月別アーカイブ: 2013年3月

桜満載・近代陶芸/古美術オークション

先週の織田広喜/近代美術/浮世絵オークションは、来場者数も多く、とても活気のあるオークションでした。ご来場頂いた皆さま、どうもありがとうございました。
今週末は近代陶芸/古美術オークションが開催されます。ぜひこちらへも多くのご来場をお待ちしております。

さて、桜満開の季節ですが、「花より団子」という皆さま、本格抹茶茶碗でお茶を楽しまれてみてはいかがでしょうか?今回は普段より多くの茶碗が出品されます。その数ざっと90点!
 会場1
こちらが近代陶芸

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そしてこちらが陶芸PARTⅡです。

  荒川豊蔵、井上萬二、浜田庄司、藤原啓、十二代中里太郎右衛門、坂田泥華、九代大樋長左衛門、そしてバーナード・リーチなどなど!様々な技法と作家により制作された品々が集まりました。中でも最も評価が高いのは、十五代樂吉左衛門の「黒茶碗」(LOT.122:エスティメイト:¥3,500,000~¥4,500,000)です。年始にNHKで特集が組まれ放映されていましたね。ご覧になられた方も多いのではないでしょうか?
千家の茶碗師・樂家当代の黒茶碗を実際に触れられる機会です。ぜひ間近でご鑑賞ください。

 そして古美術オークションからご紹介したいのは、土佐光芳「三十六歌仙歌合帖」です。
(LOT.159 エスティメイト¥1,800,000~¥2,800,000)
カタログには、一番「柿本人麻呂」と三十六番「中務」の部分を抜粋して載せてありますが、他に「桜」についていくつか詠まれている歌がありますので、ご紹介します。

紀貫之4
紀貫之
「桜散る 木の下風は 寒からで 空にしられぬ 雪ぞ振りける」
『春が深くなったと思うけれども、桜の花の散る木のもとは、まだ雪が降っている。』


『土佐日記』で知られる紀貫之の歌です。
桜の散る様子が、雪が降っているように見えるというなんとも綺麗な歌です。「空が知らない」とは、まさに詩人。
 そしてもう一人。「小倉百人一首」で「今こむと いひしばかりに なが月の 有明の月を 待ち出でつるかな」を
詠まれた方です。

素性法師4

素性法師
「みわたせば 柳桜を こきまぜて 都ぞ春の 錦なりける」
『はるかに都の方を眺めると、柳の緑と桜の紅とを混ぜ合わせた都こそ、
春の錦(あでやかで美しいこと)であることよ。』

 
これもまた、詠むだけで情景が浮かんでくるようですね。新緑と薄紅。古来から日本人の色彩感覚が
優れていたことがわかります。

 春を、また違った角度で楽しむことができるオークションへ、ぜひ足をお運びくださいませ。

今回は下見会、オークション開始時間が、いつもと異なりますのでご注意ください。

■下見会日時:
3月28日(木)・29日(金)/10時~18時
3月30日 (土)/9時半~11時半
■オークション日時:
3月30日(土)/15時~(受付は14時半開始)


(執筆者:E)

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杉山寧の抽象絵画―《林》

こんにちは。
16日(土)の近代美術PartⅡオークションにご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
この日、観測史上最も早いペースで東京の桜の開花が発表されました。
今週末には都心はもう見頃を迎えるそうなので、お花見の後はぜひオークションにお立ち寄りくださいね。

では、23日(土)の出品作品の中から1点ご紹介します。


【オークション終了につき、作品の画像は削除させていただきました】


181 杉山 寧《林》
188.0×147.0cm
麻布・彩色 額装
1961(昭和36)年作
共シール
東京美術倶楽部鑑定委員会鑑定証書付
展覧会歴:第4回新日展(1961年・東京都美術館)ほか多数
文献:『現代日本の美術 第8巻 杉山寧』(1977年・集英社)ほか多数
エスティメイト ★\20,000,000~40,000,000


 今年は杉山寧の没後20年にあたり、現在各地で展覧会が開催されています。
皆様はもうご覧になりましたか?
杉山の大規模な展覧会が開催されるのは、なんと17年ぶりとのこと。会場の一つ、日本橋高島屋は連日たくさんの人で賑わっているそうです。

 杉山寧(1909-1993)は、東京生まれ。東京美術学校在学中に帝展で入選、その後首席で美校を卒業し、注目の若手作家として華々しく画壇デビューを飾りました。松岡映丘に師事する一方、同門の画家たちと「瑠爽画社」(るそうがしゃ)を結成し、新しい日本画の可能性を積極的に追求していきます。初期の写実的な作風から、戦後は抽象表現を経て、エジプトやカッパドキアの風物、裸婦や花鳥など、様々なテーマに卓抜した造形感覚と描写力を発揮しました。1974(昭和49)年文化勲章受章。

 杉山の画業において、ひときわ異彩を放つテーマといえば、1959(昭和34)年から1962(昭和37)年にかけて制作された抽象表現でしょう。
 この時期に欧米から伝わったアンフォルメルや抽象表現主義の流行に敏感に反応したものとも考えられますが、抽象に至る数年間の作品に造形や象徴的な空間づくりへの意識が次第に高まっていく様子が見られるため、むしろ必然的に辿りついたものなのかもしれません。それは伝統的な日本画の情緒的・文学的な要素を徹底的に排除した、純粋な造形表現による絵画であり、日本画家の枠を超えた画家であろうとする杉山の強い意志表明とも言えるものでした。

 1961(昭和36)年(当時52歳)に制作された本作品は、同年の第4回新日展出品作。その完成度の高さから一連の抽象表現の到達点とも評されています。画像では伝わりにくいのが残念ですが、縦188cmという大画面を覆い尽くす重厚な絵肌の迫力は圧巻です。
 こうした抽象絵画は、自然から受けたイメージを象徴的なフォルムにまで高めるという手法で描かれていますが、伝統的な日本画が題材としてきた日本特有の風景を描いたものは一点もありません。本作品では木々が絡み合うようにして立ち並ぶ林のイメージを太い描線で表しており、まるでその隙間から光が差し込んでいるかのように背景の中央付近をやや明るく描くことで、描線は樹木が天へと伸びていくような生命感を感じさせます。
 また、岩絵具に細かい砂などを混ぜた堅牢で重厚なマチエールは、自然を抽象化する過程で見出されたもので、画面に造形の力強さと喚起力、神秘性をもたらしています。こうしたマチエールはこの後の杉山芸術の大きな特徴となり、これを支えるために、本作以降の作品では支持体に麻布が使用されるようになりました。実際の風景と画家の心象とが溶け合う象徴的な画世界が完璧なまでに表現された作品であるとともに、杉山芸術の確立を示すターニングポイントとしても貴重な一点と言えるでしょう。

その圧倒的な存在感をぜひ会場で体感してください。
下見会・オークションスケジュールはこちら

《林》をご覧になった後はこちらもどうぞ。
「杉山寧展」 日本橋高島屋 (~3/25 その後全国巡回)
「杉山寧とポーラ美術館の絵画」 ポーラ美術館 (~7/7)

みなさまのお越しを心よりお待ちしています。

(佐藤)

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