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ルノワールとセザンヌ~7月近代美術オークションの印象派

“印象派Year”の今年は、マネからモネ、ルノワール、ポスト印象派のゴッホやゴーギャンまで、世界中から集められた名品を国内の美術館で観ることができます。雑誌でも印象派を特集したものをよく見かけますね。
シンワの7月の近代美術オークションにも、印象派の巨匠2人の作品が出品されます。今日はそれらをご紹介いたします。

まずはこちら。

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Lot.148 ピエール=オーギュスト・ルノワール(1841-1919)
《横たわる少女》
33.0×41.1cm
キャンバス・油彩 額装
1890年作
右下にサイン
Francois Daulte鑑定証書つき
Ambroise Vollard,Pierre-Auguste Renoir,San Francisco,1989,P.46 №181ほか掲載
エスティメイト ★ \40,000,000.~60,000,000



 印象派を代表する画家のひとり、ルノワールは、フランス中西部リモージュの仕立て屋の家に生まれました。20歳の頃、国立美術学校に入学。同じ時期に通った絵画教室でモネやシスレーらと出会い、ともに革新的な絵画を模索していきます。戸外での制作を取り入れ始めると、眩いばかりの自然の光で画面を満たし、同時代を生きる人々の姿を生き生きと描き出しました。「印象派」と呼ばれた1870年代を経て、1890年代以降は女性美に情熱を傾けた円熟期の作風を展開します。

 円熟期に差し掛かる1890年頃に制作された女性像です。ここでは「真珠色の時代」と呼ばれるこの時期の特徴が見て取れます。
 それは、溶け合うようなタッチと柔らかな色調です。印象派の時代は、目で捉えた外光や空気の描写に重点が置かれていたため、モチーフはより明快なタッチと色遣いで表現されました。しかし、本作品では、少女を愛でるように優しく描き出し、その美しさを引き立てるように周囲の自然を簡略化して描いています。それゆえ、少女に光が当たっているのではなく、彼女の内側から輝きが放たれているようにも感じられます。
 そして、少女のふくよかな身体や赤く染まる頬もこの時期の特徴のひとつです。これは、梅原龍三郎など、日本の画家たちが憧れた女性像のスタイルでもあります。

 また、田園的なモチーフは、1880年代から取り入れ始めた題材ですが、晩年にかけてたくさん描かれるようになっていきます。パリで麦藁帽子が流行っていたから、というのもその理由のひとつですが、ダンスをする若者たちなど、時代の空気がよく伝わるようなモチーフの多かった印象派時代に比べ、ルノワールがより普遍的な美しさを求めていたためとも考えられます。


もう1点はこちら。

img_145-表  img_145-裏
(表)                           (裏) 

Lot.145 ポール・セザンヌ(1839-1906)
《樹木の習作》
紙面:15.8×15.7cm 画面:14.3×14.6cm
紙・水彩 額装
1885-1890年頃作
福島繁太郎箱
西洋美術名作展出品 1957年(京都市美術館/朝日新聞社)
三人展:セザンヌ・ルノワール・ルオー出品 1963年(新宿・伊勢丹/毎日新聞社)
John Rewald,Paul Cezanne,The Watercolors:A Catalogue Raisonne,Italy,1983,№278,catalogued P.150
エスティメイト \3,000,000.~4,000,000


 ピカソの「唯一の先生」、マティスにとっての「絵の神様」といえばセザンヌです。セザンヌは「近代絵画の父」とも呼ばれ、コンテンポラリーアートも彼から始まったと言って過言ではありません。
 セザンヌは、南仏エクス=アン=プロヴァンスの裕福な銀行家の家に生まれました。最初は法律を学びましたが、22歳のとき画家を志してパリへ。ピサロに出会い、印象派の絵画を制作していきます。後に再び南仏に移住し、静物画、風景画、人物画、それぞれの分野において自然の本質や永遠性を構築的に表現することを探究しました。その深い造形性は、キュビスムなどの20世紀美術に決定的な方向性を示したと言えます。

 1880年代、セザンヌはしばしば南仏レスタックやエクスを訪れ、風景画に取り組みました。代表作とも称される「サント=ヴィクトワール山」の連作もこの時代に描かれたものです。りんごの静物画のイメージが強いセザンヌですが、生涯制作した作品は風景画が圧倒的な数を占めています。
 本作品を描いた1885-90年頃、セザンヌは水彩画に精力的に取り組みました。印象派時代の風景画では、陽光が降り注ぐ樹木を揺らめくように軽やかなタッチで描いていましたが、この時期のセザンヌにとって樹木は画面構成上の重要な要素のひとつでした。それゆえ、均整のとれた配置で幹をしっかりと捉え、葉の茂みで空間にリズムをもたらしました。爽やかな色彩で描いた本作品においても、幹を中心に画面が構成されています。こうした構成への強い関心から、この時期のセザンヌがすでに印象派を超克し、円熟期を迎えていたことがわかります。軽やかな雰囲気の作品ですが、自然と向き合い、そこから受ける感覚をいかにして画面に実現させていくかという、セザンヌ芸術の根幹が垣間見られます。

これらの作品は10日は大阪で、21~24日は東京でご覧いただけます。

下見会スケジュールはこちら

印象派ファンのみなさまは展覧会とあわせてシンワの下見会にもぜひどうぞ!
みなさまのご来場を心よりお待ちしております。

(執筆:S)

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