杉山寧の抽象絵画―《林》


こんにちは。
16日(土)の近代美術PartⅡオークションにご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
この日、観測史上最も早いペースで東京の桜の開花が発表されました。
今週末には都心はもう見頃を迎えるそうなので、お花見の後はぜひオークションにお立ち寄りくださいね。

では、23日(土)の出品作品の中から1点ご紹介します。


【オークション終了につき、作品の画像は削除させていただきました】


181 杉山 寧《林》
188.0×147.0cm
麻布・彩色 額装
1961(昭和36)年作
共シール
東京美術倶楽部鑑定委員会鑑定証書付
展覧会歴:第4回新日展(1961年・東京都美術館)ほか多数
文献:『現代日本の美術 第8巻 杉山寧』(1977年・集英社)ほか多数
エスティメイト ★\20,000,000~40,000,000


 今年は杉山寧の没後20年にあたり、現在各地で展覧会が開催されています。
皆様はもうご覧になりましたか?
杉山の大規模な展覧会が開催されるのは、なんと17年ぶりとのこと。会場の一つ、日本橋高島屋は連日たくさんの人で賑わっているそうです。

 杉山寧(1909-1993)は、東京生まれ。東京美術学校在学中に帝展で入選、その後首席で美校を卒業し、注目の若手作家として華々しく画壇デビューを飾りました。松岡映丘に師事する一方、同門の画家たちと「瑠爽画社」(るそうがしゃ)を結成し、新しい日本画の可能性を積極的に追求していきます。初期の写実的な作風から、戦後は抽象表現を経て、エジプトやカッパドキアの風物、裸婦や花鳥など、様々なテーマに卓抜した造形感覚と描写力を発揮しました。1974(昭和49)年文化勲章受章。

 杉山の画業において、ひときわ異彩を放つテーマといえば、1959(昭和34)年から1962(昭和37)年にかけて制作された抽象表現でしょう。
 この時期に欧米から伝わったアンフォルメルや抽象表現主義の流行に敏感に反応したものとも考えられますが、抽象に至る数年間の作品に造形や象徴的な空間づくりへの意識が次第に高まっていく様子が見られるため、むしろ必然的に辿りついたものなのかもしれません。それは伝統的な日本画の情緒的・文学的な要素を徹底的に排除した、純粋な造形表現による絵画であり、日本画家の枠を超えた画家であろうとする杉山の強い意志表明とも言えるものでした。

 1961(昭和36)年(当時52歳)に制作された本作品は、同年の第4回新日展出品作。その完成度の高さから一連の抽象表現の到達点とも評されています。画像では伝わりにくいのが残念ですが、縦188cmという大画面を覆い尽くす重厚な絵肌の迫力は圧巻です。
 こうした抽象絵画は、自然から受けたイメージを象徴的なフォルムにまで高めるという手法で描かれていますが、伝統的な日本画が題材としてきた日本特有の風景を描いたものは一点もありません。本作品では木々が絡み合うようにして立ち並ぶ林のイメージを太い描線で表しており、まるでその隙間から光が差し込んでいるかのように背景の中央付近をやや明るく描くことで、描線は樹木が天へと伸びていくような生命感を感じさせます。
 また、岩絵具に細かい砂などを混ぜた堅牢で重厚なマチエールは、自然を抽象化する過程で見出されたもので、画面に造形の力強さと喚起力、神秘性をもたらしています。こうしたマチエールはこの後の杉山芸術の大きな特徴となり、これを支えるために、本作以降の作品では支持体に麻布が使用されるようになりました。実際の風景と画家の心象とが溶け合う象徴的な画世界が完璧なまでに表現された作品であるとともに、杉山芸術の確立を示すターニングポイントとしても貴重な一点と言えるでしょう。

その圧倒的な存在感をぜひ会場で体感してください。
下見会・オークションスケジュールはこちら

《林》をご覧になった後はこちらもどうぞ。
「杉山寧展」 日本橋高島屋 (~3/25 その後全国巡回)
「杉山寧とポーラ美術館の絵画」 ポーラ美術館 (~7/7)

みなさまのお越しを心よりお待ちしています。

(佐藤)