上村松園の美人画―《雪》


こんにちは。
先週の浮世絵/近代美術PartⅡ/BAGS/JEWELLERY&WATCHESオークションにご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。

さて、今週21日(土)は、近代美術/戦後美術 &コンテンポラリーアートオークションを開催いたします。
今回も出品作品の中からおすすめの1点をご紹介いたします。

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Lot.57 上村松園(1875-1949)
《雪》
61.0×72.4cm
絹本・彩色 軸装
昭和14(1939)年作
右下に落款・印
共箱
東京美術倶楽部鑑定委員会鑑定証書付

[文献]
『上村松園画集 図版編』(1989年/京都新聞社)№231
『上村松園画集』(1972年/講談社)№38
『上村松園』 (1976年/講談社)№58           ほか多数

[展覧会歴]
「生誕一〇〇年記念 上村松園展」1974年(京都市美術館/京都新聞社)
「上村松園展」2010年(東京国立近代美術館/日本経済新聞社ほか)
「名古屋市美術館開館25周年記念 上村松園展」2013年(名古屋市美術館/中日新聞社)
                                       ほか多数

落札予想価格 ¥50,000,000~¥100,000,000


美人画の巨匠、上村松園の《雪》です。
こちらの作品、オークションに出品されるのは初めてですが、当ブログに登場するのは今回が二回目となります。2014年11月の近代美術オークションに伊東深水《春雪》が出品された際、その参考図版としてご紹介しました。

深水の《春雪》も本作品と同様に、江戸時代やその名残の残る明治の女性風俗を主題とし、蛇の目傘をさした若い女性を描いたものですが、深水は本作を見て大きな影響を受け、上半身をクローズアップした「傘美人」を描いたと言われています。
まさか深水の《春雪》の1年後に松園の《雪》を当社で取り扱うことになるとは。不思議な縁を感じますし、なんとも贅沢な出来事です。

「一点の卑俗なところもなく、清澄な感じのする香高い珠玉のような絵」
「真・善・美の極致に達した本格的な美人画」
                        (上村松園『青眉抄・青眉抄拾遺』より)
松園はこれらを自らの芸術の理想とし、60年に及ぶ画業において一貫して美人画を追求し続けた画家です。

昭和14年(当時64歳)作の本作品は、その理想の女性美が表現された名作としてよく知られた作品です。降りしきる雪の中、蛇の目傘で身を覆うように歩く女性は、江戸中期から後期に流行したという、大きく横に張り出した灯篭鬢(とうろうびん)を結って揃いの簪(かんざし)と櫛を飾り、縹色(はなだいろ)の着物に、黒繻子と紅色に胡蝶模様が施された帯を締めています。
その華やかな装いから、京都の豊かな町家の令嬢か身分の高い上臈(じょうろう/幕府や大名に仕える女官)でしょうか。少女時代から伝統的な女性のファッションに通じていたという、松園の洗練された感性と造詣の深さを感じさせます。

また、この題材は浮世絵においてしばしば描かれた好画題でもありますが、深水が影響を受けたように、本作は全身像ではなく、女性の上半身が大きくクローズアップされている点が特徴的です。構築的な傘とヴォリュームのある帯との巧みなバランスによって、優美でありながら迫力ある画面がつくり出されています。

そして、もう一つ特筆すべきは、端正で張りのある線描と雅やかな色彩でしょうか。松園芸術の円熟味と品格、松園自身の画家としての誇りが漂うようで圧巻です。

松園の美人画の粋、ぜひ下見会でご堪能ください。
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皆様のお越しを心よりお待ちしております。

(佐藤)