藤田喬平・日本の美の再生―飾筥


こんにちは。

長く続いた酷暑もいよいよ終わりが見えてきましたが、まだしばらく蒸し暑さは残りそうですね。秋風が待ち遠しい今日この頃です。

さて、今週末に「近代陶芸/近代陶芸PartⅡオークション」が開催されますので、その中からいくつか出品作をご紹介いたします。

LOT.152 藤田喬平
「手吹飾小筥 七(淡雪/飛鳥/湖上の花/紅白梅/羽衣/夢殿/龍田)」
 H8.8×W9.3cm他 各底部に掻き銘「Kyohei Fujita」
各共箱(淡雪のみ藤田潤箱)
落札予想価格:¥1,300,000.~¥1,800,000.

藤田喬平(1921-2004)は、国際的なガラス工芸の第一人者といえる作家です。

戦争末期の1944(昭和19)年に東京美術学校工芸科彫金部(現東京藝術大学)を卒業後、母方のいとこである岩田藤七(1893-1980)率いる岩田工芸硝子株式会社に入社しました。当時の岩田工芸では、進駐軍向けのワイングラスや放電管を作る職人としての仕事が主でしたが、作家としての道を選んだ藤田は、1949(昭和24)年に独立し、自ら制作・販売を行うという生活を始めました。これは当時では世界的にも珍しく、1960年代、スタジオ・グラス運動(用として大量生産で作られるガラスではなく、芸術的なガラス作品を作り出す運動)がアメリカで始まる10年ほど前に、早くも個人で宙吹(ちゅうふき)ガラスの窯を創設していたことになります。

個展を中心に活動していた藤田は、1964(昭和39)年・東京オリンピックが行われた年に、「虹彩」というオブジェでもあり花器でもある作品を発表しました。後に「流動ガラス」と名付けたこの一連の作品群は、軟らかい状態のガラスを吹竿に巻き取り、息を吹き込み球状に膨らませ、鋏等で成形する宙吹ガラスの手法で作られており、流れるガラスの一瞬を切り取ったような躍動感ある形状をしています。この作品が藤田の出世作となりました。その後、「流動ガラス」を超えるものをと考え生み出したのが、「飾筥(かざりばこ)」です。

 

「飾筥」は、鉄の型の中に吹いたガラスを軟らかいうちに入れ、角型の作品を作ることに成功し誕生しました。これは、「尾形光琳や俵屋宗達が生きていたら、ガラスでどんなものを作ったのだろう」という発想のもと生み出されたといいます。そのため「源氏物語」や「竹取物語」、「古都」や「花散る里」など日本の美をテーマに創作されました。

 

「飾筥」シリーズの成功によって海外からの招待が頻繁となり、世界的に評価を高めていきました。1977(昭和52)年からイタリアのヴェネチアにあるムラノ島で毎年制作を行い、「手吹ヴェニス」と題された作品は今現在も、数多く残ります。2003(平成15)年に文化勲章を受章し、翌2004(平成16)年に亡くなるまで、藤田は新作展を開催し続けました。今作の「手吹飾小筥 淡雪」は、亡くなられた年に発表されたものです。最期まで「日本の美」を独自の手法で追求した藤田のガラスをぜひご覧ください。

 

こちらは「飾小筥」でしたが、通常の「飾筥」も三作品出品されます。

LOT.150 藤田喬平「手吹飾筥 湖上の花」
H16.3×W12.0cm
底部に掻き銘「Kyohei Fujita」
共箱
落札予想価格:¥450,000~¥650,000

LOT.151 藤田喬平「手吹飾筥 源氏物語」
H23.0×W17.4cm
底部に掻き銘「Kyohei Fujita」
共箱
落札予想価格:¥700,000~¥1,000,000

LOT.153 藤田喬平「手吹飾筥 湖上の月」
H22.3×W24.0cm
底部に掻き銘「Kyohei Fujita」
共箱
落札予想価格:¥900,000~¥1,300,000

 

その他にも、珍しいところでは松井康成、鈴木蔵、藤本能道、八木一夫といった作家から四者四様の陶板作品が出品されます。こちらも用ではなく、鑑賞としての陶芸作品ですので、ご興味のある方はぜひ足をお運びください。

スケジュールはこちら。

 

執筆者:E