カテゴリー別アーカイブ: 展覧会イベントレビュー

ゴーギャン展レポート

 学校は夏休みに突入し、子どもたちの開放感あふれるニコニコ笑顔が目に付くようになって来ましたね。

 さて、7月3日から国立近代美術館ではゴーギャン展が開幕し、毎日朝から多数の来場者を集めています。
 これから始まる夏休み、親子で芸術鑑賞、という方にお勧めです。
この美術館は常設展も常に素晴らしいですからね!


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≪我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか≫
1897-98年 ボストン美術館
Tompkins Collection-Arthur Gordon Tompkins Fund,36.270
Photograph©2009 Museum of Fine Arts, Boston. All rights reserved.

 今回、日本で初公開となる≪我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか≫ は、近代の人間が抱える苦悩と矛盾を表現したゴーギャンの最高傑作と言われています。

 139.1 ×374.6㎝という大作(画家の最初の構想ではもっと大きかったそうですが)の中では、多くの物語が展開されます。
 生と死、若さと老い、人類と神、そして文明と野蛮といった二項対立が重層的に描き出され、それが一つの絵画世界を構成しています。
 それは観る者の中にいくつもの疑問を呼び起こし・・・、一人の芸術家が人生をかけて成し遂げた作品に宿る力のすごさに感動!です。


 ゴーギャンはもともと株式仲買人でした。
 取引で成功を収めた彼はセザンヌやマネをコレクションするようになり、趣味で絵画を始めます。しかしあるとき株の暴落で落胆し、絵画の世界にのめりこみ、画家となるのです。

 それからの人生は、画商であったゴッホの弟・テオの紹介でヴィンセント・ヴァン・ゴッホと知り合い、同居。互いに強い影響を与え合います。
そしてタヒチへの旅、ポリネシアの人々との暮らしと、そこで感じる“野蛮な”美、そして“文明人としての”疎外感、そこから感じる自己の矛盾・・・。
 53点の作品が贅沢に並ぶ展示には詳しい解説がつけられ、ゴーギャンの数奇な人生を追想するかたちで辿ることができます。
 

 音声ガイドでは、ゴーギャンの声を奥田瑛二が吹き込んでいます。
 内容は展示パネル以上に詳しいですし、カタログをお求めにならない方でも、音声ガイドは500円なので是非。


 また、今回の展覧会には特別シャトルバスが運行されています。
 会期中(開館時間中)、JR東京駅「日本橋口」・東京国立近代美術館間を無料シャトルバスが運行します。
 東京駅から会場までのアクセスが簡単です。遠方から新幹線で東京においでになる方には、そのままシャトルバスという手段もありますよ。

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<シャトルバス>


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<附属レストランのゴーギャン展特別メニュー>


【開催概要】
会   場 : 東京国立近代美術館
会   期 : 2009年7月3日(金)-9月23日(水・祝)
開館時間 : 午前10時-午後5時(金曜日・土曜日は午後8時まで開館)
        ※入館は閉館の30分前まで
休館日   : 月曜日 ※7月20日(月・祝)、8月17日(月)、8月24日(月)、9月21日(月・祝)は開館、7月21日(火)は休館
観覧料  :  一般1,500円/大学生1,000円/高校生600円
        ※中学生以下、障害者手帳をご提示の方と付添者(1名)は無料
展覧会ホームページ http://gauguin2009.jp/ 

(執筆者:井上素子)

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Archives展 開催中です

先週の浮世絵オークションにお越しくださった皆様、どうもありがとうございました。

さて、今週当社1Fのシンワアートミュージアムでは、「Archives」という展覧会を開催しております。
この展覧会は、芸大・美大受験のための美術予備校、湘南美術学院の主催で、学院出身の作家58名の作品を展示することにより、現在の美術作家たちの「Archives」、すなわち記録の全貌を表現するものです。

まだご覧になっていない方のために、展覧会の模様を少しだけご紹介します。

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1Fは立体作品がたくさん展示されています。
中央に立っているのは小柄な男の子、ではなく藤川真由子さんの《無題》という木彫の作品です。


気になる作品を見つけました。
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ASADA《MAYBE MAMA》
陶器、革、木材、金具、油性塗料ほか

陶器製の鎧です。装着するとこんな風になるとか。
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 鎧は戦いのとき、身を守る防具ですが、ASADAさんはそれを陶器という脆く壊れやすい素材で制作しています。各パーツともディテールにこだわり、つややかな仕上がりに。弱さと美しさの分だけ、シニカルな感じのする作品です。


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B1は平面作品が中心です。こちらでは、初日にオープニングパーティーや講演会が行われました。作家さんたちも来場されて、ご覧の通りの大盛況でした。


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出品作家さんの中にはこの方も。
キリン・アート・アワード2002で最優秀作品賞を受賞し、海外のオークションでも人気の高い佐藤好彦さんです。
 今回出品の《Business Prosperity》は、おなじみのギターのエフェクターをモチーフにした作品。エフェクターのつまみは25個、作品のサイズは25.0×25.0cmと、「25」にこだわって制作されたそうです。
《Business Prosperity》の意味は「商売繁盛」ですので、「しょうばいはんじょう」→「一半升」→「二升と一升の半分」→「25」ということなんですね。リーマンショック以降、経済の分野では信じがたいような出来事がたくさん起こっていますが、そんな気持ちを明るくしてくれるような縁起のよい作品です。

ちなみに、昨日はこの方も来場されていました。
日本画家の千住博さんです。
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本多恵理さん(写真・右)の作品を熱心にご覧になっていらっしゃいました。


さて、今回の展覧会、普通のグループ展とは異なる特徴的なことがあるそうです。
それは、入札制のオークションによって作品の購入ができるということ。会場で展示をご覧になった後、その場でご希望の作品の入札のお申し込みができるとのことです。もしお気に入りの作品がありましたら、ご参加されてみてはいかがでしょうか。

お問い合わせ:Archives実行委員会 0467-46-1338
                      (会期中のみ 03-3569-0030)
ホームページ:http://www.geocities.jp/archives_shonan/index.html

みなさまのご来場を心よりお待ちしています。


Archives
会期:2009年6月2日(火)~6月7日(日)
時間:10:00~18:00 ※最終日15:00まで
会場:シンワアートミュージアム(当社1F)
主催:湘南美術学院 
入場料:無料


(執筆:S)

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アートフェア東京2009に行ってきました

 土曜日のコンテンポラリーアートオークションにご来場いただいたみなさま、どうもありがとうございました。様々な国からお越しのお客様にご参加いただき、活気あるオークションとなりました。

 先日のブログでもお話しましたが、先週の東京はアートイベントが盛りだくさんでした。夜や土日は混雑している会場も多かったようです。もしかしたらみなさんとどこかですれ違っていたかもしれませんね。本日は、4/3(金)~4/5(日)まで東京国際フォーラムで開催されたアートフェア東京のレポートです。

 4回目となる今年は、過去最大規模の140以上のギャラリーが出展。古美術からコンテンポラリーアートまでが一堂に会した東京国際フォーラムの会場に加えて、今年から、国際フォーラム隣のTOKIAが第2会場として設定されました。TOKIAの方では、設立5年以内の若手ギャラリーが展示を行いました。一度にこんなにたくさんのギャラリーを見られるなんて、なかなかない機会ですよね。

 広いホールに100以上のブースがひしめく国際フォーラムの会場は、コンテンポラリー系のギャラリーが目立ちます。
当社のオークションでおなじみの作家の作品もそこかしこに。


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加藤 泉
無題、2008
木、油彩、アクリル、石
114 x 98 x 33cm

撮影:渡邉郁弘
courtesy of ARATANIURANO

加藤泉は、2007年のヴェネチア・ビエンナーレで展示したアーティストで、ギャラリーの個展ではすぐ作品が売切れてしまうとか。シンワの4月4日のオークションには水彩作品が出品されました。


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塩田千春
“ZUSTAND DES SEINS(存在の状態)- 子供服” 2008
鉄枠、糸、衣服、アクリル絵具
h.60 x 30 x 30cm

photo : Tetsuo Ito
courtesy of KENJI TAKI GALLERY

塩田千春は、ドイツで勉強し活動を続けてきたアーティストです。初期の代表的な映像作品が5月15日に香港で開催するコンテンポラリーアートオークション、Asian Auction Week in Hong Kongに出品される予定です。

 コンテンポラリー系は、新作はもちろん、自分が知らなかった作家の作品に出会えたりしていつも刺激になります。運が良ければ、作家さんご本人とお話しできたりしてしまうのも楽しいですね。私が訪れたときは、ちょうどブースにいらっしゃった秋山祐徳太子さんが作品のお話をしてくださり、ロッカクアヤコさんのライブペインティングも見られました。

 また、近代美術、陶芸、古美術系は、展示のすばらしさが目をひきました。
川瀬忍の青磁と高松次郎の油彩、鈴木治の陶芸と山口長男の油彩など、ジャンルや時代の異なる作品を組み合わせて、様々な年代層のお客様にアプローチされていたようです。畳を敷いたり、引き戸の入口を設けたりと、作品やお店の雰囲気に合ったブースづくりをされていたのも印象的でした。

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川瀬 忍
“青磁花入” 2007
陶磁器
22.8 x 18.4 x 17.3cm

(c)2008 Shinobu Kawase/Ginza-Kuroda touen Co., Ltd. All Rights Reserved.




個人的には、「こんな名品をアートフェアで見られるなんて!」という出会いを毎回期待してしまいますが、今年はデ・キリコや伊藤若冲の作品が見られました。

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伊藤若冲
“兜に鷹図”
江戸時代(19c)
紙本 水墨
96×28cm(本紙寸法)
181×40cm(全体寸法)

加島美術


 

 
 アートフェア東京の魅力的なところは、様々なジャンルのギャラリーが出展しているので、コンテンポラリーアートを好きな人が、陶芸作品を購入したり、逆に、古美術通のお客様がコンテンポラリーアートに興味を持ったりするところかもしれませんね。
最近は、アートフェア東京のほかにも日本で開催されるアートフェアが少しずつ増えて、だんだん一般的になってきたような気がします。アートを生活の中に取り入れることが、いろいろなジャンルを超えて広い世代にもっと浸透していったらいいですね。


(執筆:K&S)

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展覧会レビュー:全光榮(チョン・クァンヨン)展

 今、六本木ヒルズの大きなクモの下をくぐりぬけ、52階の森アーツセンターギャラリーに昇ると、韓国の伝統と現代を同時に感じられる、特別な展覧会に出会うことができます。

 本日は、当社のオークションにも出品されたことがあり、韓国はもとよりアメリカ、イギリス、オーストラリアと世界各国で展覧会を開催し注目されてきた韓国の作家、全光榮(チョン・クァンヨン)の展覧会をご紹介いたします。


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 近年韓国のアート・フェアやオークションから注目され始めた全光榮の作品は、昨年の5月、クリスティーズ香港で約30万ドルに近い高値をつけたことで、コンテンポラリー作家としてのその立場を確立しました。また昨年の9月にはニューヨークのロバート・ミラーギャラリーにおける個展での大成功で、世界中からその評価を高めつつあります。このような彼の作品は、何よりその素材からにじみ出る「韓国の情緒」を中心に鑑賞すべき作品だと思われます。

 作品の素材である韓紙(ハンジ)と呼ばれる韓国独特の伝統紙は、楮(こうぞ)を原料とし、柔軟性や耐久性に優れ、千年以上もつと言われています。実際に全光榮が作品に用いる韓紙も、およそ50~100年前から使われてきたものだそうです。

 その韓紙を用いて三角形のポリスチレンフォームを包み(wrapping)、その小片を組み立て(assembling)、無数に集合(aggregation)させた彼の作品は、「集合」シリーズという名が付けられています。
中でも、規格が明確に決まっている西洋のボックス(Box)文化とは異なる、心のゆとりがある東洋の「ふろしき」文化から「包む」というイメージの作業が生まれたと作家自身が語ったのも、今回の展示の重要なポイントとなると思われます。

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<Aggregation 05-OC045>2005年© Chun Kwang‐Young


 日本で初の展覧会を開いた全光榮は、「日本で展覧会を行うのは、他の国々で成功をおさめてから」という強い希望をもっていたそうです。なぜなら、韓国の最も伝統的な素材を使うことで、最も韓国人の内面に染み込んできた「魂」、あるいは「情」を表す作品だからこそ、両国間の悲しい歴史を超えて、それを日本の観客にも伝えたい、あるいは感じてほしいという芸術家としての使命感ゆえではないでしょうか。


 それはまた、展覧会のオープニング・パーティ直後、以下のように語った彼の言葉からもよく伝わってきます。

 「展覧会のため日本へ向かっている間、韓紙で作られた自分の作品が、韓国の先祖や自分自身の歴史に関わる物語であることを、日本の方々にうまく伝えられるだろうかと、ずっと心がひりひりしていました。」「日本の心臓である東京、その中でもハイレベルな美術館として話題になっている森美術館で、自分の作品を見せることができたなんて信じられません。40年という作家活動の中で、一番感動的な瞬間でした。」

 彼にとって日本初という今回の展覧会が持つ意味がどれほど特別なものなのか深く感じられました。

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<Aggregation 05-AU033>2005年 © Chun Kwang‐Young

 極めて伝統的な韓紙という素材の中から民族的な魂を感じつつ作品に向かうという全光榮の作品は、それに相反した、極めて現代的でダイナミックなものになっています。
 今回展示されている、悩む人間の頭像や心臓をイメージした大きい造形作品などは、まるで活発に息をしている生き物のような動的イメージで溢れています。


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<Aggregation 08-OC034 RED>2008年 © Chun Kwang‐Young

 今回の展覧会は、今までに公開されたことのない1970-80年代の平面絵画を含め、約30点の作品が展示されています。その中の「集合」シリーズのすべての作品が新作ということは、作家の意気込みがいかほどであったかを再認識させてくれます。

 皆様、東京の中心で、韓国の伝統の「情」を感じてみてはいかがでしょう?このように特別な展覧会は、是非お見逃しなく!


<展覧会概要>
会期:2009年2月14日~3月15日(日) 会期中無休
時間:10:00~20:00(入館は19:30まで)
会場:森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52階)
展覧会公式サイト:http://www.roppongihills.com/jp/events/macg_Chun.html

(執筆者:W)

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加山又造展 

 本日は当社のオークションでもおなじみの日本画家・加山又造の展覧会をご紹介いたします。

 加山展といえば、2006、2007年とたて続けに開催されたのをご覧になった方も多いかもしれません。今回会場となっているのは、六本木の国立新美術館。東京では10年ぶりの大回顧展だそうです。ずらりと集結した代表作、約100点はまさに「豪華絢爛」という言葉がぴったりです。近年ご覧になった方も見逃してしまった方も、加山作品をお持ちの方もそうでない方も、ぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。


図版1 《夜桜》 1982年 光記念館
(※図版は掲載許可の期間が終了したため削除させて頂きました。)


 まずは加山又造についてご紹介します。
加山は1927(昭和2)年、京都西陣の和装図案家の家に生まれました。幼い頃から絵の才能を発揮し、京都市立美術工芸学校絵画科に学んだ後、上京して東京美術学校日本画科に入学。卒業後は山本丘人に師事し、戦後間もなく創立された創造美術展(後の創画会展)に出品して入選を果たし、若くしてその才能を認められました。
 西洋絵画の影響が色濃く表れた初期の動物画から、琳派をはじめとする日本の古典に倣った華麗な屏風絵、浮世絵の線描表現の美しさに触発された裸婦像、北宋山水画に学んだ水墨画など、鋭敏な美的感覚で革新的な芸術世界を次々に展開しました。1966年に多摩美術大学日本画科教授、1988には年東京藝術大学美術学部教授に就任。2003年文化勲章を受章し、翌年76歳で逝去しました。

 展示は、第1章から第6章まで、動物画、屏風絵、裸婦、花鳥画、水墨画、絵画以外のアートワークと、多岐に渡ります。加山の画業は、一つの様式や題材を、生涯を通して発展させていったものではなく、「日本の美」を志向して様々な題材と画風に挑戦したものでした。そのため、この6章での構成は大変わかりやすく、その作風の変遷を辿ることができます。章から章への驚くべき変貌ぶり、どのテーマにおいても貫かれた加山の美意識と作品の完成度の高さに圧倒されます。

 展示室に入ると、まずお出迎えしてくれるのが、《雪》《月》《花》。これらを版画で再制作した作品は当社のオークションにも出品されたことがあります。そのせいか、もっと小さなサイズを想像していましたが…、なんと実際はそれぞれ350cm×450cmの大作です!リニューアル前の東京国立近代美術館のエントランスに展示されていたもので、加山が美術館に依頼され、8年間の歳月をかけて完成させた三部作だそうです。加山芸術を象徴するような3点に迎えられ、一気にその世界観に引き込まれるような気がしました。


図版2 《雪》《月》《花》 1978年 東京国立近代美術館
(※図版は掲載許可の期間が終了したため削除させて頂きました。)

 
 個人的には、「新しい日本画を描こう」という加山の強い意志と模索が熱く伝わってくる初期の動物画がおすすめなのですが、今回の展覧会で特にご注目いただきたいのは屏風絵と水墨画です。


図版3 《春秋波濤》 1966年 東京国立近代美術館
(※図版は掲載許可の期間が終了したため削除させて頂きました。)


 第2章屏風絵のコーナーに足を踏み入れた途端、《春秋波濤》、《千羽鶴》といった加山の装飾美の世界が絢爛豊麗に広がっています。役者が揃ったというのでしょうか、壮観とはこのことですね。日本美術が本来持っていた装飾性を、加山がいかに深く追求して取り入れ、現代的な表現へと解釈し直したかがよく感じられます。


図版4 《千羽鶴》 1970年 東京国立近代美術館
(※図版は掲載許可の期間が終了したため削除させて頂きました。)


 また、第5章水墨画のコーナーでは、それまでの華麗な色彩の作風から打って変って、モノクロームの世界が展開されます。ここでも加山は、雪舟や長谷川等伯などの古典に倣い、水墨によって日本的な情緒や装飾性を表現しました。加山は「墨に五彩あり」という言葉を好んだようですが、加山の水墨では、濃淡を駆使した色彩を感じさせる要素とともに、対象の動感と空気感が見事なまでに描出されています。岩に砕ける波や山岳を包み込むような霧、大きな体をくねらせる龍の姿が目の前にあるような錯覚すら覚えてしまいそうです。このコーナーにある《倣北宋水墨山水雪景》は近寄ってご覧になるだけでなく、離れたところからもご覧になってみてください。厳しく屹立する雪山がまるで3Dのようにこちらに迫ってくるように見えますよ。


図版5 《倣北宋水墨山水雪景》 1989年 多摩美術大学美術館
(※図版は掲載許可の期間が終了したため削除させて頂きました。)


 今回の展覧会の特色として、着物やジュエリー、陶器など、加山が手がけた絵画以外のアートワークが充実しています。それぞれに加山の洗練されたデザイン感覚が発揮され、絵画を描く片手間に取り組んだものでないことがはっきりとわかります。宗達や光琳など、江戸時代以前の美が日常に溶け込んだものであったように、加山も普段の生活の中にある美を目指してこうした制作に向かったのでしょうね。


図版6 《はぎ》アームレット 1985年 個人蔵
(※図版は掲載許可の期間が終了したため削除させて頂きました。)


 先日当ブログでご紹介した三瀬夏之介のように、コンテンポラリーアートの分野で最近活躍している作家の中にも、日本画を描く人たちがいます。彼らも日本の古典を取り入れながら、それぞれの個性を表現していますが、加山はその先駆的な存在と言えるかもしれません。多くの作家たちが西洋的なものを志向した近代の中で、加山は伝統的な日本美の可能性を信じて追求し、自身の研ぎ澄まされた感覚で表現しました。今回の展覧会はその画業の軌跡を通じて、加山が生涯を賭けて挑んだ「日本の美」の魅力を現代に生きる私たちに明確に見せてくれます。


【展覧会概要】
加山又造展
会期:2009年1月21日(水)~3月2日(月) ※会期中展示替えあり
会場:国立新美術館 企画展示室1E(東京都港区六本木7-22-2)
開館時間:午前10時~午後6時
       (金曜日は午後8時まで。入館は閉館の30分前まで。)
展覧会公式サイト  http://www.kayamaten.jp/
巡回先:高松市美術館  2009年4月17日-5月31日

シンワブログ読者の5組10名様に抽選で、加山又造展(国立新美術館)のご招待券をプレゼントいたします!
下記のフォームに必要事項をご記入の上、ご応募ください。
当選の発表は賞品の発送をもって代えさせていただきます。

<応募期間終了>

                               (執筆:S)

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三瀬夏之介展~冬の夏~

今日は、1月15日より佐藤美術館で開催されている、三瀬夏之介展をご紹介いたします。

1999年に京都市芸術大学大学院美術研究科絵画専攻を修了した三瀬は、2002年「第2回トリエンナーレ豊橋 星野眞吾賞展」で星野眞吾賞受賞、本年は上野の森美術館が主催するVOCA展(「VOCA展 新しい平面の作家たち」)においてVOCA賞も受賞し、今後の活躍が期待される現代作家として注目を集めています。2007年から2008年にかけて、五島記念文化財団の研修員としてフィレンツェに滞在しました。また、弊社のオークションにも2007年より何点か出品され人気を博しています。

日本画の伝統的な技法に則りながら、現代に生きる新しい感性で描く画家として、町田久美、中村ケンゴ、山本太郎、松井冬子などがいますが、三瀬夏之介もその一人です。
三瀬の作品には、伝統的な日本画の価値観にとらわれない斬新さが見られます。たとえば、素材も岩絵の具だけではなく、様々な素材を塗り重ねた立体感のあるマチエールで表されていて、フィレンツェ滞在中の2007年に制作された「日本画滅亡論」では、チーズの包み紙と思われる素材をはじめ金箔や印刷物がコラージュされています。

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        《ぼくの神さま 2008》


佐藤美術館での展示は、3階と4階の2フロアを使って行われています。
まず順路の通り3階から入ると、三十四曲一隻の大作「奇景」が目を引きます。
2003年から2008年までの歳月をかけて紙片に描きためられたモチーフをつなげ、増殖させながら制作された絵巻物のような作品の中には、大魔神、西洋の塔、電車、飛行機といったモチーフが、延々と増殖するかのごとく描かれています。

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3階 《奇景》


4階では、三瀬のアトリエを再現した空間が設けられ、ラジカセからパイプオルガンの荘厳な音楽が流れる中、光、舟、はしご、剥製、流木、木といった素材を用いたインスタレーションが広がり、三瀬の世界観を垣間見ることができます。
個人的には、三瀬夏之介というと「日本的な風景」のイメージを持っていましたが、今回、インスタレーションを含めた幅広い作品群を見て、フィレンツェで三瀬が受けた影響を色濃く感じました。また、廃墟、飛行機、墓、山、森といったモチーフが広がるすべての絵画作品を貫く要素として、きらきら輝く「光」を強く感じました。

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4階 展示室

もう一つの見どころは、「日本画滅亡論」と同年に描かれた「日本画復活論」が同時に展示されていることです。同時期に描かれながらも相反するタイトルを掲げる2点の作品は、「ひとつのものごとを思考するときに、まったく逆のベクトルの可能性も考えてみる」のが癖だという三瀬の思想の両極を見ることができます。

画面を継ぎ足しながら時間をかけて描かれた絵巻物のような作品は、生きもののような増殖性を持ちます。日本の古都である奈良で生まれ育った三瀬が、イタリアの古都であるフィレンツェで過ごし、自身の原点に迫る中で編み出された、東洋と西洋の枠を超えた壮大な風景を、ぜひ堪能しに行ってみてください!

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「冬の夏」 三瀬夏之介展
2009年1月15日(木)~2月22日(日)
佐藤美術館 http://homepage3.nifty.com/sato-museum/
入場料:一般500円、学生300円
開館時間:午前10時~午後5時(金曜日は午後7時まで)
休館日:月曜日
*入場は閉館の15分前まで

                                  (執筆:K)

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ART@AGNES 2009

 今年で五回目となるアートイベント、「ART@AGNES アグネスホテル アートフェア 2009」に参加してきました。毎年大好評のこのアートフェア、今回で惜しまれながらも最終回となりました。

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 約30件の現代美術ギャラリーが、神楽坂のホテルの一室を利用して作品を展示するこのイベントのスタイルは、多くの話題を集めました。
 活気あるギャラリーの活動に短時間で触れることができ、アートを購入するという刺激的な楽しみを身近に感じることができて、参加者にとってもとても楽しいものでした。


 昨年はオープン前日のVIPプレヴューに、行列ができるほどの人気で、シンワから参加させて頂いた社員も進むのが大変だったと驚いていましたが、今年も小雨が降りしきる中のプレヴューだったにも関わらず、この時点で大勢のお客様で会場は賑わっていました。
 今回は入場の人数が限定されていたため、関係者はエントリーチケットを入手するのに苦労したようです。
 
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 展覧会のオープニングプレヴューに行くと、まだ乾いていない油絵の、オイルの匂いが漂っていることがありますね。今回のイベントでもあちこちの部屋からオイルの香りが・・・。ギャラリーの方に「良いオイルの香りがしますね」と声を掛けると、「苦手な方もいらっしゃるんですよ」と笑っていらっしゃいました。


 美術館やギャラリーに展示されていると、作品の力で空間が満たされている感じがして、生活空間に設置された時が想像できなかったりしますよね。でも、ホテルのベッドサイドに彫刻や絵画が置かれた状態だと、イメージが沸いてきます。

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 あるギャラリーでは、新年に福をお裾わけ、というコンセプトで、福袋を販売していました。行列ができる人気ぶりで、私もワクワクしながら1点購入させて頂きました。
 中には、販売価格の数倍の価値があるグッズが!「福」と元気を頂きました!
 思えば、アートを買う喜びは、「お得」という価値観とは切っても切り離せないものかもしれませんね。

 今年も元気に様々なアートイベント情報をお届けしていきますので、ご期待下さい!

(執筆者:I)

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Art Now in China 2008

 12月15日(月)から、シンワアートミュージアムにおいて「Art Now in China」展が開かれています。

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 この展覧会は、昨年12月の第1回目に続いて第2回目となる試みで、上海を拠点に活動する10人のアーティストたちの作品が展示されています。
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 コカ・コーラや毛沢東のシルエットをコラージュした作品で有名な薛松(Xue Song)や、人間の格好をしたラクダの肖像画が印象的な周鉄海(Zhou Tiehai)など、インパクトの強い作品は、目にした記憶がある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
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 また、漢字で装飾的に描かれたアルファベットで「PEACE」「ROAD」などの単語を描く潘微(PAN-WEI)や、エナメルのように光る絵の具が美しい陳墻(Chen Qiang)の抽象絵画など、多様な作品を見ることができます。
 ほとんどのアーティストが1960年代生まれの、文化大革命や天安門事件など激動の時代に育った世代です。
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 古くから交易の中心として様々な文化が入り込みながら発展してきた国際都市・上海。ここ数年の中国の経済成長によって、私たち日本人が想像できないほどのダイナミックな変化を経験したであろう上海で現役として活動する彼らの作品に、日本にはない力強さを感じとることができるでしょう。
 一方で、日本人とも共通する美意識を探ってみるのもおもしろい楽しみ方ではないでしょうか?
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■Art Now in China 2008概要■
第二回
中国現代美術の・・・今
上海トップアーティストを一同に

日時
2008年12月15日(月)~21日(日)
11:00~19:00(最終日は16:00まで)

会場
シンワアートミュージアム

https://www.shinwa-art.com/service/sur_kashi_spa/index.html

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山口薫展

 田園調布駅からバスで15分ほど。イチョウや桜の葉がひらひらと舞う、砧公園の美しい並木を抜けて行くと、世田谷美術館があります。

 世田谷美術館では現在、「山口薫展」を開催しています。
 シンワアートオークションでも創業第一回目のオークションから人気を集め、現在も根強く絵画ファンに支持されている作家、山口薫――。
 とても素敵な展覧会でしたので、ご紹介いたします。(概要は文末)


(※図版は掲載許可の期間が終了したため削除させて頂きました。)
山口薫《矢》1952年頃作 油彩・キャンバス
100.3×80.3cm 世田谷美術館蔵


 展示は、画家の人生を辿るように構成されていました。
まずは、東京美術学校を卒業してパリに留学していた時代に描かれた作品。外国で試行錯誤していた山口が、当時流行していたセザンヌ、モディリアーニ、マティスらの影響を受けたことを感じさせます。
 戦時中に描かれた作品、《苔むす巌》は、ある種の戦争画で、このあたりの作品には、「山口薫も、かつてこんな絵を描いていたのか」という新鮮な驚きを抱きました。
 
 画風が確立して画壇での名声を得てからの大作は、アンフォルメル風にも見えますが、やはり山口らしい透明感が増していく感じがして、日本人の情緒を感じました。
 山口薫は、詩的な雰囲気や、ひし形を多用した造形遊びの面白さに魅力を感じる方が多いように思いますが、《矢》という作品では、ダイナミックな躍動感があって、その迫力が印象に残りました。

 展示の最後には、絶筆《おぼろ月に輪舞する子供達》という作品がかけられています。
 これは自らの死を予感しながら描いたと言われていて、本当に、死後はこのような世界が待っているのかもしれないと感じられる、不思議な作品です。

 今回の展覧会は、最近コンテンポラリーアートの展覧会を見慣れている私には、「絵を観るよろこび」を感じさせてくれるものでした。
 ご紹介が会期半ばになり恐縮ですが、世田谷美術館で12月23日まで開催中です。
この後、三重県立美術館に巡回(2009年1月4日~2月22日)しますので、関西方面の方はそちらでもご覧頂けます。

<山口薫展>
会場: 世田谷美術館
会期:2008年11月3日~12月23日
休館日: 月曜日
開館時間: 午前10時~午後6時(入場は閉館の30分前まで)
観覧料: 一般1,000(800)円、大高生/65歳以上800(640)円、中小生500(400)円 
( )内は20名以上の団体料金、障害者割引あり

(執筆者:I)

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