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~涼をもとめて~青磁鑑賞(6月近代陶芸オークション)

先週のBAGS/JEWELLERY & WATCHESオークションにご参加頂いた皆さまありがとうございました。今週末は近代陶芸/近代美術PartⅡ(陶芸)オークションが開催されます。ぜひこちらにも足をお運びください。

さて、今回は小品ながらも珍しい作品が出品されます。
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LOT.68 岡部嶺男「窯変米色瓷盃」
     H5.7×D10.4㎝
高台内に掻き銘
岡部美喜箱
1974年5月14日作
エスティメイト¥800,000~¥1,200,000


 岡部嶺男(1919-1990)は戦後間もなく、生まれ育った瀬戸で地元の伝統技法である灰釉をベースとし、織部・志野・黄瀬戸などを作陶しました。当初より「製作記録」として土と釉薬の研究をノートに書き遺しています。その記録は、事細かに分類され、「実験」「テスト」といった言葉が相応しいように思います。その後、天目・青瓷へと自らの技法を広げて行くわけですが、いずれも釉薬の研究をしていく中で偶然に発見されたものでした。
1962年(昭和37年)のノートには、次のように記されています。「土の芸術として最後の姿は青瓷として現れた。これは中国に於ける土器の最後の花として現れた宋官窯青瓷と同一の経路のように思える」。独自の研究を重ねる中で中国の陶磁器文化の変遷を追体験したという、なんともスケールの大きな話です。
 
 織部や志野と対照的とも言える青瓷の技法ですが、嶺男作品は全てにおいて形の美しさが一貫しています。陶磁器では箆目(へらめ)を生かした姿が、青瓷では轆轤(ろくろ)引きの美しさが伺えます。そして薄造り!これは類を見ません。陶芸家としての技量は相当だと誰もが認めざるを得ないでしょう。
今回の窯変米色瓷盃は、その形と、窯変のきめ細やかな美しさが互いに引き立てあっているように感じます。また高台脇にシールが貼られています。こんな綺麗な作品なので外したくなりますが、実はこれが釉薬の研究を示しているものなのです。
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上が制作年月日、そして下がどの棚に置いてあったかという棚の番号です。
直接作品に”印(しるし)”を入れてあることもありますが、これもまた岡部嶺男を物語る貴重な資料と言えるでしょう。

 そしてもう一点ご紹介したいのが、こちらです。

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 LOT.67 板谷波山「青磁菊式湯鐘 一双」
   H8.1×D8.1㎝/H7.4×D7.1㎝
   各高台内に印銘「波山」
   共箱 1919年作
エスティメイト¥700,000~¥1,000,000


板谷波山(1872-1963)は、白磁・青磁・天目・鉄釉といった磁器を作陶し、最終的に葆光彩磁を生み出しました。アール・ヌーヴォーに影響を受けた波山は、植物を流線的に図案化しました。自らほの明るく光を放っているかのような葆光彩磁は、「近代陶芸の最高峰」と称される波山の代名詞と言っても良いほどの技法です。それとは別に青磁や白磁で良く見られる薄肉彫という彫文での技術もまた、格別な技を誇っています。その代表格である「青磁香爐」(LOT.106 ¥1,300,000~¥2,300,000)も今回出品されますが、こちらのような「湯呑」は、弊社でも初めての出品です。
「菊式」とあるように、薄肉彫されているのは菊の花のデザインです。サイズの違いから見ても夫婦湯呑と言えますが、それよりもっと”一対”という確証が持てるのは、それぞれの印銘です。
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 両面が印になっている判子を使用し、それぞれに押しています。珍しく印が違う組み合わせだったというのには、こういう意味があったのですね。
これでこの湯呑二客が一対であることがよくわかります。

両者とも青磁の涼やかな器です。涼を求めにご来場なさってみてはいかがでしょうか?

(執筆者:E)

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【参考文献】
『-青磁を極める-岡部嶺男展』東京国立近代美術館 他/2007年
『出光美術館蔵品図録 板谷波山』平凡社/1988年

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