藤堂伯爵家 400年の名宝―《金茶道具一式》


こんにちは。
今週27日(土)は東京駅前の丸ビルホールにてオークションを開催いたします。
開催ジャンルは、Rubik’s Cube Charity Auction/MANGA/近代美術PartⅡ/近代美術/Contemporary Art/Luxury Evening Auction となります。
下見会はいつも通り、銀座の当社ギャラリーで開催いたします。

さて、今回はLuxury Evening Auctionの出品作品の中から注目の1点をご紹介いたします。
戦国武将・藤堂高虎を祖先とする藤堂伯爵家に代々伝わった、黄金色に輝く茶道具です。















1007  《金茶道具一式》

茶碗:H6.8×D12.0cm
天目台:H7.6×D15.8cm
茶入:H6.2×D5.9cm
釜:H22.2×D20.8cm
風炉:H23.3×W39.4cm
釜鐶:各D7.7cm
杓立:H22.4×D12.0cm
火箸:28.8cm
建水:H10.0×D17.2cm
蓋置:H5.1×D7.1
藤堂家旧蔵
「日本名寶展覧会」1929年(東京府美術館/読売新聞社)出品
落札予想価格 ¥150,000,000~¥300,000,000


1929(昭和4)年3月、東京・上野の東京府美術館において、閑院宮載仁親王を総裁とし、読売新聞社が主催する美術展覧会「日本名寶展覽會」が開催されました。この展覧会は、国宝や重要文化財・皇室の御物とともに、華族などの名家に伝来し、門外不出とされてきた美術品の数々が一堂に会し、大きな話題となりました。その優れた名宝の中でも、最も来場者の注目を集めたという出品作品の一つが、眩いばかりの黄金色に輝く金の茶道具一式でした。

 当時、この茶道具は伯爵藤堂高紹(とうどうたかつぐ)の所蔵品であり、藤堂家の当主でさえもほとんど目にすることのできない秘蔵の家宝だったそうです。藤堂家は、室町時代に藤堂姓を名乗った三河守藤原景盛を始祖とし、江戸時代には藤堂高虎(1556-1630)が伊勢国津藩(現在の三重県津市)初代藩主となり、明治時代に伯爵に叙任された家柄です。
本作は藤堂家に代々伝わり、この「日本名寶展覽會」で広く世に知られ、脚光を浴びることとなった重宝ですが、第二次世界大戦中の金属類回収令を免れることはできず、供出されて日本銀行の買い取りとなりました。しかし幸運にも、茶道具は武器製造の資源として使用されず、終戦後も日本銀行に残されていたため、1960年に売り戻され、再び藤堂家の所蔵となりました。

この《金茶道具一式》は、茶碗、天目台、茶入、釜と付属する釜鐶、風炉、蓋置、建水、杓立、火箸からなる茶道具です。同じ材質や色味で揃えられた茶道具一式を皆具(かいぐ)と呼ぶことから、本作も当初は皆具として作られたものと考えられます。皆具は、台子(だいす)という点茶用の棚に飾り置かれ、書院の茶で使用される道具ですが、現在本作に台子は付属していません。このような「台子皆具」の様式は室町時代に武家社会に普及し、やがて武家の威信を示し、茶の湯の奥義を伝える格式の高い道具となっていきました。その中でも、本作のような金製の茶道具は最上級とされ、豊臣秀吉が黄金の茶室のために作らせ、徳川家康も皆具を所持するなど、天下人やごく一部の有力大名の権威を象徴するものでした。
なお、戦時中に日本銀行が本作を買い取った際に行った金の品位測定によると、本作はおおよそ金80~88%、銀12~20%などの合金で制作されています。

さらに、本作は台子皆具の中で最も格の高い道具として珍重された唐物写しで構成されています。全体として、黄金色の輝きが湛える豪奢さや優雅さとともに、唐物写し独特の気品と荘重な趣が漂い、また、一つ一つの造形のみならず、施された文様も非常に精緻で優美です。そして、作品の随所に作者の高度な技術をうかがわせ、このような大量の金を使用し、優れた腕を持つ者に制作を依頼することのできる注文主の財力と政治力を想像させます。大名家に伝来した古格ある金の茶道具は、徳川美術館蔵《純金台子皆具》が現存する皆具として重要文化財に指定されていますが、本作はもう一つのきわめて重要な作品と言えるでしょう。


「日本名寶展覽會」(1929年)のポストカード。
この展覧会では茶道具を台子にのせて展示したようです。





また、本作には藤堂高虎にまつわる興味深い逸話が残されています。その一つをご紹介しますと、秀吉が明(中国)征服を目論み、朝鮮半島に進軍した文禄・慶長の役にて、高虎は水軍を率いて活躍しました。秀吉はその敢闘を称え、高虎の出家を引き止めて伊予国板島(現在の愛媛県宇和島市)七万石の大名に取り立て、その後も一万石を加増するなど、ひときわ厚遇したといいます。さらに、褒美の一つとして、自らが黄金の茶室で愛用していた金の茶道具を授けたとも言われています。朝鮮出兵から400年以上が経過した現在、真相は誰にもわかりませんが、藤堂家に伝わった本作のみが歴史の真実を知るのでしょう。


安土桃山時代、太閤秀吉が愛用し、高虎に授けたと伝えられる藤堂家の秘宝。茶道具としての美しさだけでなく、歴史的にも価値ある逸品です。
下見会でぜひ実際の作品をご覧ください。
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同日開催の近代美術オークションには、橋本関雪、鏑木清方、加山又造、髙山辰雄、安井曽太郎などの名品が出品されます。こちらもあわせてご覧ください。

なお、ご入札は、ご来場のほか、書面入札、オンライン入札、電話入札、ライブビッディングなどの方法でも承っておりますので、お気軽にご参加ください。
皆様のご参加を心よりお待ちしております。

(佐藤)