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川合玉堂《春渓帰牧》の意味

 麗らかな春の日差しが、卒業式帰りのはかま姿を照らしています。
 銀座で謝恩会でしょうか、昨日は華やかなスーツ姿のお母様方をよくお見かけしました。


 さて、一昨日は多数のお客様にシンワアートオークション創業20周年記念講演会にお越し下さいました。
ありがとうございました。

 美術評論家の浅野徹先生に、今週末のオークションに出品される岸田劉生、佐伯祐三、中村彝などを、大正時代の日本の美術に触れながらお話頂き、会場は熱心に耳を傾けられるお客様の熱気で溢れました。
 天気は快晴、日柄は大安と、記念行事には絶好の日和となり、盛況な講演会となりました。


 さて、今日は、春にちなんで川合玉堂《春渓帰牧》をご紹介します。

 この作品は、昭和15年(1940)、玉堂が67歳の時に描かれました。
この年、玉堂は紀元二千六百年奉祝美術展の委員を務め、後に彼の芸術を代表すると言われるようになった《彩雨》を出品しています。
 式典の当日、玉堂は文化勲章を受章し、作品は朝日賞を受賞したのですから、まさに玉堂が日本の国民的な作家として上りつめた時期に描かれた作品と言えるでしょう。

 本作品を制作した年、日中戦争の戦況はいよいよ激しさを増していました。玉堂は国民に向けて、このような一見平和な「春の風景」を描くことで何を伝えようとしたのでしょうか。
 67歳には大きな画面を活かして、のどかな春の田舎道がなだらかに描かれています。
 ここから感じられるのは日本の国土の美しさと、春の実りを待ちわびる気持ち、そして、「無事に家に帰る」ことの尊さです。


  「帰牧」とは、字の通り、作業を終えて帰る姿を指します。戦争に駆り出されていった一家の大黒柱たち、若武者たちが、ただ無事に家に帰ることを、この頃の日本人は何よりも強く願っていたことでしょう。それが玉堂一流の優れた構図の中に絶妙に表現され、感動的な世界が広がっているのです。

作品は明日まで、シンワアートミュージアムにて実物をご覧頂くことができます。

(執筆者:I)

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