日本・韓国 戦後現代美術展②


こんにちは。
先日に続きまして、現在銀座のシンワアートミュージアムで開催中の「日本・韓国 戦後現代美術展」のご紹介をさせていただきます。
今日は、この展覧会の主役、山口長男のお話です。

 山口長男は1902年、貿易商を営む父の勤務地、韓国のソウルで生まれました。1927年東京美術学校西洋画科を卒業し、渡仏。フランスでは、ドルドーニュの洞窟壁画とオシップ・ザッキンの先鋭的な芸術に影響を受けました。先史時代の美から芸術の原点とは何かを考える糸口を掴み、ザッキンの制作からはプリミティビスムとキュビスムとの調和を学んだといいます。
 1931年ソウルに戻ると、半農半画家の生活をスタート。池や庭など、身近な自然との間に生まれた交感を表現していきます。対象の本質をできる限り簡単に、直接的に表現するために、形は単純化されていきました。1938年、吉原治良らとともに二科会の前衛集団「九室会」の結成に参加。終戦後は日本に引き揚げ、制作一筋の生活が始まります。1950年代に入ると、黒地に黄土色や赤茶色の形を組み合わせた作風を展開。1950年代後半には、ヴェネチア・ビエンナーレなど、様々な国際展に出品し、高い評価を得ました。山口作品の「形」と「マチエール」は、まるで1本の樹木のように、年齢を重ねるごとにゆっくりじっくりと変化を遂げ、晩年の豊かな実りに向けて充実していきました。

 今回の展覧会には、戦前から晩年までの様々な作風の作品が出品されています。その中から今日は選りすぐりの2点をご紹介します。


【展覧会終了につき、図版は削除いたしました】


《五つの塊》
1940年作
油彩・キャンバス
73.0×73.0cm
  

 白地に円や楕円が描かれた作品です。
「山口長男なのに白?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
これは、山口作品に初めて円が登場したもので、
この作品をきっかけに、山口の生涯をかけた形の追求が始まります。
いわば、黒地に形を組み合わせるというスタイルの原型となった作品です。
1940年、この作品は20数点のシリーズで制作されましたが、
その後火災に会い、この1点を残してすべて焼失してしまいました。
原型ではありますが、後の作品にまで通じる山口の視点を感じさせるという点で、
山口の画業において欠くことのできない重要な作品と言えるでしょう。
現存することに感謝すら覚えてしまいそうです。


そしてもう1点。


【展覧会終了につき、図版は削除いたしました】


《層》
1972年作
油彩・合板
90.9×91.0cm


円熟期の作品です。
形は次第に拡大していき、ここではすでに図と地の関係が逆転してしまいました。
ずっと形の背景にあった黒地は、画面の隅に残るのみです。
初期から、形の追求とともに山口は作品が「触覚的」であることを重んじてきました。
「絵具を板に塗る」という、絵画の最も基本となる行為を重視したのです。
そして、本作品を制作した時期には、山口の関心は、「形」から「絵具を塗る」という行為、動作そのものへと展開しています。ここにおいても、自らの肉体と魂とを一体化させるように「充実が出るまで」、絵具を板に塗りつけています。絵具と自分自身とが呼応する空間や塗ることに費やす時間も、すべて含めた一連の動作こそが山口の制作の核となっていったのでしょう。そうして描かれた本作品では、色面は一枚の板の大きさを超え、四辺の外側に限りなく続く広がりを想起させます。それはまるで、上空から俯瞰した大地や、宇宙から見た地球のような大いなるイメージを彷彿とさせるようです。
 実際にご覧いただけましたら、「触覚的」という感覚をきっとおわかりいただけると思います。じっと見つめていると、柔らかそうにも動いているようにも、こちらに迫ってくるようにも見え、「生きている」と感じさせる作品です。

本日を含めて会期は残すこと、あと2日となりました。
まだお越しいただいていない方、ぜひ会場で本物をご覧ください。

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皆様のご来場、心よりお待ちしています。


(執筆:S)