上村松園の美人画3


こんにちは。
先週の近代美術PartⅡ下見会にお越しいただいた皆様、ありがとうございました。
2017年1回目のブログ更新となります。ご挨拶が遅くなってしまいましたが、本年もよろしくお願い申し上げます。

さて、今週の28日(土)は今年最初のオークションとなります、近代美術/近代美術PartⅡオークションを開催いたします。
今回は出品作品の中から私のおすすめ、上村松園(1875-1949)の美人画2点をご紹介いたします。ともに画業の初期~中期に制作されたもので、明治や大正の頃の松園作品の魅力に溢れています。また、この時代の作はオークションにはあまり出品されませんので、そういった意味でも注目の作品です。


s-59

 

59 《二美人觀書》
73.7×49.5cm
絹本・彩色 軸装
左上に落款・印
共箱
東京美術倶楽部鑑定委員会鑑定証書付
落札予想価格 ★¥8,000,000~15,000,000










二人の女性が、くつろいだ様子で楽しそうに本を読んでいます。
この「本を読む女性」という題材は、松園が浮世絵を参考とし、画業を通して取り組んだものです。
本作は、二人の柔らかで甘美な顔立ちから、大正末期から昭和初期の作でしょうか。女性たちを横方向から大胆にクローズアップして捉えた構図が特徴的で、本に夢中になる二人の生き生きとした表情が際立たされています。

彼女たちが何を読んでいるのかも気になるところですが、本の表紙には『多賀羅冨根』(宝船)と書かれているようです。おそらくこの本は、宝船の図とともに、「なかきよの とおのねふりの みなめさめ なみのりふねの おとのよきかな」などの回文が書かれたものでしょう。これは、「七福神を乗せた宝船の絵を枕の下に敷いて寝ると、縁起の良い初夢を見ることができる」という室町時代からの風習によるもので、大正時代の京都で流行したといいます。この図を枕の下に敷いて眠ったら、どんな夢が見られるのかしらと彼女たちも胸を躍らせているのかもしれませんね。
もう1月も下旬ですが、幸福な新年を願う女性たちの希望にみちた雰囲気は、年始めのオークションにふさわしくもあります。

s-60

 

 

60 《處女愛児図》
135.2×51.5cm
絹本・彩色 軸装
明治43(1910)年頃作
左下に落款・印
共箱
東京美術倶楽部鑑定委員会鑑定証書付
『上村松園画集』(1989年/京都新聞社)№54
『上村松園画集 清新の女性美』
  (2004年/朝日新聞社)№33

落札予想価格 ★¥15,000,000~25,000,000











明治43年(当時35歳)頃作の本作では、振袖を着た若い女性が、幼児を高く抱き上げてあやす姿が描かれています。楽しげな笑い声が聞こえてきそうなほど、二人が生き生きと表現されていることから、松園の身近な人々の日常のひとこまを題材に、明治以前の風俗として表現したものでしょう。
S字状の大きな曲線を描くように女性を表わした動きのある構図、Lot.59《二美人觀書》にも共通する人物の柔和な表情は、凛とした雰囲気の漂う昭和期の作品とは異なる、初期の松園芸術の魅力に溢れています。

特にご注目いただきたいのは、人物のファッションです。自身も生涯着物を愛用し続け、また、自らの画業を「姉様遊び(人形を使ったままごと)をしたようなもの」と語った松園にとって、登場人物の着物や髪型は作品のとても重要な要素でした。それは、時代風俗や人物の属性、季節を表すだけでなく、時には人物の細やかな感情の機微を物語るものであり、さらに、松園の洗練された感性と、江戸や明治の女性風俗の研究の成果を発揮する場でもありました。本作の女性が身に付けた、赤い花柄の長襦袢がのぞく縞の着物と大きく結んだ市松模様の黒帯の組み合わせも遊び心に溢れていて、本当におしゃれですね。

これらの作品は25日(水)からの下見会にてご覧いただけます。
松園の作品はほかに、Lot.38《神ひな之図》、Lot.44《花下美人図》も出品されますので、そちらもお見逃しなく。また、「干支の鳥の絵を飾りたい」という方には、松園の孫、上村淳之の花鳥画もおすすめです。

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皆様のご来場を心よりお待ちしております。

(佐藤)