カテゴリー別アーカイブ: 中国

CCAA中国現代芸術賞

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日本では現代アートや若手アーティストを対象にした美術賞が多数開催されており、アーティストの登竜門として知られていますが、中国においても現代アートを対象とした中国現代芸術賞(CCAA Chinese Contemporary Art Awards)という芸術賞が開催されています。今年は評論部門が行われ、先日その受賞者が発表されました。

中国現代芸術賞とは 1997年、元在中国スイス大使、実業家のウリ・シグ(Uli Sigg)氏により独立した非営利団体として設立され、翌年第一回中国現代美術賞が開催されたのを機に、傑出した活躍を見せる芸術家に隔年で賞が贈られてきました。2007年に美術評論家賞が設立されてからは、アーティスト部門と評論部門の二つの部門が隔年で開催されています。

創立者のウリ・シグ氏は1995年から4年にわたる在中国スイス大使を機に中国美術の収集を始め、世界有数の中国現代美術を所蔵しています。ウリ・シグ氏は「中国の芸術文化に貢献した人物」として知られており、中国の現代アートが比較的まだアンダーグラウンドな存在であった頃から中国の現代アートに目を向け、それらをコレクションしてきたそうです。そして、中国の現代アートを世界へと広め、中国人アーティストを国際的な舞台へと導く架け橋となるべく賞が設立され、アーティスト部門に関しては現在、終身成就賞、最優秀芸術家賞、最優秀若手芸術家賞の3つの部門が設けられています。後者2つの賞は、中国現代芸術賞開催年次に至る過去2年の業績に基づいて審査されており、受賞者には賞金および制作費用を支援し、また展覧会への出品やカタログ掲載の機会が与えられています。

昨年は終身成就賞に艾未未(アイ・ウェイウェイ Ai Weiwei)、最優秀芸術家賞にリュウ・ウェイ(Liu Wei)、最優秀若手芸術家賞に曾御鉄(ツォン・ユーチン Tseng Yu-Chin)が選ばれ、それに付随する展覧会が北京のUCCA(ユーレンス現代美術センター)と上海のBound18クリエイティブセンターで開催されました。そのほか、これまでの受賞者には、周鉄海(チョウ・テイハイ Zhou Tiehai)や、現在原美術館でも個展が開催されている楊福東(ヤン フードン Yang Fudong)、中国の若手女性アーティストとして活躍する曹斐(ツァオ・フェイ Cao Fei)等が受賞しており、受賞者は現在、アートシーンにおいて国際的な評価を高めています。

一方、先日の香港クリスティーズでも中国の現代アートの高額落札が話題になっていたように、ここ数年、中国の現代アートに関心を抱く人やコレクターが増加している中、評論に関しては発展途上であり、作品の評価はマーケットに依存しているのが現状です。そのような中、独自の分析と評論が不可欠であると中国現代美術賞評論家賞が設立されました。この賞は、中国現代アートの現状を中心とした独創性のある分析と評論であることを基準に設け、論文のアウトラインのみを公募しています。

第2回目となる今年の評論賞は、27人の応募者から中央美術学院美術館学術部所属の王春辰(Wang Chunchen)が選ばれました。王春辰は研究論文「社会に介入する芸術―新しい芸術関係」を完成させる研究費として10,000ユーロを獲得、その著作は2010年にCCAAにて出版されることが決まっています。論文では、多数の芸術家が作品に日常の社会生活を投影させ、現代の政治及び芸術的規範を問題提起している点について考察しており、中国現代アートの現状に関連性があり、構成や言語の面においても適切であるとすべての評議委員の称賛を得たとのことです。

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今回の評議委員は中央美術学院副院長であり芸術家の徐冰(Xu Bing)氏、中国美術学院教授邱志傑(Qiu Zhijie)氏、雑誌『アート・イン・アメリカ』シニアエディターであるリチャード・バイン(Richard Vine)氏、CCAA創設者、ウリ・シグ氏の4人で構成され、ディレクターは元森美術館のシニアキュレーター、金善姫(キム・スンヒ)さんが務めています。金善姫さんは韓国人でありながら、欧米や日本のアート業界での豊富な経験を持ち、ここ数年は上海を拠点に活動されており、「中国においてこのような賞を立ち上げ、運営していくことは決して簡単なことではありませんが、発展途上だからこそやらなければならない」といいます。

今後も継続的に開催される予定だという中国現代芸術賞。この展覧会や出版物を通して、現在の中国においてどのようなアーティストが評価され、また評論家がどのように中国の現代アートを見ているのかを知ることができるでしょう。
(執筆:M)

中国現代芸術賞
http://ccaa-awards.org/ (中国語・英語のみ)

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「ヤン フードン―将軍的微笑」展@原美術館


Yang Fudong, The General’s Smile, multiple-channel video installation, 2009

12月19日(土)より東京の原美術館にて、近年国際的な活躍が目覚しい中国の映像作家、楊福東(ヤン フードンYang Fudong)の日本における初個展が開催されます。

楊福東は1971年北京に生まれ、杭州の中国美術学院絵画科を卒業後、現在は上海を拠点に制作をしています。写真や映像作品で注目され、2001年の横浜トリエンナーレの際、中国国外で作品を発表したのを機に、2002年の上海ビエンナーレ、ドクメンタ11、2003年、2007年のヴェネィツア・ビエンナーレに出品するなど、国際的な活躍の場を広げています。2004年にはヒューゴ・ボス現代美術賞を受賞、また同年、中国現代美術賞(CCAA)においても賞を受賞し、中国を代表する映像作家としての地位を確立しています。

楊福東は主に、現代の中国とそこに生きる人々を題材とし、35ミリフィルムを愛用した独特な質感と、完成度の高い構図による格調高い映像美を特徴としています。現実をそのまま写し撮ったかのようなドキュメンタリー調の作品もあれば、劇的な要素の強い作品もありますが、いずれもある種神秘的で象徴性が高く、観る者を引き込む独特な世界が広がっています。淡々と、静的に映し出された映像は、急速に発展している中国現代社会において失われたものを暗示しているようであり、また現代に生きる者たちの不安や困惑、無力感をも浮き彫りにしているようにみえます。
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Yang Fudong, The General’s Smile, multiple-channel video installation, 2009

30代にして中国を代表する映像作家の一人となり、いまや国際的な舞台で活躍する寵児として知られている楊福東ですが、生まれ育った環境に芸術に関心を持つ人はおらず、楊福東自身もサッカー選手を目指していたといいます。しかし、10代の頃に怪我をしたのを機に、絵を描くことに興味を抱くようになります。そして美大に進んでまもなく、独学で映像作品を制作し始めます。大学卒業後はゲームソフトを開発する会社に勤めながらも絵を描き続ける中で、次第に写真や映像作品の制作に向かうようになっていきます。大学を卒業したばかりで給料が少ない中、作品のためにしばしば友人にお金を借りてまで制作したといいます。「モノクロ映像から得られる距離感がすばらしい」とモノクロの作品を多数制作しています。自然を舞台にした作品では、一見、超現実的な世界を描いているようにも見えますが、特別な装置や特殊効果は用いておらず、欲しい映像のためには何日も待って実景を撮影しているといいます。
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Yang Fudong, The General’s Smile, multiple-channel video installation, 2009

原美術館で開催される個展では、老将軍を囲む祝宴の情景を通して、人間の普遍的な在りようを描いた大型の映像インスタレーション「The General’s Smile」(「将軍の微笑」2009年)、世俗を避け竹林で清談する賢人たちの故事を模して、現代の知識階級の若者像の内面に迫るシリーズ作品「Seven Intellectuals in a Bamboo Forest Part 3」(「竹林の七賢人 part3」2005年)などが紹介されます。前者の「将軍の微笑」は、今年の5月~8月にかけて上海証大現代芸術館で開催された楊福東の個展にも展示された大作です。一方「竹林の七賢人」は2007年のヴェネツィア・ビエンナーレの際にも上映され、話題を集めました。

この展覧会では、日曜、祝日には学芸員によるギャラリーガイドが実施されるほか、出品作品である「Backyard-Hey, Sun is Rising!」(「バックヤード ほら、陽が昇るよ!」2001年 13分)が35ミリフィルムで上映されるとのことです。また、関連イベントとして、20日(日)午後2時から3時30分まで、上海より楊福東を招いてアーティストトークを開催するとのことです。詳細は以下、原美術館へお問い合わせください。
(執筆:M)


【開催要項】
展覧会名 「ヤン フードン―将軍的微笑」
会期 2009年12月19日[土]-2010年3月28日[日]
主催/会場   原美術館 東京都品川区北品川4-7-25 Tel: 03-3445-0651
ウェブサイト http://www.haramuseum.or.jp
開館時間 11:00 -17:00
(12月23日を除く水曜日は20:00まで開館/入館は閉館時刻の30分前まで)
休館日 月曜日(1月11日、3月22日は開館)
    12月28日-1月4日、1月12日、3月23日
日曜・祝日には原美術館学芸員によるギャラリーガイドを実施(2:30pmより約30分)

関連イベント 「アーティストトーク: ヤン フードン」(中日逐次通訳付)
日時: 12月20日[日] 2:00 – 3:30pm 場所: 原美術館ザ・ホール 
料金: 2,000円(一般/入館料込み)、1,000円(原美術館メンバー及び同伴者2名まで)
要予約 Tel: 03-3445-0669 E-mail: info@haramuseum.or.jp

写真提供:原美術館

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アーティスト・イン・レジデンス、上海

「アーティスト・イン・レジデンス」。アーティストが一定期間、ある土地に滞在しながら作品を制作するプログラムとして、日本ではすでに、海外のアーティストの受け入れ、あるいは日本人アーティストの派遣等が度々行われています。上海においても、日本人が運営するアートマネジメントオフィス「Office339」がレジデンスプログラムを打ち出し、日本から若手アーティスト、龍門藍を迎えるというので、制作活動から個展開催までを取材しました。

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滞在期間は7月末から9月末の約2ヶ月。上海でアートイベントが目白押しだった9月上旬には制作場所を一般に公開し、その集大成として、自身にとって海外初の個展「Girl by Girl」を開催。その個展も先月、好評を博する中幕を閉じました。

龍門藍は1984年岡山県生まれ。今春、京都市立芸術大学大学院を修了したばかりでありながら、在学中から精力的に活動し、国内外から注目を集めているアーティストの一人です。今回上海に滞在するにあたって、日本から持参したという一部の道具以外、キャンバスや絵の具等はほとんど現地で調達し、まったくこれまでの日常とは異なる空間に身を置いて制作を開始したといいます。女の子や人形、花などをモティーフに、鮮やかな色彩、大胆な構図により描かれた作品は、瑞々しく、ガーリーポップな雰囲気が溢れていますが、龍門藍自身も、作品の雰囲気を裏切らない可愛らしいアーティストで、上海での制作活動や住民との交流、また上海生活そのものを心から楽しんでいるようでした。
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右は上海に来てから雨が続いてどこにも出かけられず、そのときの気持ちを反映しているという作品。

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「一度日本の外に出て制作をしてみたいと思っていたし、上海で制作に集中できることがとてもうれしい。心境の変化も大きい。」と生き生きと制作に励む。


可愛らしい女の子、あるいはその人形をモティーフとしながらも、顔が網で覆われていたり、籠や格子の中に閉じ込められていたり、自由な動きが制限された姿は、一見、何かから束縛されて身動きがとれないようであり、女の子の抑圧された感情を表現しているかのように受け取れます。またそれをチープな人形でポップに表すことにより、重くなりがちなテーマを、軽やかで親しみやすいものへと置き換えているかのようにも感じます。
しかし本人は「観る方が自由に受け取っていただければ」といい、むしろ網や格子に興味があるようで、「格子があることで、格子と格子の間に主体が描かれて、主体と格子の前後関係が入れ替わるように見えることが面白い」といいます。
また、縦横3メートルの巨大なキャンバスを前に、「上海でしかできない、大きな作品を作ってみたくて」と目を輝かせ、脚立を何度も往復しながら筆を運んでいる様子が印象的でした。
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制作場所は、かつてイギリス租界であった古い工場跡地の一角で、アートマネジメントオフィス「Office339」をはじめ、ギャラリーやアーティストのアトリエ、デザイン会社等が入居しています。制作中にアーティストがふらりと入ってきて、「ここはこうした方がいい」といったアドバイスしてくることもあり、とても新鮮であったといいます。こうした現地のアーティストたちとの交流も大いに刺激になったようです。

個展開催時には3メートルの大作はまだ絵の具が乾ききっていなかったということもあり、一度フレームから外し、作品を広げたまま、夜中の上海を練り歩いて運んだといいます。「大変でしたよ」と言いながらもその過程を笑顔で語る姿に、今後もその活動に注目していきたいと思わずにはいられませんでした。

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個展のオープニングでは地元のアート関係者やアートファンで賑わう。

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「Layer Tights」シリーズ。

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個展のオープニングパーティーでは、美術を専攻する中国の学生とともにパフォーマンスを披露。

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個展のオープニングを無事終え、「また上海に来たいです」と笑顔を見せた。

龍門藍の個展の詳細はこちら

(執筆:M)

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世界の現代アート、上海に集まる

先月上海アートフェアをレポートした際に、現代アートに特化したアートフェア、Shコンテンポラリー(Sh Contemporary、上海国際芸術博覧会)が同時期に開催されていることに触れましたが、本日は遅ればせながら9月9日より13日まで開催されたShコンテンポラリーについてレポートいたします。

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会場となった上海展覧中心

Shコンテンポラリーは2007年よりはじまり、3回目を迎える若いアートフェアですが、すでにアジアで最大規模の国際的なアートフェアとしての地位を確立しています。
会場となった上海展覧中心は、1955年に当時のソ連から中国へ贈られた荘厳な雰囲気を持つスターリン式の建築物で、現在は貿易関係のフェアが多数開催される会場のひとつとして利用されています。

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会場はメインとなるギャラリーのブース「ベスト・オブ・ギャラリー」の他、企画展「ディスカバリー」、若手作家の過去2年以内の作品を扱ったギャラリーのブース「プラットホーム」の大きく3つに分けられ、中国、台湾、韓国、日本、シンガポール、ネパール、アメリカ、フランス、イタリアなどの国と地域から、60以上のギャラリーが参加。そのほか、美術館、オークションハウス、出版社、芸術関係のインターネットサイト、美術賞などのブースも設けられていました。

Sh-2.jpg 「ディスカバリー」の展示風景


「ディスカバリー」とは、森美術館の片岡真美チーフキュレーターをはじめ、アントン・ヴィドクル、汪建偉(ワン・ジンウェイ)の3人のキュレーターによる企画展で、国際的に活躍する計24名のアーティストのうち、日本人アーティストでは、宮永愛子、金氏徹平、大巻伸嗣、岩崎貴宏、東恩納 裕一が招待されていました。さらに企画展ではベストヤングアーティストアワード(Best Young Artist Award)という賞が設けられており、宮永愛子、大巻伸嗣、北京のアーティスト石青(シー・チン)が受賞。それぞれの作家の作品は独立して展示されていましたが、ロシアンスタイルの装飾と天井が高く広々とした薄暗い空間の中、独特な世界が作り上げられていました。

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マーケット色の濃いアートフェアにおいて、販売とは別に企画展を併催しているフェアも見られるようになってきましたが、その中でもShコンテンポラリーの「ディスカバリー」は規模、質、注目度において、群を抜きん出ているように見受けられます。

また、レクチャーも開催されており、学術的なテーマだけでなく、アートコレクションや今後の現代アートマーケットの動向といったテーマに多くの人が熱心にレクチャーを聞き入る姿が見られました。

同時期に多数アートイベントが開催されていることもあり、アート関係者を含め、国内外から多くの観客が来場し、会場は熱気に包まれていました。主催者側によると、3万人を超える観客と500名にのぼるコレクターが来場し、学術的にも、アートマーケット的にも、大きな成功を収めたとのことです。

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ロシアンスタイルの装飾×現代アートの融合が新鮮

またこのアートフェアに限りませんが、会場は立派な一眼レフを抱えた若者たちであふれ、日本のアートフェアとは異なる不思議な光景が見られます。もちろん撮影を許可していない場所もありますが、個人的な趣味として作品に近づいて真剣に撮影する人もいれば、作品と一緒に記念撮影をする人も多く、このような形であれ、アートが一般に対してオープンであり、アートに関心を抱いて気軽に来場する若者が多いということに微笑ましく感じました。


Sh Contemporary 上海国際芸術博覧会
会期:2009年9月9日~13日
会場:上海展覧中心
http://www.shcontemporary.info/
(中国語、英語のみ)

(執筆M)

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秋を彩るアートフェア、各地で開催中!

皆様こんにちは。アートを鑑賞するのに最適な季節がやってきましたね。
先日のブログでもお伝えしましたが、8月末から今月にかけ、アジア各地でアートフェアが開催されています。今回はそのうち、台北と上海のアートフェア情報をお伝えいたします。
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まずは8月28日から9月1日まで、「ART TAIPEI2009」(台北国際芸術博覧会)が開催されました。このアートフェアは1992年より開催されており、今回は16回目というアジアのアートフェアでは最も歴史があり、最大規模、かつ台北唯一のアートフェアとして知られています。

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昨年の招待国であった日本に変わり、今年は東南アジアが迎えられ、アジアを中心とした世界各地から78のギャラリーと16のメディア等が参加しており、日本からは14のギャラリーが参加。日本人アーティストでは、名和晃平、宮島達男、海老原靖、山口晃、森村泰昌、澤田知子、北川宏人、小林浩、山本麻友香、櫻井りえこ等、シンワのオークションでも人気の高い作家の作品が展示されていました。

また、
年度主題特区として「美学と環境」(ART & ENVIRONMENT―HUMAN AS ART)という国内外の作家によるテーマ展、
新人推薦特区として台湾の新人作家8人それぞれを紹介するブース、
台湾、中国、韓国、日本の作家によるメディアアートのショーケース型企画展、「日常事変」(LIVE BY PLAY)
といった特設コーナーが設けられていた他、
アートレクチャーやアートフィルムの上映が随時行われており、大変興味深い内容が満載のアートフェアとなっていました。
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カタログやテーマごとのパンフレットをはじめ、台北市内のギャラリーマップや比較的購入しやすい価格帯の作品を集めたパンフレットなどもあり、その資料の充実ぶりにも驚かされました。
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昨年は過去の記録を塗り替えるほどの大成功に幕を閉じたものの、8月上旬に台湾南部を襲った台風の影響や不景気の煽りを受け、不安の声もあったそうです。しかし、現在のところ最終的な結果は集計中とはいえ、比較的良い結果であろうと予想されています。また、台湾は熱心なコレクターが比較的多い都市であるといわれていますが、特にここ数年、日本のアートへの関心が高まっており、今回のアートフェアにおいても上述したアーティストをはじめ、日本人作家に関心を示すコレクターは多く、取引も活発であったとのことです。

ART TAIPEI2009 台北国際芸術博覧会
会期:2009年8月28日~9月1日
会場:台北世界貿易中心
http://www.art-taipei.com/(中国語・英語のみ)

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続いて上海では、今月9日から「上海芸術博覧会」がはじまりました(~13日まで)。このアートフェアは1997年に開始され、政府の支援の下、今回13回目を迎えるという歴史あるイベントです。通算で40以上の国と地域のギャラリーが出展しており、世界各国のアートはもちろん、中国の陶磁器や書画、美大生の作品など、幅広いジャンルのアートを楽しむことができます。今回は中国を中心に、10カ国120ものギャラリーのブースの他、中国で活躍中の作家や若手作家を紹介するコーナー、軍隊の芸術家による作品展、近現代の陶磁器を紹介するコーナー、美術学院等学術的な団体からの出展ブースなど、建物の3フロアが使用され、ボリュームのある展覧会となっています。
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また、先月、上海美術館ではサルバドール・ダリの没後20年を記念して中国最大規模の展覧会が開催されていたのですが、それに引き続き、こちらのアートフェアにおいても特設コーナーが設けられ、彫刻と版画を中心とした作品が展示されていました。中には公開されるのが50年ぶりという作品や巨大な絵画もあり、貴重な作品を堪能することができます。


初日から多くの人でにぎわっているとのことでしたが、平日の夕方の時点でも中国の近現代の陶磁器を扱ったフロアは比較的人が多く、中国における陶磁器への根強い人気を実感しました。
全体的に中国のアート尽くしといった印象で、日本のアーティストはもちろん、他の国のアーティストの紹介はそれほど多くはなく、欧米人の姿もたまに見かける程度。会場内で飛び交う声も中国語ばかり。世界各地でアートフェアが開催されている中、中国のアートにどっぷり浸かることができるこのアートフェアは、上海ならではの空気を感じることができ、同時期に開催中のコンテンポラリーアート専門のアートフェア、「SH Contemporary」と良い意味で差別化ができているといえるのかもしれません。


上海芸術博覧会
会期:2009年9月9日~13日
会場:上海世貿商城
http://www.cnarts.net/sartfair/2009/(中国語・英語のみ)

上述したSH Contemporaryの詳細は、日を改めてレポートいたします。他にも、この時期に合わせて上海の各所でアートイベントが催されていますので、その様子も順次お伝えしていきますのでお楽しみに!
(執筆:M)

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上海アートスポット:莫干山路50号

皆さん、こんにちは。本日は上海からブログをお届けしています。
来年の万博に向けて何かと話題にあがる上海ですが、世界から注目を集めている今だからこそお伝えできることがあるはず、という思いから、上海からもアート情報を発信することにいたしました。

先週は皆既日食のツアーで上海に訪れた方も多かったようですが、あいにく天気が優れず、市内では太陽が見られないまま終わってしまいました。それでも、だんだん空が暗くなったかと思うと、あっという間に暗闇が訪れ、またしばらくすると明るくなっていく、という体験は初めてで、厚い雲の向こうで起こっていることを想像するだけでも神秘的でした。

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さて、上海ではあちこちに美術館やギャラリー、アート関連のショップが点在しており、ぶらぶら街を歩いているだけでも気軽にアートに触れることができます。
中でも、上海のアートスポットとして最も名の知られた場所といえば、莫干山路50号(Mo gan shan lu:モーガンシャンルー)、通称M50があげられます。
ここは上海市内を蛇行する蘇州河沿いにある紡績工場の跡地を利用したアートスポットで、国内外のギャラリーやアーティストのアトリエが集っています。




オフィシャルサイトによると、1930年代から時代に応じて建てられてきた工場跡地の総面積4万1000平方メートルを利用し、中国各地はもちろん、イギリス、フランス、イタリア、スイス、イスラエルといった世界各国のギャラリーやアーティストのアトリエ、デザイン、建築、映像制作等の事務所、書籍や雑貨を扱うショップ、カフェなどが130軒以上、軒を連ねています。
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それぞれの建物は、建築年代によるのか、建築様式から老朽化の進み具合まで、まったく統一感はなく、一体どこから何を見たらよいのか路頭に迷いそうになるのですが、その混沌とした雰囲気が上海を象徴しているようであり、訪れる度に新しい発見があります。

思い切って廃墟のような建物の合間を進んでみると、アーティストがキャンバスを地面において作品を制作している場面に遭遇。思いがけず直接話をすることができ、また足を運びたいという気持ちが掻きたてられます。

以前、シンワアートミュージアムにて開催された「Art Now in China 2008」展に関する記事でも紹介した薛松(Xue Song)や周鉄海(Zhou Tiehai)、陳墻(Chen Qiang)などもこの地から世界へと飛び立った作家で、彼らのアトリエもここにあります。
※参考http://shinwaart.blog43.fc2.com/blog-entry-74.html

夏休みを利用して上海への旅行を考えていらっしゃる方もいらっしゃるかと思いますが、M50 は空調設備がしっかりとしていない場所も多く、連日最高気温が40度近いこの時期の訪問は体力を要するのでお気をつけてくださいね。(執筆:M)

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莫干山路50号
http://www.m50.com.cn/

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春のコンテンポラリーアート市場レビュー

~SUMMER+AUCTION 出品作品~

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松浦浩之「Pancake」
35.0×35.0cm / キャンバス・アクリル
落札予想価格:50万円~80万円
→松浦浩之はクリスティーズ香港のセールでも人気を集めました。
ご存知の通り、春は世界中のオークションハウスが大きなセールを開催する季節です。
そこで今回は、SUMMER+AUCTIONと関連深いアジアのコンテンポラリーアートを中心に、春のオークション月間を振り返ってみたいと思います。

まず1つ目にご紹介するのは、フィリップスが4月3日にLondonで開催した“Kyobai”です。
このオークションは、その名が示す通り、様々な分野の日本人アーティストの作品を集めたものです。
村上隆や奈良美智に始まり、若手アーティスト、陶芸作品そしてデザイン家具やフィギュアまで、幅広い作品が出品され、日本文化を俯瞰できる意欲的なセールとなりました。
フィリップスは、今年秋にも同様のセールを開催するとのこと。

そして2つ目は、アジアの若手アーティストの登竜門的存在でもある、クリスティーズ香港の”アジアン・コンテンポラリーアート”のセール。 参加者の中で大きなパートを占める、中国四川省で発生した大地震や、サブプライムローンの影響が心配されるなかでの開催となりましたが、結果的には活気あるオークションとなりました。
中国人コレクターの買い意欲は依然高く、ジャン・シャオ・ガンを初めとする中国人アーティストの作品が相変わらずの人気を集めたほか、インドネシア人アーティスト REDY RAHADIANや、インド人アーティスト SUBODH GUPTAの作品が高額で落札されたことなどは、新しい動きだったのではないでしょうか。
そして、注目の我らが日本人アーティストの活躍はといえば、これが総じて中々の高評価。
1000万円を超える落札価額の作品があったアーティストが7、8名。500万円以上の落札価額だったアーティストが4、5人と、日本人アーティストが世界でプレゼンスを確立しつつあることを確信させる結果となりました。特にデイセールは、全体で400ロットほどの作品数の内、4分の1近い作品が日本人アーティストのものであり、その層の厚さも感じさせる内容となったのでした。

しかし何といっても、今春一番の驚きの結果はN.Yサザビーズのセールで村上隆のフィギュア作品「マイ・ロンサム・カウボーイ」がエスティメイトを大きく上回る、1516万ドル(約15億9500万円)で落札されたことではないでしょうか。4月のはじめに同じフィギュア作品「パンダ」が、過去最高の272万ドル(約2億6000万億円)で落札されたばかりでしたが、そのレコードをあっさりと塗り替えたことになります。
またこれは、3月に約14億円で落札された運慶の仏像をも上回る結果です。

このように、2008年春のオークションシーズンは大方の懸念を余所に、まずまずの盛り上がりを見せて幕を閉じたのでした。



~語句解説~
1.世界のオークションハウス
<サザビーズ>
1744年に書籍のオークションを開催したことに始まる、世界最古のオークションハウス。
世界最高額の落札記録(ピカソ「パイプを持つ少年」2004年 1億4000万ドル)を持つ。

<クリスティーズ>
1766年にイギリスの美術商のジェームズ・クリスティーにより、イギリスの首都ロンドンに設立されたオークションハウス。
ダイアナ妃やマリリン・モンローなど著名人の財産のオークションを度々手がけている。

<フィリップス>
1796年に創業した、クリスティーズ、サザビーズに次ぐ世界第3位のオークションハウス。

クリスティーズとサザビーズは、2社合せて1兆円を超える売り上げを誇る。

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