岸田劉生の人物画―《村娘座像》と《麗子像》


こんにちは。
いつのまにか暑すぎる夏が終わり、朝晩はすっかり涼しくなってまいりました。6月から行っておりました当社1階の改装工事も終了し、今回のオークションから新しい下見会場で皆様をお迎えすることになります。

というわけで、改装後初めてのオークションとなる9月15日(土)は、「リニューアル記念特別オークション Y氏コレクション―ART JUNGLE」を開催いたします。
このオークションは、下見会場のリニューアルオープンとShinwa Prive株式会社のギャラリー開廊のご挨拶として開催させていただくものです。創業以来、独創的な経営術で増収増益を更新し、一代で巨大企業を築き上げられた財界の革新者Y氏が、ご自宅の様々な空間に飾り、賞玩されたやきものや絵画、愛用されてきた家具など、そのプライベートコレクションが出品されます。

今回はその出品作品の中から、おすすめの作品をご紹介いたします。
没後90年を来年に控え、早くも各地で展覧会が開催されているあの偉才の名作です。




293 岸田劉生(1891-1929)
《村娘座像》
50.5×34.0cm
紙・水彩 額装
大正9(1920)年3月14日作
右上にタイトル、中央上にサイン、左上に年代
劉生の会登録証書付

落札予想価格 
¥60,000,000~¥120,000,000








【掲載文献】

・『岸田劉生画集』(1980年/岩波書店)No.70
・『郡山市立美術館 研究紀要 第3号 岸信夫作成「岸田劉生の作品に関する私ノート」1915-1929』
(2003年/郡山市立美術館)P.71、図29   ほか多数

【出品歴】
・「岸田劉生 三十三周忌記念 代表作展」1961年(銀座松坂屋/朝日新聞社)
・「没後50年記念 岸田劉生展」1979年(東京国立近代美術館)  ほか多数


岸田劉生は、夭折の画家にして、日本の近代美術を代表する巨匠の一人です。
重要文化財となった《道路と土手と塀(切通之写生)》(東京国立近代美術館蔵)や《麗子微笑(青果持テル)》(東京国立博物館蔵)など、幅広い主題に名作を残しました。
特に、人物画においては、「岸田の首狩り」と呼ばれるほど、家族や友人、知人の肖像を次々に手掛け、愛娘の麗子、そして村娘・お松をモデルとした優れた連作を生み出しました。

劉生の日記より、本作は大正9(1920)年3月13日に着手し、翌日完成させたお松9歳頃の座像。
14日の日記には、その出来栄えについて、「よく行きたる様なり」と記されています。
このお松という少女は、劉生が神奈川県鵠沼に住居を構えた時期(1917~1923)に近所に住んでいた漁師の娘で、麗子の遊び友だちとなり、劉生の絵のモデルも務めました。
一連のお松像では、田舎娘らしい素朴な美しさを表わすため、主に水彩や素描の技法が用いられていますが、劉生は水彩の「新鮮な自由な大胆な強い味」を好み、油彩ほど時間をかけずに対象の「美をいきなりつかむ」ことができる技法として重視しました。本作においても、お松から感じ取った「顔や眼や眉の変(ママ)に宿る不思議な澄んだ永遠な美、生きた力」を水彩で直ちに捉え、実にみずみずしく描き出しています。
少女の真直ぐさ、純粋さを感じさせる、きらきらと輝く瞳が印象的な作品です。


294  岸田劉生
《麗子像》
20.0×14.0cm
紙・インク  額装
大正9(1920)年11月3日作
中央上にサイン・年代・タイトル
劉生の会登録証書付

落札予想価格
¥2,000,000~¥4,000,000

【掲載文献】
『岸田劉生と草土社』(1985年/下関市立美術館)P.113
『郡山市立美術館 研究紀要 第3号 岸信夫作成「岸田劉生の作品に関する私ノート」1915-1929』
(2003年/郡山市立美術館)P.78、図70



【出品歴】

「江戸堀画廊開廊20周年 洋画物故作家展」1990年(江戸堀画廊)


近代美術を象徴するイメージ、と言っても過言ではない「麗子像」の一点です。
劉生は、生まれたばかりから16歳まで、座像を中心におよそ100点にも及ぶ様々な麗子像を描きました。
インクで描かれた本作の麗子は6歳頃。《麗子微笑(青果持テル)》と同様に、毛糸の肩掛けを羽織っています。この肩掛けは、元々お松が持っていたのを、劉生がその「毛糸のほつれた美しさ、色のひなびたとり合せの美しさ」に惹かれ、譲ってもらったものだそうです。彩色は施されていませんが、肩掛けのざっくりとした編み目やもこもことした暖かそうな質感が簡潔な線描で表わされています。
ちなみに、《村嬢於松立像》(東京国立近代美術館蔵)などでは、お松がこの肩掛けを身に付けています。


ぜひ劉生の名作を新しい会場でご覧ください。
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皆様のお越しを心よりお待ちしております。



(佐藤)