尹秀珍、ニューヨークMOMAにて個展開催中


 今回は世界を舞台に活躍する中国人女性アーティストをご紹介します。

 中国のコンテンポラリーアート界を牽引する尹秀珍(イン・シウジェンYin Xiuzhen)。現在、ニューヨーク近代美術館(The Museum of Modern Art, New York 、以下ニューヨークMOMA)において1971年から続く「Projects」シリーズの92回目として、個展が開催されています(『Projects92:Yin Xiuzhen―Collective Subconscious』~5月24日)。尹秀珍にとって初のアメリカでの個展であるとともに、ニューヨークMOMAにおける中国人女性として初の個展である今回の展覧会。サイトスペシフィックなインパクトのあるインスタレーションで世界のアートファンを魅了しています。
 
 尹秀珍は1963年北京生まれ。1989年首都師範大学美術学院油画系を卒業後、中央工芸美術学院付属中学校で教鞭を執っていましたが、90年代初期より北京を拠点にインスタレーションやパフォーマンス、彫刻作品の制作等を行っています。2000年には中国当代芸術賞(CCAA)を受賞。中国国内で開催される各国際展(広州トリエンナーレ、上海ビエンナーレ等)をはじめ、主な国際展にアジアパシフィックトリエンナーレ(オーストラリア、1999年)、光州ビエンナーレ(2002年)、福岡アジア美術トリエンナーレ(2002年)、シドニービエンナーレ(2004年)、ヴェネチアビエンナーレ(2007年)等があります。ミュージアムピースも多く、日本では福岡アジア美術館、森美術館に所蔵されています。また夫である宋冬(Song Dong)も中国を代表するアーティストの一人であり、夫婦で活躍するアーティストとして知られています。

 文化大革命が始まる3年前に生まれ、激動の時代を体験してきた尹秀珍。彼女は自分の経験や記憶と時代との関係に関心を持ち、家族や生活環境など個人的問題を反映させる一方、中国現代社会を客観的に見つめ、社会の発展および都市化の過程を表現した作品を展開しています。代表的な表現方法として、古い衣服をつなぎ合わせたインスタレーションがあります。この衣服は世界中の異なる国や地域から集めてきた、かつて人が袖を通していたものであり、そこには人々のたくさんの物語が含まれています。同時に、無数の時代の痕跡と文化的特徴に関連しており、グローバル化した現代においても共通性のあるものだといいます。

 「現在、急速に変化し、発展を遂げる中国社会において、人々は考える時間すらなくなっている。だからこそ、人々にゆっくりと腰を落ち着かせて考えてもらいたい。」と語る尹秀珍は、アート界の成功者でありながら、北京の郊外に家族と共に静かに暮らしつつ、制作をしています。布という視覚的にも感触的にも柔らかい素材の中に、私的かつ社会的な問題を織り交ぜた作品は、中国国内に限らず、世界の多くの人々の共感を呼ぶのでしょう。

 中国人アーティストが世界で活躍している中、そのほとんどは男性が占めているように、中国アート界は未だに男性中心であるように見受けられますが、こうして女性アーティストの活躍も注目されるようになってきました。女性の社会進出が顕著な中国社会において、これからもその活躍の場が広がることを願ってやみません。
(執筆:M)


展覧会情報
『Projects92:Yin Xiuzhen―Collective Subconscious』
会期:2010年2月24日~5月24日
会場:ニューヨーク近代美術館 プロジェクトギャラリー
http://www.moma.org/visit/calendar/exhibitions/1034


Yin+Xiuzhen_convert_20100407193443.jpg
『飛行機』インスタレーション 2008(画像提供CCAA)
1520(l)x12 00(w)x353cm(h)