坂本繁二郎の静物画


こんにちは。
11月も半ばに差し掛かり、いよいよ冬の足音が聞こえてきました。
さて、今週の16日(土)は、近代美術/戦後美術&コンテンポラリーアート/近代美術PartⅡ/MANGAオークションを開催いたします。
今回は、近代美術に坂本繁二郎の静物画が3点出品されますので、ご紹介いたします。

坂本繁二郎(1882-1969)は、現在の福岡県久留米市生まれ。幼なじみの青木繁に触発されて画家になることを決意し、20歳で上京します。小山正太郎の不同舎、次いで太平洋画会研究所に入門し、1907年、第1回文展に入選した後も同展で活躍しましたが、1914年には二科展の創立に参加します。そして、39歳の時、自らの技術や絵画理論を試すためにパリに留学しました。パリに滞在したおよそ3年間に、後の坂本芸術の重要な要素となる色彩や画面構成を獲得し、1924年に帰国。その後現在の八女市に移住し、馬と静物の主題に取り組んでいきます。1954年、第27回ヴェネチア・ビエンナーレ日本代表となり、1956年には文化勲章を受章。夭折した青木繁が早熟であったのに対し、坂本の画業は大器晩成とも評され、年齢を重ねるごとに滋味を増し、幽玄さを深めていったと言えるでしょう。

では、出品作3点を制作年代順に見ていきましょう。


【 オークション終了につき、画像は削除いたしました 】

Lot.73 《柿》
 38.2×45.7cm
キャンバス・油彩 額装
昭和16(1941)年作
 左下にサイン・年代
坂本暁彦鑑定証付
『坂本繁二郎作品全集』
(1981年作/朝日新聞社)№303
『坂本繁二郎[油彩]全作品集』
(2009年/さかもと)№212
落札予想価格
¥1,000,000~¥2,000,000


題材の柿は坂本の好物で、作品に繰り返し登場する果物です。本作は戦時中の1941年(当時59歳)に制作されているため、貴重な食糧でもあったかもしれません。描かれているのは干し柿でしょうか。刃物で皮を剥いたような断面が四角形や三角形の色面の構成で表わされ、3個の配置や直線的な枝のフォルムによって画面にリズムがもたらされています。
また、背景の微妙な紫色は、静物画のモティーフを生かす舞台として坂本が考案したものです。



【 オークション終了につき、画像は削除いたしました 】

Lot.75 《能面》
23.8×33.0cm
板・油彩 額装
昭和24(1949)年作
右下にサイン
坂本暁彦鑑定証付
『坂本繁二郎作品全集』
(1981年作/朝日新聞社)№350
『坂本繁二郎[油彩]全作品集』(2009年/さかもと)№280
落札予想価格
¥5,000,000~¥8,000,000

「坂本の作品は、馬よりも能面が好き」という方も多いのではないでしょうか。能面は、大正初期に詩人の三木露風とともに能楽堂に通い、能に感銘を受けて以来、その味わいを描きたいとずっと思い続けた題材です。作者不明の素朴な能面を骨董屋で買い集め、実際に制作に着手したのは坂本が還暦を過ぎてからであり、本作も1949年(当時67歳)に制作されたもの。若い女性を表わす小面(こおもて)と扇子、箱らしきものが画面に構成されていますが、面のみを写実技法によって立体的に捉え、そのほかのモティーフを平面的に描いた点が特徴的です。能面は能楽師が顔に付け、役の感情の機微を表現する道具であるため、物というより生きた人間の顔を描くように捉えられたとも考えられるでしょう。
また、能面の周囲に広がる濃い陰影は、光が作り出したものというより、面の醸し出す幻想性や幽玄な趣、人間的な情念を表わす色面のように見えます



【 オークション終了につき、画像は削除いたしました 】

Lot.74 《三壺》
32.1×41.0cm
キャンバス・油彩 額装
 昭和27(1952)年作
右下にサイン
坂本暁彦鑑定証付
『坂本繁二郎作品全集』
(1981年作/朝日新聞社)№484
『坂本繁二郎[油彩]全作品集』(2009年/さかもと)№304
落札予想価格
¥2,500,000~¥3,500,000


本作は1952年、古希(当時70歳)の年に制作されたものです。坂本家で使用されていたと思われる壺が並べて描かれています。ご注目いただきたいのは、壺の周囲に抽象的な色面として広がる陰影です。こちらも光によって対象の像が映されたものというより、壺の持つ存在感、そこに宿る魂のようなものが表わされているように見えます。さらに、本作では、坂本の壺への愛着を反映するかのように画面に朗らかさや華やぎが漂っています。

画業を通して、対象の生命や存在の神秘を表わすことを追い求めた坂本にとって、静物画は時に馬以上に重要なテーマでした。日常の中にあるものとじっくりと向き合い、対話するように描かれた作品の数々。出品作品の3点はそのあくなき探究心と東洋的な自然観を色濃く感じさせます。
ぜひ下見会場で、坂本の静物画の世界にじっくりと浸ってみてはいかがでしょうか。

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皆様のご来場を心よりお待ちしています。

(佐藤)