孤高の画家・長谷川潾二郎の静物画―《フライパンと卵》


 こんにちは。毎日寒い日が続きますね。
歩道を歩いていると、まだ月曜に降った雪があちらこちらに残っているのを見かけます。
明日が「大寒」なので、今が一年で最も寒さが厳しい時期ということになります。
ノロウイルスやインフルエンザが今年も流行っているようなので、みなさまも気をつけてくださいね。

 さて、来週26日(土)は、2013年1回目のオークションを開催いたします。
今日は近代美術オークションの出品作品から注目の一点をご紹介します。


【オークション終了につき、作品の画像は削除させていただきました】


lot.33 長谷川潾二郎 《フライパンと卵》
33.5×45.5cm
キャンバス・油彩 額装
1979年作
右下にサイン、裏に署名・タイトル・年代
長谷川潾二郎鑑定登録委員会鑑定登録証書付
エスティメイト ¥1,000,000~1,500,000



 みなさまは、長谷川潾二郎(はせがわ・りんじろう)をご存じでしょうか?
赤い敷物の上で丸くなる愛猫タローを描いた《猫》で一躍脚光を浴びた画家です。

 この《猫》はかつて、『気まぐれ美術館』で知られる美術評論家、画商の洲之内徹氏のコレクションで、氏の没後にそのコレクションの一点として宮城県美術館に寄贈されました。それが2008年に書籍『洲之内徹が盗んでも自分のものにしたかった絵』の表紙になったことを機に画家自身にも注目が集まり、様々なメディアにとり上げられ、各地で展覧会も開催されました。

 長谷川潾二郎(1904-1988)は、北海道生まれ。ジャーナリストの父、後に作家になる兄弟たちに囲まれ、文化的に恵まれた環境で育ちました。1918年北海道庁立函館中学校に入学すると、油彩画を描き始めます。1924年画家を志して上京し、川端画学校に通いますが、数ヶ月で退学して独学で制作を続けました。その一方で、詩や小説を好み、探偵小説家・地味井平造として小説を発表するなど、作家としても才能を発揮しました。やがて絵画に専念し、1931年フランスに渡ります。翌年帰国し、4年連続で二科展に出品しましたが、その後は個展を中心に活動し、画壇から距離を置いた孤高の制作姿勢を貫きました。
 
今回の作品は、1979年(当時75歳)に制作された静物画です。潾二郎は「卓上の静物」という主題を好み、画業の後半を中心に繰り返し描きました。本作では、光を反射してつやつやと輝くポットやざらついた質感の卵、ふんわりとした目玉焼きを親密な眼差しで捉え、平明かつ温厚なリアリズムで描き出しています。身近なものに内在する目に見えない趣きや美を丁寧に掬い取り、自身の詩的世界を静かに表現した作品です。
 潾二郎は、とにかく遅筆で寡作だった、と言われています。6年間《猫》の右ひげを描けず、とうとうタローが死んでしまった話や、風景の土を描くのに10年以上を要したことなど、たくさんの逸話が残されています。この作品は、一体どれほどの時間をかけて描いたのでしょうか。作品が完成する頃には、目玉焼きはもう食べ飽きていたのかも…など、いろいろ想像してみるのも楽しいですね。

この作品は23日(水)からの下見会でご覧いただけます。
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みなさまのお越しを心よりお待ちしています。

(佐藤)