タグ別アーカイブ:

東洲斎写楽《三世市川八百蔵の田辺文蔵》

 3月26日に開催いたしました近代陶芸/近代美術オークションにご参加くださった皆様、どうもありがとうございました。会場の丸ビルホールにはたくさんのお客様にご来場いただきました。社員一同、心よりお礼申し上げます。

 また、緊急開催いたしましたチャリティオークションにも、たくさんの方がご参加くださいました。急な募集にもかかわらずご出品いただきましたお客様、会場でお競りいただきましたお客様、ご協力ありがとうございました。チャリティオークションは今後も開催していく予定です。また、併せてスタートしました募金活動は、下見会やオークション会場で引き続き行っていきますので、こちらもよろしくお願いいたします。

 さて、今日は現在銀座で下見会を開催中の4月9日浮世絵オークション出品作品から一点ご紹介します。この春、東京国立博物館で大々的な特別展が開催される、“謎の天才絵師”東洲斎写楽の作品です。

img_442_convert_20110401161542.jpg
Lot.442 東洲斎写楽
《三世市川八百蔵の田辺文蔵》
37.9×25.2cm
エスティメイト ¥7,000,000~10,000,000



 東洲斎写楽(生没年不詳)は、寛政6年5月~翌年1月(1794-95)までのおよそ10ヶ月の間に役者絵・相撲絵150点余りを版元・蔦谷重三郎より刊行し、姿を消したとされる伝説の浮世絵師。その正体をはじめ、多くのことが謎に包まれていますが、現在では阿波の能楽師・斎藤十郎兵衛という説が有力とされています。ちなみに、画号の由来は「しゃらくさい」だそうです。

 写楽は、豪華な雲母摺り(きらずり=雲母の粉を摺り付ける技法)の背景に、リアルに表現した役者大首絵で一世を風靡しました。その画風は、江戸時代の戯作者・大田南畝(おおたなんぽ)に「あまりに真を画かんとてあらぬさまに書きなせしかば」、つまり「顔の特徴をあまりにリアルに描きすぎてかえって異様だ」と評されました。それまでの役者絵が美化して描くことが原則であったのに対し、欠点と言えるような顔の特徴すら大胆にデフォルメして描いたためです。しかし、このユニークで迫力ある大首絵が、現在では写楽の人気の高さの所以と言えるでしょう。写楽は、レンブラント、ベラスケスと並ぶ世界三大肖像画家にも位置付けられています。

 本作品は、三代目市川八百蔵が扮する田辺文蔵を描いたものです。田辺文蔵は、寛政6年5月(1794年)に都座で上演された時代狂言、「花菖蒲文禄曽我」に登場する人物です。
「花菖蒲文禄曽我」とは次のようなお話。信州小諸藩の剣術指南役であった石井宇右衛門が、弟子の身勝手な振る舞いを厳しく注意したことを恨まれ、闇打ちにあって殺害されます。石井家の忠義の家臣であった田辺文蔵は、遺された宇右衛門の幼い子供たちを影ながら支え、敵討ちを誓ってともに全国を探し歩きました。文蔵はそのための資金調達に東奔西走し、一行は28年の年月を費やして敵を探し出し、目的を遂げました。

 写楽の描く文蔵は、借金返済のめどがたたずに思い悩む姿として表わされています。伸びた髪や質素な着物からもその様子が伝わってきます。三代目八百蔵は和事(恋愛もの)や実事(人物の精神や行動を写実的に表現する演技)を得意とした人気役者で、作品からその優男風の風貌がうかがえます。

 写楽作品の中で、こうした大首絵と雲母摺りを組み合わせたものは、デビュー直後の1ヶ月ほどの間に制作した28点しかありません。この28点はそれぞれおよそ200枚ずつ刷られましたが、その奇抜さゆえに当時は不人気で完売せず、その後大正時代になってから評価をされ始めたため、現存している枚数は極めて少ないと思われます。現在その一部は、東京国立博物館やベルギー王立美術館に収蔵され、国の重要文化財にも指定されています。

この作品は4月2日まで、銀座の下見会でご覧いただけます。
下見会・オークションのスケジュールはこちら

みなさまのご来場を心よりお待ちしています。

(執筆:S)

続きを読む