カテゴリー別アーカイブ: 近代陶芸

秋の陶器市へ

こんにちは。

だいぶ涼しくなり、過ごしやすくなってきましたね。秋の行楽シーズンも間近といったところでしょうか。
 
 さて、春先にご紹介した陶器市に引き続き、秋に開催される陶器市をご紹介致します。今回はオークションではあまりなじみのない焼き物ですが、あのバーナード・リーチの大皿も鑑賞できる陶器市・大分県日田市で行われる“小鹿田民陶祭”(おんたみんとうさい)です。


 小鹿田焼は、江戸時代中期に小石原窯(現:福岡県東峰村)の分窯として大鶴村の黒木十兵衛氏によって開窯されたと言われています。小鹿田皿山で採取された陶土を、唐臼(からうす)を用いてじっくりとつき、蹴轆轤(けろくろ)を使い成形。そして共同の登り窯で焼成する民芸陶器です。

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【唐臼】ししおどしの原理です。水流を使い重くなったら下がり、
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水が流れたら、反対で土をつく仕組みです。この音は「日本の音風景百選」にも選ばれているそうです。


 「小鹿田焼」の名を広めたのは、昭和6年(1931年)に民芸運動の創始者・柳宗悦が伝統技法や作風を称賛したことに始まり、英国の陶芸家バーナード・リーチが昭和29年(1954年)と昭和39年(1964年)に逗留し作陶したことで世界でも知られるようになりました。当時作陶された大皿は、小鹿田焼陶芸館で飾られ、無料で観ることができます!今でも、黒木家は元より、10軒の窯元が小鹿田焼を手掛けています。弟子を取らず、親から子へと伝統技法を守り続けたことが評価され、平成7年(1995年)には重要無形文化財保持団体として認定されました。いわゆる「人間国宝」を小鹿田焼の里全体で得たのです。
 小鹿田焼の名前は知らなくとも、見かけたことがある方は多いと思います。たとえば料理本。もちろんおいしそうな料理は目に入ってくると思うのですが、小鹿田焼はそんな食事を彩る器として重宝され、よく使われています。本屋さんへ行った際は、ぜひ探してみてください。ちなみに私が数年前に小鹿田民陶祭で購入したものはこちら。
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料理の映える器たち。



小鹿田の里は、日本の原風景まさにそのもの。山間に立ち並ぶ10軒の窯元の軒先に、所狭しと陶器が並べられ売られています。この場所に訪れるだけでもかなり癒されます!秋の散策に一度訪ねられてはいかがでしょうか?

詳しい日程はこちら。
http://www.oidehita.com/10763.html
また、小鹿田の元となった小石原でも「民陶むら祭」が催されています。
http://toho.main.jp/mintousai-aki.html

執筆者E

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近代陶芸/古美術/富本憲吉記念館 辻本勇コレクション オークション開催!!


今週末9月14日(土)に近代陶芸/古美術/近代美術PartⅡオークション、そしてさらに富本憲吉記念館 辻本勇コレクションオークションが開催されます。

今回注目して頂きたいことは、古美術と富本憲吉記念館が所蔵していた作品群がまとめてオークションに出品されるという点です。
まず、古美術の中から色鍋島の尺皿をご紹介致します。
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色鍋島は元禄期に徳川家や大名への献上品、贈答品の為に作られた色絵磁器のなかでも最高峰の器です。当時からその格調の高さは別格でしたが、現在においても評価の高さは変わっていません。むしろ既存の作品が少ない分、さらに人気は高くなっているのではないでしょうか。なによりこの大きさ!盛期に作られた色鍋島で、尺皿(約直径30㎝)の大きさのものが世に出てくるのは、本当に珍しいことなのだそうです。大きさだけでなく、描きこみも細密で萩の花のたわわな感じは、技術の高さを窺わせます。
 日本が世界へ誇る「鍋島」を是非一度じっくりとご覧ください。

さて、もうひとつの目玉をご紹介します。

 富本憲吉記念館は、昭和49年(1974)に富本の生家である奈良県安堵町に私設美術館として創設されました。これは、富本憲吉と同郷の実業家・辻(本来は“しんにょう”の点は一つ)本勇氏の個人コレクションとして始まり、34年間個人運営をされてこられました。平成20年(2008)に館長である辻本氏が逝去され、平成24年(2012)に閉館されることとなり、平成25年(2013)3月より富本憲吉文化資料館として平成26年(2014)2月迄期間限定で公開されております。そして、閉館に伴い今回ご遺族が所有されていた作品が本オークションに出品されることとなったのです。

 富本憲吉作品にこれまでご興味のあった方々は、今回のカタログをご覧になり驚かれたのではないでしょうか?図録などに多数掲載されてきた作品が多く出品されています。また若い頃の作品や、「圖案百図 四十四葉」のように、富本作品の圖案が観られることもまたとない機会と言えるでしょう。富本憲吉の鑑定人でもあった辻本勇氏がコレクションしていただけあり、今回の作品は美術史的にも資料的価値の高いものばかりです。

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 富本は多くの有名な格言を残しています。
「模様から模様はつくらず」「“たからもの”はつくらない」
そして遺書には「墓不要、残された作品をわが墓と思われたし」と記されてあったそうです。 これほど言葉や精神性を世に残した陶芸家もいないのではないでしょうか。それが多くの人を魅了している理由なのかもしれません。約160点にも及ぶ富本憲吉作品群に、ぜひ会いにお越しください。
(執筆者:E)

 下見会・オークションスケジュールはこちら。
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~涼をもとめて~青磁鑑賞(6月近代陶芸オークション)

先週のBAGS/JEWELLERY & WATCHESオークションにご参加頂いた皆さまありがとうございました。今週末は近代陶芸/近代美術PartⅡ(陶芸)オークションが開催されます。ぜひこちらにも足をお運びください。

さて、今回は小品ながらも珍しい作品が出品されます。
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LOT.68 岡部嶺男「窯変米色瓷盃」
     H5.7×D10.4㎝
高台内に掻き銘
岡部美喜箱
1974年5月14日作
エスティメイト¥800,000~¥1,200,000


 岡部嶺男(1919-1990)は戦後間もなく、生まれ育った瀬戸で地元の伝統技法である灰釉をベースとし、織部・志野・黄瀬戸などを作陶しました。当初より「製作記録」として土と釉薬の研究をノートに書き遺しています。その記録は、事細かに分類され、「実験」「テスト」といった言葉が相応しいように思います。その後、天目・青瓷へと自らの技法を広げて行くわけですが、いずれも釉薬の研究をしていく中で偶然に発見されたものでした。
1962年(昭和37年)のノートには、次のように記されています。「土の芸術として最後の姿は青瓷として現れた。これは中国に於ける土器の最後の花として現れた宋官窯青瓷と同一の経路のように思える」。独自の研究を重ねる中で中国の陶磁器文化の変遷を追体験したという、なんともスケールの大きな話です。
 
 織部や志野と対照的とも言える青瓷の技法ですが、嶺男作品は全てにおいて形の美しさが一貫しています。陶磁器では箆目(へらめ)を生かした姿が、青瓷では轆轤(ろくろ)引きの美しさが伺えます。そして薄造り!これは類を見ません。陶芸家としての技量は相当だと誰もが認めざるを得ないでしょう。
今回の窯変米色瓷盃は、その形と、窯変のきめ細やかな美しさが互いに引き立てあっているように感じます。また高台脇にシールが貼られています。こんな綺麗な作品なので外したくなりますが、実はこれが釉薬の研究を示しているものなのです。
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上が制作年月日、そして下がどの棚に置いてあったかという棚の番号です。
直接作品に”印(しるし)”を入れてあることもありますが、これもまた岡部嶺男を物語る貴重な資料と言えるでしょう。

 そしてもう一点ご紹介したいのが、こちらです。

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 LOT.67 板谷波山「青磁菊式湯鐘 一双」
   H8.1×D8.1㎝/H7.4×D7.1㎝
   各高台内に印銘「波山」
   共箱 1919年作
エスティメイト¥700,000~¥1,000,000


板谷波山(1872-1963)は、白磁・青磁・天目・鉄釉といった磁器を作陶し、最終的に葆光彩磁を生み出しました。アール・ヌーヴォーに影響を受けた波山は、植物を流線的に図案化しました。自らほの明るく光を放っているかのような葆光彩磁は、「近代陶芸の最高峰」と称される波山の代名詞と言っても良いほどの技法です。それとは別に青磁や白磁で良く見られる薄肉彫という彫文での技術もまた、格別な技を誇っています。その代表格である「青磁香爐」(LOT.106 ¥1,300,000~¥2,300,000)も今回出品されますが、こちらのような「湯呑」は、弊社でも初めての出品です。
「菊式」とあるように、薄肉彫されているのは菊の花のデザインです。サイズの違いから見ても夫婦湯呑と言えますが、それよりもっと”一対”という確証が持てるのは、それぞれの印銘です。
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 両面が印になっている判子を使用し、それぞれに押しています。珍しく印が違う組み合わせだったというのには、こういう意味があったのですね。
これでこの湯呑二客が一対であることがよくわかります。

両者とも青磁の涼やかな器です。涼を求めにご来場なさってみてはいかがでしょうか?

(執筆者:E)

下見会・オークションスケジュールはこちら


【参考文献】
『-青磁を極める-岡部嶺男展』東京国立近代美術館 他/2007年
『出光美術館蔵品図録 板谷波山』平凡社/1988年

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G.Wは陶器市へ!!

こんにちは。
先週末のBAGS/JEWELLERY & WATCHESオークションにご参加頂いた方々、ありがとうございました。
 さて、もう来週はゴールデンウィークですね。実はゴールデンウィークが、陶器市の季節ということをご存じですか?
 よくテレビなどで紹介されていますが、全国各地の窯元で開催されています。
まず、今年110回目を迎える陶器市・有田陶器市をご紹介します。

■有田陶器市 主催:有田商工会議所
4月29日(月)~5月5日(日):佐賀県JR有田駅~上有田駅周辺約4km

 その始まりは、なんと明治29(1896)年まで遡るとか!その頃「陶磁器品評会」が桂雲寺(けいうんじ)で行われ始め、それと同時に「蔵ざらえ大売り出し」として各陶器店が行ったのが始まりだそうです。それが大正11(1922)年ごろに「陶器市」という名称に変わり、現在に至るとのこと。
有田町は言わずと知れた磁器の町。古伊万里、鍋島、最近では古九谷もこの地で生まれたと言われています。重要無形文化財(人間国宝)に認定された十三代今泉今右衛門、十四代酒井田柿右衛門、井上萬二、さらに重要無形文化財保持団体に指定されている「色鍋島今右衛門技術保存会」と「柿右衛門製陶技術保存会」の窯も巡ることができます。
詳細はこちらへ
有田陶器市

続きまして、関東圏の大きな陶器市と言えば、「益子 春の陶器市」です。

■益子 春の陶器市 主催:益子町観光協会
 4月27日(土)~5月6日(月):栃木県益子町

「春」というくくりでもお分かりのように、「秋」にも陶器市が開催されています。
毎回テーマが決められており、去年は「花」だったようですが、今年は「マグカップ」。販売店約50店舗のほか、約500のテントが張られ、作家から直接購入できます。
 益子焼は、大正13(1924)年に浜田庄司が移住し、柳宗理らとともに民芸運動を行い
始めたことから着目されるようになりました。「用の美」。日常生活の中で使われてこその美として、多くの陶工に影響を与えました。浜田庄司、島岡達三が重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されています。
浜田窯の横には「浜田庄司記念 益子参考館」があります。歴史ある建物は圧巻です。また益子では若手作家の展示も開催されているので、益子焼の幅広さを感じるのも楽しそうです。
 
 詳細はこちらでご覧ください。
益子陶器市

 そのほかの主な陶器市です。

■波佐見陶器まつり(長崎県)主催:波佐見陶器まつり協会
 4月29日(月)~5月5日(日):波佐見町やきもの公園一帯
波佐見陶器まつり

■白山陶器の陶器市
 波佐見陶器まつりに合わせて行われています。(白山陶器本社ショールームなど3か所)
白山陶器の陶器市

■笠間の陶炎祭(茨城県)主催:笠間焼協同組合
 4月29日(月)~5月5日(日):笠間芸術の森公園イベント広場
笠間の陶炎祭

■萩焼まつり(山口県) 主催:萩焼まつり実行委員会 (萩商工会議所内) 
 5月1日(水)~5月5日(日):萩市民体育館
萩焼まつり


■九谷茶碗まつり(石川県) 主催:石川県陶磁器商工業協同組合
 5月3日(金)~5月5日(日) :ふれあいプラザ周辺
九谷茶碗まつり

また、都内では老舗のギャラリーによるイベントが行われています。
■東京アートアンティーク
東京アートアンティーク 
4月26日(金)~4月28日(日)中央区日本橋・京橋エリアのギャラリー


お近くや、旅先などで様々な陶器に触れてみてはいかがでしょうか?

(執筆者:E)

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桜満載・近代陶芸/古美術オークション

先週の織田広喜/近代美術/浮世絵オークションは、来場者数も多く、とても活気のあるオークションでした。ご来場頂いた皆さま、どうもありがとうございました。
今週末は近代陶芸/古美術オークションが開催されます。ぜひこちらへも多くのご来場をお待ちしております。

さて、桜満開の季節ですが、「花より団子」という皆さま、本格抹茶茶碗でお茶を楽しまれてみてはいかがでしょうか?今回は普段より多くの茶碗が出品されます。その数ざっと90点!
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こちらが近代陶芸

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そしてこちらが陶芸PARTⅡです。

  荒川豊蔵、井上萬二、浜田庄司、藤原啓、十二代中里太郎右衛門、坂田泥華、九代大樋長左衛門、そしてバーナード・リーチなどなど!様々な技法と作家により制作された品々が集まりました。中でも最も評価が高いのは、十五代樂吉左衛門の「黒茶碗」(LOT.122:エスティメイト:¥3,500,000~¥4,500,000)です。年始にNHKで特集が組まれ放映されていましたね。ご覧になられた方も多いのではないでしょうか?
千家の茶碗師・樂家当代の黒茶碗を実際に触れられる機会です。ぜひ間近でご鑑賞ください。

 そして古美術オークションからご紹介したいのは、土佐光芳「三十六歌仙歌合帖」です。
(LOT.159 エスティメイト¥1,800,000~¥2,800,000)
カタログには、一番「柿本人麻呂」と三十六番「中務」の部分を抜粋して載せてありますが、他に「桜」についていくつか詠まれている歌がありますので、ご紹介します。

紀貫之4
紀貫之
「桜散る 木の下風は 寒からで 空にしられぬ 雪ぞ振りける」
『春が深くなったと思うけれども、桜の花の散る木のもとは、まだ雪が降っている。』


『土佐日記』で知られる紀貫之の歌です。
桜の散る様子が、雪が降っているように見えるというなんとも綺麗な歌です。「空が知らない」とは、まさに詩人。
 そしてもう一人。「小倉百人一首」で「今こむと いひしばかりに なが月の 有明の月を 待ち出でつるかな」を
詠まれた方です。

素性法師4

素性法師
「みわたせば 柳桜を こきまぜて 都ぞ春の 錦なりける」
『はるかに都の方を眺めると、柳の緑と桜の紅とを混ぜ合わせた都こそ、
春の錦(あでやかで美しいこと)であることよ。』

 
これもまた、詠むだけで情景が浮かんでくるようですね。新緑と薄紅。古来から日本人の色彩感覚が
優れていたことがわかります。

 春を、また違った角度で楽しむことができるオークションへ、ぜひ足をお運びくださいませ。

今回は下見会、オークション開始時間が、いつもと異なりますのでご注意ください。

■下見会日時:
3月28日(木)・29日(金)/10時~18時
3月30日 (土)/9時半~11時半
■オークション日時:
3月30日(土)/15時~(受付は14時半開始)


(執筆者:E)

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「陶器」と「磁器」

陶器と磁器
こんにちは。
突然ですが皆さん、陶芸作品はお好きですか?私は陶芸を勉強していく中で一番最初の大きな「?」がこの問題でした。美術品の良さがどうしたらわかるのだろう?と。
そこで今回は、陶芸作品を鑑賞する上での最も大枠、「陶器」と「磁器」について説明してみようかと思います。一度見方が分かると、あれよあれよという間に陶芸に興味を持てるかもしれません!
 
まず、「何焼か」という判断はというと、・・・ほぼ見た目です。
陶芸は生産地によって釉薬や土が違うので、見た目でどこの土地で作られたかおおよそ判断できます。でも、いくつも見ないと系統が分からず、ややこしいですね。しかも土や釉薬は簡単に運ぶことができるので、最近では「○○の土」としてホームセンターなどで売られていたりします。なので「○○焼」というより、「○○焼き風」と言ったものも多いようです。実際に多くの種類の陶芸作品が生まれ、どこの焼き物か分類できないものまで増えてきています。
そこでまず、もっともシンプルに、且つ大胆に「陶器」と「磁器」に分類してみましょう。
 たとえば、「楽焼」「備前焼」などは「陶器」に、「有田焼」「九谷焼」は「磁器」に分類されます。
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「陶器」は「土もの」とも呼ばれ、釉薬を掛けず素地を焼成して完成だったり、土の中に含まれる石がそのまま表面に出ていたりします。比較的低温(800℃~1000℃)で焼かれ、吸水性も高いことが特徴です。


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反対に「石もの」とも呼ばれる「磁器」は、白い素地でなめらかな陶土で成形され、高温(1200℃~1500℃)で焼いた硬質で吸水性の低い焼き物のことをいいます。叩くと「キーン」という金属音が出るのも特徴的です。
 前者は朴訥とした温かみを感じ、後者は洗練された美しさを感じます。これはその土地で「採れる土」で決まります。中国では古くから磁器の代表とも言える青磁が作られてきました。世界的に最も価値があるのは、南宋時代に作られた砧青磁かもしれません。日本では豊臣秀吉の時代に朝鮮から李三平(り さんぺい)という陶工が連れてこられ、現在の佐賀県有田市で磁器の作れる陶土を発見し有田焼が作られ始めました。その後有田では、色絵磁器が江戸の絢爛豪華な元禄文化を反映し花開き、さらには輸出され、ヨーロッパで柿右衛門様式として模倣されるようにまでなったのです。
 磁器は硬質で型を使い作れることからも、湯飲みや茶碗など量産品としても多く生産されます。そしてこれまで述べたように静謐で気品あふれる作品を生み出すことができるのも磁器です。
 一方陶器は、江戸初期の茶人・古田織部が作らせた歪んだ美を持つ「織部焼」、千利休の千家が認めた茶碗師・樂家の焼く「楽焼」という形で日本の茶の湯とともに、発展していきました。もともと中国から伝わってきた茶の湯は「唐物」と呼ばれる中国製の高価な茶道具が好まれてきましたが、利休が考案した「わび茶」と呼ばれる簡素な茶の湯が広まっていくにつれ、唐物ではなく欠けた水指や茶碗などが「美」として認識されていったのです。それを表現しやすかったのが、磁器ではなく陶器だったのでしょう。
 このように陶器と磁器は、相反するような特徴を持っているのです。

 そうは言っても、作品の見方が難しく、良さを理解することもなかなか簡単ではないのかもしれません。それでも、例えば「きりっとした派」か?「ほのぼの派」か?どちらが好きか、まずは選んでみてください。そしてさらにその中でどのような種類が好きかなぁなどと考えながら触れていくにつれ、生産地がだんだん分かりだし、陶芸の楽しみ方が少しづつ分かってくると思います。

瀬戸物屋さんで売られている大量生産の磁器だけでなく、美術品としての「陶磁器」の世界に一歩足を踏み入れてみてはいかがでしょう?   

(執筆者:E)

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12月近代陶芸/近代美術PartⅡ(陶芸)オークション開催!

こんにちは。
今週は近代陶芸/近代美術PartⅡ(陶芸)オークションが開催されます。
お客様からのご要望もあり、今回からカタログに重要無形文化財保持者(人間国宝)の表記を取り入れてみました。改めて見ると取扱い作家の多くが認定されていることがわかります。
 中でも一番多いのは「色絵磁器」保持者です。富本憲吉、加藤土師萌、藤本能道、十三代今泉今右衛門、そして十四代酒井田柿右衛門の五人です。今回もこれらの作家の作品が出品されます。中でも注目して頂きたいのが藤本能道の「草白釉釉描色絵金銀彩白鷺之図扁壷」です。
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とにかく大きい!扁壷でこれだけの大きさは、滅多にお目に掛かれるものではありません。能道はやはり筥や大皿が多いのですが、草白釉で両面に白鷺が配され、風景もしっかり描かれたものというのは珍しいです。初期のころは、面取の作風が多かったのですが、晩年になるにつれ、角が取れ丸みを帯びた形を作り出しています。この扁壷の丸みも美しい曲線を生み出しています。カタログではなかなかお見せしにくい部分ですので、ぜひ実物をご覧ください。


続いて十四代酒井田柿右衛門ですが、今回は4種類の草花文が出品されます。
さらに十二代からも含めますと十二代の花柘榴、十三代の山茶花文、秋海堂文、小手毬文と実にさまざまです。皆さんはどの花がお好きでしょうか?三代に渡る柿右衛門の草花の描き方の違いを見比べてみるのもおもしろいと思います。
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最後に富本憲吉の作品をご紹介します。
富本は、第一回重要無形文化財保持者に認定された陶芸家です。弊社近代陶芸の最高額落札作品は、富本憲吉の花瓶なのですが、そのような大作とは違い、今回は小品ながらも身近に使えることのできる作品がいくつか出品されています。煎茶器セット、中皿五枚組み、そして陶板です。そもそも「陶板」という言葉は富本が作った造語です。「白雲悠々」「風花雪月」、そして風景文という富本おなじみの図柄が揃いました。風に舞っているような軽やかな文字と、朴訥な温かい絵柄。日常的にお手元に置くならと考えながらご覧になってはいかがでしょうか。
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陶芸作品は、手で触れて感じることのできる美術品です。
 今回は326ロットとたくさんの作品が出品されています。ご自分のお気に入りを見つけるためにも、直に触れて作品を味わいながらお探しください。

執筆者:E

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カラフル加守田

先週のワインオークションにご参加頂いた皆様、誠にありがとうございました。

さあ、いよいよ秋まっただ中!ジュエリー、西洋美術に続き今回は陶芸で“芸術の秋”を感じて頂こうかと思います。
 
「鑑賞陶器」は読んで字のごとく、観て楽しむ陶器のことです。これはもちろん最初から決まっているというより、お持ちの方が決めるべきことですが、作家の多くは徳利、ぐい呑、お茶碗など機能性ある「日用陶器」を制作する一方、作家性・芸術性を全面に打ち出した「鑑賞陶器」を制作しています。
 
 そこでご紹介したいのが、加守田章二(1933-1983)です。
 加守田は大阪府岸和田生まれ。1952年に京都市立美術大学工芸科陶磁器専攻に入学し、富本憲吉(教授)、近藤悠三(助教授)らに学びました。卒業後日立製作所の日立大甕(おおみか)陶苑の技術員、益子の塚本製陶所の研修生を経て、1959年に益子で独立し作陶を始めます。当時オーソドックスな益子焼とは異なっていた意匠だった為、なかなか買い手が付きませんでした。そこへ偶然窯出しを見に来た浜田庄司に称賛され、地元の業者に注目されるようになります。
 1960年、結婚をしたころから次々と出品した公募展に入選をし始め、頭角を現しました。そして1966年に「日本伝統工芸展」に出品した「灰釉鉢」が文化庁の買い上げとなり、(現在は東京国立博物館蔵)翌1967年にその「灰釉鉢」が第十回高村光太郎賞を受賞しました。    
  陶芸家として受賞したのは、加守田が初めての快挙でした。陶芸界のみならず、美術界全体からも支持をされていたことが伺えます。
 1968年から岩手県遠野で試作品の制作を始め、翌1969年(44歳)には遠野で本格的に作陶を開始。私たちがよく目にしている「加守田章二」の作品は、ほとんどこれ以降のものです。遠野へ移ってからの作品は、加守田の思想、芸術性が一気に花開いたとも言えるでしょう。1983年に50歳で亡くなる前年まで作品を発表し続けました。81年には白血病と診断され、入退院を繰り返していた最中ですら作陶していたのです。また加守田は遠野へ移ってから毎年作風を変えていました。売れた後も惜しげもなく新たなものを作っていく。これが加守田が天才・鬼才とたびたび称される所以でしょう。
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 遠野初期の作品です。特にこの頃の作品は、世に出ることが少なく加守田の中でも評価の高い年代です。波状が器全体にまわっている炻器(せっき)から、彩陶(さいとう)という色彩豊かな作品群への転換は圧巻ですね。弊社でもほとんど取り扱ったことがないので、
ぜひ一度は間近で観てみたいものです。

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  そして1976年のこの年は、個展毎に作風を変えています。上記②と③は白黒のハート形で同じ作品群に入れてもいいかもしれませんが、大きく分けて4種類制作されています。初期に比べ、より簡略化されデザイン的になってきています。加守田のデザインは波状や、ドット形、鱗文といった比較的柔らかい柄を炻器という力強い陶磁器に描いているのも特徴的ですが、ハート形まであったとは!驚きです。

加守田線文
  更に翌年からは有機的なデザインから、線文が現れ、さらに翌年は線で全体を覆う作品も登場しました。この青と白、黄色と灰色の縞がとても加守田らしいと感じます。
やはりこの薄青はなかなか他の作家の作品では観ることができません。寒色であるにも関わらず、質感や模様により冷たい印象が和らいでいます。

加守田晩年
 そして晩年です。線文も円を成し、82年でも使用されている緑釉が80年から使われ始めており、器全体に釉薬を掛けています。また新たな作風へ移り変わる様子だっただけに、早世してしまったのは非常に残念です。

 加守田章二の作品が放つ存在感は独特なものがあります。「孤高」という言葉を使いたくなるほど力強く、他の作家とは一線を画しています。
 
 弊社の近代陶芸オークションでも、毎回必ず一点は出品されるような作家です。ぜひ一度ご鑑賞ください。また作品集も多く出ておりますので、作風の変遷を秋の夜長に眺めてみてはいかがでしょうか。


(執筆者:E)

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近代陶芸まめ知識

 日本全国、日々暑さが続いて夏真っ盛り!ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
さて、9月第一弾のオークションは、近代陶芸/古美術オークションを開催致します。陶芸作品をよく理解して頂くためにも、今回はカタログによく使われている陶器の名称や部位について解説してみようかと思います。
弊社のカタログはだいたい下記のような形式で掲載しています。

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 作品名は基本的に作品の入っている箱に書かれたタイトルをなるべく忠実に表記しています。この“作品の入っている箱“というのがかなり重要です。ほとんどの作品に「共箱(ともばこ)」と書かれていますが、これは作家本人が自分の名前や号を書き、タイトルを書いている箱のことを指しています。陶芸作品の場合、共箱があるとないとでは価格に大きな差が付いてしまうのです。共箱以外には、「○○箱」と人名や屋号の後に「箱」が付いている事があります。これは亡くなった作家の鑑定家が、作家本人の代わりに作家名と作品名を書いた箱のことです。さらに、共箱あるなしに関わらず、茶人や僧侶が作品の名前を書き、極(きわ)めている場合があります。これを”書付(かきつけ)“といい、特に茶道の世界では、作品の貴重性を高めています。
 また部位の名称も、あまり他で目にすることはないかと思います。これは作家が入れている銘(サイン)の場所を分かりやすくするために掲載しています。
陶器は種類によって名称も変わることもありますが、基本的に同じ呼び名です。
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 作家は陶器の正面ではなく、裏面、そして下部や底部に銘を入れることがほとんどです。
作家によって決まった箇所に入れることが多く、入れてある場所の違いにより、作った時期の判断や、真贋を推し量ることもあります。多くの作品を見ていると、そのブレが許容範囲であるかどうかおおよそ分かってきます。
次に銘の種類ですが、陶器に関してはほぼ三種類の銘の入れ方で分けています。
一つ目は焼成前に生地を引っ掻いて銘を入れる「掻き銘(ひっかきめい)」。
二つ目は絵付けをする要領で筆で描く「描き銘(えがきめい)」。
そして三つ目は判子を押して入れる「印(いん)銘(めい)」です。
「掻き銘」と「描き銘」は、本来両方とも「かきめい」と読みますが、区別のため「ひっかきめい」と「えがきめい」と読まれています。つまり「高台脇に掻き銘」と表記している場合は、高台まわりに作家本人の名前や、マークが引掻いて入れられているのです。この銘というのも、作家によっては年代別で変えており、何年に制作されたかはっきり分かることもあります。最たるものは富本憲吉です。富本は、毎年銘を変え、その符号表も公表されています。ほかには、富本ほどでは無いにしろ、研究により加藤唐九郎、金重陶陽はある程度制作年代が分かります。たとえば陶陽ですと、「陶陽造」だと初期のころの作品ですし、「ト」だと昭和27(1952)年以降ということになります。(あとはトの長さで判断されたりもします。)
 
 それぞれ作家にはこだわりが多いにある作家や、そうでない作家がいます。そこからは作家の人となりを伺うことができ、様々な角度から作品を見ることで、さらに興味や作品への理解が深まるような気がします。
 9月近代陶芸のオークションカタログも現在制作中です。多くの作品と出会える機会ですので、楽しみにお待ちください!
     
(執筆者:E)

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今週の近代陶芸/古美術オークション

こんにちは。まだまだ寒暖の差はありますが、ひと雨降る毎に春が近づいて来る気がします。

さて、今週は通常の近代陶芸と共に、「古美術」として厳選された18作品を加え、
近代陶芸/古美術/近代美術PARTⅡ(陶芸)オークションを開催致します。

 今回「古美術」に出品されている作品から何点かご紹介したいと思います。
 
 まず古伊万里、古九谷など江戸時代中期から末期にかけて制作された色絵磁器の作品です。特に注目して頂きたいのはこちらの作品。
133S_20120305135255.jpg
LOT.133「古九谷松鶴文輪花中皿」
D20.5㎝
高台内に描き銘「福(角福)」
『色絵の煌古九谷』掲載 №65(大阪美術倶楽部)
エスティメイト¥8,000,000~¥12,000,000


正保から寛文年間(1644-1661)頃に制作されたと伝えられる古九谷は、大胆な意匠と華麗な色彩感で今なお世界中のコレクターより高く評価されています。この作品は、緑・黄・青・紫・赤の五色を絵付けに用いた五彩手の作品です。吉祥を表わす松と鶴を描き、外側面には宝尽しの文様、高台内には角福が配してあります。
 また古九谷様式で評価されているポイントとしては、皿を斜めにすると虹のような虹彩が見えるかどうかという点があるそうです。この作品は、まさにその虹彩をはっきり見ることができます。これは、釉薬に含まれている銅と炭素が焼成時に結び付き、金属銅に還元し起こるそうです。
 古九谷様式が栄えた後の1690年代末から1700年代初頭に掛けて、古伊万里様式が全盛期を迎えます。金襴手はまさにその頃生まれました。
128S.jpg

LOT.128「古伊万里金襴手獅子大根文兜鉢」
H9.4×D22.3㎝
高台内に「大明萬暦年製」記
エスティメイト¥1,000,000~¥1,500,000


金襴手は色絵に金彩を施した絢爛豪華な磁器を指し、江戸時代元禄期の繁栄と富の象徴として当時の大名や豪商たちを魅了する存在でした。
この作品は鉢の見込みに獅子と牡丹文様、内側には赤の窓絵に大根と人参を描いています。その周囲を埋め尽くす緑地と点描が装飾的であり、金襴手の優れた作例の一つと言えます。


そして、その頃に即位していたのが、東山天皇です。
138S.jpg
LOT.138 東山天皇「震翰御懐紙」
 紙本、軸装
 旧重要美術品認定
 伊達家伝来
エスティメイト¥3,500,000~¥5,000,000
 

東山天皇【延宝3年~宝永6年(1675-1709)】は、霊元天皇の第4皇子で貞亨4年(1687)に即位しました。東山天皇在位期間(23年)は元禄時代に相当し、犬公方と呼ばれた第5代将軍徳川綱吉の在職期間と重なっています。綱吉は皇室を敬ったため、朝廷と幕府との関係は良好で、東山天皇は御料(皇室領)を1万石から3万石に増やし、長く廃絶していた大嘗祭の儀式も復活させました。また、和歌や書をよくし、特に書は元禄という江戸時代の最も華やかな時代を反映した豊かで華麗な作風で知られています。
この懐紙は宝永3年(1706)、東山天皇31歳の時の作で、戦前まで伊達家に伝えられたものです。その後、昭和11年(1936)に伯爵伊達興宗の申請により国の重要美術品に指定されました。300年以上前に書かれたものとしては保存状態も良く、由緒正しき逸品と言えるのではないでしょうか。

また、近代陶芸オークションの見所は、加藤唐九郎、岡部嶺男、加藤重高親子の茶碗がそれぞれ出品される事が挙げられます。

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LOT.87加藤唐九郎「志野茶碗」     LOT.88加藤唐九郎「紅志野茶碗」
H7.8×D13.3㎝               H7.7×D13.2㎝/共箱
高台脇に掻き銘「TK」/共箱        高台内、脇に掻き銘「一ム才」                 エスティメイト                エスティメイト
★¥1,200,000~¥1,800,000     ★¥2,000,000~¥3,000,000
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LOT.86 岡部嶺男              LOT.189加藤重高
「瀬戸黒茶碗」               「志野茶碗 銘 春野」
H8.0×D11.6cm              H7.2×D12.4㎝
高台脇に掻き銘/共箱          高台脇に掻き銘/共箱
エスティメイト              エスティメイト
★¥800,000~¥1,200,000     ★¥50,000~¥100,000


是非、下見会場へ足をお運びください。
近代陶芸/古美術/近代美術PARTⅡ(陶芸)オークション
3/10(土) 16:00~(15:30開場)

下見会日程
 3/8(木) 10:00~18:00
 3/9(金) 10:00~18:00
 3/10(土) 10:00~12:00

ご来場、心よりお待ちしております。

(執筆者:E)

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