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フォーヴィスムの旗手 林武の《舞妓》

こんにちは。
ゴールデンウィークはいかがお過ごしでしたでしょうか。
まだ体がお休みモード…という方も多いかもしれませんね。体調を崩しやすい時期でもありますので、どうかお気をつけください。

さて、本日は19日(土)に開催されます近代美術オークションの出品作品の中から1点ご紹介いたします。
たくさんの画集や展覧会でも紹介された力作です。


【オークション終了につき、図版は削除いたしました】



林武(1896-1975)
《舞妓》
62.5×42.0cm
キャンバス・油彩 額装
1958年作
右下にサイン
共箱

文献:
『林武全画集』P.125 №630(日動出版)
『林武』№59(美術出版社)
『世界名画全集 第24巻』カバー/P.105(平凡社)
『現代美術家シリーズ 林武』P.129/P.136(時の美術社)

展覧会:
林武回顧新作展 1958年(日本橋・高島屋)
明治・大正・昭和 美人画名作展 1962年(松屋/毎日新聞社)
日本芸術院 恩賜賞・院賞美術展 1968年(新宿・伊勢丹/日本経済新聞社)
画業50年記念 林武展 1970年(梅田・阪神百貨店/毎日新聞社)
女の美名作展 1971年作(千葉・そごう百貨店/日本経済新聞社)
林武展―この不屈の人― 1975年(日本橋・高島屋/毎日新聞社)
名画に見る舞子展 1979年(日本橋・三越/朝日新聞社)

エスティメイト \4,000,000~6,000,000



 1896(明治29)年、林武は東京の麹町に三代続く国学者の家系に生まれました。ほぼ独学で油彩画を習得し、25歳のとき第8回二科展にて新人賞にあたる樗牛賞、翌年には優秀賞にあたる二科賞を受賞し、画壇に頭角を現しました。その後、一九三〇年協会や独立美術協会に参加し、日本のフォーヴィスムの旗手として活躍していきます。やがて東洋の哲学や印象派の巨匠・セザンヌの構図理論などを取り入れた独自の絵画論や構図法の追求を始め、戦後には理知的な構成と情熱的なフォーヴ風のタッチというアンビバレントな要素を調和させた個性豊かな林芸術を展開していきました。

 本作品のモティーフ、舞妓は林が薔薇や富士とともに好んでよく描いたものの一つ。多くの画家たちが魅せられた舞妓の華やかさや日本的な美しさではなく、林は豪華な衣装や髪飾りに身を包んだ姿に安定感やボリューム感を見出し、均整のとれた造形美に着目しました。また、色彩において他の人間像よりも圧倒的に彩り豊かで複雑である点にも魅力を感じたといいます。
 
 1958年作(当時62歳)の本作品では、鮮やかな赤色の背景を斜めに切るように舞妓の上半身を大きく描き出しています。骨太な黒い輪郭線で対象を縁取ったステンドグラスのような色面構成と重厚なマチエール、奔放なタッチは林芸術の特徴をよく示すものと言えるでしょう。また、全体に立体感や量感を強調し、舞妓の顔や首には白粉と頬紅を塗った肌の質感を表現しました。そして、絵具が乾く前に背景に施した文様は林が装飾的な表現にも力を注いだことを窺わせます。
 このように画面上に交錯する立体感と平面性、舞妓の人形のような造形の安定感と生身の人間の繊細さ、それぞれの相克に林は微妙なつりあいを求めたのでしょう。自身の絵画論をもって伝統的な日本美に挑む画家の情熱が満ち溢れる作品です。

この作品は16~19日に開催予定の下見会にて展示いたしますので、ぜひご覧ください。
オークション・下見会スケジュールはこちら
みなさまのお越しを心よりお待ちしています。

(佐藤)

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