【3月陶芸オークション】下見会始まります!

こんにちは。3月に入り、だいぶ春めいてきましたね。桜の開花宣言も出され、今年はお花見など予定されている方も多いのではないでしょうか?

 

さて、今週末11日土曜日に、「近代陶芸/近代陶芸PartⅡオークション」が開催されます。それに伴いまして、本日から始まります下見会場の様子をご案内いたします。

 

今回はとにかく、大型作品が数多く出品されます。

地下・下見会場風景

高内秀剛、岸映子、小峰尚…大きさもさることながら、作者の表現したい思いが強く溢れ迫力があり、会場全体にパワーがみなぎるようです。

茶道具類の下見会風景

こちらは、茶道具類です。銅鑼(どら)は、重要無形文化財保持者(人間国宝)の初代魚住為楽(いらく)の作です。銅鑼を鳴らすと、体全体に響き渡るような、重厚感ある音が体感できます。黒樂茶碗は、樂家六代・左入【貞亨2-元文41685-1739)】のもの。釜は、角谷與斎の「鵬雲斎好 鶴雲釜」です。そのほかにも、京焼の名工と知られる仁清の茶碗など、新旧取り合わせた茶道具をお楽しみください。

 

そして、1971年に制作された加守田章二の「彩陶壷」も出品されます。

LOT.133 加守田章二
彩陶壷
H17.9×D22.3㎝
底部に描き銘「章」、「一九七一」記
共箱
1971(昭和46)年作
『加守田章二全仕事』掲載P.284(講談社)
落札予想価格:400万円~800万円

赤く、うろこ状の模様が張り巡らされた1971年の作品は、評価の高い年の作品の一つです。底部の銘まで緻密にデザインされたリズミカルな作品を、ぜひご覧ください。

 

オークションは、11日土曜日15からです。当日は下見会を行っておりませんので、ご留意ください。また、スケジュール詳細は下記をご参考ください。

オークション・下見会のスケジュールとご予約について、オンラインカタログはこちら

なお、ご入札は、ご来場のほか、書面入札、オンライン入札、電話入札、ライブビッディングなどの方法でも承っておりますので、お気軽にご参加ください。

引き続き、感染症予防対策をしっかりと行い、皆様のご参加をお待ちしております。

                                             執筆者:江口

 

 

佐伯祐三の第1次パリ時代―《オニー風景》

こんにちは。
2023年を迎え、1回目のブログ更新となります。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

本日はまずおすすめの展覧会をご案内させていただきます。
1/21より東京ステーションギャラリーにて、「佐伯祐三 自画像としての風景」展が開幕しました。日本最大級の質と量を誇る大阪中之島美術館の佐伯祐三コレクションを中心に、画家の代表作が一堂に集結しています。こちらの展覧会には、過去に当社のオークションに出品された作品も出品されています。4/15からは大阪中之島美術館にも巡回しますので、佐伯ファンの方はぜひお近くの会場に足をお運びください。




「佐伯祐三 自画像としての風景」展公式ホームページ
 https://saeki2023.jp/











さて、1/28(土)に開催いたします、当社の近代美術オークションにも佐伯祐三の作品が出品されますので、ご紹介いたします。



99 佐伯祐三

《オニ―風景》
49.8×60.5cm(額装77.0×88.0cm)
キャンバス・油彩 
1924(大正13)年頃作
東美鑑定評価機構鑑定委員会鑑定証書付
落札予想価格 ¥20,000,000~¥30,000,000


掲載文献・出品歴
『佐伯祐三全画集』(1968年/講談社)№105
『佐伯祐三全画集』(1979年/朝日新聞社)№38
「佐伯祐三展」1968年(東京セントラル美術館/朝日新聞社)出品
「没後50年記念 佐伯祐三展」1978年(東京国立近代美術館・京都国立近代美術館/朝日新聞社)
出品

「佐伯祐三・ヴラマンク展」1980年(渋谷・東急百貨店/東京新聞)出品
「佐伯祐三展 芸術家への道」2005年(練馬区立美術館・和歌山県立近代美術館)出品


佐伯祐三は、自らの生命をキャンバスに刻み込むかのような情熱と疾走感溢れる筆致でパリの街の風景を描き、30歳という若さで早世した画家です。1923年、東京美術学校(現・東京藝術大学)を卒業した佐伯は、関東大震災という大きな困難を乗り越え、同年11月に神戸港からフランスに向けて出発しました。翌年1月にパリに到着してから日本に一時帰国するまでの2年間は、佐伯の画業における「第1次パリ時代」などと呼ばれています。

1924年頃作の本作はこの時期に制作された作品の一つです。取材地のオニーは、パリの北西に位置するイル・ド・フランス、ヴァル=ドワーズ県の村であり、佐伯は滞仏中に2年続けてこの地を訪れています。特に1924年の秋には、佐伯を「このアカデミック!」と厳しく叱責し、覚醒させたというエピソードで知られるフォーヴィスムの画家モーリス・ド・ヴラマンクの写生地を巡る旅行の途中、里見勝蔵とともに訪問してその長閑な風景に取り組みました。

また、題材は、類似作品の画題よりオニーの牧場と考えられます。ペインティングナイフを使用し、荒々しい筆致で風景全体を捉えており、暗調の色彩と白が妖しく混じり合うドラマティックな空の表現が、ヴラマンクの影響を感じさせます。その一方、建物や牧草地、樹木の形を大胆に簡素化し、平面的に表しており、後年のパリ風景に通じる、研ぎ澄まされた色彩感覚や形態把握の試みをうかがわせます。生来のフォーヴ的な感性を生かし、無我夢中で自らの表現を模索する佐伯の姿を想像させるようです。

東京ステーションギャラリーから当社へは地下鉄で1駅です。「佐伯祐三 自画像としての風景」展をご鑑賞される際は、ぜひ当社の下見会やオークションにもお立ち寄りください。
オークション・下見会スケジュール、オンラインカタログはこちら

なお、ご入札は、ご来場のほか、書面入札、オンライン入札、電話入札、ライブビッディングなどの方法でも承っておりますので、お気軽にご参加ください。
新型コロナウイルスの感染予防対策をしっかりと行い、皆様のご参加をお待ちしております。

(佐藤)

1972年の前衛陶芸家-八木一夫・加守田章二-     寛永(1624-44)の三筆-光悦・近衛信尹・松花堂昭乗-

こんにちは。

もう数日で、12月に突入。あっという間に今年の弊社のオークションも最後の開催となりました。今週末に行われます「近代陶芸/古美術/近代陶芸PartⅡオークション」から、

こちらの作品をご紹介いたします。

■LOT.195 八木一夫「ページ」

H11.0×W29.0×D16.8cm

1972(昭和47)年作

見込みに掻き銘

共箱

『やきものの美 現代日本陶芸全集 第十四巻 八木一夫』掲載 No.22(集英社)

落札予想価格:200万円~400万円

■LOT.210 加守田章二「壷」

H15.6×W15.0cm

1972(昭和47)年作

底部に掻き銘「章」、「一九七二」刻

加守田昌子箱

落札予想価格:400万円~800万円

 八木一夫(1918-1979)と加守田章二(1933-1983)は、日本の陶芸史に名を遺す、前衛陶芸家として知られる陶芸作家です。

 八木一夫は、1918年に京焼の本場・五条坂で陶芸作家の八木一艸の長男として生まれました。37年に京都市立美術工芸学校(現京都市立銅駝美術工芸高等学)を卒業後、小中学校で図画工作の教員となっていましたが、終戦を迎え作陶に専念しました。そして48年に、京都五条坂の若手陶芸家らとともに、前衛陶芸集団・走泥社を設立し、鑑賞陶器に思いきり舵を切り、実用性のないオブジェを制作し始めます。日本の陶芸界では革命的な出来事であったと言えるでしょう。54年には、代表作《ザムザ氏の散歩》を発表。その後パリやニューヨーク近代美術館などで巡回展が開催され、プラハで開催された第3回国際陶芸展では、《碑 妃》がグランプリを受賞するなど、国内外で高い評価を得ました。71年には、京都市立芸術大学美術学部陶芸科教授に就任しています。この頃《頁(ページ)1》《頁2》《頁3》を「現代の陶芸―アメリカ・カナダ・メキシコ・日本展」に出品しており、本作はその翌年に制作されています。その年から始まる「本シリーズ」に続く作品だと考えられます。そして奇しくも同じ年に制作されたのが、LOT.210加守田章二「壷」です。

 加守田章二は、1933年に大阪岸和田に生まれ、京都市立美術大学(現京都市立芸術大学)に入学しました。八木が前述の《ザムザ氏の散歩》を発表した頃に在学しており、走泥社の勢いを間近に感じていたのかもしれません。その後、加守田は益子へ移住し作陶を開始し、69年に岩手県遠野で築窯。71年、72年に色鮮やかな色彩を用いた「彩陶」は、加守田の中でも最高評価を受けています。本作は「彩陶」と名付けられていないものの、その流れを汲んだ作品です。

 八木一夫、54歳。加守田章二、39歳。時代の寵児として活躍していた二人の作をぜひご覧ください。

 

また今回は、古美術オークションに、「寛永の三筆」と呼ばれた三人の作と伝わる軸が出品されます。

 

 

■LOT.81 松花堂昭乗・狩野探幽「竹菊 遠州蔵帳」

90.1×29.1cm

紙本・軸装(173.0×35.4cm)

小堀遠州(宗甫)書付

小堀宗慶書付

『観空庵遺愛品入札もくろく』掲載 五一

東京美術倶楽部/昭和16(1941)年【目録付】

落札予想価格:60万円~120万円

松花堂昭乗(しょうかどう しょうじょう)【天正十二年-寛永十六年(1584-1639)】は江戸初期の社僧で、能書家。小堀遠州(宗甫)と並び茶道芸術の完成に貢献したことで知られ、松花堂が所持した茶道具名物は「八幡名物」と称されています。今回は、松花堂が竹、狩野探幽が菊を描いた二人の合作で、書は認められていません。ですが、あたかも一人で描いたかのように、ともにたらし込みの技法を用いた軽妙な筆致で対象を表しており、その技量の高さをうかがわせます。

■LOT.117 光悦「消息」

28.4×38.6cm

紙本・軸装(122.0×57.8cm)

『光悦』掲載 P.123 No.86(第一法規出版)【本付】

『光悦書状 一』掲載 No.82(二玄社)【本付】

落札予想価格:250万円~350万円

続いて光悦(こうえつ)【永禄一年-寛永十四年(1558-1637)】ですが、光悦は代々刀剣の鑑定を生業とする本阿弥家分家に生まれ、家業の傍ら、書画・陶芸・漆芸・茶道・作庭など、諸芸に類まれな才覚を発揮しました。同時期に活躍した俵屋宗達とともに斬新な意匠の作品を次々に生み出し、琳派の祖と称されています。書においては、上代様に学び、光悦流という独自の書境を拓きました。本作は、誰に宛てたものかは不明ですが、光悦が催す茶会の出欠に関する内容の手紙です。墨色の潤渇、筆線の太細、文字の大小に変化をもたせた闊達自在な書風が見て取れます。

■LOT.118近衛信尹「源氏物語抄」

35.3×94.5cm

紙本・軸装(134.0×103.5cm)

「書の流儀II ‐美の継承と創意」出品 出光美術館/平成29(2017)年【図録付】

「特別展 桃山 ‐天下人の100年」出品 東京国立博物館/令和2(2020)年【図録付】

落札予想価格:230万円~330万円

そして最後にもう一人、安土桃山時代から江戸初期にかけての公卿・近衛信尹(このえのぶただ)【永禄八年-慶長十九年(1565-1614)】です。五摂家筆頭の近衛家に生まれ、慶長十(1605)年に関白となりました。書に優れ、近衛流(三藐院流(さんみゃくいんりゅう))を創始しています。本作は、『源氏物語』「宇治十帖」の一つ、第四十九帖「宿木」の一部を抜粋し、散らし書きした幅です。書風は、父・前久(さきひさ)が得意とした伝統的な宮廷様の書法を継承し、定家流を取り入れたものであり、本作でも字形に信伊が確立した近衛流の特徴がよく表れています。また、薄緑色の料紙には、銀泥により藤が描かれ、金銀箔が散らされており、信伊が自ら注文して作らせた装飾料紙と推測されます註)「作品解説」『特別展 桃山―天下人の一〇〇年』読売新聞社 2020年。安土桃山時代の華やかな貴族文化を現在に伝える優美な作です。

 三者三様の幅であり、同時に鑑賞できる機会もすくないかと思いますので、ぜひ下見会場へ足をお運びください。

 

下見会・オークションスケジュールはこちら。

 

また、今回もオークション当日は、下見会を開催しておりませんので、お気を付けください。

 なお、ご入札は、ご来場のほか、書面入札、オンライン入札、電話入札、ライブビッディングなどの方法でも承っておりますので、お気軽にご参加ください。

引き続き、感染予防対策をしっかりと行ってまいりますので、皆様のご参加を心よりお待ちしております。

 

                                        (江口)

ローマを魅了した名作―鏑木清方《道成寺 鷺娘》

こんにちは。
久しぶりの更新となってしまいました。
気付けばあちらこちらの街路樹が紅葉していて、通勤中にも秋の深まりが感じられます。
今月は、12日(土)に「近代美術/コンテンポラリーアート/近代美術PartⅡ/マンガ/中川一政コレクション」を開催いたします。
今回の会場は通常とは異なり、東京駅前の“丸ビルホール”となります。
(下見会はいつも通り銀座の当社ギャラリーです。) 
ご存じない方もおられるかもしれませんが、丸ビルホールでのオークション開催は、なんと約10年ぶりとなります。各ジャンルとも名品・注目作揃いとなっておりますので、ぜひ下見会にもオークションにも足をお運びください。

さて、今回も出品作品の中からおすすめの1点をご紹介いたします。
オークション会社に勤めておりますと、ごくまれに作家の代表作に出会えることがありますが、この作品はまさにそれです。
個人的な意見ですが、今後もこの作家においては、この作品を超える名品を取り扱うことはきっとないだろうと思います。取り扱う機会をいただけたことを感謝しておりますし、大変光栄に思います。

321   鏑木 清方(1878-1972)
《道成寺  鷺娘》
各183.0×74.6cm(軸装246.5×99.5cm)
各絹本・彩色 各軸装
1929(昭和4)年作
各落款・印
各共箱
大谷コレクション
東美鑑定評価機構鑑定委員会鑑定証書付

落札予想価格 ¥20,000,000~¥40,000,000

掲載文献 『鏑木清方画集』(1998年/ビジョン企画出版社)№172 ほか多数
展覧会歴 「羅馬開催日本美術展覧会」1930年(Palazzo della Esposizioni/イタリア政府)出品
     「没後50年 鏑木清方展」2022年(東京国立近代美術館/東京国立近代美術館・毎日新聞
      社)出品 ほか多数


近代日本画を代表する美人画の名手として、上村松園とともに「西の松園、東の清方」と称された鏑木清方(かぶらききよかた)。近年は、市井の人々の暮らしの情景をあたたかな眼差しで描いた画家としても高く評価されています。

1878(明治11)年、清方は戯作者で新聞人であった條野採菊の子として、東京の下町に生まれました。父の勧めで挿絵画家を目指し、13歳の時に浮世絵歌川派の流れを汲む水野年方に入門。挿絵画家として人気を博す一方で日本画の研鑽を積み、1909年の第3回文展で初入選するなど、日本画壇においても頭角を現します。この頃改めて浮世絵を独学し、江戸風俗を題材とした美人画や明治の庶民生活に取材した風俗画の制作に専念していきました。
1923(大正12)年の関東大震災によって江戸の風情を残す明治の風景が失われると、清方は古き良き東京の姿を描き留めようという意識をいっそう強め、1927(昭和2)年に《築地明石町》、1930年には《三遊亭円朝像》(重要文化財)といった名作を次々に発表。さらに、日本を代表する画家の一人として、1930年のローマ開催日本美術展覧会に《道成寺 鷺娘》ほか2点を出品します。戦後は鎌倉に移住して大規模な展覧会への出品を止め、自由で心穏やかな制作姿勢へと移行していきました。また、「卓上芸術」を提唱し、卓上で鑑賞する画帖や絵巻物など、市井の人々が暮らしの中で楽しむことができる作品を描き続けたことでも知られています。

本作は、先にも述べたローマ開催日本美術展覧会(以下、ローマ展)のために制作された双幅の大作で、清方の代表作の一つとしてよく知られています。ローマ展は、1930(昭和5)年4月から6月にかけて、ローマにある大規模な国立の展覧会場、パラッツォ・デッレ・エスポジツィオーニで開催された展覧会で、発案者である大倉財閥の総帥・大倉喜七郎の支援の下、イタリア政府が主催し、当時の日本を代表する画家たち総勢80名が約200点の作品を出品するという、大規模な国家プロジェクトとなりました。展覧会場に床の間を設置したことも話題となり、世界各地から来場者が訪れ、大成功を収めたといいます。

画題の「道成寺」と「鷺娘」は、清方が最も魅了され、画業を通して繰り返し描いた歌舞伎の演目。3歳の頃から家族とともに歌舞伎座や新富座に通ったという清方は、生涯にわたって芝居を好み、雑誌『歌舞伎』の挿絵を手掛け、新聞に劇評を書くなど、歌舞伎に大変造詣が深かったといいます。「道成寺」は、本外題を『京鹿子娘道成寺』といい、和歌山県の道成寺ゆかりの安珍・清姫伝説に基づき、美しい白拍子が恋心を様々な踊りで綴るというもの。『鷺娘』は、白鷺の精が若い娘に化身し、恋に思い悩む姿を幻想的に描くという内容です。ともに役者が衣裳を早替りし、異なる役柄を連続して踊り分ける「変化物」と呼ばれる歌舞伎舞踊の一種であり、ドラマティックなストーリーと女形の凄艶な舞踊が見どころです。

本作の右幅《道成寺》は、白拍子が道成寺を訪れ、女人禁制の鐘供養を拝観するため、その許可が下りるのを待つ場面を題材としています。ここでは、赤地に枝垂れ桜模様の豪華な振袖に身を包んだ白拍子の全身像が華麗な色彩で表されており、組み合わせた帯は、実際の衣裳とは異なる黒地に龍模様となっています。これは演目の大詰で、白拍子が蛇に姿を変えることを示唆しているのでしょうか。
そして、左幅の《鷺娘》では、綿帽子に白無垢姿の娘が鳥の羽のように袖を振り、積もった雪を傘で突く場面が題材となっています。娘の妖しく美しい姿態、白無垢の質感や量感を表す流麗でふくよかな線描が圧巻です。また、左右ともに背景は舞台装置ではなく実景らしき風景が描かれており、満開の桜の下、山吹が咲き小川が流れる春の野山が、そして、降りしきる雪の中、雪化粧した柳と椿が、線描ではなく色面によって捉えられています。双幅に陽と陰、赤と白、春と冬の対比が巧みに表現されており、さらに、気品と情念という女性の持つ二つの気質が表されているようにも見て取れます。清方は自身の作風について「主情派とでも呼んでくれたらいいだらう」註)と語っていますが、歌舞伎を題材とした作品では、登場人物の心の機微を抒情的に描き出すことをテーマとしており、本作においても春と冬、それぞれの季節の風情とともに恋に焦がれる女性の姿、その想いが情感豊かに表現されています。ローマ展に出品する作品を制作するにあたり、清方はこうして自身の愛する歌舞伎とそこに描かれた江戸の風俗を表すことを通して、古き良き日本の文化を世界に知らしめたいと望んだのでしょう。

註)鏑木清方著・山田肇編「そぞろごと」『鏑木清方文集一 制作餘談』白凰社 1979年

美術館では展示ケース越しにしか鑑賞することができませんが、当社の下見会では本作の見事な線と鮮やかな色彩を間近でご覧いただけます。
オークション・下見会スケジュール、オンラインカタログはこちら

なお、ご入札は、ご来場のほか、書面入札、オンライン入札、電話入札、ライブビッディングなどの方法でも承っておりますので、お気軽にご参加ください。
新型コロナウイルスの感染予防対策をしっかりと行い、皆様のご参加をお待ちしております。

(佐藤)

―France RAKUー伝統を超える十五代樂吉左衛門

こんにちは。

まだまだ夏の気配は残っていますが、文化・芸術を楽しむ季節が近づいてきました。

心身共に健やかに過ごせる秋にしたいものですね。

 

さて、9月17日(土)に「近代陶芸/近代陶芸PartⅡ/近代美術/近代美術PartⅡ/コンテンポラリーアート オークション」を開催致します。今回は、絵画と陶芸のオークションが同時開催です。ぜひお見逃しなく!!

それでは、「近代陶芸オークション」の中からこちらの作品をご紹介致します。

LOT.142十五代樂吉左衛門
「Loubignac」(ルビニャック)
H9.7×D14.6cm
2008(平成20)年作
胴部に「Loubignac」刻
共箱(於仏蘭西)
落札予想価格:300万円~500万円
●吉左衛門Ⅹ LOUBIGNACの空の下で 樂吉左衛門フランスでの作陶-友人アンドッシュ・プローデルと共にー出品 佐川美術館/2010(平成22)年
●十五代樂吉左衛門展「フランスでの作陶」ーLOUBIGNACの丘の上でー 出品 日本橋三越本店/2012(平成24)年

 樂家は、450年前に千利休(1522-1591)に見出された連綿と続く“樂焼・茶碗師”であり、現在十六代目を数えます。先代の十五代樂吉左衛門(らく きちざえもん)(1949- )は、2019年に隠居した際に「直入(じきにゅう)」と改名され、現在も公益財団法人樂美術館の理事長(館長兼務)を務めながら作陶を続けていらっしゃいます。

十五代吉左衛門は、これまでの伝統的な樂の茶碗を内包した上で、前衛的な造形を打ち出しました。その革新的な造形性は、東京国立博物館名誉館員で、陶磁史研究家でもあった林屋晴三(1928-2017)に、光悦以来の造形家だと言わしめたほどです。

註)『天問 樂吉左衛門作品集』現代陶芸寛土里 1990年

十五代は、2007年夏から2010年の夏までの四年間、フランス南西部コレーズ地方の村Loubignac(ルビニャック)に毎夏2か月間滞在し、「西洋RAKU」という技法を用いて作陶するという新たな試みを行いました。それは、1960年代にアメリカの陶芸家が樂焼を真似て生み出した技法で、焼成途中に茶碗を引き出し、おがくずなど可燃性のものに突っ込むことで、強制的に炭化、すなわち“薫製”させる技法です。

伝統ある京都の地を離れ、フランス南西部の牧歌的な空気のなか、新しい釉薬と新しいスタイルでの作陶は心を開放させ、大振りで、豊かな自然の色を映したかのような彩り溢れる茶碗を生み出しました。利休の哲学とは違う、広大なフランスの精神性を浴びて出来上がった“France RAKU”をぜひご覧ください。

 

下見会・オークションスケジュールはこちら。

地下、1階、2階と3フロアに渡って下見会を行っております。

オークションスケジュールのページを見て頂くとお分かりの通り、

LOT. 245 有元 利夫「素描」 落札予想価格:100万円~200万円 

LOT. 275 加山 又造「芍薬」 落札予想価格:500万円~800万円 なども

出品されますので、ぜひオンラインカタログでチェックしてみてください。

また、オークション当日は、下見会を開催しておりませんので、お気を付けください。

 

なお、ご入札は、ご来場のほか、書面入札、オンライン入札、電話入札、ライブビッディングなどの方法でも承っておりますので、お気軽にご参加いただけます。

引き続き、感染予防対策をしっかりと行ってまいりますので、皆様のご参加を心よりお待ちしております。

 

                                        (江口)

 

 

巧緻なわざと装飾美―佐藤玄々《大慈大悲救世観世音菩薩》

こんにちは。
今年は全国各地で早くも梅雨が明けましたね。
関東甲信や東北地方などでは観測史上最も早い梅雨明けということです。
すでに猛暑日が続いておりますので、熱中症に気をつけてお過ごしください。

さて、今回も出品作品の中からおすすめの1点をご紹介いたします。
東京・日本橋三越本店の1階ホールに飾られた、あの極彩色の巨大な木彫作品《天女像》(まごごろぞう)の作者、佐藤玄々(さとうげんげん)の救世観世音菩薩像です。



410 佐藤玄々(1888-1963)

《大慈大悲救世観世音菩薩》
H83.3×W26.2×D26.2cm
木彫・彩色
背部に刻銘
共箱
『天女開眼 佐藤玄々の芸術』(1980年/萬葉堂出版)P.87掲載
「第5回無名会」1954年(三越)出品
「天女完成記念 佐藤玄々名品展」1960年(日本橋三越)出品

落札予想価格 ¥10,000,000~¥20,000,000

 

 

 

1888(明治21)年、佐藤玄々は福島県の宮彫師の家に生まれました。
幼い頃から父や叔父に木彫の手ほどきを受け、郷里の画家に日本画を学びます。17歳の時、彫刻家を志して上京し、山崎朝雲に入門。1913(大正2)年の独立を機に朝山と号し、翌年から日本美術院展に参加し、同人となりました。1922年、日本美術院の留学生としてフランスに渡り、ブールデルに師事する傍ら、ルーヴル美術館ではエジプトやエトルリアの彫刻に影響を受けました。帰国後は西洋の彫塑表現を伝統的な木彫に取り入れ、日本の神話や動物を題材とした作品を制作していきます。1948(昭和23)年に号を玄々に改めた後は、およそ9年の月日をかけて自らの芸術の集大成となる《天女像》の制作に取り組みました。

1951年に三越からホールのための彫刻制作の依頼を受けた玄々は、その計画や構想を練り、京都で制作を開始する一方、濃密な色彩と截金(きりかね)技法などを用いた装飾的で優れた木彫を次々に制作しました。1954(昭和29)年の「第5回無名会展」(三越)に出品された本作も、この《天女像》の制作過程で生み出された一点です。

救世観世音菩薩(ぐぜかんぜおんぼさつ)は人々を苦しみから救うことからそう称され、題名の「大慈大悲」は広大無辺な菩薩の慈悲を意味します。玄々は神仏を彫るという自らのルーツに立ち帰るかのように、この題材を1930年頃から繰り返し手掛けました。


救世観音といえば法隆寺夢殿の秘仏がよく知られていますが、本作も同様に、蓮華座の上に立って両手で宝珠を包み、背後に火焔文が描かれた宝珠形の光背を持つ一面二臂の像として表されています。
立体感よりも正面性が強調されたその平面的な造形、優雅な文様が施された曲線的な天衣に見られる左右対称の構造、優しく神秘的なアルカイックスマイルもまた、飛鳥仏の特徴を示す法隆寺の救世観音の影響をうかがわせます。
 そして、本作では、光背の先端から台座の脚部に至るまで、一分の隙もなく緻密に彫刻さ
れた姿態、同じく繊細で装飾性に富んだ鮮や
  お顔周辺のアップです。                                            かな彩色、艶やかさや気品の漂う佇まいに、
 優しく上品なお顔立ちです。                                      玄々の卓抜した技術と円熟の境地が見事に発
                                                                                       揮されています。本作のこうした造形や装飾
                                                                                       には《天女像》との共通点が多く見て取れ、
                                                                                       玄々芸術において特に傑出した作品の一つと
                                                                                       言えるでしょう。














 

 

背面                             側面
背面から見ても左右対称の造形が                 平面的でやや前傾した形態は、
よくわかります。                                                                                《天女像》と共通しています。


参考図版《天女像》

 

 








                                       
                                                                                                                                             (天女部分の拡大)

日本橋三越の《天女像》です。高さ約11メートルという大きさ、絢爛豪華な装飾と緻密な造形に圧倒されます。
お店に行かれた際はぜひご覧ください。

下見会場ではぜひ玄々の優れた彫刻技術を間近でご覧ください。
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なお、ご入札は、ご来場のほか、書面入札、オンライン入札、電話入札、ライブビッディングなどの方法でも承っておりますので、お気軽にご参加ください。
新型コロナウイルスの感染予防対策をしっかりと行い、皆様のご参加をお待ちしております。

(佐藤)

ノンコウ・片桐石州の黒茶碗

こんにちは。

先週の「WINE/LIQUR」オークションにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。さて、今週末は、「近代陶芸/古美術/近代陶芸PartⅡ」オークションが開催されます。

 その中から、LOT.130樂道入、LOT.131片桐石州の黒茶碗をご紹介いたします。

 

樂道入(らく どうにゅう)【慶長四-明暦二(1599‐1656)】は「ノンコウ」の異名を持ち、利休の孫・千(元伯(げんぱく))宗旦の指導を受けて作陶しました。樂家の黒茶碗はノンコウによって完成したと言われるほど、名工として名高い人物です。道入の釉薬は、奥深く鮮麗な黒色で、夜の闇のように艶やかで光沢があり、「ノンコウの玉虫釉」と呼ばれています。本作は、釉薬も立ち上がりの形も美しい出来栄えで、裏千家八代・又玄斎一燈(ゆうげんさいいっとう)により「細道」と銘打たれています。

 また、一説に、こちらも道入の作品ではないかと言われているのが、LOT.131片桐石州「手造黒茶碗 残雪」です。

片桐石州(かたぎり せきしゅう)【慶長十-延宝元(1605-1673)】は、道入と同時代を生きた江戸前期の大名茶人で、小堀遠州の後を継ぎ徳川家茶道指南役になりました。京都知恩院の普請奉行をつとめ、「石州三百ヶ条」は、将軍家の元で行われる茶道・柳営(りゅうえい)茶道の指針とされ、各地の大名にも茶道を指導したことで知られています。当時の大名茶人の手造り茶碗が存在しないことから、近代の茶道評論家・佐々木三味(さんみ)【明治二十八-昭和三十九(1893-1964)】は、”ハサミ跡を見るからにして、道入に焼成させたのではないか”と記述しています。そのような説が出るほどに、本作の出来はよく、白鶴美術館の優品を集めた『白鶴帖 第五集』に、長次郎の黒茶碗とともに所載されたほどです。ぜひ、下見会で二つの茶碗を見比べて、その説をご一考ください。

 

さて、そのほかにも古美術オークションでは、黒織部沓茶碗、作家ものでは、光悦、近衛文麿の黒茶碗が、また近代陶芸では、九代と十代の大樋長左衛門の黒茶碗も出品されますので、ぜひそれぞれの「黒釉」をご堪能下さい。

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なお、ご入札は、ご来場のほか、書面入札、オンライン入札、電話入札、ライブビッディングなどの方法でも承っておりますので、お気軽にご参加ください。

引き続き、感染予防対策をしっかりと行ってまいりますので、皆様のご参加を心よりお待ちしております。

 

4/16西洋美術オークション 下見会開催中です

こんにちは。
3月30日に羽田空港で開催いたしました「United Asian Auctioneers  SHINWA AUCTION×LARASATI Auctioneers×iART auction×ISE COLLECTION」にご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。
今週の16日(土)は、「西洋美術 BAGS/JEWELLERY&WATCHES」オークションを開催いたします。本日から下見会を開催しておりますので、今回は会場の様子をご紹介いたします。


1階はラリックやガレ、ドームなど、ガラス作品を中心に展示しています。
幾何学文や「マグダラのマリア」など、マイセンの陶板も色々出品されます。











ジュエリーや時計、バッグのコーナーも1階にあります。
今回はパテック・フィリップの時計の品揃えが充実しています。











地下はギリシャ、ローマ、エジプト、ペルシャ、シリアなど、古代の美術品を展示しています。土偶や土器、銀化硝子瓶といった、長い年月を経て現在に遺る作品が100点以上並ぶ様子は、まるで展示ケースのない博物館のようです。

 

 

 

 

 

ぜひ下見会場で実物をご覧ください。
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なお、ご入札は、ご来場のほか、書面入札、オンライン入札、電話入札、ライブビッディングなどの方法でも承っておりますので、お気軽にご参加ください。
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(佐藤)

山口長男のかたちと構成―《五つの線》

こんにちは。
12日(土)の「WINE/LIQUORオークション」にご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。
30日(水)は、「United Asian Auctioneers   SHINWA AUCTION×LARASATI Auctioneers×iART auction×ISE COLLECTION」を開催いたします。今回のオークションはDAY SALEとEVENING SALEの2部構成となり、下見会とオークションは通常と一部会場が異なりますので、ご確認の上ご来場くださいますようお願いいたします。
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また、オークションは予約制となります。(下見会はご予約なしでご覧いただけます)
お手数をおかけいたしますが、当日ご来場される方は事前のご予約をいただきますようよろしくお願いいたします。
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さて、今回も出品作品の中からおすすめの1点をご紹介いたします。
日本の抽象絵画のパイオニアの一人、山口長男(やまぐちたけお)の大作です。


【 オークション終了につき、画像は削除いたしました】

352  山口 長男(1902-1983)
《五つの線》
 180.0×180.0cm
 板・油彩 額装
1954年(昭和29)作
 山口長男作品登録会登録カード付

落札予想価格 
¥70,000,000~¥120,000,000

掲載文献
・『山口長男作品集』(1981年/講談社)№92

出品歴
・「第39回二科展」1954年
・「第3回サンパウロ・ビエンナーレ展」1955年
・「現代日本洋画展―戦前から戦後へ―」1980年(群馬県立近代美術館)
・「山口長男展」1987年(練馬区立美術館)
・「山口長男とM氏コレクション展」2016年(ときの忘れもの)

山口長男は、イエロー・オーカー(黄土色)やヴェネチアン・レッド(赤茶色)の色彩を用いて、かたちの構成や色面の広がりを表現した、日本の抽象美術の先駆的な存在です。朝鮮の漢城(現・ソウル)に生まれ、19歳の時、東京美術学校(現・東京藝術大学)西洋画科に入学するために上京。1927年の同校卒業後すぐに渡仏し、パリでは佐伯祐三らとともに制作に励みました。1931年に朝鮮に戻った後は二科会を主な発表の場としながら、九室会や日本アヴァンギャルド美術家クラブなどにも参加し、戦前から戦後にかけての前衛美術運動に深く関わっていきました。
戦後は東京に住居を構え、自然の実体を大らかに捉えて簡潔なかたちによって表現する抽象絵画を追求し、円熟期にはかたちの面的な広がりとともに、「絵具を塗る」というプリミティブな動作の表象へと作品を還元していきました。1955年に第3回サンパウロ・ビエンナーレ、1956年には第28回ヴェネチア・ビエンナーレに出品するなど、国際的にも活躍しました。

1954(昭和29)年作の本作は、同年の第39回二科展、翌年の第3回サンパウロ・ビエンナーレに出品された、この時期を代表する作品の一つ。山口が限定して使用した二組の色彩のうち、プルシャン・ブルー(紺青色)の地とヴェネチアン・レッドの図の組み合わせが表されています。これは山口が自身の「性格色」*1)と呼んでこだわり続けた色彩であり、特にヴェネチアン・レッドは山口が生まれ育った朝鮮をイメージした色彩であるといいます。
円形とそれを中心として構成された五つの帯状の矩形は、幾何学的な抽象とは異なり、手仕事ならではの自然なゆがみを備え、有機的でぬくもりを感じさせます。さらに、それぞれが響きあうかのように均衡と緊張感を保ち、地と拮抗して確かな存在感を湛えているようです。また、色面が画面を覆い尽くすような円熟期の作品に見られる、塗ることへの強い執着は本作にはまだ表れていませんが、ペインティングナイフを用いた丹念な筆致と重厚なマチエールにはその萌芽が見て取れます。山口の創造の源泉である自然との交感、そして生命のリズムが、豊かに朴直に表現された作品と言えるでしょう。

この作品は保税対象作品となりますので、3/28(月)~3/29(火)の期間、羽田空港第1ターミナル内6F ギャラクシーホールの下見会場でご覧いただけます。(銀座下見会場には展示いたしません)
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(佐藤)


*1)山口長男「色いろの告白」『芸術新潮』第10巻6号 1959年

―明治期に生まれた二大陶芸作家 《板谷波山と富本憲吉》―

こんにちは。

先週末からようやく春の気配が感じられるようになり、梅の見頃も近づいてきているところが多いのではないでしょうか?引き続きコロナ禍のなかではありますが、感染対策につとめながら下見会とオークションを行います。ぜひ気分転換のつもりで足をお運びくださいね。

 

さて、今週末に行われます「近代陶芸/近代陶芸PartⅡオークション」からこちらの作品をご紹介いたします。

明治に入り、近代化する社会のなかで、職人としての陶工ではなく、作家としての陶芸作家の地位を確立させたのは、板谷波山(いたや はざん)【1872-1963(明治5-昭和38)】と富本憲吉(とみもと けんきち)【1886-1963(明治19-昭和38)】の影響が大きかったと言われています。

 波山は、代々の家業を継ぐ形で陶工になったのではなく、美術学校で様々な工芸を学び、それぞれの技術を総合し融和させ、地場産業ではない陶芸(当時は波山焼きと呼ばれていました)を生み出しました。また、富本も大和(奈良)、東京、京都と制作地を変えながらも、西欧化する生活のなかに於いて“インテリア”としての陶芸を追求しました。

 両者に共通していることは、「図案」に強い信念を持っていたことでしょう。まずは波山ですが、波山はアールヌーヴォーや、インド更紗、ネイティブ・アメリカンの土器模様など異文化社会の芸術を取り入れ、巧みに発展させた意匠を生みました。とりわけ大正中期頃からは、吉祥文を好んで描いています。今回出品の「瑞凰雲龍文」や「瑞芝(ずいし)文」も不老長寿などを意味する吉祥文です。

そして富本は、既存の模様を使うのではなく、自ら模様を生み出していきました。今回の1952年に作られた「羊歯(しだ)模様」は、前年に金と銀を同時に焼き付けることに成功し出来た金銀彩が、最も映えるとされ、富本を代表する模様であると言われています。4枚の羊歯の葉を菱型に配置し、それを連続させており、鑑賞者を引き込む力強いものです。

その他にも、波山は「青磁」と「裂文(れつもん)青瓷」の袴腰(はかまごし)形の香爐が、富本は「天目釉蝋抜模様壷」、色絵の「風景曲がり道」と「壷と花」の陶板、そして四弁花の「大鉢」が1点出品されます。

 

また、色絵磁器でも、佐賀の地場を引き継いでいる作家も多く出品されます。重要無形文化財保持者(人間国宝)十四代今泉今右衛門の作品をはじめ、洗練された技術を誇る当世作家の作品もお楽しみください。

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【江口】