巨匠レンブラントの名作版画―《病人たちを癒すキリスト(100グルデン版画)》


こんにちは。
先週の近代美術PartⅡ下見会にお越しいただいた皆様、ありがとうございました。
暑かったり、涼しかったり、毎日不安定なお天気が続きますが、
月曜日には九州から東海地方にかけての梅雨明けが発表されました。
関東ももう夏はすぐそこですが、夏休みのご予定はお決まりでしょうか?

さて、23日(土)は、近代美術/近代美術PartⅡオークションを開催いたします。
今回も出品作品の中から、おすすめの一点をご紹介いたします。
この作品が当社に搬入されてきたとき、
作家名を聞いて驚き、作品を見て、「まさかこんなに貴重な作品を扱うことになるなんて…」と驚きました。
今もまだ目の前にあることが信じられません。

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33 レンブラント・ファン・レイン

《病人たちを癒すキリスト(100グルデン版画)》

紙面:29.1×40.5cm、図版:27.9×39.3cm
紙・エッチング、ドライポイント 額装
1648年頃作(原版)
ウォーターマーク:百合の模様が入った王冠飾りの盾とVの文字
本紙裏に書き込み「L maviette 1669」

The Illustrated Bartsch 50 Rembrandt Harmensz.van Rijin/edited by S.S.Dickey,P.60,No.74
A.Hind,A Catalogue of Rembrandt’s Etchings,No.236
G.Biorklund,Rembrandt’s Etchings True and False,a Summary Catalogue,P.106,BB49-1
Hollstein’s Dutch and Flemish Etchings,Engravings and Woodcuts XIX/compiled by C.White&K.G.Boon,Rembrandt van Rijin,P.64,B74
世界の版画名品選 2005年(和歌山県立近代美術館)出品

落札予想価格 ¥2,000,000~3,000,000

 代表作《夜警》(1642年作・アムステルダム国立美術館)で知られるレンブラント・ファン・レイン(1606-1669)は、輝かしい黄金時代を築いた17世紀のオランダ美術を代表する巨匠です。
聖書や神話の場面を描いた物語画、市民を題材とした肖像画を主なテーマとし、対象の細部や質量感、人物の豊かな感情表現を優れた画技によって精緻に描き出しました。
また、天から降り注ぐ光とそれが作り出す明暗の世界を表現することを追求したことから、「光と影の画家」と称されています。

《病人たちを癒すキリスト》は、レンブラントが生涯で300点あまり手掛けたと言われる版画において、最高峰と評される作品です。
画家の生前、その版画作品はおよそ20~30グルデンという価格でしたが、レンブラント自身がこの作品を買い戻した際、100グルデンという破格の高値を投じる羽目になったという逸話から、通称「百グルデン版画」とも呼ばれています。

「100グルデンは現代で言うといくら?」というのが気になるところですが、
当時の労働者の年収がおよそ200グルデン、レンブラントが弟子たちから徴収した年間授業料が100グルデンということから鑑みて、およそ100~150万円くらいだったのではないかと言われています。
(幸福輝『もっと知りたい レンブラント 生涯と作品』より)
また、当時活躍していた版画家たちの作品の多くは、1グルデン以下だったという話も残されていますので、やはり100グルデンがとてつもない金額だったことがわかります。

本作品では、新約聖書『マタイによる福音書』第19章に収められた4つのエピソードを題材とし、キリストが人々の病気を癒し、ファリサイ派の人々と夫婦について論争し、子供たちに祝福を与え、そして裕福な青年を戒める場面が同時に描かれています。
複数の話を一つの画面に表わしたこの構成は、レンブラントが制作の前に数多くの素描を描いて構想を練り、まとめ上げたものです。
また、画面右側には、緻密な描写と濃密で繊細な陰影を表わしたのに対し、画面左側はスケッチ的な描線によって対象を捉え、明るい光で照らし出されたように余白を多く残しています。
作品を見ると、右側と左側で、描法と明暗の表現がまったく異なることがわかりますね。
このように複数の題材や対照的な描法を混在させた表現は、当時としてはきわめて実験的で革新性に富んだものであり、その明暗の描写には画家の成熟した技術が見て取れます。

17世紀から今日に至るまで、「レンブラントの絵画に匹敵する表現」として称賛されてきたこの作品は、彼の芸術においてのみならず、版画史においてもきわめて重要な傑作と言えます。


s-33-3なお、《病人たちを癒すキリスト(100グルデン版画)》の原版は、1648年頃の作ですが、本作はウォーターマーク(透かし)から没後に摺られたものと思われます。
紙には、左の図のような透かしが入っています。「ストラスブールの百合」と呼ばれる文様の類型でしょうか?










この作品は、ただいま下見会にて展示中です。
ぜひ巨匠レンブラントの細密描写を間近でご覧ください。

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皆様のご来場を心よりお待ちしています。

(佐藤)