月別アーカイブ: 2010年7月

【上海万博】会場を彩る野外アート①

 上海万博が始まってもうすぐ3カ月。早くも折り返し地点を迎えようとしています。
梅雨が明けて猛暑が続いているのにも関わらず旅行客は日を追うごとに増えており、入場者数はすでに3000万人を突破しました。
 
 さて、万博会場内では、奇抜なデザインのパビリオンを見て歩くだけでも楽しめるのですが、各パビリオンに設置された野外アートの他、会場内のあちこちにも彫刻作品が設置されており、それらを発見する楽しみも味わうことができます。

 フランス館では、パビリオンの入口周辺の池に中国人アーティスト厳培明(yan pei ming)の作品、≪Enfants de Shanghai≫が展示されています。厳培明は上海出身、フランスで約30年間活動しており、オークションで高額落札されるアーティストとしても知られています。池に浮かぶように設置された作品は、子供の笑顔や泣き顔など様々な表情がすべてモノクロで描かれており、入場を待つ観客に親しみを感じさせる雰囲気が漂っています。
 日本産業館のトステム株式会社のブースでは、推定3億円ともいわれるアニッシュ・カプーアの黄金の門をモティーフにした作品が展示されており、話題を集めています。

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厳培明 ≪Enfants de Shanghai≫


 また、会場内の各公園や、中国館付近にある中央の通りには中国、アメリカ、オーストラリア、日本、フランス、イタリアなどのアーティストによる合計36体の彫刻作品が設置され、その一部は万博閉幕後も永久に展示されます。

日本からは藤井浩一朗の≪父子情≫が万博公園内の川のそばに展示されています。これは約2mの透明アクリルによる作品で、「浦江城市―上海 生命的紐帯(川沿いの都市―上海 生命のつながり)」をテーマに制作されています。

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藤井浩一朗 ≪父子情≫ 


 「世博軸」と呼ばれる万博会場中心に位置するアーケードには、19作品が設置され、それらと記念写真を撮影する観客の姿が目立ちました。
今回の上海万博のシンボル的建築物である中国国家館を背景に設置されているのはジュリアン・オピーの作品です。LEDが用いられ、電光パネルの中を等身大の人がそれぞれの方向へ歩いていく、ユニークな作品となっています。

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ジュリアン・オピー≪Jennifer walking, Orange≫他


 続いて、中国のコンテンポラリーアートにおいて、ポリティカル・ポップを代表する作家として世界的に人気が高い王広義(Wang Guangyi)の作品≪水・東風・金龍≫は、鉄製の車をモティーフにしています。1958年、中国で最初に生産された乗用車は毛沢東の言葉「東風圧倒西風(東風が西風を圧倒する)」から「東風金龍」と名付けられ、毛沢東が中南海で試乗したといいます。このエピソードをもとに制作された本作品は、王広義作品の特徴である、社会主義的な理想への複雑な思いが垣間見られるのではないでしょうか。

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王広義 ≪水・東風・金龍≫

(執筆:M)

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近代美術下見会@銀座

 いよいよ夏本番となってまいりました。今年も猛暑が続きそうですね。
今週は銀座で7月近代美術の下見会を開催しております。
今回は150ロットと出品作品数が多いため、久しぶりに作品が所狭しと並んでいます。

1Fは日本画と外国絵画のフロアです。

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日本画ゾーンです。
今回は杉山寧のオリジナル版画原画をはじめ、東山魁夷、平山郁夫、加山又造など、
人気作家の作品が充実しています。


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外国絵画はこちら。
シャガールやルノワールはぜひ会場で実物をご覧ください。


B1Fは日本洋画のフロアです。

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荻須高徳やレオナール・フジタの作品がたくさん出品されます。

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 今回も長谷川利行の名品がずらり。
 余談ですが、夏といえばビールのおいしい季節です。利行がこの作品を描いた時代は、ビールが日本酒の消費を抑え、最もメジャーなお酒になろうとする頃でした。絵を売ったお金はすぐに酒代に変えてしまったという利行も、ビールを好んだのでしょうか…。
というわけで、今日はこちらの作品をご紹介いたします。


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101 長谷川利行(1891-1940)
《麦酒工場》
45.0×52.6cm
キャンバス・油彩 額装
1928年頃作
木村東介シール
東京美術倶楽部鑑定委員会鑑定証書つき
エスティメイト ¥3,500,000~4,500,000


 威風堂々たる近代建築のビール工場を描いた作品です。
関東大震災の後の東京では、こうした鉄とコンクリートの巨大な造形物やモダンなビルが次々に建設されました。利行はそれらに強い関心を抱き、ガスタンクや駅、工場などをしばしば描きました。
 本作品は、当時、隅田川にかかる吾妻橋を隔てて浅草の対岸にあった、大日本麦酒株式会社の吾妻橋工場をモチーフとしたものです。この建物は現在は取り壊され、この場所にはアサヒビール本社が建っています。強い正面性や尖塔を思わせる煙突などの描写は、あたかもそれがパリの街角に立つ教会であるかのような、利行の西洋的なものへの興味を窺わせます。

7月は久しぶりの近代美術オークション単独開催となります。
毎日うだるような暑さですが、ぜひ銀座での下見会、丸ビルでのオークションにお出かけください。
みなさまのお越しを心よりお待ちしています。


(執筆:S)

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PartⅡ下見会@銀座

こんにちは。
シンワの7月のオークションは、「JEWELLERY&WATCHES・近代美術PartⅡ」(17日・土)と、「近代美術」(24日・土)に分けて開催いたします。

「JEWELLERY&WATCHES・近代美術PartⅡ」の下見会を、銀座・シンワアートミュージアムにて現在、開催中です。
JEWELLERY&WATCHESが167点、近代美術PartⅡが383点という多数の作品が出品される今回のオークション。本日は、その中からいくつかの作品をご紹介したいと思います。

まず、日本の戦後美術を代表する前衛芸術家、斉藤義重(1904-2001)の作品です。
ご覧下さい。
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Lot 754 斉藤義重
《ドリル(青)》
17.1×13.3cm(40.3×36.7cm)
合板(ドリルを使用)・油彩 裏に署名
★¥250,000~¥500,000

斉藤義重(1904-2001)は、日本のコンテンポラリーアートのパイオニア的な作家です。早くから抽象表現に取り組み、1960年第30回ヴェネチア・ビエンナーレに出品、グッゲンハイム国際美術賞展で優秀賞を受賞するなど、国際的にも高く評価されています。
《ドリル(青)》は、斉藤の代表的なシリーズのひとつ、電動ドリルを使用した作品です。ドリルで板に点や線を刻み、青の絵具を塗って仕上げることで、作品は絵画と彫刻、平面と立体という境界を越えています。また、制作の際、斉藤はドリルで板を刻むという行為を大切にし、その過程も作品の一部と考えました。こうした前衛的でユニークな作風は、制作からおよそ50年がたった今も新鮮で刺激的な感覚を与えてくれます。

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Lot 838 清水多嘉示 「裸婦」
H50.0×W15.6cm / 下部に銘 共箱
★¥100,000~¥200,000

1923年絵画を学ぶためパリに渡った清水多嘉示(1897-1981)は、「サロン・デ・テュイルリー」でオーギュスト・ロダンの高弟、アントワーヌ・ブールデルの作品と出合い、強い感銘を受けました。その影響で彫刻家に転向した清水多嘉示は、レオナール・フジタ、イサム・ノグチ、小山敬三らとの交遊を持ちながら、エコール・ド・パリの日本人作家、第1世代として堅実な制作活動を続けます。
余談ですが、1949年、当時武蔵野美術大学で教鞭を執っていた清水多嘉示は、韓国からの留学生、權鎭圭(コン・ジンギュ、1922-1973)と出合い、今度は師匠の立場でコンに強い影響を与えるようになります。コンは、韓国では天才彫刻家と称された作家で、昨年には、日本の東京国立近代美術館・武蔵野美術大学、そして韓国のソウル市立美術館での回顧展が大々的に開催されました。日本の彫刻家の第1世代である清水多嘉示、そして、韓国の彫刻家の第1世代となるコン・ジンギュ。ブールデルからコンまでのこのような縁の繋がりは、まさに「美術史」そのものと言えるでしょう。
作品《裸婦》は、力を抜いた自然なポーズ、胴体から漂う生命感、そして夢見るようにどこかを見つめる女性の視線までを、よく捉えた肉感溢れる作品です。

そして最後に、草間彌生の版画コレクションをご紹介いたします。

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Lot 536 草間彌生
《ハンドバッグ》
シート53.3×61.1cm
下余白にサイン・Ed.90/100
草間彌生全版画集No.80(阿部出版株式会社)
★¥50,000~¥100,000

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Lot 525 草間彌生
《富士》
シート55.2×68.7cm
下余白にサイン・Ed.23/75
草間彌生全版画集No.24(阿部出版株式会社)
★¥50,000~¥100,000

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Lot 531 草間彌生
《金魚》
シート53.4×60.9cm
下余白にサイン・Ed.19/100
草間彌生全版画集No.80(阿部出版株式会社)
★¥50,000~¥100,000

今回の「JEWELLERY&WATCHES・近代美術PartⅡ」では草間彌生の42点の見事な版画群が皆様をお待ちしています。色鮮やかなこの作品たちは、彼女のモチーフとしてよく知られる南瓜・帽子・ネットから、富士・貝・金魚など、ちょっと珍しいモチーフまで、草間のファンである方々にはとても楽しむことができる内容です。それにエスティメイト¥50,000~¥100,000、¥80,000~¥150,000という魅力的なお値段は、今度こそ草間を手に入れることができる絶好の機会になるかもしれません。

皆様のお越しを心よりお待ちしております。


<執筆:W>

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ルノワールとセザンヌ~7月近代美術オークションの印象派

“印象派Year”の今年は、マネからモネ、ルノワール、ポスト印象派のゴッホやゴーギャンまで、世界中から集められた名品を国内の美術館で観ることができます。雑誌でも印象派を特集したものをよく見かけますね。
シンワの7月の近代美術オークションにも、印象派の巨匠2人の作品が出品されます。今日はそれらをご紹介いたします。

まずはこちら。

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Lot.148 ピエール=オーギュスト・ルノワール(1841-1919)
《横たわる少女》
33.0×41.1cm
キャンバス・油彩 額装
1890年作
右下にサイン
Francois Daulte鑑定証書つき
Ambroise Vollard,Pierre-Auguste Renoir,San Francisco,1989,P.46 №181ほか掲載
エスティメイト ★ \40,000,000.~60,000,000



 印象派を代表する画家のひとり、ルノワールは、フランス中西部リモージュの仕立て屋の家に生まれました。20歳の頃、国立美術学校に入学。同じ時期に通った絵画教室でモネやシスレーらと出会い、ともに革新的な絵画を模索していきます。戸外での制作を取り入れ始めると、眩いばかりの自然の光で画面を満たし、同時代を生きる人々の姿を生き生きと描き出しました。「印象派」と呼ばれた1870年代を経て、1890年代以降は女性美に情熱を傾けた円熟期の作風を展開します。

 円熟期に差し掛かる1890年頃に制作された女性像です。ここでは「真珠色の時代」と呼ばれるこの時期の特徴が見て取れます。
 それは、溶け合うようなタッチと柔らかな色調です。印象派の時代は、目で捉えた外光や空気の描写に重点が置かれていたため、モチーフはより明快なタッチと色遣いで表現されました。しかし、本作品では、少女を愛でるように優しく描き出し、その美しさを引き立てるように周囲の自然を簡略化して描いています。それゆえ、少女に光が当たっているのではなく、彼女の内側から輝きが放たれているようにも感じられます。
 そして、少女のふくよかな身体や赤く染まる頬もこの時期の特徴のひとつです。これは、梅原龍三郎など、日本の画家たちが憧れた女性像のスタイルでもあります。

 また、田園的なモチーフは、1880年代から取り入れ始めた題材ですが、晩年にかけてたくさん描かれるようになっていきます。パリで麦藁帽子が流行っていたから、というのもその理由のひとつですが、ダンスをする若者たちなど、時代の空気がよく伝わるようなモチーフの多かった印象派時代に比べ、ルノワールがより普遍的な美しさを求めていたためとも考えられます。


もう1点はこちら。

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(表)                           (裏) 

Lot.145 ポール・セザンヌ(1839-1906)
《樹木の習作》
紙面:15.8×15.7cm 画面:14.3×14.6cm
紙・水彩 額装
1885-1890年頃作
福島繁太郎箱
西洋美術名作展出品 1957年(京都市美術館/朝日新聞社)
三人展:セザンヌ・ルノワール・ルオー出品 1963年(新宿・伊勢丹/毎日新聞社)
John Rewald,Paul Cezanne,The Watercolors:A Catalogue Raisonne,Italy,1983,№278,catalogued P.150
エスティメイト \3,000,000.~4,000,000


 ピカソの「唯一の先生」、マティスにとっての「絵の神様」といえばセザンヌです。セザンヌは「近代絵画の父」とも呼ばれ、コンテンポラリーアートも彼から始まったと言って過言ではありません。
 セザンヌは、南仏エクス=アン=プロヴァンスの裕福な銀行家の家に生まれました。最初は法律を学びましたが、22歳のとき画家を志してパリへ。ピサロに出会い、印象派の絵画を制作していきます。後に再び南仏に移住し、静物画、風景画、人物画、それぞれの分野において自然の本質や永遠性を構築的に表現することを探究しました。その深い造形性は、キュビスムなどの20世紀美術に決定的な方向性を示したと言えます。

 1880年代、セザンヌはしばしば南仏レスタックやエクスを訪れ、風景画に取り組みました。代表作とも称される「サント=ヴィクトワール山」の連作もこの時代に描かれたものです。りんごの静物画のイメージが強いセザンヌですが、生涯制作した作品は風景画が圧倒的な数を占めています。
 本作品を描いた1885-90年頃、セザンヌは水彩画に精力的に取り組みました。印象派時代の風景画では、陽光が降り注ぐ樹木を揺らめくように軽やかなタッチで描いていましたが、この時期のセザンヌにとって樹木は画面構成上の重要な要素のひとつでした。それゆえ、均整のとれた配置で幹をしっかりと捉え、葉の茂みで空間にリズムをもたらしました。爽やかな色彩で描いた本作品においても、幹を中心に画面が構成されています。こうした構成への強い関心から、この時期のセザンヌがすでに印象派を超克し、円熟期を迎えていたことがわかります。軽やかな雰囲気の作品ですが、自然と向き合い、そこから受ける感覚をいかにして画面に実現させていくかという、セザンヌ芸術の根幹が垣間見られます。

これらの作品は10日は大阪で、21~24日は東京でご覧いただけます。

下見会スケジュールはこちら

印象派ファンのみなさまは展覧会とあわせてシンワの下見会にもぜひどうぞ!
みなさまのご来場を心よりお待ちしております。

(執筆:S)

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