浮世絵 広重が描く風景画の最高峰


 5月のオークション週間終わりを飾るのは、浮世絵特別オークションです。北斎の肉筆のほか、今話題の春画もまとまった数で出品されます。


 なかでも今回のオークションカタログの表紙になっている歌川広重《木曾海道六拾九次 洗馬》は、広重の風景画の最高傑作とも言われます。
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LOT81 歌川広重《木曽海道六拾九次 洗馬》
23.1×36.9㎝
エスティメイト ¥6,000,000~9,000,000.

 《木曾海道六拾九次》は、版元の保永堂(ほうえいどう)が、《東海道五拾三次之内》の成功を受けて、木曽路・中山道を題材に企画した揃いものです。
 天保六年(1835)年頃、渓斎英泉(けいさい・えいせん)によって起筆され、中断されたため歌川広重が後を継ぎ、完成されました。


 本作品の舞台、洗馬(せば)は、現在の長野県塩尻市です。木曽義仲が、後に家臣となる今井兼平と邂逅し、そこで兼平が義仲の馬の足を洗うと、たちまち元気を取り戻したという伝説があることから、この地名がついたと言われています。

 画面手前から奥へと流れるのは、その清水に近い奈良井川(ならいがわ)。
 船人のゆったりと棹を漕ぐしぐさと川の緩やかな流れ、柳を揺らす夜風、満月に照らし出されて一体となる自然と人間の営みが、絶妙に調和した、シリーズ中の白眉です。


 本作品では、黄昏どきの微妙な空が、満月にヴェールを掛けたように棚引く紅色、空に夜の帳を下ろす墨のグラデーションで表現されています。
これは拭きぼかしという高度な職人の手わざを必要とし、後版では省かれてしまうことが多いものです。薄い色版を精妙に重ねることにこだわったと言われる広重の、制作当時に企図した芸術性がありありと感じることができる稀少な作品です。

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(執筆者:I)