近代陶芸 二大陶工【板谷波山・加藤唐九郎】登場


 こんにちは。先週の近代美術/戦後美術&コンテンポラリーアートオークションにご参加頂き、誠にありがとうございました。

 早いもので、今週末は今年最後のオークション「近代陶芸/古美術/近代陶芸PartⅡ」が開催されます。今回は板谷波山と加藤唐九郎という二大陶工の茶碗が出品されます!まずはこちらからご紹介。

 

LOT.93 板谷波山「仙桃茶碗」  H7.5×D14.9cm  高台内に印銘「波山」 共箱 「会社創立80周年記念 陶芸巨匠名碗八十選展」出品 上野・松坂屋/1990年 ¥8,000,000~¥15,000,000

LOT.93 板谷波山「仙桃茶碗」
 H7.5×D14.9cm
 高台内に印銘「波山」
共箱
「会社創立80周年記念 陶芸巨匠名碗八十選展」出品 上野・松坂屋/1990年
¥8,000,000~¥15,000,000

 

 

 板谷波山は明治5年(1872)に茨城県の下館で生まれました。

   東京美術学校(現東京藝術大学)彫刻科を卒業後、金沢の石川県工業学校(現石川県立工業高等学校)木彫科主任教諭として赴任しましたが、わずか二年後に木彫科が廃止になった為、明治31年(1898)より陶磁科の教諭になり、本格的に陶磁器研究に打ち込みます。波山は代々続く窯元としてではなく、作家として「近代陶芸」という分野を築き挙げ、亡くなるまでのおよそ65年間、第一線で活躍しました。現田市松という天才的なろくろ師の支えにも恵まれたおかげで専ら釉薬と意匠研究に没頭し、独自の陶芸を極める事ができました。大正期には代表的な技法「葆光彩磁」を生み出し、その後晩年にかけ、青磁や白磁(氷華磁・蛋殻磁など)の作品が多く制作されましたが、最晩年に再び彩磁の茶碗を制作しています。本作もその一つと考えられ、箱書に「時年九十」と書かれています。すっきりとした形と、薄肉彫で細やかに彫られた意匠は、とても90歳の陶工が造ったとは思えないほど、優れた技量が見て取れる茶碗です。昭和38年(1963)に交通事故で亡くなった現田市松の後を追うように、同年10月に波山も91歳という長い生涯を閉じました。波山が最期に辿り着いた彩磁の茶碗をぜひご覧ください。

続いてはこちら。

LOT.94加藤唐九郎 「茜志野茶碗 銘 稲穂浪」      H9.0×D14.5cm 高台脇に掻き銘「一ム」 共箱 1977年作 「追悼 加藤唐九郎展」出品 名古屋・丸栄/1987年 『日本のやきもの 現代の巨匠12 加藤唐九郎』掲載 №11-12(講談社・1979年) 『陶芸の世界 加藤唐九郎』掲載 P.24(世界文化社・1980年) ¥5,000,000~¥8,000,000

LOT.94加藤唐九郎
「茜志野茶碗 銘 稲穂浪」
    
H9.0×D14.5cm
高台脇に掻き銘「一ム」
共箱 1977年作
「追悼 加藤唐九郎展」出品 名古屋・丸栄/1987年
『日本のやきもの 現代の巨匠12 加藤唐九郎』掲載 №11-12(講談社・1979年)
『陶芸の世界 加藤唐九郎』掲載 P.24(世界文化社・1980年)
¥5,000,000~¥8,000,000

 

 

 板谷波山を「静」とするなら、加藤唐九郎はまさしく「動」と言うべき陶芸家です。

 明治31年(1898)に半農半陶で生計を立てる父の元、愛知県水野村(現瀬戸市水野町)で唐九郎は生まれました。大正3年(1914)16歳の頃には、父の窯を譲り受け製陶業を始めています。唐九郎は作陶に専念するとともに、西日本各地や朝鮮半島に赴き発掘調査を進めるなどし、官民一体の「瀬戸古窯調査保存会」の常任理事に31歳の若さで就任しました。またその頃「志野茶碗 氷柱」を制作し、柳宗悦や浜田庄司らにも一目おかれ、「陶芸界」での地位を確実なものにしました。

 しかし、昭和35年(1960)に「永仁の壷」の事件(重要文化財に指定された古瀬戸の壷が唐九郎の作であったという事件*岡部嶺男の作という説もあり。)が起こり、日本陶磁器協会・日本工芸会各理事、日本伝統工芸展・朝日陶芸展審査委員などの公的職務からの辞任へと追い込まれました。ただし、ここから結果的に唐九郎の躍進が始まったと言っても過言ではありません。心機一転した唐九郎は、事件さえもプラスに変え陶芸家としての地位を不動のものにしていきます。まず、漢学者であり詩人の服部担風に「一無斎」という号を受け、作品に「一ム才」と銘を入れはじめます。その後掻き銘は様々な変遷をみせ、掻き銘によって年代を読み解くことができるため、制作年代を知る一つの指針にもなっています。また、志野茶碗の作風も同様に連作の中で変遷をみせ、赤みがかった志野、鉄志野、茜志野、曙志野そして紫匂(むらさきにおい)を発表しました。

本作は、昭和37年から昭和54年(1962~1979)頃に使われた「一ム」の掻き銘が入っている志野茶碗の一つであり、釉薬が赤から紫へ移り変って行く時期の「茜志野」です。茶碗自体に「稲穂浪」という銘が付けられており、茜色に染まった空の下に稲穂がたゆたう様子を感じながら手に取れる一碗です。円熟期を迎えた唐九郎の作品をお楽しみください。

 

 また今回は古美術オークションも開催致します。大石内蔵助良雄「竹之図」の書画(LOT.125:100万円~150万円)や、「色鍋島皿 紅葉流水図」(LOT.131:500万~800万)等出品されます。ぜひオークション会場に足をお運びくださいませ。

 

下見会・オークションスケジュールはこちら

 

(執筆者:E)