アーティスト・イン・レジデンス、上海


「アーティスト・イン・レジデンス」。アーティストが一定期間、ある土地に滞在しながら作品を制作するプログラムとして、日本ではすでに、海外のアーティストの受け入れ、あるいは日本人アーティストの派遣等が度々行われています。上海においても、日本人が運営するアートマネジメントオフィス「Office339」がレジデンスプログラムを打ち出し、日本から若手アーティスト、龍門藍を迎えるというので、制作活動から個展開催までを取材しました。

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滞在期間は7月末から9月末の約2ヶ月。上海でアートイベントが目白押しだった9月上旬には制作場所を一般に公開し、その集大成として、自身にとって海外初の個展「Girl by Girl」を開催。その個展も先月、好評を博する中幕を閉じました。

龍門藍は1984年岡山県生まれ。今春、京都市立芸術大学大学院を修了したばかりでありながら、在学中から精力的に活動し、国内外から注目を集めているアーティストの一人です。今回上海に滞在するにあたって、日本から持参したという一部の道具以外、キャンバスや絵の具等はほとんど現地で調達し、まったくこれまでの日常とは異なる空間に身を置いて制作を開始したといいます。女の子や人形、花などをモティーフに、鮮やかな色彩、大胆な構図により描かれた作品は、瑞々しく、ガーリーポップな雰囲気が溢れていますが、龍門藍自身も、作品の雰囲気を裏切らない可愛らしいアーティストで、上海での制作活動や住民との交流、また上海生活そのものを心から楽しんでいるようでした。
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右は上海に来てから雨が続いてどこにも出かけられず、そのときの気持ちを反映しているという作品。

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「一度日本の外に出て制作をしてみたいと思っていたし、上海で制作に集中できることがとてもうれしい。心境の変化も大きい。」と生き生きと制作に励む。


可愛らしい女の子、あるいはその人形をモティーフとしながらも、顔が網で覆われていたり、籠や格子の中に閉じ込められていたり、自由な動きが制限された姿は、一見、何かから束縛されて身動きがとれないようであり、女の子の抑圧された感情を表現しているかのように受け取れます。またそれをチープな人形でポップに表すことにより、重くなりがちなテーマを、軽やかで親しみやすいものへと置き換えているかのようにも感じます。
しかし本人は「観る方が自由に受け取っていただければ」といい、むしろ網や格子に興味があるようで、「格子があることで、格子と格子の間に主体が描かれて、主体と格子の前後関係が入れ替わるように見えることが面白い」といいます。
また、縦横3メートルの巨大なキャンバスを前に、「上海でしかできない、大きな作品を作ってみたくて」と目を輝かせ、脚立を何度も往復しながら筆を運んでいる様子が印象的でした。
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制作場所は、かつてイギリス租界であった古い工場跡地の一角で、アートマネジメントオフィス「Office339」をはじめ、ギャラリーやアーティストのアトリエ、デザイン会社等が入居しています。制作中にアーティストがふらりと入ってきて、「ここはこうした方がいい」といったアドバイスしてくることもあり、とても新鮮であったといいます。こうした現地のアーティストたちとの交流も大いに刺激になったようです。

個展開催時には3メートルの大作はまだ絵の具が乾ききっていなかったということもあり、一度フレームから外し、作品を広げたまま、夜中の上海を練り歩いて運んだといいます。「大変でしたよ」と言いながらもその過程を笑顔で語る姿に、今後もその活動に注目していきたいと思わずにはいられませんでした。

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個展のオープニングでは地元のアート関係者やアートファンで賑わう。

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「Layer Tights」シリーズ。

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個展のオープニングパーティーでは、美術を専攻する中国の学生とともにパフォーマンスを披露。

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個展のオープニングを無事終え、「また上海に来たいです」と笑顔を見せた。

龍門藍の個展の詳細はこちら

(執筆:M)