々と出品した公募展に入選をし始め、頭角を現しました。そして1966年に「日本伝統工芸展」に出品した「灰釉鉢」が文化庁の買い上げとなり、(現在は東京国立博物館蔵)翌1967年にその「灰釉鉢」が第十回高村光太郎賞を受賞しました。    
  陶芸家として受賞したのは、加守田が初めての快挙でした。陶芸界のみならず、美術界全体からも支持をされていたことが伺えます。
 1968年から岩手県遠野で試作品の制作を始め、翌1969年(44歳)には遠野で本格的に作陶を開始。私たちがよく目にしている「加守田章二」の作品は、ほとんどこれ以降のものです。遠野へ移ってからの作品は、加守田の思想、芸術性が一気に花開いたとも言えるでしょう。1983年に50歳で亡くなる前年まで作品を発表し続けました。81年には白血病と診断され、入退院を繰り返していた最中ですら作陶していたのです。また加守田は遠野へ移ってから毎年作風を変えていました。売れた後も惜しげもなく新たなものを作っていく。これが加守田が天才・鬼才とたびたび称される所以でしょう。
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 遠野初期の作品です。特にこの頃の作品は、世に出ることが少なく加守田の中でも評価の高い年代です。波状が器全体にまわっている炻器(せっき)から、彩陶(さいとう)という色彩豊かな作品群への転換は圧巻ですね。弊社でもほとんど取り扱ったことがないので、
ぜひ一度は間近で観てみたいものです。

1976縲€5縺、縺ョ繧ウ繝斐・_convert_20121029124255
  そして1976年のこの年は、個展毎に作風を変えています。上記②と③は白黒のハート形で同じ作品群に入れてもいいかもしれませんが、大きく分けて4種類制作されています。初期に比べ、より簡略化されデザイン的になってきています。加守田のデザインは波状や、ドット形、鱗文といった比較的柔らかい柄を炻器という力強い陶磁器に描いているのも特徴的ですが、ハート形まであったとは!驚きです。

加守田線文
  更に翌年からは有機的なデザインから、線文が現れ、さらに翌年は線で全体を覆う作品も登場しました。この青と白、黄色と灰色の縞がとても加守田らしいと感じます。
やはりこの薄青はなかなか他の作家の作品では観ることができません。寒色であるにも関わらず、質感や模様により冷たい印象が和らいでいます。

加守田晩年
 そして晩年です。線文も円を成し、82年でも使用されている緑釉が80年から使われ始めており、器全体に釉薬を掛けています。また新たな作風へ移り変わる様子だっただけに、早世してしまったのは非常に残念です。

 加守田章二の作品が放つ存在感は独特なものがあります。「孤高」という言葉を使いたくなるほど力強く、他の作家とは一線を画しています。
 
 弊社の近代陶芸オークションでも、毎回必ず一点は出品されるような作家です。ぜひ一度ご鑑賞ください。また作品集も多く出ておりますので、作風の変遷を秋の夜長に眺めてみてはいかがでしょうか。


(執筆者:E)

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西洋美術オークション下見会

 こんにちは。朝晩もめっきり涼しくなり、街もすっかり秋めいてまいりました。毎年10月といえば、そうです、弊社では西洋美術オークションのウィーク!今回もバラエティーに富んだ品揃えで全393ロット、作品たちが皆様のコレクションの一つとなれるよう真心込めて展示しております。
下見会ブログ用
下見会場風景


 今回は、その中から私平野が個人的に気に入っているものを数点ご紹介したいと思います。
 まず1点目は、象徴主義の画家としても知られるベルギー生まれの、Henri Privat-Livemontによる「彫刻家/画家」のリトグラフ2点組です。リヴモンは数多くのポスターを手掛け、その作風から「ベルギーのミュシャ」とも評されています。繊細でやわらかなタッチで描かれた女性や象徴化された植物の背景など、典型的なアール・ヌーボー様式のこの作品、芸術の秋に飾るにはまさにうってつけだとは思いませんか?
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lot207 Henri Privat-Livemont 「彫刻家/画家」2点組
シート:各70.5×52.0cm
エスティメイト¥100,000~¥200,000


 2点目は、Ernest Sanglan作「ブロンズ彫刻蟹文インクスタンド」。こちらも同じくアール・ヌーボー期のフランスの作家。貝殻のトレーをベースに海草の上でエビをとらえた蟹の甲羅が、ブロンズの質感と相まって非常にリアルに描写されています。なんだか明治の陶芸家、宮川香山の作品を連想してしまうのは私だけでしょうか?甲羅を空けると中にはカニ味噌…、ではなくインク壷があります。現代ではインクをお使いになる方も稀かと思いますが、インクスタンドとしてではなく小物入れとしても使用できますし、大切なものは甲羅の中にそっとしまっておいて“蟹さんに守ってもらう”、というのはいかがでしょう?
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lot229 Ernest Sanglan 「ブロンズ彫刻蟹文インクスタンド」
W22.6cm 見込みに銘
エスティメイト¥50,000~¥100,000


 3点目に紹介したいのは、何とも素朴な味わいのあるミュージカルチェア。一見ただの小さな子供用の椅子に見えますが、座面の内部に小さなオルゴールが仕込まれており、座ると可愛らしい音楽を奏で始めます。金彩のかかった花の模様には手彫りの温かみが感じられ、以前にはどこかでフランス人形が腰をかけていたのかなぁ、などとつい想像を巡らせてしまいます。
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lot306 ミュージカルチェア
H65.0×W28.0×D27.5cm
エスティメイト¥50,000~¥100,000



 オークションというと、高額な作品や希少性の高い作品などに注目が集まりがちではありますが、今回ご紹介した3点は、いずれも落札予想価格下限が10万円以下の作品です。普段からあなたのそばで愛玩できるお気に入りの1点、今週の西洋美術オークションで見つけてみませんか?

オークション・下見会のスケジュールはこちらから
皆様のお越しを心よりお待ちしております。

(平野)

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10月の誕生石 オパール

こんにちは。空を流れる淡い雲が、秋の訪れを感じさせます。一年のうちでも過ごしやすいこの季節、食に、読書に、運動に、存分に秋を満喫したいですね。
今週末はBAGS/JEWELLERY & WATCHESオークションを開催します。下見会は3日(水)からですので、是非お越しください。
さて今回は、10月の誕生石「オパール」についてご紹介します。

「それはまるで、赤や緑や青や様々の火が烈しく戦争をして、地雷火をかけたり、のろしをあげたり、又いなづまが閃いたり、光の血が流れたり、さうかと思ふと水色の焔が玉の全体をパッと占領して。今度はひなげしの花や、黄色のチュウリップ、薔薇やほたるかづらなどが、一面風にゆらいだりしてゐるように見えるのです。」
宮沢賢治は著書『貝の火』の中で、オパールについてこう言及しています。まるで自分が美しい色彩の世界に漂っているかのように思わせるこの描写は、オパール独特の煌めきと特徴を見事に表現しています。オパールは、一つの石の中にいくつもの色が共存する、魅惑的な美しさを持つ宝石です。見る角度によって色が変わったり、内部で虹色の光がちらついたりする「遊色効果」は、実は非結晶体である石の内部が、シリカゲルのような球状の粒子の集合体であるために現れます。ほとんど同じ大きさの球状粒子の集合ですが、ほんの少し小さい粒子では紫、中間が緑、少し大きな粒子では赤といったように、粒子のサイズに対応して波長が変わった反射光が、様々な色となって私たちの目に入ってきています。
『貝の火』では、主人公が与えられたオパールは、最後には曇って砕けてしまいます。さすがは鉱物が大好きだった宮沢賢治ですね。オパールの脆さまでしっかり作品に入れ込んでいます。オパールは水分を含んでいるため、熱や乾燥によって曇ったり、亀裂が入ったりしてしまうことがあります。弊社の下見会にいらした事のある方の中には、オパールが入っているショーケースに、水を張ったグラスが置いてあることに気付かれた方がいらっしゃるかもしれません。現在では、ある程度の水抜きに耐えた石のみが市場に出されていますし、そもそも高温多湿な日本では、普通に取り扱っていて割れることはほとんどありません。しかし、ショーケースに陳列する際は、石がライトによって熱せられ、乾燥してしまわないよう、念のために水を置いているのです。

そんなオパールですが、弊社オークションでは大きく分けて4種類のオパールが出品されています。オパール・ブラックオパール・ボルダーオパール・メキシコオパールです。
10月6日開催のBAGS/JEWELLERY & WATCHESオークションに出品されるものの中からいくつかをご紹介します。

< オパール>
弊社がオパールと表記しているものはライトオパール、或いはホワイトオパールとも呼ばれ、地色(ボディーカラー)が乳白色から白色のオパールのことをさします。
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LOT273 オパール ダイアモンドリング
エスティメイト¥100,000~¥200,000


< ブラックオパール>
ブラックオパールはその名の通り地色が黒いため、ライトオパールに比べて遊色効果が際立ちます。日本人は特にブラックオパールを好む国民だと言われ、最近まで産出量の半分以上が日本に輸入されていたと言われています。
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(左)LOT276 ブラックオパール ダイアモンドリング
   エスティメイト¥150,000~¥250,000
(右)LOT277 ブラックオパール ダイアモンドリング
   エスティメイト¥150,000~¥250,000


< ボルダーオパール>
ボルダーオパールはしばしばブラックオパールと似ているものも見かけますが、母岩がオパールの一部となっているところに特徴があります。そのため石の裏面には褐色の母岩が確認できます。
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LOT278 ボルダーオパール グリーントルマリンペンダントトップ
エスティメイト¥50,000~¥100,000


< メキシコオパール>
メキシコが産地で地色がオレンジ~赤色のオパールをファイアオパール、水色~無色透明のオパールをウォーターオパールと呼び、それら2つを合わせてメキシコオパールと呼びます。メキシコオパールは他のオパールに比べて透明度が高く、品質の良いものは、まるで水面に映る虹や夕日のような瑞々しい美しさを持っています。
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LOT349 メキシコオパール ダイアモンドリング
エスティメイト¥120,000~¥200,000


何れのオパールも、一般的に赤色の光を持つものの価値が高いと言われています。しかし、遊色のバランス、モザイク模様の大きさ、輝きの冴え、地色の明度など、美しさを決める要素が多々あるのがオパールです。二つとして同じ輝きを持つ石はありませんので、ご自身の目で見て惹きつけられる一石を選ばれると良いと思います。今回のオークションでは、上記以外にも出品されます。是非お手にとってそれぞれの個性をお楽しみください。

下見会・オークションスケジュールはこちら

皆さまのお越しを心よりお待ちしております。

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