アール・デコのエレガンス―クリセラファンティン彫刻


こんにちは。
14日のワインオークションにご参加いただいた皆様、ありがとうございました。

さて、今週の28日(土)は西洋美術オークションを開催いたします。
このジャンルは、いつの時代にどこの地域で作られたものが出品されるのか、個人的にいつも楽しみなのですが、今回はアール・デコの彫刻をご紹介いたします。

アール・デコは、1920~30年代にかけて、ヨーロッパやアメリカを中心に世界各地で花開いた装飾美術様式です。アール・ヌーヴォーに続いて登場したこの様式では、電気照明や電信電話、飛行機や列車など、この時期の科学技術の著しい発展を反映し、直線や円を組み合わせた幾何学的な造形、電光やスピードを表わす放射状のデザイン、ベークライトをはじめとするプラスチック素材が流行しました。また、それは絵画や彫刻だけでなく、工芸、建築、工業デザイン、宝飾品、ファッション、舞台美術といった生活を取り巻く広範な分野へと波及していきました。
例えば、ラリックのガラスやカッサンドルのポスター、レンピッカの絵画、さらに、ニューヨークのクライスラービルやココ・シャネルのスーツもアール・デコの精華と言えます。

このアール・デコ様式を象徴するもの一つに、「クリセラファンティン彫刻」があります。「クリセラファンティン」はギリシャ語を語源とし、古代ギリシャ彫刻のうち金と象牙で制作されたものを指しますが、アール・デコの彫刻ではそれらだけでなく、ブロンズや銀、漆、べっ甲などの異素材を組み合わせたものをそう呼称します。当時の植民地からもたらされる高級素材を使用し、ロシア・バレエをはじめとする流行のモティーフを取り入れて制作された彫刻の数々は、豪華な邸宅のサロンを彩る重要な美術品として、都会的で洗練された暮らしを愉しむヨーロッパの上流階級の人々に愛されました。
このたびのオークションでは、この「クリセラファンティン彫刻」の代表的な作家たちの作品が出品されます。



101 Ferdinand Preiss(1892-1943)

《Beach Dancer》
H39.0cm
台座に陰刻銘
落札予想価格 ★¥500,000~¥800,000

フェルディナンド・プライスは、ドイツの彫刻家です。
舞台にまつわるモティーフのほか、テニスやゴルフ、アイススケートなど、スポーツの題材を得意としました。
水着の女性を表現したこの作品も、水泳がテーマなのでしょう。ツーピースの水着は当時最もおしゃれなものだったと思われます。








105 Claire Colinet(1880-1950)
《Corinthian Dancer》

H55.2cm
下部に銘
落札予想価格 ★¥1,000,000~¥1,500,000

クレール・コリネは、ベルギーで生まれ、フランスで活躍した女性の彫刻家です。オダリスクやアラブのダンサーなど、流行のオリエンタリズムを取り入れた女性像を数多く制作しました。
《コリント人のダンサー》というタイトルの本作は、ギリシャの都市コリントスのダンサーを題材としたものです。アール・デコ期は、古代ギリシャ風のモティーフも好まれていたため、この作品も古典的な題材を躍動的に表現したものでしょう。








108 Demetre Chiparus
   (1886-1947)

《Friends Forever》
H63.0×W65.0cm
台座に陰刻銘
背面と台座後部に「Made in France」刻
背面に「19」刻
落札予想価格 
★¥2,000,000~¥3,000,000


ドゥメトル・シパリュスは、ルーマニアに生まれ、パリ国立美術学校でアントナン・メルシエに学んだ彫刻家です。写実に基づく確かな技術と洗練された作風により、アール・デコ期、パリの彫刻界の寵児となりました。
シパリュスの代表作として知られる本作は、3種類あるサイズのうち最も大きな作品のひとつ。ビーズやスパンコールがふんだんに施されたコルセット不要のドレス、ボブヘアにクローシェ(釣鐘型の帽子)という最先端のファッションに身を包んだ女性が2頭のボルゾイ犬を愛でています。ロシア原産のボルゾイは、流線型のフォルムがハリウッドスターたちの間で人気を呼び、絵画やポスターなどの題材として欧米で好まれました。女性を中心とする左右対称の構成もアール・デコらしいですね。

以上、3点をご紹介しましたが、今回は、合計10点の「クリセラファンティン彫刻」が出品されます。
今週から始まる下見会で、象牙とブロンズが織り成す装飾美をぜひご堪能ください。
また、同じアール・デコからは、ラリックのガラスも多数出品されますので、そちらも併せてご覧ください。


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皆様のご来場を心よりお待ちしています。

(佐藤)