坂本繁二郎が描いた郷里の自然―《繋馬》と《熟稲》


こんにちは。
いよいよ、平成最後の年が始まりました。今年も皆様にとって幸多い一年になりますようお祈りしております。
新年のご挨拶が遅くなりましたが、本年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、26日(土)は今年最初のオークションとなります、近代美術/近代美術PartⅡオークションを開催いたします。今回も出品ラインナップの中から、注目作品をご紹介いたします。
画業の大半を福岡県で過ごし、パステル調の淡淡とした色彩で幽玄な世界を表現した、坂本繁二郎(1882-1969)の作品です。



32 坂本繁二郎
《繋馬》
23.7×33.0cm
板・油彩 額装
昭和9(1934)年作
左下にサイン
坂本暁彦鑑定証付

『坂本繁二郎作品全集』
  (1981年/朝日新聞社)№.263
『坂本繁二郎[油彩]全作品集』
  (2009年/株式会社さかもと)
     №.162  34-05

                                                                                       落札予想価格      ¥5,000,000~8,000,000


坂本といえば馬、という方も多いのではないでしょうか。
馬は、坂本が1930年頃から晩年に至るまで描き続けたモティーフです。「日の光に様々な変化を見せる膚(はだ)のつやだとか、陰影の変化、つぶらな目に宿る生きものの自然な情感が私をとりこにしたのでしょう。」(坂本繁二郎『私の絵私のこころ』日本経済新聞社 1969年)という言葉の通り、久留米や八女の明るくおおらかな自然の中で駆け回る馬の姿にすっかり魅了されてしまったようです。
 1934年作の本作は、つながれた馬の後ろ姿が描かれています。陽光の下で輝くような膚や、ゆらゆらと揺れる尾が興味深かったのでしょうか。馬の様々な姿をあらゆる角度から観察して描いたという坂本らしい構図ですね。白、青、茶などの微妙な色面を組み合わせ、身近な生命の存在感と美を表現しています。



33 坂本繁二郎

《熟稲》
38.0×45.5cm
キャンバス・油彩 額装
昭和2(1927)年作
右下にサイン
坂本暁彦鑑定証付

『坂本繁二郎作品全集』
  (1981年/朝日新聞社)№.29
『坂本繁二郎[油彩]全作品集』
  (2009年/株式会社さかもと)
    №.116 27-02
「坂本繁二郎追悼展」1970年
                              (福岡岩田屋/朝日新聞社)出品

                                                                                             落札予想価格   ¥5,000,000~8,000,000

 
 1927年作の本作は、同年の第14回二科展出品作《熟稲》と同じ主題、構図で描かれています。画題の通り、筑後川や遠景に連なる耳納(みのう)山地とともに、黄色く実る秋の田が辺り一面に広がる情景が見て取れます。しかし、ここで水田と同等に、あるいはそれ以上に重視されているのは、あたかも鳥が大空を羽ばたき、魚が水中を泳ぐかのように、伸びやかに、リズミカルに空に浮かぶ雲でしょう。坂本は、時間と気象によって形を変えていく雲を「空の装飾」として大変好みました。本作でも秋空に浮かぶ雲を見つめ、郷里の自然に抱かれていることを実感しながら、自然の営みの偉大さを純粋に描き出しています。


これらの作品は、今週の下見会でご覧いただけます。
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皆様のご来場を心よりお待ちしています。


(佐藤)