オークションの舞台裏 ‐オークショニア3‐
こんにちは。先週のワインオークションにご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。
前回の「オークショニア2」よりしばらく間があいてしまいましたが、今回はいよいよオークション本番でのオークショニアの仕事振りをご紹介したいと思います。
オークショニアが壇上に登場するのは通常オークションが始まる1~2分前。マイクの位置を確認し、ハンマーやペンなど手元周りを整えます。そして会場内を眺め、常連のお客様がどちらに座っていらっしゃるか?新規のお客様は?など会場の様子を大まかに頭に入れておきます。
近代美術も務める馬場オークショニア
いざ開始時刻になると、会場にいるスタッフが開始OKの合図を送ってくれます。合図を受けてオークショニアがまず始めにやるのがマイクの確認。ハンマーを軽く2、3回コンコンと叩き、開始前のざわついている会場の注意をひきます。そして後方のスタッフに向け、「オークショニアの声は聞こえますか?」と確認をします。このときにしばしば後ろに座っている親切なお客様が応答してくださる時もあります。
マイクの確認に続いて、オークションに関する説明を行います。これは、オークション中の注意事項、競り上げの幅、お支払金額や方法、お引き取り方法、そして出品取り消しロットなど、オークションによって多少異なりますが、合わせて十数項目にもなります。常連のお客様にとっては毎度おなじみの話かと思いますが、どれも重要なインフォメーションですので、参加される方には是非聞いていただきたいものです。私の場合、この説明が滑らかに喋れるかどうかでその日の調子を自分で占ったりするときもあります。
説明が終わるとすぐさまオークション開始。競りに入るとオークショニアは、会場はもちろんのこと、書面ビッド、電話ビッド、手元の台帳などを見ながら1ロット約30秒~1分程度で競っていきます。しかもその間はひたすら金額を言い続け、かつ、どのビッドがいくらで競っているかを会場全体に示さねばなりません。以前のブログでも紹介した研修の成果がここで発揮されるのです。
シンワ唯一の女性オークショニア、長オークショニアです。
1ロットに30秒と言うと、はじめての方にとっては競りのスピードはかなり早く感じられるかもしれません。そんなに早くて競り間違えたりしないのか?と思われる方もいらっしゃるかと思います。しかし、来場されて参加された方ならおわかりかもしれませんが、実は競りの最中にはオークショニアとビッダーの間に見えないコミュニケーションが行われています。オークショニアはビッドを取る際に必ず「この方は競っているかな?」とビッダーの表情を絶えず確認しており、またビッダーもほとんどの方が壇上のオークショニアを見つめていて「私競っていますよ~」という表情をこちらに返してくれます。そして、それに対してオークショニアは「あなたですよ」という意思を目で訴えながらビッドを取っているのです。中にはパドルではなく手や指でビッドする方や、時にはうなずくだけというような微妙な動作でビッドの意思表示をする方もいらっしゃいます。そのような場合は、ますますこの無言のやりとりが重要な意味を持ってくるのです。
また、大勢の方が同時に競っている場合には、オークショニアが取っていないビッダーに対してもできるだけ目線を送り「あなたが競っているのをわかっていますよ」というメッセージを伝えるようにしています。テンポよく競り上げていく間にも、オークショニアと会場、そして書面・電話ビッド席との間には無言の意思疎通が行われているのです。
数あるロットの中には、事前の人気が高い注目のロットや、その日のメインとなる高額のロットがあります。さりげないようでいても、そんな時はやはりオークショニアも力が入ります。注目度の高いロットが来ると、どれくらい競り上がるか?誰が競るのか?興味津々、ドキドキわくわくといった雰囲気になり、会場内もざわついて落ち着かないムードが漂います。そんな時オークショニアは、声を発する前に一口水を飲んだりして自身の興奮を鎮めるとともに、会場を少しだけ落ち着かせたりしてから始めます。そして、通常よりもややゆっくり競り始め、競りが激しくなるとともに競りの調子も上げていきます。その結果、最終的に1対1の激しい応酬ののち予想以上に競り上がった時などは、壇上でハンマーを叩いた瞬間得難い充実感を感じます。もちろんそれは、営業努力やカタログ製作チームの頑張りなど社員全員の力で成し得た結果ですが、その最終目的のための最後の要素としての役割を果たしたことに、私はオークショニアとしてのやりがいや喜びを感じております。
これが私。
以上、3回にわたりオークショニアについてご紹介してまいりましたが、実際のオークションでは実にさまざまな状況が生まれます。そんな時オークショニアはどの様に対応しているのか、このオークショニアのテンポは?声は?表情は?などにも注目して各オークショニアを見比べてみても面白いかもしれません。そして、弊社オークショニアにも気軽に話しかけていただき、良いことでも悪いことでもその感想を伝えていただけると幸いです。今後も、お客様により気持ちよく楽しんで競りに参加していただけるよう、よいオークショニアとはいかなるものか、どこまでも突き詰めていきたいと考えております。
(平野)
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月別アーカイブ: 2013年2月
「陶器」と「磁器」
陶器と磁器
こんにちは。
突然ですが皆さん、陶芸作品はお好きですか?私は陶芸を勉強していく中で一番最初の大きな「?」がこの問題でした。美術品の良さがどうしたらわかるのだろう?と。
そこで今回は、陶芸作品を鑑賞する上での最も大枠、「陶器」と「磁器」について説明してみようかと思います。一度見方が分かると、あれよあれよという間に陶芸に興味を持てるかもしれません!
まず、「何焼か」という判断はというと、・・・ほぼ見た目です。
陶芸は生産地によって釉薬や土が違うので、見た目でどこの土地で作られたかおおよそ判断できます。でも、いくつも見ないと系統が分からず、ややこしいですね。しかも土や釉薬は簡単に運ぶことができるので、最近では「○○の土」としてホームセンターなどで売られていたりします。なので「○○焼」というより、「○○焼き風」と言ったものも多いようです。実際に多くの種類の陶芸作品が生まれ、どこの焼き物か分類できないものまで増えてきています。
そこでまず、もっともシンプルに、且つ大胆に「陶器」と「磁器」に分類してみましょう。
たとえば、「楽焼」「備前焼」などは「陶器」に、「有田焼」「九谷焼」は「磁器」に分類されます。
「陶器」は「土もの」とも呼ばれ、釉薬を掛けず素地を焼成して完成だったり、土の中に含まれる石がそのまま表面に出ていたりします。比較的低温(800℃~1000℃)で焼かれ、吸水性も高いことが特徴です。
反対に「石もの」とも呼ばれる「磁器」は、白い素地でなめらかな陶土で成形され、高温(1200℃~1500℃)で焼いた硬質で吸水性の低い焼き物のことをいいます。叩くと「キーン」という金属音が出るのも特徴的です。
前者は朴訥とした温かみを感じ、後者は洗練された美しさを感じます。これはその土地で「採れる土」で決まります。中国では古くから磁器の代表とも言える青磁が作られてきました。世界的に最も価値があるのは、南宋時代に作られた砧青磁かもしれません。日本では豊臣秀吉の時代に朝鮮から李三平(り さんぺい)という陶工が連れてこられ、現在の佐賀県有田市で磁器の作れる陶土を発見し有田焼が作られ始めました。その後有田では、色絵磁器が江戸の絢爛豪華な元禄文化を反映し花開き、さらには輸出され、ヨーロッパで柿右衛門様式として模倣されるようにまでなったのです。
磁器は硬質で型を使い作れることからも、湯飲みや茶碗など量産品としても多く生産されます。そしてこれまで述べたように静謐で気品あふれる作品を生み出すことができるのも磁器です。
一方陶器は、江戸初期の茶人・古田織部が作らせた歪んだ美を持つ「織部焼」、千利休の千家が認めた茶碗師・樂家の焼く「楽焼」という形で日本の茶の湯とともに、発展していきました。もともと中国から伝わってきた茶の湯は「唐物」と呼ばれる中国製の高価な茶道具が好まれてきましたが、利休が考案した「わび茶」と呼ばれる簡素な茶の湯が広まっていくにつれ、唐物ではなく欠けた水指や茶碗などが「美」として認識されていったのです。それを表現しやすかったのが、磁器ではなく陶器だったのでしょう。
このように陶器と磁器は、相反するような特徴を持っているのです。
そうは言っても、作品の見方が難しく、良さを理解することもなかなか簡単ではないのかもしれません。それでも、例えば「きりっとした派」か?「ほのぼの派」か?どちらが好きか、まずは選んでみてください。そしてさらにその中でどのような種類が好きかなぁなどと考えながら触れていくにつれ、生産地がだんだん分かりだし、陶芸の楽しみ方が少しづつ分かってくると思います。
瀬戸物屋さんで売られている大量生産の磁器だけでなく、美術品としての「陶磁器」の世界に一歩足を踏み入れてみてはいかがでしょう?
(執筆者:E)
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