月別アーカイブ: 2010年3月

上海アートスポット:紅坊国際文化芸術社区

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上海万博まであと約1ヶ月。相変わらず街のあちらこちらで開発や工事が続く中、空港の新しいターミナルのオープンや、新しい地下鉄の開通などインフラが整いつつあり、万博に向けて急ピッチで準備が進められているのを感じます。万博に合わせて上海へ、という方のためにも、今回は上海のアートスポット、紅坊国際文化芸術社区(通称紅坊、レッドタウン)をご紹介いたします。


紅坊は1950年代に造られた製鉄工場を利用したアートスポットです。46,000㎡の広々とした敷地内の中央には15,000㎡もの緑地が広がり、数々の野外彫刻が展示されています。そして緑地を囲むようにして、ギャラリーやアトリエ、美術館、カフェ、企業のオフィス等の建物が並んでいます。

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紅坊の中心を担う施設として、レンガ造りの建築を利用した「上海城市彫塑芸術中心」があります。展覧会用の広々とした空間と中小のオフィスやギャラリー、ブックショップ、絵画教室等が入居する棟で成り立っており、館内には立体作品が所狭しと展示されています。展覧会用の空間は、仕切りのない一つの空間でありながら、左右にある緩やかなスロープを昇ると2階へ、中央の階段を下がると半地下という構成になっており、スケールの大きな展示を体感することができます。
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オフィスが入居する館内のあちらこちらに彫刻作品が。

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アート関連の本屋や絵画教室が並ぶ

また2009年に民生現代美術館がオープンしました。これは民生銀行が創設した現代美術館で、アーティストの周鉄海が副館長を務めています。昨年夏に行われたオープニングの展覧会「熱身 WARM UP!」では、中国を中心としたアジアのアーティストの作品が展示されており、日本人アーティストでは金氏徹平やオノデラユキ、アキルミの作品が紹介されていました。その他、今月21日まで「未来総動員 英国文化協会当代芸術珍蔵展」と題して、イギリスのターナー賞受賞作家12名とノミネート経験者21名の展覧会が開催されており、ダミアン・ハーストやグレイソン・ペリー、ヴォルフガンフ・ティルマンス等イギリスを代表するコンテンポラリーアーティストの作品が紹介されていました。

その他、敷地内には独立した建築物のギャラリーも多数見られます。各スペースで美術や彫刻、デザイン関係の展覧会が開催されている他、文化、芸術関係のイベントなども随時開催されています。

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また以前ご紹介した上海のアートスポット、莫干山路50号とは対照的に、紅坊は中心地にほど近い場所に位置している上、古い工場と新しい建築物をうまく融合させてアートを中心とした一つの街を作り上げているといった印象で、初めて訪れる方にもわかりやすいのが特徴です。地下鉄の駅も比較的近く、さらに近々新しい路線も開通する予定とのことですが、現時点では観光地化されているというわけでもなく、静かでゆったりとした雰囲気が漂っています。万博の開催に合わせて各種展覧会やイベントも開催されるようなので、これからの発展が期待されるアートスポットといえるでしょう。


紅坊国際文化芸術社区
http://www.redtown570.com

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近代美術・一政・ジュエリー&ウォッチ下見会スタート

 本日よりシンワアートミュージアムにてJEWELLERY&WATCHES、中川一政コレクション、近代美術の、オークション下見会がスタートしました。

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SAM地下1F


<中川一政の書>
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 一政のパワフルな筆遣いの書で埋め尽くされた一角。

 現在、歌手の長渕剛さんが火付け役となって、若者の間でも書を楽しむ方が増えていると言いますよね。
 「技巧を用いず心で書け」と語ったという一政の書には、若い年齢層の方でも読みやすく、親しみやすい作品も多く並びます。


<日本画>
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 日本画の軸のコーナーには、奥田元宋の《水仙》(Lot11 落札予想価格30万円~50万円)がひときわ凛とした風情を湛えます。

 白い水仙は初春から花をつけるので、冬の季語ですが、本作品で描かれている黄水仙は3月頃の開花で、春の季語。ちょうど今の季節のお花です。
 本作品で花瓶に活けられた黄水仙は、台が描かれていません。無背景の中を浮遊し、超現実的な雰囲気を漂わせています。
 このような精神性の高い静物画からの学習は、やがて元宋の「胸中山水」と呼ばれる格調高い風景画を生み出していく糧となっていくのです。


<洋画>
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 1月のオークションで人気を博した長谷川利行作品。
 今回も、数々の展覧会に出品された名品が並びます。

 戦前、《靉光像》などで利行が脚光を浴びていた時期に二科展に出品した《子供》(Lot61 落札予想価格500万円~700万円)や、稀にみる力強い大作の《裸婦》(Lot62 落札予想価格800万円~1200万円)は、他と一線を画する優れた肖像画と言えます。

 今年は利行が亡くなってから70年の年に当たります。
 現在利行の作品が展示されているSAMから歩いて五分程の場所にあるカフェ・パウリスタで、利行はよく日銭を稼ぐために作品を描いていました。
 生前は経済的に恵まれず、「日本のゴッホ」とも異称された画家ですが、さて没後70年を経た今回のオークションではどのような評価が下されるのでしょうか・・・。

会場地図など詳細はこちら


※1月の近代美術オークションにお越しになったお客様はご存知の通り、1928-1929年に描かれた《カフェ・パウリスタ》は、1月に当社のオークションに出品され、520万円で落札されました。

(井上素子)

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浮世絵オークション見どころ2 名所絵

 226ロットもの浮世絵が集まった「浮世絵オークション」が3月20日(土)に開催されます。
今日はその中から、「名所絵」というジャンルについてご紹介します。


<名所絵とは>
 江戸の浮世絵師は美人画や役者絵ばかりでなく、伝統的な山水画や風景画も手掛けました。
 浮世絵の題材としては、初めあまり一般的ではありませんでしたが、葛飾北斎(下図)や歌川広重らが、西洋から輸入された遠近図法と山水画・風景画の伝統を結び付けて豊かな芸術性を発揮し、流行するようになりました。

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Lot337 葛飾北斎《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》
26.0×38.1cm
落札予想価格800万円~1100万円



<浮世絵の名所絵>
 特に江戸の後期には、旅行ブームに乗って「街道絵」と呼ばれる名所絵が人気を博しました。旅の体験をもとに、街道の風景を情緒あふれるイメージに描き出した作品は、現在でも世界から高く評価されています。

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Lot335 歌川広重 《保永堂版 東海道五十三次 五十五点揃》
各24.6×37.5cm
落札予想価格 500万円~800万円



<屏風形式の名所絵>
 浮世絵が誕生したのは17世紀後半のことですが、それを生みだすもとになったのは、16世紀から17世紀にかけて上方で流行した近世初期風俗画でした。
 それまで武家や富裕な町民が生活する屋敷で、公共空間を装飾する襖絵や屏風絵として描かれていた題材が、次第に私的な空間で鑑賞するようになっていくのです。

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Lot385 作者不詳《名所絵屏風 -上:和歌浦図-下:日吉山王祭礼図》
各110.0×267.0cm 紙本・彩色 六曲一双屏風
落札予想価格 1,400万円~2,000万円


 今回のオークションに出品されるlot385の名所絵屏風は、紀州徳川家の城下町として栄えた和歌浦、徳川家康とゆかりの深い滋賀の日吉大社での祭礼の各場面を、上空から見た鳥瞰図(ちょうかんず)形式で描かれています。

 和歌浦は万葉集にも歌われた景勝地で、紀州東照宮で行われる和歌祭は古くから有名でした。
日吉大社は日本全国にある日吉・日枝・山王神社の総本山として知られています。

 作者・由来など詳細は不明ですが、このように、徳川家との縁を感じさせる画題から推測すると、かつては武家にあったものでしょうか。

 細部まで緻密に描かれた、シンワアートオークションでも滅多に出品されない優れた屏風です。

浮世絵オークション日程など詳細

(井上素子)

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PartⅡ、中川一政コレクション、浮世絵下見会@銀座

今週は銀座で、近代美術PartⅡ、中川一政コレクション、浮世絵の下見会を開催しています。

エントランスを入っていただくと、
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全体像                   お顔は怒りを顕わにした「阿形」です


中川一政コレクションの《木彫 仏像》がお出迎えいたします。
平安後期の作と思われる本作品は、四天王のひとりですが、
左手に持っていたであろう持物が失われているため、
尊名は特定できません。
お顔の表情から、増長天もしくは持国天の可能性が高いです。


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こちらも一政コレクション。
今回の出品作品は書が中心となっています。
一政らしい味のある文字が壁中を踊っています。

そのほかにも、1Fには目黒雅叙園コレクション、肉筆浮世絵など、
日本画の名品がたくさん展示されています。

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こちらは目黒雅叙園コレクション。
目黒雅叙園さん旧蔵の日本画が14点出品されます。
目黒雅叙園さんでは、昭和3年の創業から戦時中まで、
活躍中の日本画家を大勢招き、建物内の壁や天井を彩る作品の制作を依頼したそうです。
作品を日展や院展に出品してから雅叙園さんに納めた画家も多く、
今回の作品に日展・院展の出品作が多いのはそのためです。


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lot.624 今尾景年《松菊白鵬図》、lot.625 野口小蘋《花鳥之図(松竹梅鴛鴦白鶴之図)》は、かつて明治天皇の御物となり、その後竹田宮恒徳王のご所蔵となった由緒正しき作品です。
天皇や皇族の方々が愛された、精緻な筆致と鮮やかな色彩をぜひ会場でご覧下さい。


下見会スケジュールはこちら


みなさまのご来場を心よりお待ちしています。

(執筆:S)

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浮世絵オークションの見どころ

 3月20日(土)、浮世絵や近世絵画など226ロットを集めた浮世絵オークションが開催されます(近代陶芸および近代美術パートⅡ(陶芸)オークションと同日開催)。
 東洲斎写楽をはじめ、葛飾北斎、喜多川歌麿、歌川広重、鈴木春信・・・と、優品ぞろいです!
今日はその中からいくつか見どころをご紹介します。


<初摺りと後摺り>
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Lot 326 歌川 広重《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》
初摺 36.7×24.8㎝
落札予想価格:700万~1100万円


 今回のオークションには、初摺りと後摺りの両方が、別のロットで出品されているものがあります。
 上図の歌川広重《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》は、風景画の名手・広重の代表的な作例ですが、Lot326は初摺り、Lot324は後摺りのものです。後摺りは落札予想価格150万円~250万円となっています。

 初摺りでは橋の上や川の中景にぼかしが入っており、タイトル部分に当たる「関防(かんぼう)」には二色のグラデーションが用いられています。また、黒くたちこめる雨雲の表現も、後摺りでは横に真一文字の表現に変えられています。


 広重の《名所江戸百景》のうち、「王子装束ゑの木大晦日の狐火」も初刷りと後摺りが出品されます。
 Lot322の後摺りは落札予想価格50万円~80万円、初刷りのLot325は同500万円~800万円です。

 東京都北区にある王子稲荷神社にまつわる民話をもとに作られた作品。大晦日の夜、榎木(ゑの木)のもとに数百の狐が集まって、装束を整え、参拝に行くというお話です。ユーモアと日本的なオカルト趣味が、味わいある高度な木版の技で表現されています。
 下見会ではぜひ実物を見比べて違いをお楽しみください。


<土佐派「中興の祖」、光起>

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Lot 384 土佐 光起《人麿図 後西天皇宸翰讃》
絹本・彩色 軸装 重要美術品認定 118.0×44.0㎝
落札予想価格:1200万~1800万円


 土佐光起(とさ・みつおき 1617-91)は江戸前期の画家です。
 江戸時代、幕府の御用絵師となった狩野派や住吉派に押され気味であった土佐派を、再び宮廷の絵師として高い地位にまで押し上げた、中興の祖と言われています。

 土佐派は室町時代からの長い伝統を持つ名門一族でしたが、江戸幕府が奥絵師として新興の漢画系である狩野派を召し抱えたため、光起の父の代までは京都を離れて大阪(堺)に活躍の場を見出していました。
 しかし土佐光起の活躍により、一家は再び京の地へ戻り、そこで貴族的で優雅・繊細な画風を確立したのです。

 本作品は「土佐派の絵画展」(1982年、サントリー美術館)に出品されたもので、三十六歌仙のひとり、柿本人麻呂を描いています。宮廷歌人を題材とした、いかにも土佐派らしい作品です。

浮世絵オークション日程など詳細

(井上素子)

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生誕120年 小野竹喬展レビュー

 3月2日(火)より東京国立近代美術館では「生誕120年 小野竹喬展」を開催しています。
 まだ寒さの残る展覧会初日、じっくり堪能してきましたのでご紹介致します。


(※会期終了のため画像を削除しました)

小野竹喬 《奥の細道句抄絵 田一枚植ゑて立ち去る柳かな》
1976年 京都国立近代美術館蔵


 明治22年(1889)に生まれ14歳で京都に出てから、昭和54年(1979)に89歳で逝去するまでの画業を辿ることができる、見ごたえのある展覧会です。
 初公開の作品が11点、本制作119点、素描52点が展示されています。



(※会期終了のため画像を削除しました)
小野竹喬 《奥の細道句抄絵 暑き日を海にいれたり最上川》
1976年 京都国立近代美術館蔵


 こちらは展覧会カタログの表紙ともされている作品。
 もとは作品に貼られていた直筆の句も、今回は別に展示され、見ることが出来ます。

 シンワアートオークションでも非常に高い人気を集め、男女を問わず愛されている竹喬の作品。
オークションでは、戦後の平明でパステルトーンの色調が美しい、いわゆる竹喬様式のものが出品されることが多いのですが、今回の展覧会ではそれは後半に展示されています。

 全てのキャプションに、制作年と年齢が表記されていて、このような様式美に到達したのが、50歳を過ぎてからなのだということを知り、驚きました。
 銀座の画廊の方々からは、日本画家の一生は長いとよく聞きますが、竹喬の作品からは、絵の味がゆっくりと深化していく様が手に取るように分かります。



(※会期終了のため画像を削除しました)
小野竹喬 《島二作(早春・冬の丘)》
1916年 笠岡市立竹喬美術館蔵


 《島二作(早春・冬の丘)》は、作品の中央にセザンヌのサント・ヴィクトワール山に似た山が描きこまれていたりして、従来はセザンヌや西洋絵画からの影響を受けた作品として解釈されてきたそうですが、今回の展覧会カタログでは今村紫紅から学習したものとの見方が指摘されていました。



(※会期終了のため画像を削除しました)
小野竹喬 《樹間の茜》
1974年 笠岡市立竹喬美術館蔵


 85歳のときに描かれた作品です。これについては画家自身がインタビューに答えており、珍しく制作する前に写生に行かずに描いたものとのことです。
 カタログでは、晩年に辿りついた心象風景画と位置付けられています。
 実際、非常に印象的な構成で、このような茜空を心に思い描くことの出来る画家の、粋な内面を感じさせる作品でした。


 小野竹喬展は4月11日(日)まで。
竹橋で春のお堀を眺めながら、お出かけされてはいかがでしょうか。


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 シンワブログをお読み頂いた方、5組10名様に抽選で「生誕120年 小野竹喬展」東京会場へのご招待券をプレゼントいたします。
 ご希望の方はご住所・ご氏名・お電話番号に「小野竹喬展招待券希望」の旨をお書き添えの上、お葉書で「〒135-0063 東京都江東区有明3-7-26 有明フロンティアビル B棟4階 シンワアートオークション株式会社 オークション事業部 シンワブログ担当」までお申し込みください(3月15日必着/葉書1通に付き2名1組様)。
 抽選の結果は発送をもって代えさせて頂きます。(頂いた個人情報は発送作業にのみ使用させて頂きます。)

(井上素子)



■■生誕120年 小野竹喬展 ■■

会場
東京国立近代美術館

会期
2010年3月2日(火)~4月11日(日)
会期中、一部の作品を展示替します。
前期:3月2日-3月22日
後期:3月24日-4月11日

開館時間
10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00)
※入館は閉館30分前まで

休館日
月曜日[2010年3月22日(月・振休)と3月29日(月)は開館]、3月23日(火)

観覧料
一般 1300円(900円) 
大学生900円(600円) 
高校生400円(200円)
※( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。
中学生以下、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。
※それぞれ入館の際、学生証等の年齢の分かるもの、障害者手帳等をご提示ください。

主催
東京国立近代美術館、毎日新聞社、NHK、NHKプロモーション

協賛
日本写真印刷、毎日ビルディング

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