展覧会レビュー:全光榮(チョン・クァンヨン)展


 今、六本木ヒルズの大きなクモの下をくぐりぬけ、52階の森アーツセンターギャラリーに昇ると、韓国の伝統と現代を同時に感じられる、特別な展覧会に出会うことができます。

 本日は、当社のオークションにも出品されたことがあり、韓国はもとよりアメリカ、イギリス、オーストラリアと世界各国で展覧会を開催し注目されてきた韓国の作家、全光榮(チョン・クァンヨン)の展覧会をご紹介いたします。


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 近年韓国のアート・フェアやオークションから注目され始めた全光榮の作品は、昨年の5月、クリスティーズ香港で約30万ドルに近い高値をつけたことで、コンテンポラリー作家としてのその立場を確立しました。また昨年の9月にはニューヨークのロバート・ミラーギャラリーにおける個展での大成功で、世界中からその評価を高めつつあります。このような彼の作品は、何よりその素材からにじみ出る「韓国の情緒」を中心に鑑賞すべき作品だと思われます。

 作品の素材である韓紙(ハンジ)と呼ばれる韓国独特の伝統紙は、楮(こうぞ)を原料とし、柔軟性や耐久性に優れ、千年以上もつと言われています。実際に全光榮が作品に用いる韓紙も、およそ50~100年前から使われてきたものだそうです。

 その韓紙を用いて三角形のポリスチレンフォームを包み(wrapping)、その小片を組み立て(assembling)、無数に集合(aggregation)させた彼の作品は、「集合」シリーズという名が付けられています。
中でも、規格が明確に決まっている西洋のボックス(Box)文化とは異なる、心のゆとりがある東洋の「ふろしき」文化から「包む」というイメージの作業が生まれたと作家自身が語ったのも、今回の展示の重要なポイントとなると思われます。

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<Aggregation 05-OC045>2005年© Chun Kwang‐Young


 日本で初の展覧会を開いた全光榮は、「日本で展覧会を行うのは、他の国々で成功をおさめてから」という強い希望をもっていたそうです。なぜなら、韓国の最も伝統的な素材を使うことで、最も韓国人の内面に染み込んできた「魂」、あるいは「情」を表す作品だからこそ、両国間の悲しい歴史を超えて、それを日本の観客にも伝えたい、あるいは感じてほしいという芸術家としての使命感ゆえではないでしょうか。


 それはまた、展覧会のオープニング・パーティ直後、以下のように語った彼の言葉からもよく伝わってきます。

 「展覧会のため日本へ向かっている間、韓紙で作られた自分の作品が、韓国の先祖や自分自身の歴史に関わる物語であることを、日本の方々にうまく伝えられるだろうかと、ずっと心がひりひりしていました。」「日本の心臓である東京、その中でもハイレベルな美術館として話題になっている森美術館で、自分の作品を見せることができたなんて信じられません。40年という作家活動の中で、一番感動的な瞬間でした。」

 彼にとって日本初という今回の展覧会が持つ意味がどれほど特別なものなのか深く感じられました。

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<Aggregation 05-AU033>2005年 © Chun Kwang‐Young

 極めて伝統的な韓紙という素材の中から民族的な魂を感じつつ作品に向かうという全光榮の作品は、それに相反した、極めて現代的でダイナミックなものになっています。
 今回展示されている、悩む人間の頭像や心臓をイメージした大きい造形作品などは、まるで活発に息をしている生き物のような動的イメージで溢れています。


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<Aggregation 08-OC034 RED>2008年 © Chun Kwang‐Young

 今回の展覧会は、今までに公開されたことのない1970-80年代の平面絵画を含め、約30点の作品が展示されています。その中の「集合」シリーズのすべての作品が新作ということは、作家の意気込みがいかほどであったかを再認識させてくれます。

 皆様、東京の中心で、韓国の伝統の「情」を感じてみてはいかがでしょう?このように特別な展覧会は、是非お見逃しなく!


<展覧会概要>
会期:2009年2月14日~3月15日(日) 会期中無休
時間:10:00~20:00(入館は19:30まで)
会場:森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52階)
展覧会公式サイト:http://www.roppongihills.com/jp/events/macg_Chun.html

(執筆者:W)