小出楢重の油絵―《裸女》と《ばらの花》


こんにちは。
先週の近代美術PartⅡオークション下見会にお越しくださいました皆様、誠にありがとうございました。新年のご挨拶が遅くなってしまいましたが、本年もよろしくお願い申し上げます。

さて、今週は2018年1回目のオークションとなる、近代美術/戦後美術&コンテンポラリーアート/近代美術PartⅡオークションを開催いたします。
その出品作品の中から、今回もおすすめの作品をご紹介いたします。
西洋にはない、日本女性独特の美しさを描き出し、「裸婦の楢重」と呼ばれた小出楢重(1887-1931)の名作2点です。


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 小出 楢重《裸女》
41.7×71.6cm
キャンバス・油彩 額装
大正14(1925)年頃作
右上にサイン
小出楢重の会鑑定証書付
落札予想価格 
★¥5,000,000~¥10,000,000

[掲載文献]
『小出楢重画集』(2002年/小出楢重画集刊行委員会)№H112  ほか多数
[出品歴]
「没後70年記念 小出楢重展」2000年(京都新聞社/京都国立近代美術館) ほか多数

楢重の裸婦の代表作の一つとして知られる作品です。
明治から大正期にかけて、多くの洋画家たちは西洋的なプロポーションを理想とし、裸婦像を描きました。しかし、楢重は絵画のモデルとしては好まれなかった日本人女性の身体に美しさを見出し、モデル一人一人の味を引き出すように裸婦像の連作に取り組んでいきました。

さらに、日本では現実味に乏しい「裸婦」というテーマに必然性を与えるために、西洋や中国のおしゃれな家具や小物をアトリエに設え、「裸婦が生活している自然な空間」を作り、そこに横たわる姿をモダンに表現しました。この翌年、楢重は当時流行していた洋風建築に転居しますが、本作はそれ以前にアトリエとして使っていた和室に外国製の敷物を敷いて描いたものでしょう。

裸婦は顔を背け、腰を大きくひねった姿で横たわっていますが、身体を大胆にデフォルメして画面に構成しつつ、豊満な肉のあたたかみやヴォリュームを際立たせるというこの手法は、マティスの裸婦像に影響を受けたものと思われます。楢重独特のねっとりとしてつやのあるマチエールにより、日本女性の肌の色や質感がよく表現されており、「日本の油絵」の魅力を感じさせる一点です。


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 小出楢重 《ばらの花》
105.5×54.5cm
キャンバス・油彩 額装
大正15(1926)年作
左上にサイン
裏に署名・タイトル・年代
小出楢重の会鑑定証書付
落札予想価格 
¥10,000,000~20,000,000

 [掲載文献]『小出楢重画集』
(2002年/小出楢重画集刊行委員会)№H135  ほか多数


1920年代、日本各地の都市で近代化が著しく進み、
洋風のモダン建築が次々に建設されていきました。楢重も芦屋に油彩画制作に相応しい洋風のアトリエを構え、また、友人の建築家・笹川愼一の依頼を受け、こうした洋風住宅の壁面を飾るための「装飾画」を数点手掛けました。楢重自筆の「作品控えメモ」より、1926年に《菊》(参考図版。完成後の画題は《菊花》)と一対の作品として制作された本作は、この「装飾画」の優れた作例であり、当時は西宮市の瀟洒な邸宅に飾られていたそうです。

本作は「装飾画」らしく、キャンバスの角を落とした八角形の支持体が使用されています。豪華な大輪の薔薇が《裸女》と同様に、つやと粘り気のある色彩、簡潔なフォルムによって描かれ、100cmを超える画面の中で堂々とした存在感を放っています。六角形の台座の上に散らされた花弁や葉が装飾的な意図を感じさせますが、画面には明暗のコントラストや奥行きが表わされ、「装飾画」の中でも特に絵画的な要素が強調された作品と言えます。単独の作品として鑑賞しても十分に見応えがあり、魅力的なのはそのためでしょう。題材の薔薇は、楢重が油絵を追求する上で意識し続けた西洋の象徴であり、ここでは満ち溢れるような花の香気や生命力とともに、モダンな西洋文化に憧れる時代の気分がよく表現されています。

残念ながら、下見会では一対で作品を展示できませんので、制作当時のように画像を並べてみました。昭和モダンの重厚な洋館に飾られているのを想像してみましょう。

            
    【オークション終了につき、画像は削除いたしました】

            参考図版:小出楢重《菊花》
            大正15年 キャンバス・油彩 105.5×55.0cm
                                           大阪新美術館建設準備室蔵

実際の作品で、ぜひ楢重のマチエールの魅力をご確認ください。
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これらの作品のほか、下見会では安井曽太郎や児島善三郎の名品もご覧いただけます。
皆様のご来場を心よりお待ちしています。

(佐藤)