鴨居玲の老人像


こんにちは。
先週、多くの地域で早くも桜が開花しましたが、東京は今週末に見頃を迎えるそうです。
飲食を伴うお花見が解禁となった公園もたくさんあるようで、にぎやかな春の光景が少しずつ戻ってきましたね。

さて、今週の25日(土)は、近代美術/近代美術PartⅡ/コンテンポラリーアートオークションを開催いたします。今回は近代美術オークションに鴨居玲の作品がたくさん出品されますので、ご紹介いたします。

鴨居玲(1928-1985)は、絵画のモデルとしては特異な人々、例えば、酒に酔って踊る老爺や皺だらけの老婆、戦争で手足を失った傷痍軍人などをモティーフとし、描くことを通して人間とは何か、生きることとは何かを深く問い続けた画家です。「人間の心における暗い面、弱い面」、すなわち孤独や不安、さらには老い、醜さ、死などを真摯に見つめ、それらを研ぎ澄まされた感性と卓抜した描写力で捉えました。

【オークション終了につき、画像は削除しました】

207  《おじいさん》                 208 《おばあさん》
69.6×50.0cm(91.0×72.0cm)             76.0×56.0cm(100.0×80.0cm)   
紙・鉛筆 油彩 額装                 紙・鉛筆、パステル、水彩 額装
左下にサイン                     右下にサイン 
東美鑑定評価機構鑑定委員会鑑定証書付         東美鑑定評価機構鑑定委員会鑑定証書付 
落札予想価格 ¥3,500,000~¥4,500,000        落札予想価格 ¥3,300,000~¥4,300,000


旅先や移住した土地で出会った人々をモティーフとした老人像は、鴨居玲の代名詞的な画題です。1968年頃から本格的に手がけられ、特に1972年にスペインのバルデペーニャスに移住した後は、口をだらしなく歪めた酔っ払いの老爺などの単身像が次々に生み出されました。
画面の書き込みより、Lot.207《おじいさん》はスペイン滞在時、Lot.208《おばあさん》はその隣のポルトガルのナザレを訪れた際に描かれた老人像です。鴨居は学生時代の師・宮本三郎の教えを守り、画業を通してこうしたデッサンを重視しました。これらの2点においては得意としたクロッキー(速写技法)によって人物の特徴、鴨居が見つめた「老い」が表現されています。


【オークション終了につき、画像は削除しました】

        209 《ボリビア》にて
   147.8×71.4cm(156.4×80.0cm)
   紙・パステル、コンテ 額装
  1967年作
   右下にサイン・年代
        東美鑑定評価機構鑑定委員会鑑定証書付
  『鴨居玲画集』(2000年/日動出版)素描№51
  「没後15年 一期は夢よ 鴨居玲展」2000年
    (石川県立美術館/北國新聞社)出品
    「没後20年 鴨居玲展―私の話を聞いてくれ」2005年
   (石川県立美術館)出品

  落札予想価格 ¥5,000,000~¥10,000,000



1965年にボリビアを訪れた際に出会った人物を、帰国後の1967年に描いた作品です。鴨居が訪れたボリビアは、革命後もなお不安定な情勢が続き、市街地のあちらこちらで銃声が響き、火災の起こる危険な状況であったといいます。異なる方向を見つめる二人の人物は、そこにある生命の危機や未来への不安を漂わせています。


【オークション終了につき、画像は削除しました】                    

210 
《おばあさん》                   211 《酔って候》
72.8×53.1cm(90.4×70.5cm)               53.1×45.6cm(78.0×69.5cm)
キャンバス・油彩 額装                  キャンバス・油彩 額装
1970年作                                                                          右下にサイン
左下にサイン・年代                                                         裏に署名・タイトル
裏に署名・タイトル・年代                                             
東美鑑定評価機構鑑定委員会鑑定証書付
東美鑑定評価機構鑑定委員会鑑定証書付           落札予想価格 ¥7,000,000~¥10,000,000
「没後20年 鴨居玲展―私の話を聞いてくれ」
2005年(石川県立美術館)出品
落札予想価格 ¥12,000,000~¥22,000,000


こちらの2点は油彩による老人像です。こうした油彩画をアトリエで描く際、鴨居はしばしばキャンバスの横に鏡を置き、自らモデルを務めながら対象となる人物の姿や表情を表しました。それゆえに老人たちは鴨居自身の自画像とも言われています。
1970年作のLot.210《おばあさん》は、この年に訪れたパリやスペインで取材した老婆像でしょう。街で出会った逞しい老婆に、鴨居は自身の母の姿を重ね見ていたのかもしれません。明暗のコントラストを強調したドラマティックな表現が、翌年から始まるスペイン時代の作品を想起させます。また、Lot.211《酔って候》は、スペインで描き始められた酔っ払いの連作の一点です。顔を赤くした酔っ払いの老爺が腰に手を当て、口を大きく開けて歌うような様子が鋭い筆致で描き出されています。下半身は描かれていませんが、踊っていると思われるその姿はユーモラスであり、鴨居が彼らに抱いていたであろう愛着を感じさせます。

当社のあります銀座周辺には、日比谷公園や浜離宮恩賜公園など、お花見スポットがたくさんあります。お出かけの際は、ぜひ下見会にお立ち寄りいただき、作品を実際にご覧ください。
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なお、ご入札は、ご来場のほか、書面入札、オンライン入札、電話入札、ライブビッディングなどの方法でも承っておりますので、お気軽にご参加ください。
皆様のご参加を心よりお待ちしております。

(佐藤)